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JSB8503-0728さんの蒼の彼方のフォーリズム Perfect Editionの長文感想

ユーザー
JSB8503-0728
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition
ブランド
sprite
得点
90
参照数
1287

一言コメント

気持ちのよい快作。spriteさん感動をありがとうございました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※蒼の彼方のフォーリズムはPerfect Editionが初プレイです。
 批評空間で14年発売版とどちらに投稿しようか迷いましたが、思案の末、
 可能な範囲で14年発売版と異なっている場所に言及しつつこちらに投稿
 することにました。
 理由は14年発売版側には既に優れたレビューが多数掲載されているためです。
 これより下は以上をご了承いただけましたらお読みください。


かねてより興味を持っており認証無しのボックスセットが発売、渡りに船ということで
予約買いしました。

内容を要素別に見ていきます。
※点数は(得点/満点)で記載しています。総評の点数は(合計得点/満点)です。

【ゲームシステム】(5点/5点)
選択肢を選ぶタイプのオーソドックスなADVです。
選択肢はルートを決める1つだけでも良かったのではと思いますが、特にケチを付ける程
でもないため得点は満点としています。


【環境回り】(6点/10点)
スクリプトエンジンはEthornellです(最近プレイしたタイトルではアメグレで使われていました)。
画面解像度は1280×720でフルHD化はされていません。
ベースが4年前のタイトルのためか最近のタイトルに比べて若干弱さが目立ちます。

具体的にはEthornell採用タイトルに共通することですが、セーブ数が80は少ないです。
またセーブデータの削除はできますが移動はできません。
クイックロードの場所もセーブデータの80個目とやや分かりづらい場所にあります。

spriteさんの解散が決まった今となっては意味のないことですが、機能への要望としては
本作はキャラゲーとしての側面もあるためお気に入りボイス機能が欲しいところでした。
また、シナリオが結構長いので次の選択肢に飛ぶ機能も欲しかったです。

逆に改善点としては14年発売版とは異なりディスクレス起動が可能となっています。
自分はここを気にして購入を見送っていたため、この仕様変更が購入理由となりました。


【キャラクター/声】(14点/15点)
サブキャラ含め無意味に不快なキャラもおらず、それぞれ魅力的です。

ヒロインは莉佳の影が若干薄いものの、他三人は存在感がありそれぞれ魅力的です。
明るくまっすぐな明日香ちゃんが特にお気に入りです。
サブキャラでは見てないようでしっかり見ている各務先生、気配り上手な窓果が印象に
残りました。

主人公のメンタルが若干弱いですが、弱いだけの主人公ではありません。
悪い点は早々に反省しますし、多くの方は許容範囲でしょう。

声についても特別名演という程でもありませんが、それぞれのキャラに合っており
高水準と言えるクオリティでした。


【演出/立ち絵/CG】(20点/20点)
演出が凝っており、多彩なグラフィックでFCを可視化したことが本作の魅力を
最大限に高めていました。
本作は架空のスポーツを扱っているためイメージがわきにくい面がありますが、
SD絵を使った説明イラストの活用で理解を深めれたことも好印象です。

立ち絵についてはライトノベルチックな絵柄でエロゲにおいては個性的です。
CGについても全体的に綺麗で枚数も豊富(SD絵を含め差分除くで189枚)です。

グラフィック回りで不満を持つ人はほぼいないかと思われます。


【シナリオ】(32点/35点)
熱い青春スポーツ物でとても感動しました。
ただ内容は主人公が活躍するようなものではなく、ヒロインと関わる中でどのように
挫折から立ち直っていくか? という筋書きで王道からは多少外れて来るのかも
知れません。

攻略順は多くの方が推奨する通り莉佳→真白→みさき→明日香の順番がベストです。
本命は明日香ルートですが、他3人のルートも単なる二番煎じではなく独自の存在意義が
与えられているのが良いです。
いずれもほろ苦さを伴い、特にみさきルートは感情を揺さぶられ涙無しには読めません。

シナリオ構成は全8話で第7話以降が個別ルートとなります。
共通ルートの1話~6話は1話が大体90分前後で終わるようにバランスよく分量配分
されています。
個別についてはCS版のシーンが追加になっている影響もあり、莉佳以外は7話~8話で
5時間以上掛かりました。
ボイスを最後まで聞かなくとも全ルート合計で28時間くらい掛かったため、まとまった
時間の取れるときにやった方がいいです。

テキストは親しみの持てるテンポのいい文体で万人向けです。
また書かなくていいところを省くの上手で、長時間プレイの疲労軽減に一役買って
いました。
他の特徴としてはライターさんの特色かと思いますが、ネットスラングが多いです。
若干ですが入れないほうが良さそうな場面でも使われていたため、気になる方は
14年発売版の体験版で雰囲気を確認しておいた方がいいと思われます。

莉佳ルートの必要性がもう一つだったりFCの試合が説明的になり過ぎる部分もあったりは
しましたが、全体的にとてもよく出来たシナリオでした。


【Hシーン】(4点/5点)
みさきが5回(3回+追加パッチで2回)、他ヒロイン2回ずつの合計11回です。
実用性は少ないものの取って付けたような内容ではなく、シナリオやキャラクターに
マッチしたテキストで好印象でした。
みさきルートではパッチで本編にもHシーンが追加になりますが、その分だけシナリオが
冗長になっていたため、全てアフターとして収録する形の方が良かったように思えました。


【OP/ED/BGM】(9点/10点)
OPの「Wings of Courage」は爽快感のある本作を代表するにふさわしい一曲です。
セカンドOPの「INFINITE SKY」などボーカル曲はおしなべて良い出来です。
ED用のボーカル曲も5種類用意されています。

BGMはElements Gardenが担当しています。アレンジを除いても40曲と充実した数で、
内容も優等生の模範解答的な嫌いはありますが総じてハイレベルです。
特に気に入った曲は伸びやかなバイオリンが心地よい「はじまりの風」、
エレガントな舞曲風の「四島に咲く一輪の薔薇」、手に汗握る「一進一退」などです。

不満点としてはフルプライスにも関わらず鑑賞モードがありません。
サウンドトラックで聴けということでしょうか。


【総評】(90点/100点)
環境回り以外はフルプラ非抜きゲーの中でも数十本に一本あるかないかくらいの出来です。
CS版追加要素の影響もありやや冗長になっている部分もありましたが、終わってみると
「もう終わってしまったのか」という喪失感を久々に味わうことになりました。
年を取ってきた身には眩しい作品でしたが、ちょっと頑張ってみようという勇気を貰いました。

傑作というよりは欠点の少ないとても良くできた秀作という感じですが、初心者から古参まで
幅広くお勧めできる一本です。

内容的にはもっと広げられそうな世界観で、spriteさんの撤退は痛恨の極みですが、本作を
送り出してくれたspriteさんに満腔の感謝を捧げて本レビューを終えたいと思います。