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Immature_boyさんの久遠の絆 再臨詔 フルボイス版の長文感想

ユーザー
Immature_boy
ゲーム
久遠の絆 再臨詔 フルボイス版
ブランド
XUSE
得点
86
参照数
3854

一言コメント

これから「久遠の絆」をやるなら本Ver.一択。フルボイスや新おまけシナリオなど、至れり尽くせりの出来。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


10数年前にPS2版「久遠の絆 再臨詔」をプレイ済。最近になって無性にやりたくなったので、
「ジーザス13th」のセット版を衝動的に購入。「久遠の絆」はPS版・PS2版・DC版・PSP版と
色んな機種で過去に発売されているが、原作準拠でフルボイスなのは本Ver.のみである。

(「THE ORIGIN」もフルボイスではあるが、内容は原作準拠ではなくほぼオリジナルであると
 認識した方が無難。)

このフルボイス版は過去作と内容的に全く同じであるほか、新おまけシナリオ「残念な儀式編」
が収録されており、総合的には過去作を上回る出来であると断言できる。よって、これから
「久遠の絆」のプレイを検討されている方には、是非ともフルボイス版をお奨めしたい。


<フルボイスについて>

鮮やかな世界観と美しいBGMに浸りながら、壮大かつ丁寧に描かれたキャラ同士の絆や因縁を
追体験し、各キャラに自然と感情移入をしてしまう作風こそが、「久遠の絆」という作品の
名作たる所以であると思う。そして本Ver.でフルボイス化が為されたことにより、各キャラの
魅力はより一層引き立てられ、更にドラマティックな作品へ進化したと言っても過言では無い。

フルボイス版の声優さんは有名声優が多く、ほぼ全てのキャラに関して、高いレベルで
演じられていると感じる。また「THE ORIGIN」のボイスと比べても、このフルボイス版の
キャストの方が「久遠の絆」という作品の雰囲気に適っていると思う。

賛否両論なのが汰一の声(CV:堀川りょう氏)であるが、汰一の持つ知性・繊細さ・優しさが
非常に良く表現されており、個人的には良いキャストではないかと思う。


<新おまけシナリオ「残念な儀式編」について>

「久遠の絆 再臨詔」の従来のおまけシナリオに加え、新おまけシナリオ「残念な儀式編」が
追加されている。万葉TrueEnd後に開放され、2日目の夜(絵理の儀式のシーン)から分岐。
内容は他のおまけシナリオ同様、ドタバタコメディーであり、なかなか面白かった。


<過去作と共通の良いトコロ・悪いトコロ>

・故・風水嵯峨氏によるBGMは相変わらず最高。「久遠」と「久遠の絆」はノベルゲーム至上
 屈指の名曲だと思う。

・グラフィックやCGは今では古臭く見えるかもしれないが、クオリティは高く、味もある。

・本作は同時攻略がほぼ不可能であり、かつ、いわゆる共通√がほとんどである。従って
 周回プレイがかなり面倒臭い。これも過去作と一緒。

・杵築を筆頭とした敵キャラとのコマンドバトルや、五芒星をマウスで描く法術バトルも
 過去作同様に健在。はっきり言って面倒臭い。法術バトルはシナリオに組み込まず、むしろ
 ミニゲームにして欲しかった。


<「再臨詔」に関して言いたいこと(ネタバレあり。ご注意下さい。)>

物語のテンポがやたら速い、展開が厨二バトル物チック、本編に比べて天野先輩がキャラ崩壊
気味など、色んな点で賛否両論な「再臨詔」であるが、個人的には好きなシナリオであり、
これが無いと「久遠の絆」ではないように思ってしまう。

このシナリオが好きな最たる理由は、天野先輩が可愛いからという理由ではなく、本編では
有り得なかった武と杵築との和解が描かれているという理由である。

本編における杵築は、転生を繰り返して武の前に執拗に立ち塞がり、プレイヤーにも面倒臭い
バトルを強制するという点で、非常にうっとおしい存在であった。しかし「再臨詔」において、
神となった武の圧倒的な武力と説得力に影響され、幾星霜にも渡る確執に終止符を打つことになる。

本編では長らく悪役であった彼が、「再臨詔」では比較的早いタイミングで仲直りするという
展開は、もしかしたらご都合主義と取られるかもしれない。しかし武が作中で言っているように
武と杵築の間には、元禄時代、彼らが真之介と劉也であった頃、確かに「友情」によって
一時的に交差している。この伏線を回収する形で、武と杵築が和解を果たすというのは、
或る意味、自然な流れではないだろうか。

「久遠の絆」という言葉は、武と万葉の宿命のみを表したものではなく、栞、沙夜、汰一、
杵築、幹久との各々の宿命を表したものであろう。この観点に基づき、武と杵築との絆の
着地点を描いたという点において、私は「再臨詔」というシナリオが好きなのである。