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HARIBOさんのnarcissuの長文感想

ユーザー
HARIBO
ゲーム
narcissu
ブランド
ステージ☆なな
得点
100
参照数
303

一言コメント

「君たちはどう生きるか」と問いかけられている気持ちになる。点数はあくまで私のもの。他の誰の参考にもならないと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

得点はつけていますが、データベース的な意味合いは無いです。そもそもこの作品に点数を付けることに意味があるとは私には思えないのです。

プロダクトで記される通り、絵はほとんどなくテキストを極力省いた実験的な作品であり、求めるものはプレイヤーにとっての「無限の理想形」。
受け止め方、感じ方は無限にあるのですから、他人は関係なくプレイヤーひとりひとりの理想形があるのでしょう。ただ、私にとってはこれはひどく自分の内面に語りかける作品でした、つまらない表現ですが響いたのです。
だから高得点、それだけ。


先に述べた通り構成要素は少ないです。ですから面白さ、エンタメ性については語る土俵にも立っていません。
またノベルゲームとして最低限の骨格しか用意されていませんから肉付けはプレイする人次第。解釈、感じ方によってその内容は大きく異なるはずです。

正直、私はこういう作品は苦手です。

作品を見つめるとき、そこから得られるものは自分自身なのですから。自分の自己中心的な汚さ、情報だけを積み重ねる知識の浅さ、思慮の浅さ、後悔を思い知らされるのです。
もちろん嫌なことばかりでは無いのですけどもね。楽しかった、眩しかったことも思い起こされます。

つまりこの作品は、エコーなのです。
何を見るかは人によって異なりますが、我々プレイヤーに対して作品という水面を通して自分を写し出しているのです。



さて、ストーリーについて少し。

プロローグ、chapter:01 7Fは主人公とセツミのはじまり。ふたりの出会い。
chapter:08 白石工務店は別れ、終幕。
chapter:02~chapter:07は病院脱走から淡路島へ行くまでの道程を淡々と描く流れ。
この道程は死へのモラトリアムだと私は受け止めています。行くあての無い彼らがどうするのか、生きるのか、死ぬのか、どこで死ぬのか、どうやって死ぬのか。
960キロ、15日間という距離、時間でそれを選択する猶予期間ですね。

仮退院の準備のさ中、セツミは仮病を訴えますがおそらく初めてというわけでは無いのでしょう。
家に帰りたくない、7Fにもいたくない。そんな彼女のわがまま、わずかな足搔き。
でもその足掻きが僅かな時間を与えて、この病院を抜け出す一歩につながっていたのです。

車のこと、道のことになると饒舌になるセツミ。眼を閉じた世界が現実となる喜びもあるでしょうが、入院して以来承認欲求を満たしてもらっていないだろう彼女にとって主人公に頼られることは甘露でしょう。

少し満たされるにつれて水着が欲しい、服が欲しい、車も運転してみたいという欲求も溢れてきます。

でも、前向きになっても、どうせ叶わない。最後まで頑張っても、報われない。
だから、諦めるしかない。
そう叫んだ翌日に笑って、泣いて決断をした彼女。手に入れたものは、旅の修了証書かつ新たな旅路への切符。

彼らの旅路を見て思うことは様々だと思います。


セツミは最後だけでも彼女なりに幸せだったかもしれない。
幸福とは何なのか。
せっかく病院から抜け出したのに意味がない。
だれかに助けを求めれば良かった。
つかの間でもこの時間はかけがえのないものだ。
たしかなモノは何も残らなかった。
自殺を止めなかった主人公はクソ野郎だ。
ホスピスで死を待つばかりなんてかわいそう。
徐々に距離が詰まっていく様子が微笑ましい。
病院まかせにする家族は愛が無い。
理由があっても犯罪は許されない、見ていて不快、被害者のことを考えろ。
何があっても自殺は逃げだ、残された人はどうする。


確かなことは3万5千人のひとりにセツミが加わったことだけ。たとえそうならなかったとしても近々病死者のリスト入りは確実でしょう。能動的に自殺を選んだことは幸せなのか、どうなのか。多分結論は無いのです。

「…さぁ…どっちだろうね」としか言えないです。ただ、写真に残った彼女の笑顔から察するに、すべてが

「眩しかった日のこと、そんな冬の日のこと」なのでしょう。

どんなに語ったところで普遍的な正解はないのですし、無限の理想形を読む人が選び取れればそれが正解だと思います。

プレイした方は、何を見たでしょうか。
多分それがその方にとっての「眩しかった日のこと」なのだと思います。