マルチエンディングならぬマルチナラティヴとでも言うべき傑作。
過去の記憶と過去そのものの差異を問題化した興味深い作品のひとつ。共通感覚のゆれが物語外のプレイヤーにまで及び、過去を、あるいは同じ時間を共有するとはどういうことなのかを切実に問う名作。再構成不可能な過去を扱い、断片によって組みあげられる反回想文学、ポストモダン的な物語と言えよう。また本作は、精神病理学的主題についてもふんだんに扱い、特に離人神経症による疎隔の問題については興味深いところが多い。ノベルゲームの特質を生かし、様々な可能性を十二分にひきだしてみせた珠玉の一作である。