私たちの想いが生んだ文化の一端である神がいまも奥に息づくことを思いださせてくれる珠玉の名作である。
0年代の作品のなかで1本選ぶとすれば、私は間違いなくこれを選ぶ。伝奇作品に分類できる伝承を扱った作品であるが、野本寛一の言う「環境民俗学」ないし「信仰環境論」にも足を踏込んだ、日本の“信仰”についての物語でもあった。私たちの文化に根差した「奥の思想」に立脚し、建物の奥に――あるいは森の奥に――尊いものが据えられ、その神格の栄華と衰退をたどった絵巻物である。日本の神話や伝承の多くは、古来の民俗を映しだしたものであるが、建築物や祭祀といった眼に見えるもののうちに、信仰や思想といった眼に見えないものが織込まれ、後世に伝えられてゆくさまが巧みに表現されていた。現代の日本人が距離を置く神や信仰というものが、私たちの生活から生まれたものにほかならず、とても身近に住まうものであることを思いださせてくれる。こんな作品は世界中どこを探してもないであろう。