当意即妙なやりとりだけでなく、なにげない科白や独白も、全篇にわたって読ませる言葉で語られていた
花が死に近づくとは花が咲くことである――様々な事象を純粋な眼で捉え、物事の本質について鋭い疑問を投げかけるパトリシアは、ノラたちが普段からなにげなく受けとめている身のまわりの出来事を、まるでちがったもののように見せてくれる稀有な存在であった。言葉の本質を音と捉えるパトリシアは、ある感情をあらわすにも様々な音があり、たったひとつの言葉でしかあらわせないということはない、とノラたちに諭す。彼女の言う通り、言葉において音と意味は互いに働きかけるものである。言葉の生成をめぐる問題をここまで豊かに物語る作品は決して多くはない。こうした言葉についての洞察のほか、種々雑多な主題を織込んだすばらしい傑作である。