自己が常に他者との関係によって形作られることを改めて教えてくれる秀作。
当人になり替わる代理体験から自己を確立する物語。黒猫詠の生は他者の真似ごとでありながらも、それこそがまさに黒猫詠にしか営めない生であり、偽物と本物の差異は自己の本質を形作るものとして見事に解消されてゆく。ノベルゲームにはなぜか代理体験を描いた良作が多く、本作もそのうちのひとつだと言える。人間になる過程を通じて自分とはなにかを問いつづけた美しい怪奇譚。