異なる理や人外のモノを望んでしまう人間の隠しようのない欠落と渇望を、言葉の奔流で描いた傑作。
希氏のテキストだけあって、適当に読み流すのでは作品そのものを味わえず、
余裕を持って咀嚼することではじめて愉しめるもの。
ただ、BGMとCVが非常に良いため、
読み進めるのは苦痛ではないのではないかと思う。
生演奏+いとうかなこのOP曲も良いし
CV的には特に麻子が良く、次いで紫織もよく合っている。
テーマ的には後発の「霞外籠逗留記」と似通っている部分もあるが
こちらは良くも悪くも生真面目であり、
柳田国男や泉鏡花といった固有名詞が出てきたり
民俗学の一部を紐解くような内容だと感じた。
麻子=人形、紫織=本、双子=盃といったように
ヒロインが全て人外、とりわけ無機物という点が興味深い。
「みんな、みんないなくなってしまう──」
「俺が大切に想っていた人たち──」
「みんな、みんな消え去ってしまった、
懐かしいと振り返るだけのものになってしまった!」
「そんなのって──そんなのってあるか!」
どうにもとっつきづらい印象だった主人公が、終盤で慟哭するシーン。
ここに来てようやく彼の中の欠落と渇望が素直に表現されており、
個人的には腑に落ちる場面だった。
また、紫織ルートの獣との言葉によるバトルや双子ルートの過去、
各種ENDも面白かった。
解説は竜胆ルート後半でかなりしっかりとされており
回収されていない伏線も無く、綺麗な終わり方だったと思う。
弱点としては、肝心の竜胆の魅力がいまいちであること。
着ている鮫小紋の振袖は素敵なんだけど、
神樹邸=竜胆様の座す世界、というにはキャラが弱かったかなと。
いずれにしても、浸れる作品を求めている方におすすめな作品。