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ERSRさんのシンシア ~Sincerely to you~の長文感想

ユーザー
ERSR
ゲーム
シンシア ~Sincerely to you~
ブランド
Sincere
得点
82
参照数
178

一言コメント

全てを失った青年の再生の物語。抑制されたテキストと、高品質なBGMが生み出す良質な中編。例えば休日にプレイすれば、良い気分転換になるような。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

エロゲー=18禁ADVの質を決める物は何かと言えば、
かなり大まかに言って、BGMとテキストとUIなんだな、と。
開始1分でそんなことを感じた。

それだけ、独自の雰囲気を産み出すことに成功している本作だが。
色々な方が指摘している通り、シナリオ展開はややあっさりめ。
とはいえ、描写について想像力を働かせてみれば
決して悪いものではないと気が付くだろう。

空軍時代、命令のまま民間機を撃墜し、生存者(少女1名:シンシア)以外の
全民間人を殺害してしまい、なおかつ罪を着せられて追放された主人公。
その罪を何とか償おうと、キュリオ家にシンシアの精神科医として住み込む。

・・・これはもう、言葉に出来ないほどの苦悩だろう。
自分がやりたくてやった訳ではない。民間機であることを確認し、
何度も確認を取った。その上で職務を遂行したのに、
認められるわけでもなく、軍が責任を取るでもなく、追放された。
いわば、ゲーム開始時点の主人公は「壊れた存在」なのだ。

その後、3ヒロインとの純愛を育む「再生期間」を経て、
10月のハロウィンパーティ以降、主人公はまたしても戦争に巻き込まれていく。

反戦派の大富豪であるキュリオ家、医者であり曹長のリック(ややご都合)
キュリオ家の戦闘執事養成所である教会、フィズ、セルジオなどの
脇役/プロットも効いているが、
主人公に突きつけられているのは「今度も軍の意向に盲従するのか?」
「大切なものは何か」という命題だろう。

その結果のBADEND、BESTENDとなるわけだが、
個人的にはどのENDもあり得る可能性として楽しめた。
(主人公の能動的な行動としての選択肢はほぼ無いが…)

シンシアBADは贖罪としては綺麗だし、
瀬緒BADの最後のCGで主人公の背中を守る瀬緒のイメージも、泣ける。

でも一番ハッピーなのはやっぱりマリアBESTENDかなと。
狼少女の影に隠れがちだが、マリアヴェル・キュリオのキャラが良すぎる。
萌えというよりも、何かこう、透き通った存在。
作中で瀬緒が暗殺者への皮肉として聖ヴェロニカに例えられているが、
こちらを例えるならば、聖母マリアだろう。

つらい訓練を経て、ようやくフォークで食事できるようになったシンシアを
食堂での夕食に連れて行き、皆の前で披露させる。
本作の1つのハイライトであり、ここに込められた想いと行動が
主人公・純夜という人間をよく表していると言える。

「戦争によって破壊された人々が、愛によって再生する物語」である本作。
であればこそ、「シナリオ上のきっかけに過ぎない終盤」の書き込みが~
というよりは登場人物の想いを想像するべきだろう。

好きなのは、ダンスの練習をしているマリアに、
「踊っていただけますか?」と主人公が声をかけるところ。
何となく相思相愛、だけどまだ踏み込んでいないからこそ成立する、
ロマンティックなシーン。

辛い現実を乗り越えても、聖母マリアはいないかもしれない。
でもたまにはこんな優しい物語の中で「もう、誰にも死んでほしくない」と
願う彼女と、ダンスを踊ってもいいだろう。