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ERSRさんの新説魔法少女の長文感想

ユーザー
ERSR
ゲーム
新説魔法少女
ブランド
信馬鹿(信じた馬鹿が俺だった)
得点
88
参照数
679

一言コメント

「魔法少女」のフルリメイクにして、超大作SF-SRPGの傑作。全50話の中で、本格的に面白くなって来るのが15話付近からというスロースターター。だが、それ以降は加速度的に熱中度が増し、40話以降はやめ時が見当たらないほど。フリゲでこのクオリティは凄いとしか言いようがない。あとBGM最高です。極上の泣きメロで燃えながらSRPGを楽しめるという至福をありがとう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ的には、女子中学生たち(小学生、高校生、男子も少数)の青春群像劇。
マジカロイドとして覚醒した者たちが地球を襲うバイオモンスターを退治していくお話。

主人公は作者TS氏のセオリー通り、純粋がゆえに社会不適合の烙印を押されてしまう
少女、千代子。彼女が大き過ぎる犠牲を払いつつも仲間との信頼関係を築き、
地球と、自分自身を救うというストーリー。

やはりSRPG=キャラゲーなので、キャラクター造形が非常に重要なわけだが
そこはさすがのTS氏。プレイアブルキャラが約26名、登場人物が約40名という構成の中で
それぞれしっかりとした人物像を作り上げている。

母親を巻き込んで殺してしまうところや、親友の遥が死んでしまうところ、
そしてついに狂気に侵される千代子の描写には、迫力があった。
(犠牲の代替物として)最後に得られた友人など、人生を良く描いていると思う。
その時点では分からないんだけど、
何かを失えば、必ず何かを得られるんだよね。

キャラクター的には、そこらのエロゲーみたいに幼児退行した萌えゲー的なキャラが
居ない点が、相変わらず素敵だと思う。
女子中学生のリアルって言うとあれだけど、きっとこんな感じだよねという自然さ。

一番悲しいキャラである唯も、真のアウトローとしての近寄り難さ、
ついに得ることが出来なかった愛情への諦めなど、よく描けていると思う。

ただ、作品的な完成度としては、後発である前作「Heartium」の方が上。
年配キャラやオヤジキャラの存在、政治的な側面、歴史、人種、
敵側の人間関係など、今作で描かれない世界の大きさが、
作品に広がりと余裕を与えているのだと思う。

様々な愛の形を肯定した点──地味にLGBT問題だったシュティ、
百合コメディとしてエネモラのインパクトが凄すぎたという点もあります。

そういう意味では「新説魔法少女」は鋭く尖ったナイフのような深さのある
作品なんだと思う。
要は、演出・BGMの超強化というのは正しすぎるディレクションでしょう。
クリエーターとして才能の大きさを感じるのはこういうところです。

演出の凄さ、というのは実際制作したことがないので分からないが、
アニメーションとか尋常ではない労力なのでは。
あとはBGMの選曲、最高です。ここは本当に良いと思った。
極上の泣きメロで燃えながらSRPGを楽しめるという至福をありがとう。

アドレナ戦記、楽しみにしています。