公式の「サスペンスホラーADV」の名に偽りは無く、自罰的な潔癖さという希少性が光るダークな佳作。18禁ADVをやるからにはおすすめの作品かなと。
内容的には同ライターの「あした出会った少女」「何処へ行くの、あの日」の
ハイブリッド版リメイクとも言えるだろうか。
タイムリープを含む、報われない偏執的な愛の物語。
プロローグのゾンビパニックから、物語への牽引力の高さと、
テキストを普通に飛ばさずに読める筆力の高さはさすがといったところ。
違和感や矛盾を感じさせないプロットの緻密さと、絵の美麗さも良い。
全編に漂う無力感と落ち着き、blackcyc系とは異なる生理的嫌悪感の
少ないグロ、きちんと機能させているエロなどは
ADV制作に対する経験値の高さが伺える出来。EDテーマ曲も粒ぞろい。
実質のTRUEENDとなるだろう由乃ENDの根暗さは必見だが
ある時点で主人公を完全に突き放してしまう展開も、今どきでは珍しいだろう。
伝奇ではなくクトゥルフに親和性を見出したライターのセンスは
今作においては外れでは無かったと思う。
運命の人は存在する、でも自分と同時には存在出来ない──
この作品に欠陥があるとすれば、そんな悲しみに浸る隙間も、
知性でそれに対抗することも許さない、自罰的な潔癖さだろうか。
笑える部分など、もう少し作品としての振れ幅があれば傑作になったかも。
18禁ADVをやるからにはおすすめの作品かなと。