「心を育てあぐねた人間」の葛藤を描いた傑作
基本的に主人公が優れた観察力と分析力を駆使して
人との関係性を構築していく話であり、
1つのテーマとして「自己否定からの脱却」があると思う。
見里先輩や冬子のような脆弱なタイプの人間も
最終的には見捨てられないものの
根底的には否定していたり、
美希のような根っこがタフで自立している人間、
あるいは霧のような純粋過ぎて生きるのが辛いタイプに
対する優しい眼差し。
作者=主人公そのものを思想を存分に取り入れながら、
各キャラクターを負の側面も含めて深く描写しているため
絵柄が淡いパステル調であっても、ただのキャラ=
萌え記号ではなく、そこに人間を感じることが出来た。
背景画の拙さだけが欠点の本作だが、
ノスタルジックな良曲揃いのBGM、OP/ED曲、
色彩心理で理性を象徴する青を基調としたUIなど
独自の強固な世界観を構築している点も魅力。
テーマについて、この作品の登場人物たちや
我々のように、不器用で
「心を育てあぐねた人間」はどう生きればいいのか。
「見返りを求めない。それだけのことだよ」
「自分のために、人を大切にして構わない」
これらを実行することで、
母の愛を思い出して──というくだりは確かに
文字にすると陳腐だが、
自分の存在自体の肯定に繋がる、という流れ。
社会で生きていくために必要な自己肯定感を
自分から他者に与えて、送還する。
それが自己肯定に繋がる、と。
バトルやループ解きなどの安易なカタルシスに
走らなかった分、高潔ではあるが
展開分岐の難解さと、偽悪的な冗長さが
完成度をやや下げている点が惜しい。
それでも、新川豊に対する冷酷さ
「人を攻撃することで健常でいるような連中を……
俺は認めるわけにはいかなかった」
ここなどは主人公に
深みを与えている良いエピソードだった。
ラストシーンの、まるで照れているかのような
本編とは打って変わった簡潔さが味わい深い傑作。