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ERSRさんの腐り姫 ~euthanasia~の長文感想

ユーザー
ERSR
ゲーム
腐り姫 ~euthanasia~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
89
参照数
221

一言コメント

当時の「サウンドノベル×エロゲー製品」の限界を示した自虐的なタイトル。カフカ的な「インモラル・ホラーADV」であり、絵、BGM、テキストによって構築された作品世界の完成度は見事。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

多くの方が指摘している通り、プロットの詳細が本編内で
ほぼ説明されないためプレイ後に消化不良感が残る作品。

カフカの諸作のように最後に死ぬだけではなく
転生やら他の惑星へ移動やら、という選択肢があるのはADVならではの仕掛け。

でもSFに逃げずにカタルシスのある真相究明をして欲しかったなーと
いうのが多くのプレイヤーの正直なところだろう。

カフカについてはカミュが的を射た指摘をしている。
「反抗を表現するのではなくて、反抗が作品を書いているのだ」

だから、この腐り姫という作品についてもそれは同じだと思う。
愛の欠落を嘆いて絶望する話であっても、それに抗う心が作品を作っている。

きりこにも、青磁にも、五樹は救えない。
それが事実であり、
でも同時に潤に救いの手を差し伸べることが出来たのも五樹だけだと。

ただ、義妹が実妹(に化けたモノ)を殺すとか、
忠犬が自分を殺したモノに敵意を示すとか、興味深いシーンを挿入しつつも
娯楽作品としては作りが甘いというのが本当のところだろう。
その甘さの証拠に、面白くもない身内ネタみたいな物を入れてみたり。

樹里にも蔵女にも全く惹かれない自分としては
この作品は傑作ではあるけど
同時に「エロゲーの限界」を提示してしまっていると思う。

作品性以前に飯を食う必要があるのは当然なんだけど、
妹萌えへの擦り寄りが鼻に付き、それが作品の完成度を下げていると。
「腐り姫~安楽死~」という、ある意味素直なタイトルに
どこまで自虐性を込めたのかは知らないが。

それでも夏生やきりこの女としての描写、かわしまりのの名演や
不快感無く聴ける貴重な金田まひるといった美点を
数多く含んでいることも事実であり、
ほぼ同時期に発売された「水月」よりは何もかもが
鑑賞に耐え得るマシな作品だよねと。