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ComPalさんの百舌鳥ノ贄 音声収録版+外伝の長文感想

ユーザー
ComPal
ゲーム
百舌鳥ノ贄 音声収録版+外伝
ブランド
あんく
得点
80
参照数
1245

一言コメント

ずいぶん長いあいだ積んどいた。お蔭でいつの間にか声がついた(笑。今になってようやくプレイ。えー、おもろいやン、これ。CGはアレだけど。

長文感想

最初にお断り。プレイしたのは「百舌鳥ノ贄 初回版」+「メーカー直販バージョンアップCD」。これで「百舌鳥ノ贄 音声収録版+外伝」相当のはず。

このゲーム。構成が少し変わっています。全5章のADVなんですが、第2章以降はそれぞれ全く異なるおもてうら(というのはわたくしの勝手な命名)2つのシナリオをもち、実際には全9章。ただし、その内、通してプレイができるのは5章だけということになります。
その、おもてうら、どちらのシナリオに入るかは直前の章での選択によります。したがって第1章だけはおもてうらの別は無し。
さらに、当然ながら、それぞれの章の中でもかなり細かく分岐します。ですからコンプは結構手間ですね。

それぞれの章は独立色が強く、主人公の同じ「各話読み切り連作小説」という雰囲気です。
主人公は、家族を破滅させた憎っくき五人の仇を、各章で一人ずつ葬ってゆきます。ま、TVの「必殺」みたいな感じと思えば当たらずとも遠からず。

困るのは章により出来にばらつきがあること。最初の方の章は出来が非常に悪い。そのせいで頭だけプレイして1年以上もほったらかしですよ(笑。
あんまり評判がいいので、音声もついたことだしと思い直してやってみたら、第3章の面白いこと面白いこと。おもてのシナリオで完全にはまった上、再プレイでやったうらのシナリオがまたすばらしい。結局一気にコンプしてしまいました。

「鬼畜外道な陵辱モノ」という評判で語られる本作。それはそれで本当なんですが、間違ってもそれだけと思ってはいけない。
キャラクター造形の深さと、その個性的なキャラクター達の織り成すドラマ。これが本作の本当の魅力。
とりわけ見事なのが、全編通しての重要なバイプレイヤーである、智花のキャラクター。これは、まず男には描けない女性キャラでしょうね。
女の酷薄さと狡猾さと、愛した男への一途な想い。こんな女に付きまとわれたら身の破滅だと思う半面(実際主人公はそうなってるし)、こんな女に惚れられてみたいと思わせる魅力がある。
特に第3章のうら。ここでの本当の主人公は智花ですね。惚れた男のためにここまでするか、という凄味を感じます。
声も良いです。タンカを切る鉄火肌の智花。主人公に泣きながらすがり寄る女々しい智花。その両方を矛盾なく演じていて拍手。
しかし、こんなキャラ見せられると、同じ陵辱モノの代表で螺旋回廊なんかでも、しょせんキャラは薄っぺらいと思い知らされちゃうな。

さて、手放しで誉めるわけにもいかないのが、また本作の特徴。
まずCG。これははっきり言ってお金が貰えるレベルではない。素人並み、というか、アマチュアでももっと巧いやつはごろごろしているというレベル。一部の塗りは本当に未経験者がやったのかもしれない。
本作をプレイする場合、CGはあくまで挿し絵と心得る必要がある。
なお、後から追加された外伝のCGはいいですよ。12年の間に見違えるほど向上してますね。本編もこのレベルだったら良かったんだけどねぇ。

それから、最初にも言ったけど章によっては出来が悪い。3章4章は良いが2章5章は落ちる。1章はダメ。
2章5章はもっと面白くなったはずなんだが、ストーリーの掘り下げが足らず粗筋だけで終わっている印象。ライターの体力が続かなかったか進行に押されたか。いずれにせよ残念。それでも3章4章の面白さでプレイする価値は十分ある。

もう一つ。全体を通しての構成が弱い。特にエンディングが弱すぎる。
1つ1つの章はそれぞれに魅力があって楽しめるんだが、連作風の構成が災いして最後を巧く閉めることができないでいる。
ライターもその辺は自覚しているみたいで、5章のうらのシナリオではいろいろ綾を付けようと頑張っているのだが、却って唐突な印象を残すに終わっている。

こうなるのは、ストーリー上の根本的な問題にも起因している。
主人公は最後まで仇と直接対決しない。仇の娘や周囲の女性を陵辱し堕とすことにより仇を破滅に追い込むのだが、これって客観的に見れば卑怯卑劣な罠に相手を陥れているだけで、それが成功したとして達成感も充実感も得ようがないのだな。主人公が自分でやることと言えば、何の罪もないか弱い女性をいたぶるだけだもの。それが5回続いて終了。これでエンディングが盛り上がったら嘘だわな。

しかしですねぇ、ここで非常に岡目八目なことを言わせてもらうと、シナリオをほとんどいじらずにエンディングを盛り上げ、かつ物語全体を巧く閉める方法が、実はあったのですね。
それは第3章を最後に持ってくること。そしてエンディングの主人公、智花、みのりの対決を、主人公、智花、サツキでやること。
これだとほれぼれするほど見事なエンディングになったと思いません? プレイした皆さん。

第3章で扱った「信仰と愛欲、罪と罰、断罪と贖罪の葛藤」というテーマ以上に、この物語の掉尾を飾るに相応しいテーマはないでしょう。おまけに、智花、サツキという、一番魅力的なヒロイン達が真っ正面から対決するんですぜ。盛り上がるに決まっています。そしてその結末がああですからねぇ。
これなら、このゲームの評価は今以上に上がっていたはず。なんで真ん中に挟んじゃったのかねぇ。本当に惜しい。
おそらくはライター氏も、マスターアップしたくらいでこのことに気がつき、歯噛みをなして悔しがったに違いありません。同情を禁じえませんな。余計なお世話と言われるでしょうが(笑。

外伝については特に言う事なし。ま、これは一種のファンディスク。いやなファンディスクだ(笑。

お気に入り:若月千紘。個人的にこういう女の子好きなんです。それに、なぜか主人公、この娘はお尻ばっかりいじめるんですね(爆。

一番悲惨なヒロイン:りんごも悲惨だが人外だし、そもそもこの娘の運命は主人公に責任がある訳でないので除外。とするとやっぱりサツキか。主人公の幼なじみと言うだけでこれだけ酷い目にあわされるとは。しかし智花、お前よぉ(;´Д`)

漢:桐山だろ、当然(笑。