ErogameScape -エロゲー批評空間-

Atoraさんの響野さん家はエロゲ屋さん!の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
響野さん家はエロゲ屋さん!
ブランド
Sonora
得点
79
参照数
3062

一言コメント

元エロゲーショップ店員が書く作品の感想。それと、お店での思い出話とか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず、作品評価としては、初心者向けのオーソドックスな萌えゲー。
ビジュアルはさすがにCUFFS系列だけはあり、キービジュアルの時点で不安を感じさせない。
キャラクターもそれぞれ個性的で、キャラゲーとしても上々といったところである。

その一方で、テキストや話の構成はやや弱い印象を持った。
タイトルから考えれば、地でエロゲー販売店の話を行くのは妥当そのものである。
それだけに、店長ポジションであるゆかりルートは、もっと小売業について深く語ってほしかった。
少し話の方向性を見誤ったと言うべきか、ライターさんの取材不足なのではないかと感じた。
その広大な伸びしろを生かしきれておらず、完成度が惜しまれる内容だと思う。
元業界人としては、紡ルートの方が面白く読めたのは、皮肉と言うほかない。

結衣および静乃についてはキャラクターの好みもあるだろうが、
後者はさすがに他と比べてストーリーが長く、後半はダレてしまった。
マイナス点はさほど大きくないものの、この作品でなければならないプラスの要素もまた少ない。
ワクワクするようなタイトルの割に、思いのほか普遍的な作品に落ち着いている。

なお、この作品で最も気に入らないのは卑語の選択だ。
全キャラクターにおいて「お〇んこ」、「おち〇ちん」という表現は、
キャラクターの性格や嗜好、エロゲーの知識から考えると、やや不自然に思える。
特にゆかりが生粋のエロゲーマー、静乃がエロゲーに理解あるコスプレイヤーという設定ならば、
もう少し下品な言葉選びをしても実用性を高められたのではないかと思える。
本作の濡れ場の内容では、別ブランドのMintCUBEの方に軍配が上がってしまう。

一般ユーザーさんにはマイナーと思えるネタも散りばめられていて、概ね楽しんで読めるストーリーであろう。
そして、元エロゲー販売員としては、日陰の小売店に焦点を当てていただいたことは非常に有難い。
そう感謝すると同時に、現場経験者から見れば「もう少し詰め込めたはず」と思える作品であった(下記に駄文あり)。




さて、ここからは拙レビューの蛇足というよりも本編。
元エロゲーショップスタッフの経験と実話をもとに、小売店での話を作中からの引用&軽めの筆致でお送りします。
「この作品のレビューで書くしかない!!」と思ってたので、こちらをお借りして投稿することにしました。

だいたい2007年から2017年くらいの話が軸でして、ひょっとしたら関係各所の誤解を招く表現があるかもしれません。
なので、そういうのが嫌いな人は読まないでください。それと、メーカー名や作品名については、
伏せるべきところだけは伏せて、伏せなくてもいいと判断したところは伏せていないのでご注意を。
決して作品の中身をネガティブに書きたいわけではないので、先に明言しておきます。

……では、どうぞ!!







「一目で異質とわかる“箱たち”が並んでいた」

>>そう……。エロゲーショップは数ある小売業の中でも“異質”なのだ。
こんなきれいに“長方形の箱”を並べてる業界なんて、エロゲーの小売店くらいのもの。
レトルトカレーを本に見立てて並べたお店(北野エースさんの『カレーなる本棚』)はあるけれど、
純粋に、“ただの長方形”だけをこれほど律儀に、整然と並べる小売の業種を私は知らない(エルフ限定缶などは除く)。
今さらではあるが、“異質”ということを忘れるくらい、エロゲー業界に浸ってたことを痛感させられた。

タイトル順で並べるか、メーカー順で並べるか、その2つを併用するか。
色々な並べ方と陳列方法があるけれど、どんな陳列をしたとしても、
“一見して陳列の乱れが分かりにくい点”は、エロゲーショップの難点だったりする。
もし一般的なスーパーで、野菜や魚のパックが肉売り場にぽつんと置いてあったら、
誰でもすぐに「ははーん、お客さんが適当に戻したな」と気づくだろう(良い子はやらないように!)

だが、エロゲーショップはそんな簡単にいかない!!

似たような箱が多いということは、ある種の迷宮のようなもので、違和感をすぐに麻痺させるのだ。
同じ見た目でも初回版と通常版で違う作品なんてざら。店員ですら同タイトルが店頭に出ているものと思い込み、
バックヤードに戻してしまうことも多々あった。これは、難解な間違い探しをしている感覚に近い。
その乱れをいかに気づいて整えるかは、店員の知識と在庫管理能力に左右されがちだ。

棚卸しをしていると、月に約10本くらい、品出しせずにバックヤードに眠っているタイトルがあった。
機械がピッキングすればこういう間違いは容易く防げるけれど、エロゲーショップではそれもなかなか……。
整理整頓が苦手な人がここで働いたら、相当鍛えられると思う。

さて、もしメーカーさんが初回版で大成功をおさめ、「そろそろ通常版を作ろうかな」と思った暁には、
せめて側面のキャラだけでも変えてもらえると、店員もお客さんも大いに助かることだろう。
基本的には、バーコードは作品の箱ごとに違う(厳密にはパターン多数有。これを書くと超長くなるので割愛)んだけど、
誰もそこまで見てくれてない。実際に開封してみて、買い間違いに気づくことも多いのだ。
「初回特典の音楽CDが入ってない! これ通常版かよ……!?」とかね。

相当なベテラン店員になると、買取でお客さんから箱を受け取った時点で、
「あ…、これCDが1枚足りないな」とか、「これ、店舗特典CDも中に入れてるな」と容易に気づく。
日常生活では全く役に立たない特殊能力だけど、これはこれで素晴らしい。


こんなことを語る私は8年ほどエロゲー屋さんに勤めていたが、入社当初はエロゲーに詳しい方ではなかった。
最初に自力で買ったエロゲーは、知人から勧められてプレイした『SHUFFLE!!』のファンディスク。
ソフマップさんにて「店員さんから年齢チェックはされないだろうか」と恐る恐る予約票を持って行ったのを覚えている。
それくらいライトユーザーだったのも今はいい思い出である。

だが、ライター関連も含めると10年近くもこの業界にお世話になり、
気付けば人生の半分以上をエロゲーが占めるようになっていた。
エロゲーの感想を書き始めて20年経つが、今も生活の一部として役に立っている……かもしれない。



「ゆかり『えーだってさあ、今やってるエロゲーの体験版、すごく面白いんだもん!』」

>>記録や記憶は大切なものなので、こちらでは正直に書こう。
他のお店はともかく、判断に迷う作品は実際に体験版をプレイして、発注の参考にしていた。
とくに萌えゲーの体験版はある程度プレイして、自店の店舗特典に自信があれば発注数を増やしていた。

その反面、萌えゲーの特典なしverは全くと言っていいほど発注依頼をかけなかった。
この手のエロゲーは、中古に流れてくるのがあまりに早すぎて値崩れを起こしてしまい、
特典無しの新品はほとんど売れた試しがなかったためである。

ただし、「中古品の流れが悪くなってきた…」と感じた時期(だいたい2015-2016年くらい)があって、
その頃を境に、新品を発注してないと“店頭に新品も中古も一切ない”ようなタイトルも出てきてた。
私がお店を去る直前は、「萌えゲーの特典なし新品も、1本か2本は置いてみよう」という流れになっていた。

特典と言えば、皆さんお楽しみの布物の店舗特典が付属している時は、
特典物を印刷する関係上、発注を早めに締め切られちゃったりすることも多かった。
だから、いざ強気で押したくても間に合わないなんてことも結構あった覚えがある。
タイトルがメジャーなブランドの萌えゲーであればあるほど、納得のいく数字を出せなくて、
発注書を作る時は常に悩みの種が尽きなかった。



「ゆかり『ちゃんと好みを聞いてからオススメしないとね!』」

>>「お客さんにオススメを聞かれたことはありますか?」と問われれば……滅多になかったけど、あるにはあった。
基本的におとなしいユーザーさんが多い業界なので、返品とかクレームとかは少なかった。
そんな中で、たまに興味本位でお店に入ってくる人から、オススメ作品を聞かれることはあった。
でも、そういう人に限ってエロゲーに興味がなくて、盛り上がらないことが多かった。



「ゆかり『倉野くんちのふたご事情』なんかどう?』」

>>また懐かしいものを……。断然、“五女”推し。ロリっ娘+卑語の組み合わせが大好物。
作中で性器の呼称がだんだん卑猥になるエロゲーが大好き。誰か分かって……!!



「ゆかり『しかもこのゲーム、分厚いビジュアルブックが同梱されてるから激重でさー』」

>>『G線上の魔王』の初回限定版と『Liquid Black Box』はとくに重かった……。
量ったことはないけれど、段ボール一つで単身向け洗濯機くらいの重さ(25kgくらい)はあったんじゃないかと思う。
私が在籍してたお店はエレベーターがない階段2階だったので、新作発売前はとくに大変だった。
すごく重いゲームが大量に届いた時は、配送してくれる人にも申し訳なくて、
スタッフ総出で手伝ってた。いわゆる、エロゲーバケツリレーだった。
エロゲーの小売現場では、意外と力も必要なんです。



「ゆかり『だって、エロゲーショップって実際に経営してみたら月の半分くらいは意外と退屈なんだもん……』」

>>ある意味でこれは正しい。中古取り扱いありという前提でお話しすると、
もちろん新作発売日(基本は月末の金曜日)が一番忙しい。
商品化担当と品出し担当の連携とスピードで売り上げが決まるから、
当日はスタッフにとっては戦争そのものである。熟練度と知識がモノを言う。

そして、次の月の1週目くらいまで、
追加発注やら空いた売り場の整頓やらでスタッフはバタバタ動いてる。
本作に登場する響野商店は個人店なので店舗間での在庫移動はやらないけど、
複数店舗持ちのチェーン店なら、必ず発売週の次の週に在庫移動業務が入ってきて、
ここまでは本当に忙しい。

2週目に入ると急速に落ち着いて、定休や有休が取りやすくなる。
その後は、発売週の月曜日まではPOPの張替えや予約タイトルの更新、次月以降の新作発注、
それと準新作のセール等を行うんじゃないかな。そういうスケジューリングなので、
最も忙しくない3週目(毎月15日前後)に、棚卸しを挟むお店も多いと思う。

そして、発売週の火曜日くらいから、発注しておいた新作ソフトが入荷してくる。
そこから防犯タグ貼り付けや予約票との照合等で、一気に忙しくなって発売日を迎える感じだ。
とくに発売日の前々日(水曜日)に配送されるタイトルが多いから、事前準備は前日よりも前々日が最も忙しい。
ソフトと特典は一緒に届かないから、そこの管理はすごく大変だった。

前日は、閉店後に品出しするだけで済むように売り場をコントロールしていたが、
ごくごく稀に、配送ミスやら発注漏れやらで当日朝に届くタイトルもあって、
これに予約が入ってたりすると超焦っていた。そうそう……実際に配送された品物がシリーズの前作で、
発売日の開店30分くらい前に、担当営業さんが新作を紙袋に詰めて、
息を切らしながら持って来てくれてきたことがあった。あれは、本当にびっくりした。
地方のお店だったら取り返しがつかないので、都心のありがたみが分かる瞬間だった。
ヴューズのMさん、2年くらいのお付き合いでしたが、いつも気を遣って頂きありがとうございました。

面白い話と言えば、流通さんの在庫が薄くなってるタイトルは事前に情報がもたらされて、
すぐに確保に動くこともあったけど、基本的に大手さんが持って行ってしまっていた。
小さいお店に回すよりも、大手に一括で卸した方が工数も少なくて済むからだろう。

そんなこんなで、エロゲーショップでは、前述のサイクルが年12回続くと思ってもらえれば。
大手で通販があるところは通販部みたいな部門があるはずだけど、
そうじゃないところはネット出庫等も一手に担ってる人がいて、大変な苦労があるはず。

ちなみに私が在籍していたお店は、完全週休二日制だった。
しかも、小売業としては有休を取りやすく、フルで消化していたので福利厚生では問題なかったと思う。
エロゲー社員割引で中古品のみ安く買うことができ、そのおかげで大量にプレイすることができた。
8月と12月は、主にコミケのせいで比較的タイトルが落ち着いていることが多かった。
(同人ゲームも取り扱っていたから、コミケ後も割と忙しかったが、私はワクワクしていた)



「ゆかり『こんなにエロゲーがたくさんあるのに、プレイしちゃダメなんて……』」

>>分かりすぎて辛い。当たり前だけど、基本的にエロゲー店員って新作発売日は休めないんだよ!!
こればっかりは仕方ないとは言え、ある種の生殺しである。泣きたい。

だから、店閉めて速攻で帰ってエロゲーするわけなんだけど、
エロゲー熱が入りすぎた若い店員さんほど、だいたい徹夜して寝不足になっている。
それなのに、土曜日になると、値下がり前に売ろうとする人と一部の評価待ち勢が特攻してきて忙しい。
評判に後押しされて、新作発売後二日目の売り上げが一日目の売り上げを上回ることも実際にあった。

もし発売週の土曜日に、少しうつろな表情で仕事してる店員さんがいたら、
「新作プレイしました?面白かったですよ!」とか言って、極力ネタバレせずに声を掛けてあげてほしい。
エロゲー愛を持った店員さんなら、きっと一瞬で元気になるはずだから。



「蓮『たくさん売れるのはもちろんうれしいんだけど、自分が綺麗に作った売り場が乱れると売れたとは言え、
どこか悲しさがあるんだよ』」

>>これは絶対にNO。一度たりとも、そう思ったことがない。
だって、新作の新品が売れるってことは、メーカーにお金が入る可能性がより高まるってことだから。
魂の入った出来のいい作品だったら一刻も早く完売してほしいし、店頭在庫が減れば追加発注だってしやすくなる。

すっかすかになった陳列台、目標を大きく超えた売上、スタッフのやり切った表情。
これらを見ると、閉店後は達成感すら湧いてきていた。
あとは、買ってくれた皆さんが楽しんでいただければという思いを込めて仕事してた。
蓮に言いたいんだけど、綺麗に並べるのがエロゲー屋のゴールじゃないんだ。
できるだけ売って、アフターフォローもしっかりしてこそのエロゲー屋さんなんだよ。

ただし、売れてないという現実だけで「魂が入ってない」とは微塵も思わない。
それは単なる傲慢だし、小売店側のアピールが足りないだけかもしれないからね。
ひょっとしたら、後世に評価される可能性だってあるわけだから。

この批評空間で書いたレビューと評価は私人としてだけど、公人としては売れるだけ売りたい。
もちろん皆さんには「買ってよかった」と感じてプレイしてほしいけど、仮に不評な作品だったとしても、
小売側が、「その作品は売りません」という姿勢では、性質の悪い偏屈な店主でしかない。

なお、私がいたショップは在庫管理がシビアだったから、新品部門で赤字を叩かないように腐心する中で、
如何にして発注数を最大化するかがテーマだった。ただ、読み違いってのはどうしてもあるもので……。
過発注はお店がマイナスを被れば済む話だけれど、ヒットした作品を少なめに発注してた時は、
メーカーさん、クリエイターさん、せっかく買いに来てくれたお客さんにすんごく申し訳なかった。
キラータイトルが発売日当日に新品完売状態なんて、リサーチ不足にも等しいからね。

そういう“誤算”を少なくするためにも、体験版はなるべくプレイするようにしてたし、
Twitter等の情報網は命綱として活用してたし、営業さんからの情報はありがたく拝聴していたという話。



「ゆかり『壁側の棚はメーカーのあいうえお順。』」

>>この娘、ホントよく分かってると思う。とてもいい酒が飲める気がする。
お店によっては、完全に「タイトル五十音順」にしてるところも多いけど、あまり美しくない!!
もちろん品出しする時はタイトル順が出しやすいだろうけど、個人的にはメーカーと作品タイトルで半々だと思う。
ちゃんと観察してくれたライターさんがいるようで、ゆかりに対する好感度が超アップした。



「ゆかり『わたしはこのメーカーを信頼してる。だから発注数を増やしたの』」

>>名前出していいかな……実は、BISHOPさん&アトリエかぐやさんだけはタイトル関係なく強気発注だった。
そりゃあもう、秋葉原の路面店に匹敵するほど発注してた。自店の規模を思えばかなり危ない橋を渡ってたけど、
他にも頑張ってやろうと思ったタイトルは頑張ってきたつもり。ルネさんや九尾さんも、相当推してたはず。
色々と恐れずに推して、誤算だったタイトルも中にはあるけど、それらはさすがに書けない。
ただまあ、萌えゲーは在庫過多になりやすかった。出始めの評価が芳しくない萌えゲーが1週間残ってたら、
ほぼ例外なく、値札が薄くなるまで残ってた記憶がある。

その“失敗”を踏まえたかどうかはいざ知らず、私が萌えゲーでも抜きどころを評価する傾向にあるのは、
「仮に萌えゲーでシナリオが失敗しても、実用性さえあれば、“エロ”ゲーとしてユーザーのHDDの中に残りやすい」
という自分勝手な思い込みがあるからじゃないか、などと自己分析してみる次第だ。



「紡『この商品、売れ残っても返品できないんでしょ!?』」

>>大雑把な言い方をすると、返品できるものもある。
ただ、返品は個人的な方針から申し訳なさが先行して、あまりやってなかった。
本当はお店のことを第一に考えないといけないのにね……たぶん、私がエロゲーをこの上なく好きだからだろう。
あまりに長い間残ってしまったパッケージは、毎月忙しくないタイミングで中古未開封にして売ってた。
営業さんは優しくて返品も快く受け付けてくれたけど、持ちつ持たれつというのはあるわけで……。

あ、中古嫌いな人はゴメンなさい。いや……まあ、これは言い訳になってしまうんだけれど、
新品オンリーで運営している店は「魔法でも使ってるんじゃないか?」というくらい、担当者の手腕がすごいと思う。
某青いお店では、新品が色焼けして残ってるのをよく見るけれど、あんなに残しちゃうと利益率的に苦しいはずなんだ。
それほど、新品だけで安定した利益を出すのは至難の業。作中のように、平気で延期するからホント読めない。
響野商店みたいな弱小店だと発注数自体が少なそうだから、在庫を残すと厳しいんじゃないかな。
中古部門は売れない新品の捌け口としても有用だったという話である。



「ゆかり『エロゲーって発売日から数日間が、総売り上げの85%くらいを占めるのよ』」

>>お店やタイトルによって数字の差はあるだろうけれど、新品に限れば大体合ってる。
発注数5本以下なら小火程度で済むが、金曜日に消化率50%あたりで推移してたら発注そのものが失敗してる。
初日の評判が良ければ後々完売することもあったけど、まず赤字確定と考えて、先んじて消火活動してた。

現実的な話をすれば、金曜日発売だから日曜日まで……体感的には日曜日のお昼くらいまでが勝負という感じ。
皆さんも、日曜の夜にエロゲーを買いに外出しないと思う。休みを使ってプレイしてる人が多いはずなんだ。
そんな中、キラータイトルは三日以上経ってもお客さんが探しに来るけれど、先細り感が強い現在は期待できない。
強力なタイトルは、年間通しても片手の指で数えられる程しかないからね。

「蛍二十日に蝉三日」とはよく言ったものの、新品エロゲーは時に蝉よりも儚いものなのだ。


「ゆかり『昔は、返品フリーでいいから、とにかく数を入れてくれって言う条件を提示することもあったみたいなんだけどさ』」

>>「いつの時代だよ!?」とツッこみたくなるくらい昔の話だ。でも実話。
コンシューマはどうか知らないけれど、エロゲー界隈じゃ最近は聞かない。
……まあ、“最近”とは書いたものの、少なくとも私の在籍中にそんな話は聞いたことがなかった。
大手さんは分からないけれど。

実際にそれくらい売れてたってことを示すエピソードだけど、特に『AIR』は凄まじかったと入社してすぐに聞かされた。
「えー、ガッツを買いに来た人はこちらにお並びください」は今でこそ爆笑するネタだけど、
当時買いに来た人は、いたたまれなかっただろう。深夜販売なんて、今じゃ考えられないよね。



“ゆかり「『お店さんが、読みや見込みを間違えて余らせたなら、
うちらの責任じゃないので、返品なんか言われても、困りますよ~』ってわけ」”

>>幸いにも、そこまで強気な営業さんとは会ったことがない。基本的に優しくて腰の低い営業さんが多かった。
とくに、某社の営業さんには色々とお世話になりっぱなしで、いつも融通をきかせてもらっていた。
だから、某社取り扱いで余った作品はできるだけ新品は中古に落として、なるべく迷惑をかけないようにしていた
……つもりなんだけど、最終的に返品をゼロにすることはできなかった。どうしても何かが残る。

余談だが、同僚の「自分が売れないと思ったら、その作品は売れなくなる」という言葉は金言だと思う。
全てが精神論ではいけないけれど、「俺が売るんだ」という意識はエロゲーでも大事。
たぶん、これが小売業の魂で、今も心の奥底に大切に保管している。



「ゆかり『インターネット環境、必須だったぁぁぁぁぁ!!!』」

>>プレイヤーとしては慣れたら面倒じゃないんだけど、お店としては売り上げに影響があった。
中古に流れてくる絶対数が減っちゃうからね。これはデリケートかつ難しい問題だよ、うん……。

実はダウンロード販売店で働いてたこともあったんで、ダウンロード関連も少し書いておこうと思う。

とは言え、どこから書こうか……ええと、まず物販では、ただでさえ限られた販路を自ら狭めるなんて蛮行は、
どの流通会社も基本的には考えてないと思う。“ソフマップエディション”のような特別なパッケージでもない限り、
パッケージは売れてこそ正義だから、基本的に取引先が増えるのはメーカーとしては有難いはずなんだ。
いつの間にか、駿河屋さんが特典上位になりはじめたのは、その販力の賜物と言っていいくらいだ。

でも、DL業界はそうじゃない部分があって、割と面倒くさい感じになっている(と思ってる)。
そもそも電子データを扱ってるストアの数が少なくなってしまい、既に「専売」や「先行販売」の取り合いになっている。
ことエロゲー&同人ゲーに関していえば、実質的には二強体制が続いてる。どことは言わないけどね。
そして、この数少ない椅子取りゲームの様相は、色々な思惑があってそう簡単には覆らない。
某社の一人勝ちにすると、実質的な価格競争がなくなるからメーカー的にはマズいもんね。

専売については内々の事情があるのでこれ以上は詳らかにはできないんだけど、
利便性を考えた時にダウンロードに一定のユーザーが流れるのは理解できるし、
時を経るに従って、小売店側が苦しくなるのは必然の流れではあったんだ。
パッケージは嵩張って保管も難しいし、OSの更新にも対応しづらい上、お店の運営費もかかる。
それに対して、電子データはその手の問題を解消しやすく、過去作のアーカイブとしても優秀。
対人件費で見ても、小売店ほど人足を必要とせずに、ビッグデータを扱えるんだから。

さて、今でこそ“特典や内容物は物販有利”な傾向にあるけれど、そこが何かしらの理由で覆されたり、
「ダウンロード販売店側の“定価”がパッケージ派の心に届く価格まで下がる」なんてことになったら、
一気にこの“バランス”は崩れそうな気がする。今はまだ、そこまで極端な流れにはなってないけれど。
兎にも角にも、ちゃんとした「棲み分け」がうまく成立するといいね。
なんでもかんでもダウンロードになって、街がつまらなくなるのは勘弁してほしい。
ゴチャっとした秋葉原の街並みとオタク特有の雰囲気と場末の空気感は、他の街にない魅力だったんだ。

閑話休題。おそらく、デジタル関連で働きたい人が多いと思うから軽く触れておくと、
こういうオタク向けダウンロードショップで働きたい人は、小売店で働くよりも圧倒的に尖ったスキルが必要になる。
具体的には、営業力・スキル・自走力・人脈・強靭なメンタル等が備わってないと勤まらない。
たとえば、日本一の交渉力と商品知識。たとえば、誰にも負けない企画力と他言語知識。
そういうものがないと採ってくれないし、戦力にならないはず。
和気あいあいといった雰囲気を期待すると、一気に老けると思う。

実際に、同僚の多くがサークルを持って精力的に活動していた。
小売のスキルは磨いてたけど、あまり生かされる現場じゃなかったなあと職を離れて実感してる。
ダウンロード関連はもっと書けるんだけど、このゲームは実店舗の話なので、これくらいにしておこうと思う。



「ゆかり『うむむ……どういう感じのことを書いたらお客さんが思わず手に取りたくなるかな……』」
「紡『お客さんにこの商品を見てもらいたい、買ってもらいたい――っていう熱意を感じるっていうか』」

>>埋もれてる作品をプレイしてほしいという思いは常にあった。
ぶっちゃけ、私がここに書いてる一言コメントをそっくりそのままPOPに載せたこともある。
ここに書いてもお金にならないけど、感想を読んでプレイしてくれた人がいたら嬉しい。
そんな気持ちで書いてる感想が多い。

でも、センスがなかったので、POPを書くのはヘタだった。
いまでも、フォトショップの使い方はほとんど分かってない。
そういうわけで、POPは専ら手書きだったけど、
この年齢にしてクリスタでイラストを描き始めるとは自分でも予想していなかった。
こんな私でも、ファンイラストの端くれのような絵は描ける。頑張って老後まで続けていきたい。




「ゆかり『1人でも多くのお客さんにこの面白さを届けて、幸せになってもらいたい』」

>>私が常に考えていたことはこれ。同じような考えのもと、日々仕事をしている店員さんもいると思う。
私は同僚に恵まれていて、「妹モノなら俺が売り切る!」とか「年増は俺に任せろ」とか
「ロリっていいよね(遠い目)」みたいな頼もしい(?)スタッフが何人もいたので、彼らの読みにはとても助けられた。
インドア系のバイト君のイメージがあると思うけど、意外と考えて仕事してる人もいる。
たかがエロゲー、されどエロゲー。感謝感謝。



「男性客『秋葉原のお店は大抵発売前日だと、もう予約は締め切られちゃってて』」

>>そうそう。流れてくる人いたね。お店が穴場だったから、
キャンペーン特典は発売日直前まで残ってることもしばしばあった。
でも、ゆずソフトさんの色紙は、毎度のことながら余らなかった。分かりやすい人気があった。

なお、余ってしまった予約特典は自店で破棄していた。
資源的も購買意欲的にももったいないんだけど、これを店頭の中古ソフトにつけて売るのは、
会社間の信用問題にかかわることだから、絶対にやってはいけないことだった。
当たり前だけど、実質的なネコババは厳禁なのよ。
追加発注した新品に付けてたこともあった気がするけど、そもそも追加発注するようなソフトというのは、
発売日前に予約特典がなくなる人気タイトルが多かった。

それから、新品パッケージを中古に落とす時も、布・CDなどの店舗特典はすべて外して破棄していた。
これは……精神的に結構つらかった。予約特典と同様にビジネスの問題ではあるんだけど、
誰かの手に渡るはずだったキャラクターグッズを破ったり割ったりするのは、さすがに退職時まで抵抗があった。
クリエイターさんに面目が立たない気がして、いつも罪悪感と戦っていた。



「姉さんがレジで予約前金を受け取り、予約券をお客様にお返しする。
ゆかり『今はどのお店も予約前金を高く設定してて~』」

>>いつの頃からか、前金が3000円とかになって「えっ、高くない?」と思っている諸兄もいただろうけど、
前金が500円の時は、予約購入特典目的の予約がかなりあった。こういう人は本編は買いに来ない。
タイトルにもよるけれど、多い時は10本以上残ってた記憶がある。実際に、売れ残りもそれなりに出してた。
この手の予約商品は、売れやすいはずの「発売後3日間」はいくら店頭に在庫がなくても品出しできない、
つまり“予約されてるから店頭に出せない”事実上の死蔵品になってしまう。

もちろん取り置き期間が過ぎれば店頭に出せるんだけど、評判が悪いソフトほど受け取りに来てくれない。
でも、たとえいくら評価がよかろうが名作だろうが、中古が3000~4000円くらいになってると、
8000円~10000円くらいする新品って、ほぼほぼ売れないんだよね。もうそこは、お客さんの良心次第かな……。
だいたい仕入れ値は七掛けとかだったから、“中古販売価格が仕入れ値を下回った新品”(ややこしくて申し訳ない)は、
完全に止まってしまう傾向にあった。初動で売り逃げるのは、お店の成績を左右すると言っても過言ではない。

この予約問題は、ゲームに限らずどんなジャンルにでも起こりえることで、
例えばカードゲームで突然レギュレーションが変わった際、カートン単位で引き取りに来なかった例もあった。
これはお客さんよりもメーカー側の責任が重いと思うけれど、小売店としてはたまったものじゃない。

さて、またちょっと話題が逸れたけど、そういう空予約問題があったから、
前金を引き上げるかどうか悩んだショップさんも相当数あったと思う。
事実、私のショップでも幾度となく議論したし、“全額前金”という案も出たほどだった。
結局、大手さんに“右へ倣え”的な流れに落ち着いちゃったけどね。

この問題はメーカーさんのせいじゃなくて、もはやユーザーさん側のモラルの問題なんだけど、
釈然としなかったことを覚えている。現状、メルカリ等でDLコードを転売してる人がいるけど、
あれも正直どうにかしてほしい。気持ちがよくないし、そもそも18禁だからなあ……。

なお、現在は、発売前特典(予約した時に渡す特典)、予約特典(本体購入時に渡す特典)、
店舗特典(本体購入時に渡す特典)があって、これに加えて有償特典も出たりしてるから、
お店側の管理が大変すぎるのは言うまでもない。どことは言わないけど、
予約特典システムを考案したメーカーさん、どうにかしてくれ……。



「店頭に並べる分のソフトに防犯タグを貼ったり、特典付き、特典なしの値引きシールを貼ったりとか」

>>タグと言えば、高千穂交易さんにはお世話になった。
防犯関連システムを扱う会社さんで、エロゲーの箱の中に入れてた防犯タグは、こちらの会社の製品だった。
小売に馴染みのない人はあまりピンと来ないかもしれないけど、他に入退室管理システムも扱ってたりする。

入社初日のことだけど、防犯の仕組みがよく分からなくて、研修最初のレジ対応で緊張してしまい、
防犯タグを貼りつけたケースごと防犯解除して売ってしまった……もちろん笑われました!!
実は、これが人生初のレジでの接客だったので、生涯忘れることはないだろう。
働き始めの頃は、自分が知ってるソフトとかオススメ作品をレジに持ってこられると、口角が上がってたと思う。
逆に凌辱ゲーは「こんなの買う人いるのか!?」と慄いてた……のも今は昔。朱に染まればなんとやら。


……えーと、あとは防犯とお金の話をしてみよう。小売業が避けては通れない盗難の話がいいかな。

まず、「エロゲーショップに窃盗犯なんかいるのか」って話だけど、これが結構普通にいるんだよね。
プレミア品を置いてて新作の単価も高く、さらには中古の市場で現金化しやすいからだと思うけど、迷惑極まりない。
それに加え、一人の盗人がいる店って原則的に同業が徘徊してる可能性が高いんだよね。類は友を呼ぶというのかな。
1度盗られて警戒モードに入り、実際に別の泥棒を捕まえたこともあるよ。
そう言えば、エロゲー屋で盗むためだけに、刃物を仕込んでる奴もいたな……。
今思えば刺される可能性があったわけだ。おお、怖い怖い。

さて、どの小売業でも同じだと思うんだけど、1本盗まれるだけでもお店にとっては大きな負担になる。
メーカーの希望小売価格は「8800円+税」や「9800円+税」に設定しているタイトルが多かったけど、
私が在籍してた時は、それよりも安くして売ってた。むしろ、そうしないと売れなかった。
だから、7掛けで仕入れたとしても、7000円~くらいで売るタイトルも多かったから、
実際の利益は500円~2000円くらいにしかならなかった。安価なトールケースにいたっては300円くらいで、
極端なものでは100円以下なんてタイトルもあった。もはや薄利というレベルじゃない。

だから、1本盗られたが最後、同じソフトを10本売らないと赤字になっちゃうこともよくあった。
人件費や梱包代を考えると、もっともっと赤字になってるタイトルもあると思う。
でも、ユーザーさんはモノが同じなら基本的に安いお店から買うから、結局、下げ合戦になってしまってた。
この売り方が良くないと気づいていても、中古市場に商品を回す意味もあって、そうせざるを得なかった背景もある。
最近は特典買いの人が減ったせいで、新品価格を下げる動きはさほど見られないけど、一時期は凄かったね。

窃盗関連に話を戻すと、思えば盗られたタイトルが何か分からないこともよくあったね。
POSレジで管理していても、出し漏れや打ちミスが重なることが多くて、該当品を見つけられない例もあった。
あと、これは最初にも書いたんだけど、エロゲーってパッケージが似通ってるから、
本みたいに挿してある中古パッケージを1本盗られても、大抵の人間って気づかないんだよね。

だからこそ、“店員の知識と在庫管理能力”とか“その人が感じた違和感、空間認識”とかが重要になってくる。
品出しの際に1本分だけ不自然に抜けてることに気づき、そこが売れてない確信があった場合、
ちゃんと防犯カメラで空白ができる時点まで追って調べてた。
実際にクロの場合もあったから、“やられた”時の悔しさが教訓になっていたと思う。

在庫管理の話をするとびっくりする人も多いけど、ベテランの域に入ってきたエロゲー店員って、
その店のエロゲー在庫をほぼ把握してたりする。この能力は、絶対に他業種でも生かせるはず。
管理側の先輩方はデータで数万本くらい覚えてて、商品がバックヤードで眠ってたりすると店に来て指摘してた。

K「この作品のディスク傷は店頭に出てるけど、完品は倉庫にある。すぐに出しなさい」

とか。私じゃ、あそこまでの精度で仕事はできない。素直にスゲェと思って敬意を払ってた。
(Kさん&Mさんコンビ。いつもありがとうございました)

とにもかくにも、いつの時代も窃盗はお店にとって由々しき事態。
実際に小売で働いてみると、万引きって名称が嫌いになるハズ。軽いよね、言い方が。



「ゆかり『POPの設置って、意外と技術が必要なんだよね』」

>>雑な表現だなあ(苦笑)
作中で指摘されてた立て看板はマシなほう。なんせ、どう転んでも床に置くだけだからね。

むしろ、床に貼られているでっかいPOPの方が、みんなが思っている以上に重労働でコツがいる。
あれは、手ではなく中腰の状態で足を使って貼り付けていくから、普段使わない筋肉が悲鳴を上げるんだよね。
一人が丸めたPOPを持っておき、もう一人がすり足でゴシゴシと貼り付けていくイメージ。
その時、なるべく空気が入らないように注意して貼るんだけど、万一空気が入ると針で穴開けてた。
キャラクターの顔に刺さないと空気が抜けない時は、私は「ごめん!!」と言って空気抜きしてた。
同僚は、なぜか「南無三!!」とか叫んでたな。閉店後に作業してたけど、いま考えるとシュールな光景だよね。

ところで、この床POPというヤツは、金銭的にも曲者だったりする。
デモムービー専用枠や壁に貼られた紙ポスターと比べると、とんでもなく単価が高い。
たしか糊付けタイプで印刷すると、長さ2m×幅80cmで2万円くらいするはず(著しく違ってたらすみません)。
デザインや運搬等の代金も考えると、それ以上に経費がかかってくる。

したがって、発注本数が少ない弱小店ではあまり効果的な販促ではないことから、
そういうお店の要望は、流通会社の営業さんも受けたがらないんじゃないかな。
これは極端な話だけど、「床POPを融通したのに発注は5本」なんて、宣伝効果を考えても採算が取れないからね。
床POPの数は、即ちお店の力を如実に表してるとも言える。

あと、デモ機の枠なんかは流通さんが作って持ってきてもらってたりしてたので、
自分の店が実質的に作ってたのは、予約関連のPOPや特集、セールのPOPくらいじゃないかな。
こう考えると、デジタル関連のスキルはなかなか付きづらい。



「こんな美人のお姉さんが、エロゲーのイラストを描いているんだ……。」

>>ああ。それは、正直思ったことある。「原画家さんの女性率高いな……!」とも感じてた。
凄く疑問だったけど、「きっと心臓になんか生えてるんだろうな」とか、失礼なことを考えてた。
それはそうと、ウチみたいなちっこいお店にもわざわざ足を運んでくれて、
ポスターにサインとかイラストとかを書いてくれるのも驚きだった。感謝しかない。

あとは皆さん、一様に腰が低くて、それも勉強になったというか。

「コミケではこの人、シャッター前の超大手サークルなんだよな」と、
クリエイターさんが好きなファンなら握手してほしいくらいのクリエイターさんが、
流通さんと一緒にお店に営業に来てくれるんだけど、対応が丁寧すぎてこちらが恐縮しちゃうこともしばしば。
「この人は自分が創った作品が本当に好きなんだな」ということは話してると分かるので、
実際にパッケージを売る側としても気合が入る。
忙しいスケジュールだろうに、いつも来てくれる人なんかもいて、ありがたい限りだった。

ファンサービス関連で言えば、minoriさんが個人宅にキャラバンやってるのを見て、
「すごいなあ」といつも思ってた。なかなかできることじゃないよ、あれ。
minoriさんは秋葉原で年賀状配ってたりもしてたけど、ほんとファンサービス的に好きなメーカーさんだったね。

……あ、もちろん作品的にも好きだったので、解散は惜しいどころの話ではない。



「けどゲーム会社は1作1作に魂を込めてるわけだから、パッケージにもこだわりたいんだよ」
「ゆかり『ユーザーにとってパッケージは、思い入れのある作品を構成する要素の一つであって、エロゲー輸送用の入れ物って考えじゃないのよ』」
「ゆかり『わたしはパッケージを心から欲するっ!』」

>>心から分かるんけど、限度というものがある!!
お店的には、エウシュリーさん・アリスソフトさん・クロシェットさん・BISHOPさん・Tinkerbellさんあたりは、
長年の統一感があって陳列時に見やすくて助かった。箱の大きさも形状もほぼ不変だし(特にクロシェットさん)。
ファンなら分かると思うけど、長年続くメーカーをコンプリートすると壮観なんだよ。
不思議なことに処女作だけ形状が違う場合も割とあるので、そこらへんも注目してみてほしい。
(名前出さなかったメーカーさんすみません……)

そういうわけで、メーカーさんが箱の大きさをいきなり変えたりすると、「ナンジャ……コリャ?」と困惑してた。
たとえば、先に取り上げたminoriさんが『夏空のペルセウス』を発売した時、社内では、

「これ、中古も新品もシュリンク(OPP、クリスタルパックとも言う)で包むの?」

という真剣な議論があった。A3サイズはシュリンクだけでも経費がかなりかかるし、
何よりも手で包むのに時間を余分に使うんだ。具体的に言うと、トールケースは手動で15秒で包めるんだけど、
A3サイズの大きさだと頑張っても1分くらいかかる。実に4倍の時間差があるわけだ。
結果的に包む話になったけど、「この大きさの新品は包まないようにする」という案もあって、賛否は割れてたね。

なお、包装機(シュリンカー)を導入するという話もあるにはあった。
けれど、ウチは中古の扱いが比較的多かったから、様々なエロゲーの“厚さ&長さ”によって、
その都度、設定を変更する必要がある……という難点が導入前に判明したもんで。
結局、手動が早い&費用対効果が低いという意見が大勢を占め、いつの間にかお流れになってしまったね。
まあ、メーカーですら減る一方のご時世で、小さなエロゲーショップが機械を買うお金を持ってるわけがない。

さて、そもそもminoriさんは、作品によってワンピース箱で作ったりキャラメル箱で作ったり、
元から微妙な「ずれ」があった。だから、『夏空のペルセウス』→『12の月のイヴ』→『ソレヨリノ前奏詩』の流れで
箱を見ていった時、「次の作品の箱はまた変えるのかな?」という感じで、ユーザーさんとは一風変わった観点から、
それはもうビクビクしながら、配送前まで気にしてた。

『ソレヨリノ前奏詩』以降は真四角の箱で落ち着いたけど、“夏ペル”は紙袋にギリギリ入るくらいの大きさだから、
「通常版でいいよ」という人もいただろうね。箱がでっかいから、ブランド五十音順のお店は陳列にも一苦労。
大きな箱は、目立つと同時に煙たがられるんだよね。

大きな箱と内容物という観点で言えば、C.drive.さんの『理-コトワリ-』が個人的なワーストかな(ごめんなさい)。
作評は批評空間内で探していただくとして、気になった人はお店で探してみよう!!



「ゆかり『うっかり落として箱に傷を付けちゃう事故って、けっこう起きることだけど?』」

>>軽く書かれてるけど、これもホントなんだよね。さすがに自腹を切ったことはないけどさ……。
A4サイズなら2列10段くらい持って運ぶんだけど、稀にバランスを崩して落としちゃうことがあった。
流通さんとの交換対応は……私はできることならしたくなかったんで、箱傷みで出すようにしてた。
破損の程度によっては1000円くらいまで値引きするから、これはお店としてもかなり痛い……。

でも、お店の利益が減る以上に。箱が傷む方がスタッフ個人として苦しかった。
運送業やったら分かるけど、小規模な配送事故みたいなもので、
大事な商品を自分の過失で破損させちゃうわけだからね。
誰しも、他人様の魂に傷をつけたくないものだよね。

(追記)……“箱の大きさ”と“傷”で思い出したよ。
よくエロゲタワーを作って画像をUPしてる人がいるけど、
耐久性が低い箱同士を組み合わせてるから、下の箱が悲鳴を上げている光景をたまに見る。
私は少数派だろうけど、あれって割と心が痛むんだよね。製作者の魂が入ってると思うからかな。
(評価する時は魂云々ではなく、できるだけフラットに見てるつもり。
もちろん、好き嫌いや苦手ジャンルとかはある。私も人だし嗜好くらいはあります!!)

さて、よくよく観察してほしいんだけど、エロゲー屋でたまに見るタワー陳列は、
意図的に箱が固くて内容物が少ないパッケージを積んでいることが多い。しかも同一タイトルね。
究極的には、品出ししてる店員さんを観察してみるといいよ。下の箱ほど丈夫で大きい箱を持ってるはず。
そういうわけで、わけあってタワーを作る時は、もちっと配慮していただけると嬉しかったりする。



「紡『その月の売り上げ目標達成に苦労すると思わない?』」
「ゆかり『たしかに、延期情報は早めに入るとは限らない』」

>>延期関連は同僚に情報通がいたので、大きな誤算なく運営できてたと思う。
情報はホント命(実妹ラブのIさん、よく相談させてもらい助かってました)。
あと特典の構図とかお客さんの嗜好とかで、売り上げに大きく影響したと感じたタイトルはあった。

延期によって、大きなタイトルが重なった時の発注ほど判断が難しいものはない。
ユーザーさんは基本的に優先順位が高いものから買っていくので、
延期という余計な材料が加わると圧倒的に読みづらくなってしまう。
でも……いや、だからこそ月の売上予算は、あってないようなものだったね。
ひとたびキラータイトルが延期してしまうと、どうやりくりしても予算達成できなかったから。
上もそこは承知してたらしく、ガミガミと言われた覚えはない。



「ゆかり『店員の趣向を把握しておくことって大事だと思わない?』」

>>そこまで仲良くしてたお客さんはいたっけなあ……。変なお客さんはいたけどね。
売り場に座り込んでDSを延々とプレイしている人とか、「自分はパソコンにそこそこ詳しい」と言っておきながら
「ういんどうずってなんですか?」と聞いてくる人もいて衝撃を受けたことがある。

お客さんの嗜好はお店にとって軽視できない要素だけど、仲人口程度にしか考えていなかった。
むしろ個人的な趣味を反映して売り場を作っていて、その点、裁量権はかなり広かったと思う。
発注には同僚の意見も参考にしてたけど、まず数字を私が作ってからスタッフさんに検討してもらってたので、
今考えると、「マネジメントの部分で問題があったのでは?」と反省してたりする……。
他のお店の担当者さんがどういうシステムで発注しているかは知らないけどね。

ともかく、“SLG系とRPG系”、それと上にも書いてる“抜きゲー”ブランドはかなり強気で押してた。
秋葉原じゃなかったので、割合的に萌えゲーよりも凌辱系や抜きゲーは売れてたし、抜きゲーを買う客層って、
「新品だろうが中古だろうが、今欲しいものが目の前にあれば買う」人が多かったように思う。
欲望に忠実と言うのかな……。

お店では、そんな実情を反映してPOPも割とダークなタイトルを選んでたけど、
流通会社の営業さんからは「えっ、そのタイトルで行くんですか!?」と驚かれることもあった。
ただ、やはり営業さんも大変らしく、POPが仕上がってくるのは遅くて、最悪で発売2週間前とかだったなあ。
大幅に延期になった作品は、POPごと変えてもらってたりしてたから、そこだけは救いだった。



「ゆかり『エロゲ化を見越して、今は買わないって判断する人が出てきそうだな~、と思ってさ』」

>>これはどうだろうね……。一概には言えないけど、お店的にはちゃんと発注してた。
Keyさんなんて発注しない選択肢がないし、グリザイアシリーズもネット認証が入ってからは
絶対に発注してたんじゃないかな。ネット認証なしでリピートしてた一般ゲーと言えば、
『STEINS;GATE』(Nitro The Best! Vol.5)が圧倒的に発注機会が多かったと思う。
もちろん、明らかに売れそうにないタイトルとか、中古で値崩れしている廉価版は入荷見送りです。

全く関係ないけど、「エロゲ」と「エロゲー」はどっちが正しいんだろうね。



「葉子『実はさっきも、とあるショップさんと特典のことで一悶着ありまして』」

>>書き下ろし特典を扱えるレベルのお店だったので、少しだけ書いておくと、
“厳密な決まりはないが、困った時はウエディングドレス”という不文律みたいなものがあったはず。
あと、原画家さんの実力によって指定不可なポーズとかあったような気が……。
その手の話を聞いてると、まーまれぇどさんの特典とCGはいつもすごいなあと思ってた。

ただ、私はそこをメーカーさん&流通さんと交渉するポジションになかったので、
お店として希望があれば、それを出すような流れになってた。
もちろん人気キャラは大手さんが選んじゃうんだけどね、とほほ。



「60本、という数字が見えたが……」
「響野商店レベルの規模だと、1タイトルの本数としてはかなりの量だ」

>>この数字から考えると、私のお店も同規模くらいじゃないかな。率直に言うと、かなり多めの発注数だと思う。
正直、60本は相当な自信がないと発注できない本数。10本売れ残ると上司にドヤされるレベル。
幸いなことに私が100本くらい発注したタイトルは、ちゃんと売り切ってた。情報と評判と同僚のおかげ。

“抜きゲー”はともかく、“萌えゲー”の発注って本当に難しいよね……。
全国の担当者さん、気張らず頑張ってくれ!!



「すると、液晶ディスプレイ内のキャラクターがムービーの最初に『ようこそ、コマンダーへ!』というセリフを言っていることに気がついた」

>>名前的にあのお店しかないと思うんだが……。関東在住ならピンとくるお店だね。
地方の人にはあまり馴染みのないお店だと思うけど、秋葉原に行く機会があったらぜひ足を運んでほしい。
個人的には、整理の行き届いたグッドなエロゲーショップだと思ってる。
以前は新宿とか大阪(大阪の方は超絶マイナーな話)にもあったんだけど、やっぱり時代の流れなんだろうか。



「ゆかり『1つの制作会社は複数のメーカーを有していることがあるから、名前が違ってても、
 元をたどれば一緒、っていうことは、よくあるんだよね』」

>>私はブランド別に分けてたから、この管理は結構大変だった。
とくに新人さんは並びを覚えるのが大変で、メーカーリストを幾度となく更新して配ってた。
CUFFSさんはまだ少ないほうで、あかべぇそふとつぅさん・NEXTONさん・テックアーツさんあたりが鬼門だった。
大体はパッケージに書いてある住所で判断できるけどね。

私も入ってきた当初は、エロゲーメーカーなんて両手の指の数ほどしか知らなかったけど、
いつの間にか誰よりも詳しくなってたから、知識を得る意味でもブランド別の並びは利点があると思う。
知識と並行して性的嗜好も広がっていき、数多のエロゲーを手に取る羽目に陥ったけれど……。

ともかく、実際に並べてみるとタイトル順よりもブランド順の方が圧倒的に綺麗で気持ちがいい!!
それに、タイトル順のお店は、長くその状態が続くと倉庫感が出てきちゃうという持論も持ってた。
これが嫌で嫌でたまらなかったので、この件で上司と喧嘩したこともあるという……。
何はともあれ、エロゲーをたくさん持ってる人や売り場がマンネリ化しているお店さんは、一度試してみてね。



「ゆかり『CUBEはいいメーカー』」

>>個人的な話で恐縮なんだけど、別ブランドであるMintCUBEさんの『あま恋シロップス』に、
物凄く好きなキャラクター(花鳥鈴。私のエロゲ史上最高。2番目は“ましまろ”の皇鈴紗々)がいて、
それでメーカーさんも好きな部類に入ってくる。けれど、ウチのお客さんには
この作品をあんまり手に取っていただけなかったというか、結果的に新品を余らせちゃってたね。
アピール不足もあったと思う。元店員としては申し訳ない限りです。



「ゆかり『今後店舗限定の特典を付けたいと思う期待のタイトルがあったら、私に教えてくれる?』」

>>シルエットとかロゴみたいなデザインでいいから、車に貼れるステッカーが欲しいなあ。
車や自転車に貼り付けられるやつ。都会・地方を問わず需要がありそうだけど、今までそういう小物は少なかった。
お店としては、重くてかさばる食器類が一番困る。あと食べ物系に麦わら帽子も。
アリスソフトさんのまななカレー(中古)は伝説だと思う。

で、いちユーザーとしてほしいものと言えば、だな……。
最近になって、クロシェットさんとまどそふとさんが試験的(に見える)にやり始めたけど、
ASMR音声作品を店舗特典じゃなくて別売(FDみたいな形でも可)で、かつDL販売のみを行ってほしい。
ただし、エロリミッター解除で頼む!!くれぐれも、本編みたいに抑えなくていいからね!!!



「コマンダー店長『残念ながら、今のエロゲーは最盛期と比べ、売り上げもやや冷え込んでいると、認めざるを得ないのが現状です』」
「コマンダー店長『そうした中で、1人1人のスタッフがなんとか盛り上げようと知恵を絞って行動している』」
>>これは実際の店長の言葉だと思う。
地方のショップさんは一段とキビしいけど、なんとか頑張ってほしい。
秋葉原が最後の牙城なんてことにならないように願いたいものです。


……長々と書いてきましたが、以上です。引用多めでお送りしました。
実は私、先述のようにエロゲー好きが高じてエロゲーショップで働いてたんですが、
最終的にフロア全部を任せてもらい、長らく楽しく働かせていただきました。
かつて、ともに働いた仲間に向けて、ここに謝意を。

また、よく行くエロゲーショップ店員さんにも、日々感謝してます。
本当に大変な情勢だと思いますが、新旧作を問わず探しに行く私みたいな人もいますので、
できればお店を閉めないでください。エロゲーとあの空間が好きですから。

最後にユーザーさんへ。ダウンロードができるようになり、便利な世の中になりました。
そんな状況ですが、たまにはショップに足を運んで探し物をしてみてください。
もしかしたら、ネットでは見つけられなかった良作に出会えるかもしれませんよ。

この感想が少しでもエロゲーショップ巡りのスパイスになれば幸いです。
感想ですらないメモ書きの駄文をご覧いただき、ありがとうございました。



【雑記】
ゆかりルートについては、

「たぶん、ゆかりが“エロゲー解説者ポジション”に入っちゃったから、話が広がらなかったんだろうな」

と自己解決しています。それにしても、こんな美少女店員がいるエロゲーショップ、
逆に行きづらいですね……。ゆかりとは仲良くなれそうですが。

◆初稿投稿後の話……思い出したことなどを追記してたりします。
時間がある時に、少しずつ書き足してます。