安全・安心・安定でお馴染みのクロシェット印の萌えゲーであるはずが、ブランド色の雑種化を実感することになろうとは思ってもみなかった。闇鍋風味の萌えゲーと言うには大変な語弊があるけれども、少なくとも、ブランドの長所であるはずのポーズ差分を疎かにしてしまっては、並み居るクロシェッ党員からの万全の支持は得られない。自由度の高い異能を十分に生かしきれなかった未練の残る作品。この作品では、ブランドの実力の半分も出せていないように感じる。
『カミカゼ☆エクスプローラー!』を代表作として、萌えゲーの一翼を担ってきたクロシェット。発表から8年を経た今でも通用する美麗なイラストを、多彩な表情&ポーズ差分が盛り立て、他ブランドとは一線を画した動きのある立ち絵が好評を博した。沙織ルートにおけるえっちシーンのインパクトも当時は話題になったが、もっと根本的な部分における緻密な仕事があったからこそ、カミカゼは2011年の名作となりえたと信じてやまない。
その8年後に発表した作品が、この『ココロネ=ペンデュラム!』となれば、やはり落胆の気持ちの方が強い。今作の問題点は、大きく分けて2つに絞られるだろう。
まず、十中八九、ストーリーのつまらなさを指摘する声の方が大きいと思うが、私はメインヒロインのポーズ差分を3から2へ減らしたことが最大の減点材料だと思っている。表情差分についてはスズノネから着実に数を増やしてきたが、
今作についてはヒロインが基本的に“横か正面”にしか向かない。つまり、大多数のシーンで物理的な位置関係や視線を伝えるだけに留まっているのである。この点は、他のクロシェット作品に置き換えてみると分かりやすいのだが、
・祐天寺美汐の“肩をすくめてこちらを伺う立ち絵”(美汐-03)
・速瀬まなみの“ジャンプしているように見える立ち絵”(まなみ-01)
・紅藤友梨亜の“腰に手を当てている立ち絵”(友梨亜-01)
……極端な話をするならば、これらのポーズなしに美汐が引っ込み思案のお嬢様だということを、まなみが元気系の妹であることを、そして友梨亜が才気煥発な魔法使いであることを、プレイヤーの心の奥底まで十二分に訴えかけることはできただろうか。否、おそらくそれは難しかっただろう。
それほどクロシェットが誇るポーズ差分は、作品に必要不可欠なものだと考えている。個人的なところで言えば、カミカゼの姫川風花「ポーズ02、服装01、表情21」は、実際に使われた作中での使い方(プロローグの後で主人公が自己紹介するシーン)も相俟って、今でもエロゲー史上最高の立ち絵&表情差分だと思っている。あの上目遣いはズルい。ズルすぎるというものだ(今さらではあるが)
さて、繰り返しになるが、今作は表情差分こそ増えてはいたものの、ポーズ差分は1つ減っていた。それゆえ、ヒロインの身体の動きが限定されてしまい、以前に比べて明らかに演出が物足りなくなってしまった。3から2へと減った立ち絵ポーズという箱の中で、“無理やりヒロインの表情を変化させた”がためにポーズと表情がうまく噛み合わず、所作が柔軟でなくなってしまったように感じられる。
ただでさえカミカゼやサキガケの多彩な差分に慣れたプレイヤーが今作を買うのだから、そこを削ったり疎かにするべきではなかった。このことが、プレイヤーに窮屈な印象を与えてしまったのではなかろうか。ヒロインの人となりや性格を精緻に伝えるためには、2種のポーズ差分では不足しているように思う。カミカゼ(サキガケ)とココロネの両方を所持している人は、この機会にぜひ確かめてほしい。会話の満足度が異なるはずだ。ひとたびポーズ差分を3種類用意したのであれば、以降の作品ではそれがマストになる。自分の長所を自分で切り取ってはならない。
そして、いま一点の瑕疵はシナリオにある。お世辞にも良好とは言いがたい。今作に関しては、以前の作品と比較して出来を論ずるよりも、そもそも主人公をはじめとする異能を上手く律しきれなかった印象がある。クロシェットのシナリオ成分は、コミカル:シリアスの割合が9:1か8:2くらいに調合されていると勝手に推測しているのだが、今作も大体そんな感じであろう。ゆるさ全開でまったく問題ないし、これからもそうあってほしいと願う。その作風は食傷気味を通り越して久しいが、萌えゲー成分が十分に滲み出た異能学園モノであれば、ビジュアルとエロに引っ張られてユーザーは付いてくるはずだった。だが、今作はかなり読むだけで疲れるのである。エロシーンであろうが非エロのシーンであろうが、異能を効果的に使いきれていないので、ワクワクした分だけ無駄に疲弊してしまうのだ。
エロに関しては、だだ漏れの心の声を聴くという点が一辺倒すぎる。“心の中で想っていること”を我々に聞こえるように、文字と声で描写するという試みは非常に面白い。だからこそ、もっとこう……バリエーション豊かに丁寧に描いてほしかった。澄香のような好き好きオーラ全開という好意の表現も悪い気はしないが、ヒロインの多くが割とМ側に回ってしまうから、心の声の届き方のバリエーションが少ない。S側のシチュエーションがあって、わざと“上から目線で自分の心の声を聞かせる”ようなヒロインがいたら、もう少しワンパターン化を防げたかもしれない。心の声……つまり本音が聞こえすぎるのも萎えるわけだ。つまり、口で好きって言っているヒロインが心で好きって言っていても、それは意味がないと言うべきか、あまり好意的な意味でのギャップを感じないのである。本音の入った心の声は、わざわざ括弧でくくる必要がない。「そりゃそうだよね」とムスコも頷いて反応しないわけだ。
また、「聞かれたくないけど聞かれちゃう」という描写はあれど、特徴がなさ過ぎてまったく印象に残らないし、心の声と言葉が逆という場面なども上手く描写していたとは言い難い。千早のアナルシーンにいたっては、お尻に挿入した後に心の声はゼロという体たらく。ギリギリのラインを攻めてこその題材だと思うだけに、かなり保守的な内容にがっかりした。
ただ、作品全体がエロくないとは思わない。むしろ、本作のエロシーンは、困ったことにクロシェット以外の成分がドバドバとにじみ出している。これについてはライター本人も自覚なさっているとは思うのだが、つむりルートについては、クロシェットではなく“駒井ズム”がばりばり出ており、つむりの背後にeRONDOの影(さちさん)を見た人も多いはずだ。氏の描くエロシーンは純愛トップクラスとも言うべきフェティシズムとハードコアっぷりを兼ね備えているため、恐らくどんなブランドで描いてもドエロいキャラクターが出来上がってしまうのだが、元祖“くるくる”ブランドのクロシェットをもってしても、その異質さには抗えなかったようだ。
これまでのクロシェットは、なるべく統一感のあるエロという前提のもとでライター色を反映させていたように感じられたのだが、今作ではそれが逆になっているようで、端から見てつむりのシーンには違和感を感じてしまう。さいろー氏が手を加えた千早ルートくらいの下品さまでは許容範囲なのかもしれないが、つむりの水鉄砲をアソコにツッこむプレイ内容は、さすがに購買層の多数が求めてなさそうな気がした。エロいのは個人的には大変よろしいが、明らかな“多国籍軍化”はあまり歓迎しない。そのブランドである意味がなくなってしまうからだ。
異能関連の話をもう少しさせていただくと、ストーリーの大筋やバトルでも、これらの扱いは正直なところ微妙である。敵方が強すぎるのか味方が弱すぎるのかは定かではないが、割と苦戦する内容が多く戦闘シーンの爽快感が殆どない。クロシェットのシナリオはおよそイタリアンピッツァのようなもので、軽くて薄くサクサクしているのが強みだと思っている。だが、今作はシカゴピザくらいには内容が重すぎる。基本的に「俺つえー」くらいで丁度いいだけに、シリアスや戦闘といったシナリオの副産物を含めると、この質量では読んでいて疲れてしまった。だからこそ、消極的な理由でリールゥのルートがベストシナリオと言える。理由は簡単、彼女の明るい性格も相俟って、読んでいてさくさくと消化できたからだ。
異能を上手く活用できなかった作品はいくつかあれど、今作もその一角に加わってしまうのは非常に惜しい。豊富な差分と質の高いCGを用意しておきながら、題材を生かさねばならぬはずのシナリオのピントがずれていたことと、エロシーンの方向性と統一性がいま一つだったことが評価に災いした。
最後に。至高のおっぱいExplorerであったわけだが、もはや本作はおっぱいExploderである。危うく初心者エロゲーマーを爆殺する危うさを秘めている。何はともあれ、今年も眼福だったのは間違いない。やはりおっぱいはいいものなのだ。合掌。
【雑談】
それぞれのルートでアナルを愛撫するのは構わないんですが、「挿入する機会があれば挿入する」という描写をしておきながら、本編に描写がないルートははいただけない気がしています。無用な期待をさせるべきではないと思います。
パッケージの仕様が変わらないのは嬉しいです。安心感があります。