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AtoraさんのワガママハイスペックOCの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
ワガママハイスペックOC
ブランド
まどそふと
得点
79
参照数
1098

一言コメント

原作はファンディスクがなくてもやっていける。だが、ファンディスクには原作が必要だ。原作なくしてファンディスクなし。その意味を問うならば、この作品は原作の強みを最大限に生かすべきだった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 「ワガハイOCはファンディスクである。続きはまだない」などと、かの文豪の名文を拝借して嘯きたくなるのも分かる。たしかに、続編と銘打たれている割に、普遍的なファンディスクとなんら満足度が変わらないのだから。個人的にも、やや拍子抜けといったところである。だが、そもそも“ファンディスク”と“続編”の境界が曖昧になっている昨今、私は「ファンディスクか、それとも続編か」といった危うい盤上で激論を交わすつもりは毛頭ない。この両者をして確実に言えることは、“原作という厄介な黒幕に配慮しつつ、最適解を導き出さねばならないこと”であり、その結果としての出来栄えを見るのがもっとも重要であろう。


 それに基づいて、拙いながら文章を紡いでみようと思う。

 基本的な萌えゲーにおいて、本編に続く作品は、最初からある程度の指向性をもって作られることが多い。それは、たとえば原作の流れを引き継いだアフターストーリーであったり、雰囲気を壊さない程度のアナザーストーリーだったりする。原作とファンという2つの後ろ盾なくしては、大抵のファンディスクは成り立たないことだろう。まるで大海に浮かぶ小舟がごとく、本編の流れのままに漂いがちなそれは、まさしく吹けば飛ぶようなデリケートな存在なのかもしれない。その危うさゆえか、この作品の作り手が取った手法も、いたってオーソドックスなものだった。攻略の枠を3つ増やし、エッチシーンも原作と遜色ない数を揃える。分量もクオリティも不安なし。魅力的なキャラクター達の存在は、まさに鬼に金棒といったところか。以前の私は、満足度の高いファンディスクが仕上がることを疑いもしていなかった。ところが、今の私は、それがベストの選択だったとは思っていないのだから、実におもしろい……否、恥ずかしいやら恐ろしいやら、といったところである。


 このファンディスクの誤算は、メインキャラクターの魅力を侮ったことにある。別の視点から言わせれば、サブキャラを大事にしようとしたと見ることもできるだろうか。ひょっとしたら、その両方なのかもしれないが……。いずれにせよ、形だけを見れば、メインの4人が割を食っている。これが痛かった。
 要するに、年上のお二方のストーリーをメインヒロインに充てた方が良かったように思うのである。攻略キャラクターを追加するとしても、四月一日奏恋ひとりで止めるべきであった。前にも書いたが、原作は、人気投票1位である妹の兎亜を筆頭に、メインキャラクターの“引き”がとても強い。ショートアニメの存在も相まって、ざっくりとしたキャラ萌えゲーと認識したユーザーは、老若を問わず数多くいただろう。もちろん声優人気や個々のシチュエーションの良さも見逃せないが、メインキャラクターの造形は、4人のバランスを考えてもピカイチであった。それだけに、多人数を攻略できる構成は、作品にマイナスに働いたと言わざるを得ない。人気投票に再度目を向けても、さすがに得票率1パーセントというのは、泡沫候補のようなものだろう。キャラクター本人やクリエイター、票を投じた人には申し訳ないが、作品を評価するにあたって、サブキャラのルートはその存在にすら疑問が残ってしまった。
 ここまで言うのは理由があって、当の年上ルートの出来が、それほど褒められたものではなかったからである。エッチシーンにしてもテキスト量にしても、やはりifストーリーを回収した程度に見えてしまう。もちろん作品に満足する声も聞こえてくるが、みんなが満足しているそのメインヒロインのルートは、いま以上に充実していた可能性がある。私自身も、満足できたルートは部分的にあったけれど、作品を分解して評価しようと思った時に、このピースが最適ではなかったと気づかされたのである。年上ルートの存在は、どうしても異物のように映ってしまい、それが原因でメインヒロインの力を100%引き出せていないように感じた。


 当たり前の話だが、攻略キャラクターが増えれば増えるほど、個々のエピソードは薄くなりやすい。テキストの量を増やすのは並大抵のことではないから、必然的に、パイ生地を伸ばした時のように、全体も薄くなってしまう。作品そのものは広がりを見せるし、今まで攻略できなかったキャラクターにも日の目が当たるが、それぞれのストーリーもあっさりとした味になりがちだ。これは別ブランドの話になってしまうが、物語の構成としては先生組を攻略対象にした『スズノネセブン』の二の舞を演じたかのようだ。あの作品は作風まで強引に変えて失敗した一面もあったが、頭数としての話、卒業生である3人はクリア対象にしないほうが賢明だった。私の経験上、この“ワガハイOC”という作品は、それとよく似ている。
 キャラクターを平等に扱う姿勢は、時として作品を小さく見せてしまうことがある。しかしながら、攻略キャラクターを増やす行為そのものが悪いとは、露ほども考えていない。時と場合によりけりである。ユーザーが求めているものをそのまま出すのは芸がないが、求められていないことをやってヒンシュクを買うブランドもそれなりにあるし、実際にそんなブランドをいくつも見てきた。私から言わせていただければ、ファンディスクにおいて、ピントがずれている事ほどもったいないものはないと思う。畏れ多くも年上が時代遅れ、不人気といった暴論を吐くことなどありはしないが、絵柄からして、萌えに親和性が高いのは明白である。ハイスペックな女の子たちをオーバークロックさせた物語を作るはずが、現実では人数でオーバークロックしたにとどまり、内容でスペックダウンしているとあって、なんともいたたまれない。

 原作の一番の長所を殺してはならない。このファンディスクがどうやって生まれたか、とんと見当がつかぬ……はずはないのだから。



【雑記】
 ファンディスクにしては、値段が高いのも疑問でした。レビューでは触れていませんが、おっぱいゲーなのは相変わらずです。