事実は小説よりも奇なり。時を経て熟した歴史的事象と完全な創作による夢のコラボレーション……だったが、今回に限って言えば、いい塩梅で融合しきれなかったようだ。正史と創作が融合した「誠の道」の先に、それぞれのヒロインに焦点を当てただけの道を枝分かれさせたため、そこまでに至る秀麗なストーリーが台無しになってしまった。歴史好き垂涎の貴重な作品であることは間違いないが、前々作以上の尻切れトンボぶりは、やはり画竜点睛を欠いた感が強い。
歴史的な事柄は、遥かな年月を経て一層の円熟味を増す。後世の研究者の評価はもちろん、数多くの想像や空想が綯交ぜになり、いつしか創作以上の面白い物語となって、我々に唯一無二のエンターテインメントを提供してくれる。それは本作で取り扱われた新選組だってそうだし、インレ商業デビュー作の題材となった赤穂浪士だってそうだ。目には見えねども、古酒にも似た独特な風合いにこそ、人々は惹かれてやまないのであろうか。
さて、本作は新選組を題材にしたインレ作品ということで、『ChuSinGura46+1』シリーズのファンからは、発売前から一際高い注目を集めていたように思われる。このレビューでは、解説を中心に感想を書いてみたい。なお、以下は未プレイ者向きの感想ではないので、その点は注意していただきたい。
総合的に見れば、作品にのめり込んだと言える。史実を軸にして、創作を上手く織り交ぜて紡がれるストーリーは、とても読み応えがあった。『ChuSinGura46+1』とは方向性が異なるが、ライターの葉山こよーて氏は、史実をリスペクトしつつも、大きくはみ出さないように細心の注意を払って歴史をなぞり、独自の解釈を加えて練り上げることにとても長けているように思う。未確定な部分ほど、多くの説が唱えられるのが歴史の常というものだが、その部分は、プレイヤーに興味を持たせることができる説を採用していたり、物語が最も合理的かつ盛り上がるような言説を拝借しているように感じられた。
この手法は実に堅実な方針だと思ったし、その選択は決して間違っていなかった。誰が何と言おうとも、物語の途中までは多くの人が惹きつけられるに違いないからだ。そこに現実味を帯びたドラマがあるからと言ってもいいし、葉山氏の描き方がうまいからと言ってもいい。どう転んでも「面白くないわけがない」内容だと思う。
新選組は歴史的にその名を知られてはいるものの、その時々でどのような行動を選択したか、つぶさに答えられる人は、割と少ないように思われる。“教科書的”と評したレビュアーもいた物語の流れに関しては、是非を問うまでもなく、正しい選択だったと断言したい。変なオリジナリティを加えられても、より面白い流れになったかどうかは疑わしいよからである。
ただでさえ味わい深い正史に、個性的なキャラクターが華を添えているのも高ポイントだ。画風の影響が大きいとは思うが、インレのキャラクターというのは戦う女性キャラクターとの相性が抜群に良い。胸が豊かであろうがなかろうが、それぞれが魅力的な造形をしたキャラクターたちが、露出の高い衣装を着てブンブンと刀を振って戦う。その光景は、ちょうどいい塩梅で非現実的。まさに夢物語と言っていいだろう。
本作で言えば、いさりんやひじりんを筆頭に、総司やサンナンさん、平助といった主要なキャラクターは、いずれも一癖も二癖もある存在だった。誰一人として目立たないキャラクターがいないというのは、その登場人物の数を思えば瞠目に値する。独創的なキャラクターというのは、見ていて飽きがこないものだし、否が応にも物語を盛り上げてくれるものだ(個人的には斎藤一が好き)
ただし、誤算もあった。愚直に歴史の流れを踏襲したことによって、作品にある種の計算違いが生まれてしまったように思われてならない。完全な創作で描かれた部分が、歴史を紐解いた部分に比べて、読み進めてみても、いまいち楽しめないのである。いま一度、「誠の道」に触れてみよう。
新選組が隊旗に謳われるような誠の道で世に知られているように、前半の「誠の道」の部では、馬鹿正直なまでに己が正しいと信ずる“誠”の一字に徹しようとする新選組の姿が随所に感じられた。山南敬助の自刃にしても、藤堂平助の戦死にしても、作中の主要メンバーが次々に乱世の狭間に斃れていくさまからは、新選組がいかに厳しい鉄の規律を隊士に課していたかということが、葉山流の物語を通して伝わってくる。
実際に、新選組の結成後から鳥羽伏見の戦い以前までの5年間で、この世を去った隊士の8割が内部抗争や隊律違反による切腹という憂き目に遭っている。史実に詳しくない者からすれば、作中の描写は史実以上にシビアに感じられるかもしれないが、内部に吹き荒れた容赦のない断罪と制裁の嵐が、創作だけでは出せない現実味を加えている。新選組の「誠の道」の出来栄えは、かの『ChusinGura46+1』に勝るとも劣らない没入度を体感することができた。ゆえに、「誠の道」の完成度については、いかに教科書に沿った流れであろうとも、真に唸らざるを得ない。
ところが、その出色の出来栄えに反して、明らかに史実ではない後半の部分は、まるで別の人が筆を執ったかのように浮ついている。新選組の中心的な存在が女性というゲーム上の都合を除くとしても、その後の展開は、史実を交えて語られた「誠の道」よりも質が数段落ちる。葉山流新選組物語の大筋が「誠の道」で語られたのに対して、完全な葉山氏オリジナルの部分……「友の道」・「義の道」・「縁の道」・「光の道」の4篇は、彼らの優しすぎる愛に触れてしまい、些か盛り上がりに欠けている。それゆえ、物語の間に埋めようがない溝が生じて、違和感を拭い去ることができなかった。
このことは、私の中でも微妙と言うべきか、少なくとも評価を下げる“しこり”となってしまった。この内容であれば、それまで築き上げてきた「誠の道」のその後を詳述してほしかった。主人公と隊士のまぐわいよりも、見たいものがある。それこそが、「誠の道」の先……新選組が生きて成し遂げた世の中というIFの世界なのである。歴史にIFは御法度とは言うが、物語はその縛りをいとも容易く飛び越えることができる。ならば、その長所を最大限に生かすべきであった。「事実は小説より奇なり」という一節を残したバイロンから拝借するならば、時を経て無数の人間の手垢がつき熟れに熟れた史実と、それを模した創作物語のどちらが劣化しやすいかは不思議と明らかである。残念ながら、「友の道」・「義の道」・「縁の道」・「光の道」の4篇に、「誠の道」を継承する力はない。それらは「本当に彼女たちが目指した誠の道の行く末だったのであろうか」と考えると、あまりにも説得力が足りないからである。
また、そもそも作品が18禁ゲームである必要は全くなかった。ヒロインだから、エロゲーだからと言い出したら歯止めがきかないかもしれないが、世界観という障壁の影響で、現代で用いる“卑語”を使いにくい以上、実用性は他のタイトルにまるで及ばない。濡れ場の挿入箇所や場の流れも決して上手ではない。それならば18禁に拘らず、このブランドにしか描けない自由闊達なストーリーを存分に楽しませてほしかった。
それにしても、真の武士道が消え失せた後の世でよもやこのような姿で描かれるとは、近藤はじめ隊士は夢にも思わなかったであろう。実際に史跡に足を運んでみたのだが、流山は長岡屋跡の礎石や大石神社の隊士像を前にして、妙な考えを抱いた次第である。
【雑記】
楽しめたことは間違いないので、次回作も購入します。