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AtoraさんのVenusBlood -HYPNO-の長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
VenusBlood -HYPNO-
ブランド
DualTail(DualMage)
得点
89
参照数
1167

一言コメント

怪盗ルパンは心を盗む。九尾の狐は時間を盗む。 師団編成のさらなる自由化に対する功罪や如何に。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 ふたつ前のシリーズ作品である『VenusBlood FRONTIER』の感想を脱稿した際に、「ようやく世に出てきたか」と感慨深くなった。そして、FRONTIERから本作へと至り、多彩な師団編成こそがシリーズの醍醐味であることを強く実感した。「この時間泥棒め……!」と半ば悪態をつきつつも、編成に時間を割きまくった。それも三作品つづけて。
 このように高いレベルで磨き上げられたシステムであることに、もはや疑いの余地はない。無印の頃を考えれば、この躍進ぶりはとても想像できなかった。今回のシステムは、GAIAと言うよりもFRONTIERの頃に近しい感触を覚えた。諸兄のレビューを拝見するに、「いや、むしろEMPIREだろう?」と主張する方もいらっしゃるかもしれないが、これは筆者がその頃のシステムを精緻に覚えていないのが原因だ。まことにお恥ずかしい限りである。


 さて、前作GAIAのタワーディフェンス風のダンジョン構築は記憶に新しいが、HYPNOではその面影が欠片も残っていない。物語の展開がどうあれ、敵が守勢にまわるシステムのため、退却戦や撤退戦といった苦しい戦いがなくなっている。「攻めるが勝ち」を金科玉条に、一連の戦争は遂行されるのだ。物語の流れから言えば、一気に三つの国を相手してもおかしくないのだが、そこには大人の都合というものがあるのだろう。有り難いことに、順番に各国と相対する仕様になっている。


 指弾編成の面白さを指摘する前に、少しだけ未プレイ者向けにシステムの紹介をしておこう。
 戦闘は6対6が基本形。最大で6人×3師団、つまり18ユニット同士の対決が可能だ。単純に殴り合いをするだけではなく、ユニット同士の相性やスキルなどを駆使して戦闘を進めていく。つまり、前準備がものを言う。字面にすると簡単に聞こえるが、スキルやユニット数は冗談抜きに多い。はじめてこのシリーズに飛び込んだ人にとっては、スキルの説明が要領を得ず、理解しづらい部分もあると思う。
 だが、チュートリアルを一読するよりも、実際に師団を編成して運用したほうが建設的だろう。コツさえつかめば、そのうち自然と噛み砕かれて面白くなってくるからだ。この作品は過去作よりも複雑化しており、VB入門としてはあまり適切な作品ではない。毎度の事ながら、チュートリアルが不親切なのは気になる。私のような経験者はともかく、初心者に対して説明になっていない。置き物は不要である。


 閑話休題。先ほど前準備と書いたが、冒頭で触れたように、私も期せずして師団編成に膨大な時間を要した。陣取り、戦闘、内政がさくさく進むのに対し、師団編成では時計の針が進むのが早く感じられた。前作にも増してユニットの数が増えたため、より多彩な軍団を構築できるようになったのも、プレイ時間増に拍車をかけた。試行錯誤しながらプレイするのがこのゲームの趣のひとつと考えるだけに、それ自体は歓迎すべきことだ。「ぼくがかんがえたさいきょうの師団」を追求させてほしいという願いは、ひとまず叶ったと言える。
 ステージをクリアするたびに選択可能なユニットも増えていき、各ユニットに付けられるスキルも上質なものが追加されていく。そうすると、今度は新たにスキルを付け替えたり解雇したユニットを再び雇ったりするループに陥り、これまた時間を空費させられる。扱えるユニット&スキルが増えたからという、ただそれだけの理由で師団を再編成する。それが不思議と苦にならない。事あるごとに備に一つ一つの師団を吟味していくという無駄な作業が、重厚な布陣を好むプレイヤーの中毒性を呼び起こすのだ。
 石橋を叩いて渡らない程度の、慎重に慎重を重ねた戦術を好むプレイヤーにとって、この作品は麻薬のようなもの。途方もない時間を師団編成に費やすことに価値を見出せるに違いない。お気に入りの師団が少しでも強くなるならばと、雇っては解雇し、解雇しては雇ってを繰り返す羽目に陥ってこそ、このゲームの真価を味わえるのだ。なんと恐ろしいことだろう。

 ただし、そこまで強固な軍団を逐次編成しなければクリアできないのかと言えば、全くそんなことはない。師団編成はおろか、戦闘そのものを吹っ飛ばすイージーモードを完備しているため、詰みゲー状態には陥らないはずだ。だが、おそらく容易にご想像いただけると思う。そんな甘い誘いに乗っていては、ゲームそのものの楽しみを半減させてしまうと……!
 戦闘スキップはにっちもさっちもいかなくなった際、または戦闘がマンネリ化した時の最終手段に取っておきたいものだ。イージーモードを用いた戦闘スキップは、巷のAVGにおけるスキップモードとなんら大差がないと思う。



 私がプレイした体感で恐縮だが、初見ノーマルクリアは非常に易しかった。最序盤では少々躓きそうになったものの、以降の道中はさほど苦労した覚えがない。あまりにちぐはぐな編成にでもしない限り、一方的に蹂躙できるようである。

 敵がおとなしすぎる。これが、難易度の低下に一役買っている。FRONTIERのように国境の概念を無視して攻めてきたりはしないし、GAIAのように防戦一方になったりもしない。そればかりか、しばしば1ユニットずつ攻めてくるという誠実ぶり。これでは、敵のルーチンはアホと思われても仕方がない。「兵力の逐次投入は愚の骨頂」というのは、現実に限らずゲームでも言えるようだ。あまりに単調な攻撃ばかりが続くため、自軍ユニットが揃ってくる中盤から後半にかけて、作業度が増しやすい条件が揃いすぎていた。

 また、FRONTIERやGAIAと比べると、内政面とくに資金面での厚遇が顕著に感じられる。GAIAはそれなりに思考力を要したし、HYPNOはFRONTIER以上にヌルく感じられた。
 ただし、これらにも一長一短あるように思う。資金が潤沢になってユニットを多く運用できるようになったぶん、楽しみ方は変質した。おそらくその恩恵を受けた層がいる。いままで過去作を難しいと感じていた層がいたのは、個人的には見逃せない。彼らにとって爽快感はプラスされたことになる。システムの難易度から見た門戸は、上に狭くなり下に広くなった。とは言え、このゲームのノーマルは巷のゲームにおけるノーマルとはかなり意味合いが異なるので、注意が必要だ。ここはひとつ、どんなプレイヤーも自分にあった難易度を見極め、じっくりと腰を据えて楽しむのをオススメしたい。今までノーマルでプレイしてきた人は、ハードのほうが面白く噛みごたえがあるかもしれない。

 緊張感が味わえない易しい戦闘か、匙を投げてしまうほど難しい戦闘か。毎度の事ながらこの手の匙加減が非常にシビアなものであることは想像に難くない。今回はあまりに難易度が低く感じられて、師団編成に魅力を感じられなくなったり、戦闘が煩わしくなったりする人もいただろう。またそれとは逆に、手塩にかけて構築した軍団で無双することに喜びを覚える人もいただろう。これらはひとえに無双ゲー化の功罪である。
 難易度については各々のプレイヤーの中に基準があり、万人が受け入れる仕様を作るのは到底不可能。しかしながら、強敵に打ち克っていく物語である以上、あからさまに無双できる難易度まで下げたのは、手ぬるいと見られてもやむを得ない。“約束された勝利”に不用意に近づきすぎたきらいがあり、95%の勝率が労苦無しに99%に上がってしまったようなものであった。無双スキーにとってはさほど気にならないのかもしれないが、明らかに簡単になりすぎたと私自身は感じている。もっともそれに気づく頃には、このゲームをしっかりと堪能させていただいたわけだが。麺類の硬軟に好みがあるように、ゲームの難易度にも好みがある。柔らかくなった麺を硬くするのは難しいが、その逆は簡単だ。このゲームはデフォルト設定の時点で、歯ごたえをなくしすぎていた。


 いくつか提案をしたい。本作はタワーディフェンスではなく、大体がこちらから攻めて行くという背景もあり、力押しに次ぐ力押しという印象を強く抱いてしまった。強い師団を重用すれば、陣取りの設計自体が師団数を多く求めない設計になっているため、前に書いたように最序盤が面白さのピークの可能性すらある。要は相手の道を塞ぐ形で攻めていけば、詰め将棋よりも簡単に、敵陣を全て占領しつつ最短クリアできてしまうヌルさ。これでは面白くない。内政関係が劇的に緩くなったぶん、戦闘に制限でもなければ無双ゲーの側面が爆発しやすかった。
 そこで、たとえばルート毎にかかる日程を設定したり、それと同時に師団の行軍速度の概念を持たせたり(流石にゴブリンとドラゴンが一緒の速度ってのはね…)、地形効果をもっと明確にしたり、固有ユニットが自軍に加わる条件を追加したり(人事で○回説得で加入など)、もう少しゲームの難易度低下を抑える……というよりもプレイヤーに考えさせる方向で持っていけば、師団編成の楽しみがもっともっと活きたんじゃないかと思う。

 また、死票ならぬ死ユニットがある程度決まっているのは問題だ。
 VBシリーズは、『信長の野望』シリーズで言うところの統率や武勇でゲームが進行するに等しいため、いくら師団の枠を多くとっていても、結局は肥やしにすらならないユニットが多かった(師団活性or弱体は知力なのかもしれないが)。一条兼定(最弱武将の代名詞的存在)を使い続けるのが難しいように、ゴブリンをオーラスまで使おうとする姿勢は、奇特以外の何物でもない。そんな奇行をするのは限られたプレイヤーだけだろうし、一般的な楽しみ方ではない。無論全く使えないユニットがいるのは不思議ではないのだが、HYPNOに限らず強いユニットを雇わずにはいられないのが人の性。師団編成を吟味しても結局、少数精鋭だけで場を支配できるのは、よくよく考えれば変な話である。
 それが分かりやすいのはカオスルート。師団編成を楽しめるゲームであるにもかかわらず、異形と成り果てるヒロインは見るに耐えない。師団に組み込むと無双しがちとあって、精神的にロウよりもきつかった。余裕すぎるのである。無双化の傾向が後半になるにつれて顕著になるのと、それに比例して作業化の色合いが濃くなっていくのは、ロウとカオスで程度の差こそあれ、きわめて当然の帰結であると言える。難易度の低さは一種の諸刃の剣でもあるようだ。


 細かいところをちょっと触れてみると、いよいよ大味な男の料理という感じは拭えなくなってくる。地形・曜日・城壁効果・30を超える師団枠・忠誠といった要素は、はっきりと形骸化していた。これらを視界に入れずとも容易にクリアできてしまうあたり、言ってしまえば蛇足だったわけだ。GAIAの内政はともかく、FRONTIERにも存在した夏炉冬扇は、ちっとも改善されていなかった。
 そして、このゲームではただ雇っているだけでレベルが自然と上がっていくうえ、レベル自体がほぼ均一に上がりやすい傾向にある。ゆえにお気に入りのユニットを頑張って育てようとしても、それは装備やタクティカの差だけに留まってしまう。だが、装備自体はトレハン軍団でなんとかなってしまうし、資源も飽和状態とあって称号も上位のものを揃えやすく、こちらからほぼ打つ手がなかった。

 このように見逃したくない点も多々あるのだが、これらは師団編成の前では些細なことなのかもしれない。プレイヤーは、どうあっても大なり小なり時間を浪費してしまうからだ。



たとえば、仕事から帰った後の休息時間を使って。

あるいは、ただでさえ少ない一日の睡眠時間を削って。

もっと大げさに言えば、限りある命の一部を費やして。


それら貴重な時間を、師団編成という滑稽極まりない娯楽の犠牲にする必要は、本当は皆無のはずなのである。それでも、この師団編成には抗いがたい魅惑の悪魔が棲みついているに違いないのだ。ある人は休日を丸々使うという蛮行を犯さずにはいられないのであり、またある人は時には徹夜明けの赤目を引っさげて通学、あるいは通勤しているに違いないのである。それほど師団編成には安定した面白さがあり、途方もない組み合わせの勝利なのだと言えよう。

 壊しては組み立て、組み立てては壊してという終わりの見えない苦行は、シシュフォスの岩や賽の河原の伝承を思わせる。一見するとどちらも作業プレイに思えてしまうのだが、両者の間で決定的に違うのは、VBの師団編成の方は「当人がそれを望んで、もしくは、さもそれが当然だと言わんばかりに遂行している」というのが真に恐ろしい点であり、それこそが評価に繋がっていくというのだから、輪をかけて戦慄してしまう―――ということはだ。乱暴な言い方をすれば、途方もない編成にいったん飽きるということは、即ち楽しみ方の目が尽きてしまったことと同義ではなかろうか。
 完全に目が覚めたあと、再度眠りに落ちるのが難しいように、編成の無駄を悟れば律儀にプレイする気は起きなくなる。それこそがこの作品のアキレス腱であり、プレイの切れ目だと思う。個人的な経験ではあるが、2章からおそくとも4章までには難易度がガクっと落ちたように感じたため、編成が疎かになった部分があった。ただし、マンネリ化はどのゲームにも存在するから、「飽きたからダメ」などと暴論を吐くつもりもない。

 それに本当に高難易度になってくると、熟考に熟考を重ねた師団編成を心がける必要が出てくる。上記した楽しみ方からまた変容してくるのだ。その頃になると、やめ時については“いつ面倒さが師団編成の面白さを上回るか”の勝負になってくる。アリスでいう無茶苦茶モードに近しい硬派な設計であっても、なかなかどうしてクリアできる設計にはなっていた。陣形という新要素が活きてくるのは主にタナトスからで、それ以外は大して気にしなくてもいいというのはどうかと思うが、利用に迫られたことは明記しておきたい。ここらへんは素直に根本にあるシステムの良さを賞賛したいところだが、そこまで行き着くのも結構時間がかかるのもまた事実ではある。まあ、もし廃プレイをしなくとも、ロウ&カオスのシナリオさえプレイすれば、少なくとも元は取ったと言えるのではないか。10周以上プレイしている人がいると聞くが、もはや作品が出涸らしになっている気がしてならない。おそらくスタッフは「そんなに遊んでくれてありがとう」と咽び泣いているに違いない。

 ベタ誉めしているところ悪いが、流石に食傷気味のシステムであることもまた間違いないだろう。アメリカにはウィンチェスター・ミステリー・ハウスなる、かつて38年もの間絶えず増築が続けられていた建物がある。屋敷の中にはどこにも通じていない階段やドアがあり、160ほどの個室があるという。なぜこのようなメガハウスになったのか。その経緯はここでは触れないことにして、用無しの機構が完璧を阻害することが見て取れるはずだ。
 VBシリーズはこの屋敷と似たようなもので、師団編成をコアとしてその周りを必死に固めてきた。だがそれも完璧ではなく、膨らみ続けるユニット(多数の部屋のようなもの)と用を成さない要素の数々(天井へと続く階段のようなもの)によって、バランスを崩しかけている格好ではないか。FRONTIERの頃はまだユニット数が限られていたからよかったものの、今作では難易度低下という形で実害となって現れてきた。サラ・ウィンチェスターの死によって屋敷の増築が止まったように、VBシリーズもスタッフのお手上げに近しい感じがする。これ以上続けるのは危険だと大っぴらには言えないが、素人ながらに邪推をすれば、つまりそういうことなんじゃないかと思っている。VBシリーズの途絶は完成ではなく断念なのかもしれない。


 このように限りなく飽和した感のあるシステムとはうらはらに、シナリオのほうはまだまだ幼稚さが見受けられる。いつもの通りと言えばいつもの通りだが、私自身はこのシリーズにシナリオを多く求めていないこともあって、ざっとしか評価しない。
 まず、テキスト関係と戦闘描写の整合性がとれていないのが痛い。ボスと対面して戦っている描写がなされるにもかかわらず、その後の戦闘フェイズでは律儀にも攻め入るところからとあって、「まだ会ってもいないんじゃないの? そこんとこ、どうなんだろう」と思わずにはいられなかった。しかも、このパターンはかなり頻度が高い。「時系列的には、これこれこういう流れになってるんですよ」と侵略部分と併せて描写しているのだろうが、幾らなんでもやりようというものがあるだろう。もう少し場の盛り上がり方を意識してほしい。
 もちろんシナリオの根幹を否定しているわけではなく、むしろどちらかというと好きな部類。とくにロウルートの方は好みだった。燃えを描くベタなストーリーなんだが、「背中合わせの信頼って、やっぱり理屈じゃないんだな」と思った次第である。VBシリーズでここまでヒロインに焦点が当てられたのは、実は初めてかもしれない。これに対して、カオスルートでは陵辱の向きが強い。本来VBシリーズではこちらがメインだろうが、如何せん迫力に欠けていた。理由の1つとして、これはまあロウにも言えることだが、敵が強いのがテキストから伝わってくるぶん、システム的に無双しやすいから整合性がとれてないのが気になった。ここらへんはプレイヤーの難易度設定の問題もあるかもしれないけれど、屈服させたときの達成感があまり感じられなかった。


 本作は主人と従者の調教が主軸に置かれつつ、タイトル通りに催眠を併用して陥落させる方向性が素人目にも垣間見える。この調教自体は牛歩戦術よろしくねっとりといった微速前進の感があって、そこそこ満足はした。片方を一気に落としてからではなくて、じわじわと外堀を埋めて拠り所としての従者を堕としたり、催眠でもって堕とさせたり、裏切りを実感させたりという手法で主人を覚醒させる。これは素直に上手いな、と思った。このように堕とし方は流動的でいい感じなのだが、一点の描き方が画竜点睛を欠いているのと、その後のエロの方向性が迷子なのは大きなマイナスであろう。堕落の瞬間、「やっぱりFRONTIERみたいに赤射して変容しちゃうのかな」と身構えていたら、今回はお腹に模様が出てそれでCGはおしまい。立ち絵になってから衣装が変わったので、ちょっと拍子抜けしてしまった部分があった。エロではないが主人公の覚醒についても、結構ぞんざいな描写だったので、瞬間瞬間の描き方がちょっといただけなかった感はある。
 堕ちた後はもっと悲惨だ。「とりあえず、主人と従者をくっつけてみました」という出来合せの感が強い。それぞれのヒロインの嗜好性を伸張させた変態仕様があればよかったのだが、今作ではそれもやや鳴りを潜めている。3Pから4Pまで、とにかく多岐にわたるエロを用意しているのだが、色々と取り揃えているということは、つまり、どの組み合わせも特化した内容がないことの裏返しでもある。前半、主人と従者の堕とし方をあれほど練っていたにもかかわらず、堕ちた後は「ミッションコンプリート!!」の達成感で満足してはいないか。
 たとえばFRONTIERにおいて、悪堕ち後のトールは個人的に好きなキャラなのだが、今回、性格的に近いポジションにいると思われるツバキはいま一歩であった。悪堕ち後の固有のエロが少なくてイベントの数々が物足りなかったから、クるものがあまりなかったのだと思う。これは別にツバキだけの話ではなく他のヒロインにも言えることで、イベントがスカスカという印象はぬぐえなかった。とくにサブヒロインの描写の少なさは、やはり従者は従者という扱いがして如何せん寂しかった。なので、エロとしてはなぜかロウのほうが充たされた感が強い。


 たしかにエロをボリュームアップして色々と取り揃えることで、ビギナーも入りやすくなる側面があるのかもしれない。だが、元々この作品群は本来オンリーショップの向きが強かったことからして、VBシリーズを名乗れていると思っていた。ところが、本作は不用意にもセレクトショップ化している気がしてならない。まあこれは憶測に過ぎないが、先にも指摘したシステム的な門戸を下に広げようとした弊害ではないだろうか。もちろん私は一介のユーザーに過ぎないわけで、別にVBのシリーズが守ってきたアイデンティティーを遵守しろとかは言わない。けれど、悪堕ち後の描写の弱さやセレクトショップらしい万遍ない取り揃え方を鑑みるに、ちょっとこのレベルでエロの数を前に出して戦うには、何か色々と不足していたり、喪うものが多すぎたりはしないかと心配している。ここまでのVBシリーズの中で、個人的にFRONTIERを推しておきたいのは、ここらへんの事情による。

 余談ではあるが、VBシリーズといったら触手とか堕ちものとか。そんな勝手な認識があって、実際に触手は要所要所には出てくるものの、もはや必須物ではなくなってしまっている。付属品に近い感じか。ついでに書いておくと、無双軍団の中にあって、敢えて触主さまを使うメリットも乏しいため、活躍の場が限られてしまい残念であった。

 
シナリオ自体は危なっかしい低空飛行を続けていたが、すこしずつ右肩上がりにはなっていった。カオスの方は少し下げてしまうけれど、ひとまず及第点はつけられるレベルではあると思う。もっともエロのほうで言えば、ロウのほうはまだ体裁を保っていたが、カオスに対する落胆はそこそこ大きい。ゲームシステム自体が序盤をピークに右肩下がりになっていくのと、カオスのエロの評価はそれなりに比例する。もちろんヌキという実用面で見たときに、弾の数は多ければ多いほど良いとは思う。しかし、悪堕ちはシナリオ含めてこそと思うだけに、背中から駆け上がってくる背徳感を多く味わえなかったの残念であった。



遊べるゲームとして振り返った時、このシリーズ独特の師団編成は何にも替えがたいものだということに気づかされた。根幹となる師団編成がいかに洗練されており、秀逸なつくりをしているか……それは、批評空間内の安定した評価からもよく分かる。ひとまずシリーズとしての完結をみたことは後々の大きな糧になると思うし、後続の作品も期待したいところである。
しかしながら、これほどまでに巨大なシステムを喪失するのはあまりに惜しい気がする。
 私は、「遊べるメーカーの中でも陵辱と言えば九尾」と認識していた。それだけに、今後の方針がどうしても気になってしまう。FRONTIERのレビューで書いたように、エウシュリーか九尾かで迷うようなことが出てきたことは、ユーザーとして歓迎したい。だが、ブランドが築き上げた「色」を失うことは、願わくば避けてほしいものである。次の作品こそ、九尾の真価が問われるだろう。



【雑記】
 結局、最後まで炎霊師団は使いづらいままだった気がします。