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Atoraさんのメタモルファンタジーの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
メタモルファンタジー
ブランド
Escu:de
得点
80
参照数
388

一言コメント

「理性的な純愛」と「野性的な凌辱」。相反する要素を詰め込んだエスクードの出世作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 エスクードは、いまひとつ突き抜けきれないアバウトな出来のAVGをいくつか世に送り出してきたが、その一方で、他のブランドとは一線を画すオリジナリティのあるSLG作りには、今でも定評があるブランドだと思う。このクリエイター集団が、一昔前によく動画サイトで取り上げられた『ふぃぎゅ@メイト』で一躍“時のブランド”となったことは、その時期のプレイヤーならば誰もが知っている事柄であろう。意図せずして電波ソングが先行していった「ふぃぎゅ」であったが、その実、理不尽とでも言うべき「屈指の高難度を誇る複雑なSLG」という皮を被っていた点を見逃してはならない。故に、このブランドに対して殊更に電波ソングばかりを取り上げるのは、些か恣意的で気の毒な切り取り方というものであり、後の「あかときっシリーズ」や「Re;Lord」の各章からも明らかなように、継続的に遊べるSLGを作ってきた点をこそ注目したい。そして、「ふぃぎゅ」以前に制作されたこの作品は、「ふぃぎゅ」のSLGパートほどではないにせよ、特定のバトルに限って見れば、相当シビアな難易度であったというのも、今となっては恐らく間違いない話なのである。

 思えば、本作のラスボスは、それはもう「昔ながらの難しさ」と言って差し支えないほどの綱渡りの戦闘であった。その難易度たるや、主人公のパラメータをカンストさせるという条件の下、敵の行動パターンを逐一メモしておく必要があるほどで、実際にプレイした身としては、自身の力でクリアするのはなかなか骨が折れる作業であった。ブランドが「ラスボスが難しすぎる」というユーザーの声に応えて弱体化パッチを出したという経緯からも分かるように、当初の難易度が適切であったかは疑わしい。だが、この難易度については、好意的な受け止め方をした人もいただろう。というのも、私自身、全くクリアする可能性を見いだせない難易度ではないように感じられたし、実際にプレイしてみて、道中でどうしようもない手詰まりをしたという経験もないからだ。防御魔法の存在価値がないという穴はあったが、相手のスキルを読み切ったバトルでは、相応の達成感を得られたのである。局所的には難しいが、総合的なバランスは悪くなかったように思う。スルメほど長持ちする仕様ではないが、要所要所にバトルを設定してあるため、2019年現在でもガム程度の持続性はあるはずだ。

 ただし、昔の作品ならではの悩みだろうか、基本的にヒロインごとに攻略していく必要がある以上、周回には大変弱い。育成パートは当時でも相当な単純作業量だったが、無印の方は戦闘をスキップできなかったため、短期間でプレイするのが憚られた。スキップ仕様が当たり前になった今では実用性に耐えられる作りではなく、今プレイするとなれば、間違いなく無用なストレスが溜まるはずである。また、CD三枚組というボリュームの本作は起動するだけでもわざわざディスクが必要で、面倒なことこの上ない。DL販売のある「メタモルSP」では、快適なプレイを阻害する点が大きく改善されているので、今はそちらをプレイした方がよい。

 そのような懐かしい仕様やバトル画面のグラの弱さ、OSの古さから考えると、もはやロートル好みの感が否めないが……。今にして思えば、この作品は「理性的な純愛」と「野性的な凌辱」という究極のバランス感覚を備えたエロゲーであったかもしれない。正直な話、はじめてプレイした当時は、このような感覚を露ほども抱かなかったのが不思議なくらいである。


 さて、主人公ハタヤマヨシノリは、見た目の可愛さに反した元祖淫獣とでも言うべきぬいぐるみ(チャック族という種族)で、あわよくば人間の女の子とエッチしたいなどという、とんでもなく邪な野望を胸に抱いている。そんな畜生極まりない彼が、ひょんなことからメタモル魔法を使えるようになってしまい、とある事情も相まって魔女っ娘にエッチないたずらを仕掛けていく……というのが前半の主たる内容であるが、この妙なナマモノが純愛と凌辱の選択に翻弄されながら、時に理性と欲望のハザマで葛藤する様は、「コミカル&シニカル」の極致と言って差し支えないほど、劇的な要素に満ち溢れているのだ。
 
 彼が奇天烈なキャラクターであることは、今なお残るホームページを見るだけでもお分かりいただけるかと思うが、その雰囲気を増幅するかのように、彼を取り巻くサブキャラクターや造形すら用意されていないモブキャラまでもが強烈な個性を放っている。ペンギン型のぬいぐるみでハタヤマの魔法の師匠でもある篠原さん、森山葵さんの低音が印象的なエロうさぎの伊藤くん、日常シーンを壊滅的に盛り上げるハタヤマのマザー&ファーザー、間抜けを絵に描いたような闇魔法学会員の面々、湿気の多いところが苦手な骸骨女の根黒さん、繁殖力の強さが特徴的なミジンコ女の川辺さん、無口だが目で女を射止める画面中央の堀田くん……など、説明するだけでも変人と分かる彼らの存在が、作品のコミカルな成分を大幅にかさ上げしており、日常シーン(声あり)に飽きがこない要因の一つになっている。

 そして、その代表格こそ、エスクードが誇る声優甘美さんが担当したハゲヘルム……もとい、ヴィルヘルム・ミカムラ校長である。実は多くのエスクード作品でおいしい役どころを担った声優さんなのだが、この方が演じるキャラクターは存在感が凄まじい。特に、このヴィルヘルムというキャラクターは、某ゲームにおける貂蝉のごとき独特な威圧感を醸し出している。後の『ジュエルス・オーシャン』においても妙なおっさんキャラクターを演じておられたが、それはまた別の話。最近の作品には出演していないという点が、大変残念である……。

 何はともあれ、このような愉快なキャラクターで固められた学園生活が面白くないわけがない。ハタヤマが色々な悪戯をするだけの話にとどまらず、大勢のキャラクターが織り成す良質なギャグシーンは本作の特長の一つである。その一方で、物語がハタヤマやヒロインの心的成長という側面をも兼ね備えているのはたいへん興味深い。コミカルなシーンの合間にシリアスを散りばめながら、自由闊達に切り替えられた場面転換の展開は、全体的な緩急に富んでおり、まるでジェットコースターのように豊かで興味深い軌跡を描いている。ギャグも含め、ユーザーを飽きさせない展開を創出した籐太さんのライターとしての手腕が光る。見事と言うほかない。

 また、魔女っ娘モノということもあって、何気に触手エッチ度が高いゲームでもあるのだが、当時としては革新的な「触手にだって愛はあるさ」を地で行く内容でもあったのも特筆すべきであろう。魔女っ娘とのエロを軸に置いた作品は、純愛・非純愛を問わず掃いて捨てるほど世に出たが、下衆なぬいぐるみ科の主人公との純愛ルート(触手もあるよ)なんて代物は、相変わらず希少価値が高いシチュエーションだと思う。このレビューを書こうと思い立ってすぐ、「この作品は時代を何重にも先取りしていたんだな」とリスペクトせざるを得なかった。異種姦多めということも手伝って、実用性の方面でもかなり頑張っており、抜きゲーとしての役割も十分に果たした本作。多くを詰め込んだ割に、ちゃんとした作品として成り立っているのも、本作が良作と名高い由縁なのだろう。

さすがにグラフィックを中心に時代を感じさせる色合いを帯びてきたが、決して質が低いというわけではない。むしろ、今となっては価格も控えめ。最近の作品に飽きたら、ぜひプレイの選択肢に入れていただきたい。凌辱だけを目的としてプレイしなければ、気軽にプレイできるはずだ(レビューは無印に投稿したが、購入するならSP推奨)。

 ところで、ハタヤマのチャックの中には、一体何が入っているのであろうか。発売から17年を経た今でも、そこだけは気になって仕方のない昨今である。


【雑記】
・今も昔もシルフェ一択。手のひらサイズのヒロインは、当時まだ少なかった。
・籐太さんが声を充てていらっしゃったのは知らなかった……。
・「すせりサマのプロジェクトスリッパ」のような企画をまたやってほしい。