ErogameScape -エロゲー批評空間-

Atoraさんの神採りアルケミーマイスターの長文感想

ユーザー
Atora
ゲーム
神採りアルケミーマイスター
ブランド
エウシュリー
得点
95
参照数
3605

一言コメント

超大作にして超名作。『峰深き瀬にたゆたう唄』と『姫狩りダンジョンマイスター』の交配から生まれた稀代の良血馬。これで面白くないはずがない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 飛躍的な進化を遂げたわけではない。これは、少しずつ進化を続けてきた研鑽の徒エウシュリーの生んだ、努力の結晶に他ならない。『姫狩りダンジョンマイスター』と『峰深き背にたゆたう唄』という二作のシステムを軸に、これまで培ってきたノウハウを活かし、相性のいいシステムを選りすぐった類まれなる大作である。

 超大作にふさわしいボリュームと、危険なまでの中毒性。このゲームはその二つを兼ね備えていた。ストーリーは冒険譚風味で、重すぎず軽すぎない。やりこみに飽きてくるとストーリーを、ストーリーを読むのが辛くなってくるとやりこみを、という風に絶妙なバランスでプレイが進んでいく。寄り道をせずとも数十時間は悠に持って行かれる。気がつけば、時計の短針が逆方向になっていることもあるはずだ。

 それを可能にしているのが戦闘システムと工房運営SLGだ。
 まず、戦闘システム自体は、『姫狩りダンジョンマイスター』の改良版と言って差し支えない。弱点の細分化・ヒロイン専用の衣装システムの導入・ボーナス要素の追加・出撃地が選択可能などが一例である。いずれも微細な変更で、「陣取りSLG」の根幹は揺るがない。あくまでも、システムをリメイクしただけである。もともとシンプルな形でも十分遊べていた作品だったが、今作ではより自由に、より深く遊べるようになった。
 さらに、ここに工房運営という強力なSLGが加わったからたまらない。“やりこみ隊”や“アイテムコンプし隊”は当然ながら激増する。今までのエウシュリーの実績を慮れば、『峰深き背にたゆたう唄』に実装していた「合成、調合、錬金術」の各種やりこみ要素が伸びていなかったのは、むしろ不思議なくらいだった。一部のプレイヤーにとっては、「ようやく来たか」といった面持ちであろう。
 これが驚くほど完成度が高い。『峰深き瀬にたゆたう唄』にあった合成失敗扱いのクズアイテムができることもなく、フラストレーションもほとんど溜まらない仕様となっている。変異物ができあがった時などは、ラッキーな気分になれること請け合いだ。本当によく出来ている。

 さらに街マップが追加され、ADVとSLGの橋渡し役を務めれば、もはや向かうところ敵なし。ストーリー自体は際立つほどの内容ではないのだが、SLGの面白さとやりこみ要素に引っ張られている。たとえるなら、野手陣が盛り立てる投手のような存在と言える。

 エウシュリーだからこそできる芸当、いやエウシュリーしかなしえない芸当というべきか。いくつかの要素をバランスよく融合させたことで、均整の取れた作品へと仕上がっている。些細な不満(決死スキルが強い、武器の持ち替えが面倒など)はあれど、全体的に文句はない。シナリオがSLGのおまけと化しているのは、エウシュリー諸作品で再三指摘しているが、何よりもシステムに引き込まれてしまった。誰しもが楽しめる門戸の広いSLGであると思う。

 『大帝国』のあまりの融通の利かなさに、しょげかえっていた自分への活力剤。鬱憤が晴れた。



【雑記】
 ベスト10に、間違いなく残ってきますね。素晴らしい作品です。