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Andemon_LV7さんのジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-の長文感想

ユーザー
Andemon_LV7
ゲーム
ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-
ブランド
きゃべつそふと
得点
96
参照数
357

一言コメント

ファンタジーを下地に魅力的なキャラとテーマを描いた名作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

冬茜トム先生単独ライターの作品としては四作品目の本作。ハードルを高く高くして挑みましたが、期待に応える出来となっていました。シナリオ重視の弊害でイチャラブ要素が非常に少ないのが欠点ではありますが、尺を無駄なく本編に注ぎ込めたのは、それを上回る利点だったと思います。ペガサス組という輪の絆を表現する場合、恋人の概念はむしろ邪魔になりかねないというのもありますし。私としてはエロの削減は一人二枠までなら許容範囲内です。
舞台は中世(?)世界で、異能と能力バトルがあって、敵にはボスと三幹部がいて。いかにもJRPGやラノベを意識していそうな世界観でした。ジャンルも「落ちこぼれクラスが世界を救う青春学園ファンタジー」ですし。「トム先生の作風でファンタジーなバトルものを作る」というのも、この作品の大事なコンセプトの一つだと勝手に思っています。
根底にはアメグレでも使用していたギリシャ神話を敷いていたようですが、石→メデューサ→ギリシャ神話の連想から繋げたのでしょうか。それともトム先生の得意分野だったりするのでしょうか。

しらたま先生の絵は、プレイ前はシリアスパートで足を引っ張るのではと心配していましたが、全然杞憂でした。表情の描き方がとても好きで、紫光剣ベルカと銃撃マスターのCGが特に格好良かったです。あと片翼黒アリアンナのCGの美しさに完全に惚れ込みました。あのCGのタペストリーとか出たら絶対に買います。
BGMは熱い曲揃いで、ワンパターン気味だった戦闘を大きくサポートしていました。ギベオンメテオライトの演出と合わせた「Lost Hope」のイントロは鳥肌ものでしたし、ギメルとの決戦が盛り上がったのは「Prism Overload」の力が大きいと思います。歌も良曲揃いでした。某歌声は除いて。

 メアについて
前半の山場である、メア裏切りからの救出戦。後半に比べると衝撃が小さいためか、あまり話題になっていない感があります。実際、シナリオには特にケチをつけるところも無く順当に面白かったです。メアが変彩するシーンは本作で一番涙腺にきたかもしれません。ゲゼルマン直伝の「知れば怖くない」理論も、メアが見つけた「仲間がいれば怖いことも怖くない」理論も、どちらも大好きです。
ただし、変彩後のキャラ変は私にとっては問題でした。毒舌でぶっきらぼうな口調のトパーズメアが好きだったので、アクアマリンメアの媚びスタイルはイマイチでした。博士が矯正する前からメアは感情を表に出せないキャラだったわけですし、あんなに急変しなくても……。変彩後でもトゲのある台詞はたまに見せてくれるので、それはそれで緩急がついて萌えられるんですけども。

 「大仕掛け」について
私は過去作であるアメグレやさくレットの「大仕掛け」に対しては、比較的加点は控えめにしています。衝撃こそ大きかったですが、それ以上のものは感じなかったと言いますか…。
ですが本作の『吸血鬼』は私に深く刺さりました。発覚直後、あんなに可愛いアリアンナとの通常会話シーンですらビクッとなってしまった感覚は忘れられません。セリオンの差別問題についてアレコレ話していたら、自分が一番の弱者側だったとは。
何よりも強烈だったのは、到底理解出来ないと思っていたメデューサ側の気持ちが、判明後した直後に一瞬で理解出来てしまったことです。その寸前まで、「メデューサの連中は流石に殺戮しすぎだし、もう壊滅させちゃおうぜ!(アリアンナ風に)」くらいのノリで思考停止して敵視していたというのに。「考えさせられる」という言葉はこういう時のためにあるんだなと感じました。
突然襲われた吸血鬼サイドと積年の恨みを持つ人間サイド、両方の視点になれたのは間違いなく仕掛けのお陰でした。ただの衝撃以上の効果が、この仕掛けには込められていたと思います。

 ノアの演説について
ノアの演説は本作のテーマとメッセージ性をダイレクトにぶつけてきていて、この作品でも一番に好きなシーンです。立ち絵より数段凛々しく美しいノアさんのCGも素晴らしかったです。
序盤から平和主義を掲げているキャラとしては既にアリアンナがいますが、彼女だけでは表現しきれない説得力がこの演説にはありました。ペガサス組の外にいるキャラだからこそ、あの説得力が生まれたと思います。
あそこまでお互いに壊滅的な被害を与えてきた相手に報復せず手を取り合うなんて、正直現実的でないことだと完走した今でも思います。それでも困難な道を突き進むことの尊さを感じました。

 最終決戦について
蛇足と評判の最終戦。蛇姫だけに。これについてはどう評価したものか悩みます。登場後即バトルに移行する辺り、蛇足と思われることも多少分かって作っていると思います。
ギメル戦でアリアンナが神になって勝利、では作品全体がチープになりかねないので、アリアンナの超越が作品に必須であれば、エウリュアレ戦もまた必須だと思います。他に種族の垣根を超えた元気玉やら、石化の解除やら、作品に重要な要素は多く含まれていました(闘争や演説を経験していないトロイ人らを復活させるのは、その後の共存的に非常にマズイ気がしますが)。
と、色々必要である理由については理解できるのですが、結局ギメル戦を最終戦にしていた方が余韻良く終われていたのは明白です。感覚的にはクジャ戦後のペプシマンでした。個人的な考えとしては、怨念だとかで構成された、意思が無く会話も出来ない完全悪の化け物の方が、ラスボスという名の舞台装置としては適していたのではないかなと思います。エウリュアレさんはアリアンナが滅殺するにしては意思も人間味もありすぎました。

私は基本的に滅茶苦茶面白いと感じた作品に対しては加点法で評価しています。そんなわけで細かい(?)欠点は置いといて、ファンタジーを下地に、魅力的なキャラクター達と共存というメッセージ性を全編を通して描かれていた本作は、非常に満足出来る作品でした。

最後に
ノア×ヴェオは至高。CS化した際は店舗特典でも何でも良いので、エピソードの追加をよろしくお願いします。


好感度ランキング
初見
メア>アリアンナ>>ルビイ≧ベルカ
プレイ後
メア(トパーズ≧アクアマリン)≧アリアンナ>ノア>マスター≧ベルカ>カーラ≧ルビイ

男キャラ部門
ヴェオ>ギメル>マークス>ゲゼルマン>ネスター≧ソーマ>レイ>>メイナート


2022/08/18編集:アクアマリンメアのしたたか成分の可愛さに気付いたので好感度ランキング調整