練られた設定が物語を盛り上げるのにしっかり活きている名作
一言で言えば、名作でした。熱さと感動と可愛いがありました。このゲームの一番の売りは、練られたSF設定とそれを活かした騙し合いだと思います。加点法だと100点をつけたくなる出来でした。主人公が本当に色々な可能性について考察してくれるので、プレイヤーが疑問に思ったことの多くが放置されること無く進行していきました。(私が認識している範囲では)矛盾もなく、お陰でシナリオへの没入感がかなり高まりました。難解な設定をプレイヤーに理解させる図解表示と文章力の高さも、大きな助けになりました。また、ループものが陥りがちな、同じ展開を繰り返すようなことが少なく、展開が二転三転してプレイヤーを飽きさせませんでした。
CGは怪しいものもありましたが、刺さるのも結構あったので十分良い方だと感じました。二人乗りと、指挟みキスをするアペイリアが特に好きです。
BGMも、雰囲気作りは十分によく出来ていて、「アペイリア」や「清爽」「偉物」辺りが好きです。ただ、勝ち確シーンに使えるBGMが無いのが残念でした。また、これだけシナリオに力の入ったゲームなら挿入歌が欲しいなと思ってしまうのは欲張りでしょうか。シルプラさんお願いします。キャラソンよりも挿入歌です。
主人公が一部ボイス付きなのは、戦闘シーンを盛り上げる大きな要素でした。文章だけだと『絶剣』のシュールさは表現しきれなかったと思います。シンカーのイケボと合わせて、対峙するシーンはいつもワクワクしてました。
共通ルート
序盤のセカンド内のシーンは正直退屈でした。初めは、現実(ファースト世界)の近未来な世界観が面白く、他作品で言うと『ATRI』みたいな、感情持ちAIとのしんみり系ストーリーになると思っていました。それから一転して安っぽいVRMMOとデスゲームが舞台になり、少し落胆していました。
なにより、絶印のデザイア能力を受け入れるのに時間がかかりました。まず非戦闘時の精液が高コストになるはずないだろ、という性能面が。そして、性能強化のためとはいえあんなに積極的に行為に及ぶ零一君にはドン引きしていました。最終的には、零一が性能厨という前フリが散々あったのと、「VR=非現実という感性が定着した世界観だから」、という考えでなんとか納得しましたが……。あ、絶剣は面白くてわりと好きです。
そんな感じで、序盤の共通ルートは不満多めな感じでしたが、個別ルートに入ってから、正確にはダウトが始まった辺りからの面白さは、止まることが無かったです。
三羽ルート
各ヒロインルートの中でも一番完成度の高いルートだったと思います。三羽の抱えている問題と恋、そして騙し合いの濃密さのどれもが高密度でした。特に三羽の問題についてはTRUEに直結する重要な話でもあるので、このルートの面白さが作品全体の良さにも繋がっていたと思います。
主人公が行動不能になった時にヒロインが頑張る系の展開が大変好みなので、このルートのラストはとても好きです。どうにかして観測したかったです。三羽が壊したのは50階にある02ルームのPCで、シンカーがそのPCにあった01ファイル付きメールを見た可能性がある、という理解で良いですか?つまりシンカーの01ファイルを見た零一と同じ状況だったわけですかね。
ましろルート
ジェットコースター関連や白血病だった未来を、ましろの恋と成長に上手く絡めていました。どのルートでもそうですが、零一君の口説き文句と行動に説得力があることが恋愛パートの面白さに繋がっていました。
ただ、ましろの身体的な問題はバウンダリーIIの事故を阻止するだけで解決するため、全体的にシナリオが平坦に感じる部分はありました。ウィルスの攻略も、アペイリアネットワークの手助け(万能カード)がかなりの割合を締めていましたし。雷霆がもっと熱いシーンの切り札になれば盛り上がれたと思います。とは言っても、謎の解明に近づいていく緊張感は変わらなかったので、十分に面白かったです。
イチャイチャパートも少々退屈に感じてしまいましたが、これは私のましろへの興味が薄かったからだと思います。恐らく。
久遠ルート
親子と病死とタイムリープ、この手札が揃えば当然イイ話になりますよね。イイ話でした。観測者を利用する、というこれまでに無い策を見られて燃え要素も十分でした。
私個人としては、スワンプマン=同一人物説の方に賛同したいところなので、零一の主張は酷だなと思ってしまいました。ですが主張は終始一貫していたので、そこは感性の違いとして処理しました。その意思を貫けたからこそ、ラストのシンカー退場シーンの格好良さにも繋がるわけですし。キャラの思考が脚本に振り回されがちなエロゲにおいて、主張が一貫しているのはとても大きな加点要素です。
そして、肝心の久遠に関してですが、初めに私は久遠さんに謝罪しなければいけません。物語の途中からずっと、久遠が敵で、黒幕(を手伝ってる側)だと完全に決めつけてしまっていました。ダウト後の奇襲や部室からのウィルス発信が、彼女にしか出来ないと思ったからです。そもそもが初対面の時のアペイリアとの会話の時点で疑ってしまっていました。ごめんなさい。三羽の方は完全に信頼していたというのに。
そんなわけで常に裏を探すように彼女を見ていたので、ノイズが混じってヒロインとしてあまり認識出来ませんでした。イベCG絵が可愛かったり、攻めてる時の破壊力は大したものだったので、結構好きなキャラではあるのですが。
ところで、久遠ルートのラストでタクシーを呼んだ時の妙な間は何ですか?何か小細工してましたか?TRUEラストで零一の頭のゴミをとる流れは何ですか?盗聴器ですか? 最後まで久遠への疑念は解消されませんでした。
アペイリアルート(TRUEルート)
アペイリアルートでは、ここからが本番と言わんばかりにシンカーが長々と多世界説を語っていました。普通の騙し合いに使われるような文量ではなく、実際には嘘八百な内容だったので、わりと評判の分かれるポイントのようです。私の感想としてはとてもポジティブでした。
完全に騙す為にSFな新説を語る、というのが中々斬新に感じました。だいたいの作品では、ああいう解説がされる=「真実」な場合が殆どです。それを、これまでの描写(今回で言うとセカンドの時間のズレ)を活かして突破する展開は見事でした。
恋するために積極的に行動するアペイリアはとても可愛かったです。声も勿論最高でした。ただ、アペイリアルート=TRUEルートな作りが影響して、ヒロインとしての全力が発揮出来ていなかったようにも思います。他ヒロインが共闘シーンで活躍してポイントを稼いでいるのに対して、アペイリアは自爆ウィルスで散ったように見えたのが自身のルートの最後なわけですから。勿論普段から活躍度はずば抜けていますし、シンカーの記憶改竄に恋の力で抵抗する描写もありましたが、もっと熱い共闘シーンが欲しかったところです。アペイリアのヒロイン力はあんなもんじゃないと思います。
そして、TRUEのラストは三羽が良いところを持っていきました。クリア後に三羽ルート終盤の台詞を見返すと非常にエモい気持ちになります。本当のことを知らないのに的確に三羽に刺さる台詞を言える零一さんが凄いです。序盤、ゲームでフレンドリーファイアをするのはヒロインだろうと絶許!と思っていましたが、ラストの「もう撃てません」でそれすらも利用されました(流石にこれはこじつけですが)。
他の方の感想を見ると、現実で頑張るシーンを飛ばしてすぐエンディングになったことについての不満が圧倒的に多かったのですが、私的にはポジティブでした。観測者の裏をかいて現実世界へ生誕する、というのがどう見ても最大の難所なので、その後に現実編を長々とやってもダレるだけだと思いました。強敵だったシンカーもいませんし。
ところで、現実世界のファースト装置は何台あったんでしょうか。あんなクソざる警備にするくらいですから、100は軽く超えてるんじゃないかと推測しているのですけど。
好感度ランキング
初見
アペイリア>>その他
クリア後
アペイリア≧三羽>久遠>ましろ≧七海>沙羅
シナリオ補正がかかって、アペイリアか三羽かで1番は未だに揺れています。