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Accord4312さんの夢か現かマトリョーシカの長文感想

ユーザー
Accord4312
ゲーム
夢か現かマトリョーシカ
ブランド
エフォルダムソフトcrown
得点
75
参照数
4906

一言コメント

夢か現か、それが示すのはいったい何か。(散文につき加筆修正の可能性あり)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

というわけで終了。
全体としての展開はほぼ一本道。
途中の選択で最後にイチャつくヒロインが変わるという程度なので、1ルートでもクリアさえしてしまえばあとはとんとん拍子に終了するだろう。
ネット上で危惧された鬱さや凌辱成分というのは、はっきり言ってしまえばそれほどでもない。
まぁ、人の生死とか心の問題とか、そういうのが絡む時点で鬱とか感じてしまう人にとってはそうではないのかもしれませんが。

シナリオについて
先に書いた通り、大まかな流れは以下のような一本道である。

・主人公は、楽しい日常を共に過ごした仲間を失ってしまい、そばには深夜子しか残っていなかった。
 ↓
・そのため、2人は大切な人を呼び戻すという島に伝わる伝承にすがり、儀式の準備を進める。
 ↓
・準備は整うが、儀式が行える時間までまだ時間はあるので、主人公が仲間たちについて深夜子に語りかける。
(物語の大部分はこの回想のお話である。この部分でのヒロインとの仲の伸展によって、最後に寄りそうヒロインが変化)
 ↓
・語り終えた主人公、そして行われた儀式?。
 ↓
・そして明かされる真実。結末へ。

と言ったところか。
正直なところ、一本道なのは予測していたので、予想通りで安心したところはあったのであるが、結末部分の描写が今までの前提を覆すセンセーショナルな物であったことに対して、非常に簡潔過ぎたような気がする。
確かに、内容的にはこれ以上書きようがないのかもしれない。文章の水増しが叩かれる現状を考慮したのかもしれない。でも、あの部分は文章によって水増しすることで却って際立ったのではないだろうか。
近頃は余計な描写を嫌い、機械的に最低限の文章を好むユーザーが多くなったような気がするが、文章は本来簡潔に表現できるものをいかに引き伸ばし、尚且つ本来の意味から違えることないようにすることを美としたのではないのか。冗長な文章となるのであればそれはそれでよくないのであるが、ことヒロインの心情を描くなどといった部分については、単純に短く簡潔に書けばいいというものではないだろう。

以下は各ヒロインについて。
順番は回想順

和田守いすか
物忘れの激しい祖母・鶴代と2人で暮らしながら、借金の返済に追われ悪徳宗教に加担してしまう不幸な少女。
主題となるのは、悪徳宗教との戦いか。
題材としてはなかなか見ない面白いもので、展開は多少強引なところがあったようには思われるがその斬新さを個人的には評価したいと思う。
舞台が都会とは離れた島であることや、主題となる伝承についてもうまく絡めているようには思う。
しかし、鶴代さんの物忘れ設定が後半になるにつれ放置されているような感じだったのは納得いかなかった。インパクトを付けるために最初の方で過剰に描写しすぎたのだろう。

椋汐浬
母のような海女になることを目指し、日々海に潜る引っ込み思案な少女。
健康的に焼け、水着跡の残る肌は素晴らしいエロスだと思います←
話の主題は、夢とトラウマ。
幼少時のトラウマから暗闇を嫌うようになってしまった汐浬だが、この島で海女になるためには夜の海に潜って試練を突破せねばならず、そのトラウマをどう克服するかということが中心に描かれているだろう。
先のいすかとは打って変わりよくある形のシナリオへ。
しかし、無難に無難に描かれていたこともあってこのシナリオについてはとくにいうことはなし。
若干トラウマの動機や克服の理由付けが弱く、これじゃあ最初からトラウマなかったんじゃね?と思いかねないのはまぁ、さておき。

柳浦凪
いつも元気でハイテンション、休日はボランティア活動に打ち込む天真爛漫な少女。
若干ダウナー系が多いように思われるこの作品の登場人物の中で、その明るさはずば抜けているともいえる。
話の主題は少々カッコつけていえば、呪縛からの解放、といったところか。
彼女の明るさに潜む影、親友である園山葵との関係に見える小さな綻び。
この部分については是非ともやった上で初めて中身を知ってほしいと思うところがあるので、直接なことは書かない。
だが、「明るいヒロインというのは本人が何も言動を変えていなくても、周りの環境が変わることで癒しの存在にも狂気の存在にもなりえるのだな」ということだけは記しておきたい。
また、この回想のラストシーンについても突っ込みどころあり。
その設定でなんであんな文章を遺せるのだろう?

祝部深夜子
主人公の世話をひたすら焼き続ける、若干電波の入ったようなダウナー系少女。
その流れるような黒髪は美しく、メインヒロインとしての貫録がうかがえ(ry
他の三人とは異なり、深夜子は基本的にずっと主人公のそばにいて行動しているので、最初から彼女自身に太降り注ぐ問題が描かれ始める。
主題となるのは、「家と自身」。
名家の娘である深夜子が、自分の家と戦うというオーソドックスなお話。
であると同時に、ここまでで主人公と深夜子で問題を救ってきたヒロインたちとの絆の深さがうかがえるといえるだろう。
この回想については、題材自体がそもそもこのような物語で扱うには突っ込みどころがありすぎるのが定番なので割愛。
ただ、一般的にこのような物語を扱う作品のものと比べて、特段違和感のあるようなものであるとは感じなかったように思う。

以下は、その他の部分について。

システム
悪くはない。ノートPCでウィンドウプレイ勢の自分としては、画面サイズを自由に変更できるのはありがたいところ。

音楽など音系全般。
BGMはシナリオの空気にあったBGMであり及第点。
しかし、基本となるボイス音量が小さいためか、プレイ開始して速攻音量調整に走る羽目になったのはマイナス。
体験版部分ですでに明らかになっていた問題点だけに、何とかしてほしかった。どうにもならないにしても、なにかで来たのではないかと思うのだが。

CG面
危惧されたような薄目、絵の崩れについてはあまり感じなかった。
せんむ氏の絵のために買ったこともあってこの点については満足以外の言葉を述べる必要もないだろう。

Hシーン
薄い。各キャラ2回×4。
正直、シーン数には期待していなかったのでこんなものかということはあるが、目当ての方は注意。
あと、先にも記したように、ネット上で危惧された凌辱描写などは一切なかったので、そこを理由に購入を敬遠された方はご安心ください。

総評。
ネタバレは極力したくないので真相となる部分については大まかにぼかした中身のない文章となったが、ゲームとして書き記すことは大体書いたと思う。
ライターの坂上椋氏は、恐らくこの作品がゲームシナリオのデビュー作であるように思われるが、非常に文章そのものは丁寧に書くライターさんのようで、読んでいて不快に感じることはなかったし、短いとはいえこれだけの文章を一人で書ききったのは高評価に値する部分だと思う。展開やウエイトのかけ方のバランスに少々違和感を感じたという点についても、氏なら今後次第で何とかなるようにも感じられたので、氏の今後の作品制作に期待するばかりである。

また、一言に記した、「夢か現か」が記すものとは。
それについては結局のところ、この物語自身なのだろう。
生憎、表現力に欠ける私ではそれについてうまく説明することが今はできそうにないので機会があったらここに書き足すことにしたい。
そして、タイトルに含まれるもう一つの言葉、「マトリョーシカ」についても、この物語の構成をうまく表しているのではないか。

拙文ではあるが、これにて感想を終えたいと思う。
今回のこの作品は、決して高評価を得られる作品であったとは言えないのは、割と高評価を下した私であっても言えることであるのは間違いない。
しかし、シナリオ、原画の両氏の見せる魅力の片鱗というのは十分にうかがえたと思われるので、両氏の今後に期待を寄せるのみである。