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Accord4312さんの木洩れ陽のノスタルジーカ -Raggio di sole nostalgico-の長文感想

ユーザー
Accord4312
ゲーム
木洩れ陽のノスタルジーカ -Raggio di sole nostalgico-
ブランド
STREGA
得点
90
参照数
2416

一言コメント

――それは、とても綺麗で優しい、感情の物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

キャラメルBOXにおいてその独特の絵柄でファンを集めている原画家:のり太氏と、「おとボク」シリーズに代表されるような個性的である種排他的ともいえるような世界観を、豊富な知識に裏打ちされた緻密な文章によって紡ぐシナリオライター:嵩夜あや氏。
この二人をその代表として、衰退の方向に向かっているとも言われて久しいエロゲー業界で新たに旗揚げされたブランド「STREGA(ストレガ)」が世に送り出す第一作が、その独特な世界観の構成を存分に発揮したこの作品である。

「空想科学組立少女アドベンチャー」というジャンルで紡がれるその物語は、一言で表すとすれば、それは表題の意味合いで綴った一言感想に書いたとおり、「とても綺麗で優しい、感情の物語」となるだろう。

機械(=メトセラ)と人間が「二年戦争」の終結を機に共に歩む新しい社会を築きはじめてからおよそ50年、学園に通う主人公たちがその「二年戦争」の余波によって学園内に隠蔽されていたヒューマノイド、「しねま」を発見し、主人公の妹である朗が保護を決めたことから物語が始まります。
共通部分では50年前のヒューマノイドであるが故にちゃんと動作しないしねまを動かすために、主人公を中心にコンピュータなど様々な長所を持つ仲間たちで奔走することになります。
そして、共通終盤から個別ルートにかけてはキャラ一人ひとりの想いなどについて描かれることになります。

各キャラクターの個別ルートについて。
自分はフロゥ→一姫→朗→カヤの順番で攻略しました。理由は単純で、カヤが一番好きだったから最後に回したかったことに過ぎない。それ以外のキャラは気の向くままにだったりする。しかし、(カヤがとにかく可愛くて仕方ないという個人の愛はさておいて)物語での重要度というか、盛り上がりから考えると、その逆順であると言える。
また、作品全体において「しねま」とそれを創り上げた「店長さん」という存在は非常に重要な存在となっており、特にしねまはヒロイン次第でその差はあるものの主人公との間を取り持つ重要なキャラクターとなるので、しねまを気に入らない方は苦痛なのかもしれない(そんな人は買わないであろうと言うことはあえて触れないことにする)。

カヤルートについて。
絶賛する予定であるこのレビューにおいていきなりこう書くのはどうかとは考えるが、ごく普通の慎ましい幼馴染の物語であり、物語の中心部にはあまりかかわりのないシナリオといえるだろう。主人公との過去の出来事を機に恋心を抱くようになったカヤと主人公が、近すぎてつかめない距離感に翻弄されていく。また、今作で一番「過去の記憶」、「郷愁という想い」を大切にしようとしており、主題には一番沿おうとしているヒロインである。しねまとの関わりはほかのキャラクターに比べては多くなく、店長さんに関する描写も少ない。

朗ルートについて。
物語の始まりを呼んでくるヒロインという位置づけとは裏腹に、その中身は全体の物語の中心部には関わってはいるもののその一部的な役割を満たす程度のシナリオであったと言えるだろう。中身としては前半部分は最近の妹キャラのスタンダードとも言えるような「ダメ妹」である朗と主人公の仲睦まじき兄妹がその先に踏み出すことへの戸惑いと葛藤を、後半部分は朗の母であり世界的なプログラマーである篝理への挑戦というものを中心に天才ゆえの脆さと思考の多様性について描いている。また、しねまと「店長さん」とはどのような存在であるかを垣間見ることができる。

一姫ルートについて。
序盤での扱いが決して高くなかったことや、物語開始時の主人公たちとの距離感とは裏腹に、物語の中心部に深く関わる部分を持ったシナリオであったと言える。中身としては「二年戦争」を機にそれぞれの思惑で動着続ける人々との関わりから、機械と人間の思考の差、ひいては根本的な差を浮き彫りにしながらもその歩み寄りを描いていると言え、このルートは後述するフロゥルートとの関連性もあると個人的に考えている。しねまや「店長さん」との関わりは、しねまを巡るトラブルを機に「店長さん」と呼ばれる人物の考えに触れることができる。余談ではあるがヒロインの中でも一番知的な会話をするヒロインであり、これも後述するがライターの紡ぐ知性を感じられる文章にマッチした言動をするヒロインであった。

フロゥルートについて。
主人公たちの仲良しグループの中で唯一の「メトセラ」の少女である彼女のルートは、4人の中で最も物語の核心に迫ったシナリオであったと言える。メインのシナリオについては先述した一姫ルートの流れと大まかな内容の変化はないと言えるが、一姫を「人間側」の物語とするならばフロゥはその対極の「機械(メトセラ)側」としての物語として描くことになる。しねまと「店長さん」との関わりについては、「店長さん」という人物がどんな人物であるかということを中心に、二人の隠された部分について触れることになる。また、一部先述したことと重なるが、このシナリオが一番大団円に近いような結末となっており、だんだん盛り上がる形で物語を堪能したい人にとってはぜひフロゥを最後に回すことをおすすめしたい。

そして、この四人を攻略することで、ゲームのスタート画面に「エクストラストーリー」の部分が出現する。そこから入ることのできるエクストラストーリーで、この物語のそもそもの始まりとその結末、そして物語に込められた意味を知ることができるようになるのである。(この部分については、何かを書こうと思うと稚拙な私の文章力ではネタバレに直結してしまうので、何を今更そんな心配を、という方もいるかもしれないが私からの記述は控えさせていただきます。興味の出た方は製品版をお楽しみください)

次に、シナリオ全体についての個人的な感想を書きたいと思う。
これについてはあまり私に求めている方もいないであろうので、簡潔に書かせていただきたい。
全体として、暗い展開は少なく、どちらかといえばライトな雰囲気で物語が進んでいくので入りやすいという反面、その独特の世界観の構成ゆえの「特別に設定された言葉」や専門用語の解説を含めていく文章は、慣れない人には馴染み辛いものであったと言えるだろう。しかし、これはライターである嵩夜あや氏の紡ぐ文章がとても優しく書かれているように感じさせるため、幼き頃に宿題でわからない部分を優しく丁寧に教えてくれる親のような感じで触れ合うことができ、個人的には全くマイナスな部分にならず、むしろプラスにも働いたと言える。
物語の展開も、その優しい世界がプレイヤーである私をも包み込んでくれるようで、不覚にもエロゲで数年ぶりに涙してしまった。

システムについて。
システムは、スキップ機能やバックログ機能はもちろんとして、直前の選択肢に戻るという機能もあるなど、十分なシステムであったと言える。スキップの速度も速いとまでは言えないが遅くはないレベルに合ったように思う。
欲を言えば、おとボクシリーズのように「次の選択肢に飛ぶ」という機能も欲しかったと思うが、共通ルートは何度でも読みたいようなおもしろさであったため、個人的には別段苦にはならなかった。
また、私自身はそう感じなかったが、個別にボイス音量を弄るのがなかったのは、主人公の声を不要とする人によっては不満点に上がるだろう。

ボイスについて。
概ね問題はなかったと言える。特に不快と言えるような声優チョイスなどはなかった。
しかし、先述したように主人公がパートボイスであることに不満を抱くユーザーもいるだろうし、一部ボイスの音量がほかと異なっていたり、セリフ2つ分のボイスが一気に再生されるなどという不具合もあるようなので、修正パッチによる改善を期待したい。

絵について。
のり太氏の絵がイラストレーターの中で三本の指に入るほど好きな私が感じた通りに書く事が果たしてレビューとして良い影響を与えるのかはさておきとして、2人のエルダーで見たときよりも格段にレベルアップしているように素人目でも感じられる。特に、エロさのレベルアップについては著しく、「エロシーンで抜けない」と評されたキャラメルBOX時代の評価を完璧に覆していると言っても過言ではないだろう。
ただ、独特の描き方ではあるせいか、人を少し選ぶかもしれない絵であることは変わっていないのかもしれない。

音楽について。
OP、ED、挿入歌ともにこの優しい雰囲気に合わせた曲であったと言える。
シナリオをメインで書いている嵩夜さんがディレクターを兼任していたこともあるのかもしれないが、挿入歌のタイミングが抜群に良く、涙腺を緩ませてくれた。

最後に、この作品について。
全体を通して、無理な風呂敷を広げずに綺麗にまとめ切った物語で、最近「コアな作品ばかりやっている」と人によく言われる(自分自身では全く自覚がない)私の中では、割と万人に勧めやすい作品と言えるだろう。
そして、書くタイミングを逃してしまったのでここに記すが、この物語のもうひとつの側面として、「映画から見る人間の心の具現」というものが挙げられるように思う。
「店長さん」という人物が映画をこよなく愛しており、しねまもその「店長さん」に付いていたことから、様々な実在の映画が物語中に登場し、キャラクターの心情を表現したりその変化を後押しするという重要な役割を担っている。
映画についてあまり強く興味を示したことのない私であったが、影響されやすいというのかなんというのか、作中で登場した映画は見てみたくなってしまった。
今度レンタル店に行ってみる予定だが、その作品がなかったらきっとこのゲームをやった同志がかりていったのだろう、そう妄想することにしよう(笑)。

(おまけ)
以下に、各ルート終了後のメモ書きを引用しておこうと思う。散文そのものではあるがネタバレを多く含むので、見たい方だけが見て欲しい。









































フロゥルート
・恋愛する感情とは?
→すなわち「愛」とはなんなのか?
 →規格的にしか動くことを許されない機械に「愛」という感情の可能性はあるのか?
・人間にとっての機械とは?
・人間の感情は、どのように規格化できるというのか?

一姫ルート
・「明確に現せない」ということは果たして悪いことなのか?
→人間らしさと機械らしさの差がそこにある

朗ルート
・普通の兄妹モノ。
・完璧であることが全てなのか?
→必ず問題は解決しなければならないのか?
 →できないものがあってもいい?

カヤルート
・幼馴染の定番
・「愛する」ということはつまりなんなのか?
・過程がわからなくても結論を出せる人間、過程なくして結論なしの機械

trueルート
・ノスタルジーカ
・前を向くためには後ろがなければならない。