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628BさんのWHITE ALBUM2 EXTENDED EDITIONの長文感想

ユーザー
628B
ゲーム
WHITE ALBUM2 EXTENDED EDITION
ブランド
Leaf
得点
100
参照数
343

一言コメント

恋愛ADVの至高

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

三部構成となっておりIC・CC・Codaの三章があり、高校から社会人までを追っていくことになる。主人公は癖のある人物ではあるがその人格形成の背景には作中では掘り下げられないが複雑な家庭環境に基づくコンプレックスや歪んだ承認欲求があり、読み込むとなぜ彼が沼に嵌るのかはわかってくるため個人的には不快な主人公という印象ではなく可哀そうというほうがしっくりくる主人公であった。メインヒロイン二人はそれぞれ個性もしっかり分けられており、そしてどちらもめんどくさい人間で二人のどちらかで好みが分かれるが、好みに関係なくシナリオは楽しむことができる。二人との関係の終着点であるCodaでのルートは登場人物全員に明確な意思・一貫性を感じられるので没入感もあり、その分責められる瞬間などの辛さも大きい。様々な感情を直にぶつけられる感じがある。ただ、好きなヒロインのルートを最後に持ってくるべし。CCの三人のヒロインに関しても個別は非常に読み応えがあり、面白い。個人的には小春ルートは特に完成度が高いと思う。自分は雪菜派なのでアフターストーリーがうれしかった。

以下は冗長でしょうもない雑記。

春希にとってかずさが運命なら、雪菜は理想。

例え、倫理規範に反する行為だったとしても、彼は周りに応えないのが怖い。親から認められず社会に認められるしか無かった彼にはそれしかない
春希は最小の社会たる家族という世界が壊れてしまっている。だからこそ、彼はさらに広い世界に依存する。一方で、家族を切望している。愛を切望している。だから情愛に流される。

彼は尽くし続けることで相手に求められることを自分自身のアイデンティティにしている。そして、母性を求める相手、家族を求める相手、父性を向ける対象に『捨てられた』と思うと壊れてしまう。それは親の離婚の時の苦しさを思い出すから。問題解決することを通して、今の自分なら親の離婚という苦痛を変えられるという思いが否定されるから。
そして『家族』を『愛』を切望し、信じつつける彼は。ただ恐れる。自分も親のように自分でそれらを壊してしまうのではないかと。

春希はコンプレックスの塊。ひたすらに、春が来るのを希い続ける。自ら足掻いて、でも怖れて。
『こんな一枚の葉もつけない枯れた木』こそが彼の心象。春が来るのを待っているのに、心では諦めてしまっている。雪菜には家族、母性を求め続け、自らの世界を正しい形へと変えてもらう創生を希う。だが春希にとっての。春希だけの聖女である彼女を傷つけたことへ自罰し続ける。そして進めない。かずさには運命を感じ、欠落した自分を埋めてもらいたいと。一体化を求める。ただ、あまりにも運命を感じてしまったからこそ、彼女から向けられるかもしれない母が自分に向けるかのような無関心を怖れて踏み出すことが出来ない父母を分けた『住む世界の違い』を怖れて進むことが出来ない。

春希には麻里が言うように『叱ったあと、許しくれる』存在が居なかった。だから自分でその役を演じていた。ただ、本当に求めていたのは、優しいけれど本気で自分を心配してくれるような母親で、厳しいけれど本当は自分に深い愛を向けてくれる父親で。でも、それはどうしても自分には無いもので。辛くて、悲しくて、挙げ句の果てには諦めた。そして自らの優しさを歪めて、膨らませ続けた。でもそれは代償行為に過ぎなくて。本来、決して報われないもののはずだった。でも、切望しているそれを持っていて、それでもって自分をひたすらに優しく包み込んでくれる雪菜に憧れ、惚れた。そして、いつか、自分の『叱った後に、許してくれる』人。本当の家族になってくれるのではないか、と甘い、甘い願望を抱いていた。一方でかずさは春希にとってはファル・ファタルで。自分の歪んだ優しさを一身に受け取ってくれる人だった。

かずさから『大きな社会』との接続点であるピアノをとっても母は残るし、彼女の本当の父親?である師匠も、彼女の周りのオフィスの人たちや使用人家族はみんな彼女のことを優しく見守ってくれる。

雪菜から『大きな社会』との接続点である歌や会社、偶像という概念をとっても家族や衣緒は残るし、歌と偶像をとればむしろ友人は間違えなく増える。

でも、春希は。春希だけは『大きな社会』との接続点である会社を学校をとってしまったら彼はただの欠落した人間になってしまう。

答えを出すことを恐れ、自分にも他人にも何もかもに背き、誤魔化し生きていくノーマルエンド
社会から目を背け運命に縋り、たった一つの答えと一人に依存し続けるかずさ√
運命と決別し、切望である家族を得て優しい世界の中で歩んでいく雪菜√
自分を見つめて罪を背負って、背負わせて、それでも助けられ社会の中で足掻く浮気√

春希という悲しい欠けた人間の生きざまに対する答えがCodaだったのでは、と個人的には思う。