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ざとさんのさくらさくらの長文感想

ユーザー
ざと
ゲーム
さくらさくら
ブランド
ハイクオソフト
得点
95
参照数
483

一言コメント

10年くらいエロゲーやってきて、純愛系で一番おもしろかったです。

長文感想

4/7追記
理由を少し書いてみようかと思います。

「さくらさくら」は純愛路線のADVで、三角関係のドタバタな恋愛模様を描くエロゲーです。売りは焼きもち・ギャグ・楽しい雰囲気といったところでしょうか。
基本的にはライトユーザー向けの作品であり、万人受けする内容と言えるでしょう。
全体として楽しい雰囲気を大切にしており、じっくりとシナリオを楽しむといった方向のゲームではありません。何も考えずにプレイしましょう。

本作においてまず特筆すべきは、ゲーム全体としての楽しい雰囲気の表現が大変に上手いという点です。ここが私がこの作品をこんなにも評価している一番の根拠ともいえます。
そしてこの雰囲気の構築のために用いられている手法が秀逸で、製作者のセンスの良さを感じます。
具体的には、まずテキストの中に心理描写などの文章的な表現が極端に少なく、物語が会話中心で展開してゆくことです。これによりゲーム全体のテンポが非常に軽快で、流れるようにゲームが進んで行きます。
かといって、心理描写が疎かになるかといえばそんなことはなく、登場人物の表情やしぐさ、さらには台詞回しや声色によって、とてもリアリティをもってプレイヤーに伝わってきます。
これはゲーム全体としての演出面の丁寧さと、ライターの書く台詞のセンスの良さ、さらには声優さんの高レベルの演技によって実現されているもので、これらのどの部分が欠けていても本作のような水準は実現できないでしょう。
登場人物の心理描写というのは、何もすべて文章で表現しなければならないものではありません。本作のように視覚的・聴覚的に表現することもできるわけです。
そしてそれはおそらく、文章のみによる表現よりも、より豊かな表現としてプレイヤーに伝わるものあると私は信じて疑いませんし、ゲームという媒体を用いてのエンターテイメントとすれば、それこそが自然な表現なのではないかと思います。
この点において、本作は非常に高い水準でこれを実現させており、この意義はとても大きいのではないでしょうか。

そしてこの心理描写を文章によって表現していないというメリットは、意外なところでも発揮されます。
それは、ライターの価値観の押し付けを防ぐという側面です。
エロゲーをはじめたばかりのころはあまり気にもならなかったのですが、最近気になってしまうのが、シナリオライターのテキストからにじみでる価値観や哲学です。
ライターも自立した個人ですので、それぞれが信じる哲学を持っているのは当然のことですが、それがどうしてもテキストに現れます。人間とは今まで見て学んで考えた成果が、自らの血となり肉となって人格を形成するものです。結局はそれらが現れるのは自然なことでしょう。しかし、その価値観に共感できないことは、ある程度価値観の固まった大人どうしではよくあることです。
この部分の相違が、いわゆるテキストの合う合わないという要素の根源的な部分ではないでしょうか。
本作のように会話中心で物語を展開しつつも、心理描写は視覚的・聴覚的に表現した場合、そういった摩擦が起こることを回避でき、万人に受け入れられやすい作品になります。こういった側面でも、さくらさくらは成功していると言えます。

本作は笑いにおいても私にとても合っていました。私はバカゲーが大好きな人間ですが、無駄にパロディを使ったりして笑いをとりにくる作品が好きではありません。
本作はあくまで自然な会話や、物語の展開の中で生まれる笑いを軸にしているため、「これは何かのパロディなの?」と思わせられるモヤモヤ感がなく、とても楽しめました。

近年、エロゲーの属性の多様化は顕著であり、さまざまな趣向のユーザーがそれぞれに合うエロゲーを探せる時代になったと私は感じています。
そんななかで、本作のような楽しい雰囲気を売りにしているゲームというのは意外にも少ないと感じているのは私だけではないはずです。
重厚なテキストや、伏線が張り巡らされた巧みなシナリオ。そういったゲームをオールクリアして感動した!そうくるか!面白い!当然これは需要があるでしょうし、読後感も心地よいものがあります。ですが、別にひたすら長いゲームをオールクリアするような時間もないし、ちょっと楽しい雰囲気を味わいたいという需要も確かにあるはずです。少なくとも私は後者寄りで、別に最後までやらなくても楽しそうな、もしくは短めの作品を狙って購入しています。
そしてこの需要を満たしてくれる作品は、こと純愛系作品に関しては少ないです。
その意味で本作は貴重な作品といえますし、実際に私をとても楽しませてくれました。
本作はサイドストーリーが豊富で、シナリオに占める割合も大きいです。ですが、このサイドストーリーを読むか読まないかはプレイヤーの自由であり、そのイベントを読まなくとも物語は進行できます。これがゲームという媒体の良いところで、例えば小説などであれば、前後のバランスをとりながらサイドストーリーを挿入することで、シナリオに深みを持たせられますが、それは逆に物語を冗長にしかねません。エロゲーでも一本道のシナリオがありますが、ああいった作りはゲームという媒体の利点を活かせていないと思います。
こういったサイドストーリーの多い構成にしたことに関して、意見は様々でしょうが、私はこの点は大いに評価しています。
各所に遊び心が多く、製作者が情熱をもって作品をつくっていることが伝わってきて好感が持てました。何よりプレイヤーを楽しませようという雰囲気があります。

さくらさくらは前述したように、基本的には初心者向けの、万人受けするエロゲーなのですが、ある程度エロゲーをやってきて、なんだか最近テキストを読むのも疲れたなと言う方。
なんだか最近、抜きゲーしかやってないな・・・。昔は泣きゲーばっかりやってたのになと言う方。
実はこういうユーザー層にこそ私はさくらさくらをお勧めしたい。きっと何か感じるものがあるはずです。