絵23+文19+音22+他28 普通や常識からの卒業と見るなら、『沙耶の唄』辺りが持つイメージに近いように思えた。けれど、『沙耶の唄』のように愛について語るような余地を、一ミリたりとも用意していない辺りは、エロゲーとしては斬新なのかもしれない。
*映像面・・・
はましま薫夫を始め、安定した原画。
スタッフコメンタリーにもあるが、背景画を実写加工素材で済ませた分、その質感の
マッチングを意識した実写寄りのデザインなどが見て取れる。
また、フルプライスゲームとしては、実写加工素材の使用というのは、かなり稀で、
それを手抜きと言わせないだけのCGのクオリティも維持されている。
今回の作品は、企画・原案ということで、もちろんはましま薫夫が肝の作品だったと
は思うのだが、個人的に特に目を引いたのが彩色だった。
主人公の肌や、ヒロインの身体の暗部には、テクスチャともノイズともいえるような
まだら模様がうっすらとオーバーレイされている。
私は、『euphoria』をプレイしていないし、近年のクロアプ作品をあまりプレイして
いないので、こういった質感の塗りが恒常的に用いられているのかは知らない。
しかし、本作のグラフィックチーフであるPONSUKEが携わった近年の作品でも、同様
の試みが用いられていた。
『待雪の花 ~snow drop~ (nostalabel)』という作品だ。
『待雪の花』のそれよりは幾分も大人しく目立たないテクニックだったが、作品の持
つイメージや、背景との質感を繋ぐ効果として印象的だった。
*シナリオ・・・
多用されるザッピングによって、あまり強い悲壮感が得られず、やや散漫になってし
まった印象が拭えない。
シーン毎や、ヒロイン毎の、その時々の情景を考えれば、かなりハードで鬱々しくも
あるのだが、前段としてのキャラ描写が、ストリーもののエロゲーとしては、かなり
省かれている為、どこか他人事めいていて響いてこない。
これは、エロシーンの大部分を担当した神堂劾も、自身でも言っているのだが、ただ
悲惨なシーンを見せられているという感覚で、やはりどこか他人事な感覚なのだ。
https://twitter.com/midougai/status/490188055743959040
https://twitter.com/midougai/status/490188704774770689
しかし、この物語は言ってしまえば、「誰かの幸せなんて、他人が知りようもない」
という事を痛烈に見せつけてくる作品でもある。
それは言い換えるなら、「誰かの不幸なんて、他人が知りようもない」でもあるので
あって、物語の中のキャラクターに感情移入するという読み方をしたいユーザーを、
あえて突き放すようなストーリーであり、そういった感情をぶつ切りにするように、
ザッピングを多用しているのかもしれない。
ただ、鬱勃起して泣きそうになりながらオナニーしたい層にしてみれば、物足りない
内容だったであろうし、救いのない物語の中から僅かな希望を見出したかったユーザ
ーにしても、同様に物足りない作品であるのは間違いない。
普通や常識を否定するようなこの作品。
同じように常識を否定しつつ、一方で大き過ぎる愛にも似た包容力を感じさせる『沙
耶の唄』のような部分があれば、また評価は違っただろうか。
だが、それよりも、ここまで徹底してユーザーを物語の外に追いやって、ただの傍観
者に貶めた演出により、自分と他人を隔てる壁を思い知らされるような後味の悪さを
味わった。
このゲームに、一片の希望があるならば、それは愛の「ありがとう」という言葉であ
ろう。
しかし、その希望すらも、その言葉が届くこともないという絶望の中にあるというの
が、この物語の実に悲しい部分であり、突きつけられたある種の現実の厳しさであろ
うか。
*音楽/声優・・・
音楽では、『仰げば尊し』の持つ清涼で厳粛なイメージと作品とのギャップが、最大
の聴きどころだろう。
過剰にドラマチックさを演出しない為か、その他のBGMは全般的に控えめな印象。
見事なのは声優陣の演技。
好みの声質のキャスティングが多かったこともあるが、イラマチオやリョナ、食糞シ
ーンなど、嗚咽を含んだシーンは、尺もそこそこにあって聴いているコチラが過呼吸
になりそうなほどだった。
凛とした優等生的なキャラが自己に陶酔しながら堕ちていく様を、見事に演じていた
手塚りょうこの演技に、改めて惚れ直した。