ErogameScape -エロゲー批評空間-

えびさんの恋の話との長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
恋の話と
ブランド
I.D.
得点
65
参照数
2098

一言コメント

絵21+文17+音21+他06 村下孝蔵は初恋を『ふりこ細工』に例えました。初恋に揺れ動く感情を切り取った、見事なフレーズです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

*音楽/声優・・・
音楽は、RoundBoosterArchitexture。
歌物もBGMも担当しています。
歌物は、『初恋前線。』のテーマ曲が特に良く出来ていたので、それに比べると、ち
ょっと曲が地味だったりします。
しかし、ポップスらしい耳障りの良いサビと、全体的にちょっとオールディーズなア
イドルポップといった感じの『Dear My』。
作中でアカペラVer.も使われていた『BACKSPACE-ENTER』や、手塚りょうこの歌唱曲
である『Circulation』などは、ちょっとクラブサウンドっぽさをエッセンスに添え
た、倖田來未とか浜崎っぽい、言っちゃえば売れ線なavexがお得意そうなサウンド。
この二曲は、作中で人気歌手でもあるヒロインが歌っている曲なので、そういう面で
見れば的を射ています。
悪くないっちゃ悪くないのですけど、どうもそういうのが売れているっていうのが、
もどかしくも感じるのは、私の我侭でしょう。
もう一曲、手塚りょうこが歌っている『STEP~おなじ歩幅で~』。
これは、もうちょっと歌唱頑張ってください、とだけ。

声優陣では、千歳役のshizukuの演技が印象的です。
>>
千歳 「(ふるふる)……」
<<
というような、発音の指定のないセリフに、子犬が尻尾を振りながら駆け寄ってくる
ような演技をしているところが、キャラの小動物的な可愛さとマッチしており、なか
なか憎い演技です。

そして、手塚りょうこ。
歌唱の方は、まだ勉強中といった感はありましたが、声の演技に関しては、とても好
印象です。
重苦しさはなく、かと言って、テンションが上がるようなアッパーな声でもありませ
んが、耳に残る声で、また、余韻が柔らかく聴き心地の良い声質ですね。


*映像面・・・
企画・原作でもある、龍牙翔による原画。

今回は、特にこの龍牙翔の原画が冴えまくっており、『初恋予報。』ではチラホラと
見られたアンバランスさはほぼ感じられません。
また、おっぱいの形には強いこだわりが感じられ、巨乳もひんぬーも含め、美乳揃い
の原画にいい目の保養をさせていただいたと感謝するばかり。

特に、花ルートはエッチシーンが多めなこともあり、存分にその威力を見せつけてい
たと思います。

『初恋予報。』では、ヒロイン達の笑顔が印象的な一枚絵が、それぞれのヒロイン毎
に何点か用意されており、それがとても印象的でした。
本作では、そういった部分はやや鳴りを潜めていたりもするのですが、早苗ルートの
夜桜をバックに早苗が微笑むシーンの、ドキリ、とするような出来栄えは、このブラ
ンドの最大の武器だろうと思いました。


*シナリオ・・・
複数ライターにありがちな凡ミス。
複数ライターだろうがなんだろうが、「それは無いだろ!」というボケ倒し。

様々なツッコミどころがありました。

そして、主人公の、サトリという、チート能力!!!

あらゆるツッコミは、この作品のエッセンスとなり、『笑い』あり『笑い泣き』あり
の、大変楽しい作品になっています。


**花ルート
花ルートでは、共通パートの花エピソードで、昼食を一緒に食べます。
この時、花がお弁当を作ってきて料理上手だったりする件があるのですが、攻略確定
後の個別ルートの冒頭で、再び、同じ展開が繰り広げられます。

棒読みちゃん
「桜川サン、オ弁当、自分デ作ッテルノ? 料理上手ナンダネ ワラワラ」

それまでのせっかく良い雰囲気も、ループものみたいな既視感でクラクラしてしまい
ます。
そう言えば、この作品、
『プロローグが終わった後、再びプロローグが始まる不具合』
という、初期バグがあったりするのですが、そんなところに伏線があったのか(違

そして、花ルートのラストは、それまで積み上げてきた小さなエピソードも何もかも
かなぐり捨てての『ぶっ放し』としか言い様がない急転直下の様相を見せ、まさかの
主人公不在のまま事態は収束するという……。
この一連のシーンは、青春な熱血っぽさに溢れていて、キャストの演技も熱が入って
おり、それに対して全く盛り上がらないプレーヤーの冷め具合との温度差が、逆にす
ごいと、私の中で絶賛の嵐。


**千歳ルート
ある意味では、期待に胸を膨らませながらプレイした千歳ルートは、案外、するする
と引っかかりなく進んでいき、花ルート同様、やはりなかなかに雰囲気が良いなぁと
いった感じ。
ところが、やはり、きっちりと仕込みはされていました。

あまりにも突然な、『 海 外 の 研 究 施 設 』からのお誘い。

確かに、千歳は天才肌という感じはしていましたが、そういった事を仄めかすような
描写はほとんど無く、また、どう見ても普通レベルの共学の進学校。

おぉ、一体、何を、研究するんだ?

また、これはライターのセンスに恐れいったのですが、このどう見ても庶民的な学校
の学食で、『そば湯』が飲めるというのだから、まったくもって給食業者の企業努力
には頭が下がります。

そして、例のベタ中のベタである『海外の研究施設』からのお誘いの件。
こういった展開の場合、二つの選択肢があると思います。
「夢は諦めちゃだめだよ」とか言って相手を送り出して、数年後、再開してハッピー
エンドという選択肢。
「ボクが努力すればいいんだ!」とか言い出して、猛勉強の末、一緒に海外まで行っ
ちゃう選択肢。
で、千歳が何の研究をしたいか、海外って何処?っていうのが、一切、説明されてい
ないままに、後者の選択肢を選んでしまうという、情熱の迸り具合は、
「いくらなんでも、そりゃねーだろw」
と、ちょっと笑ってしまうようなラフさ。
ただ、それが一周して逆に潔いとすら思える程に、この作品の持つ独特な雰囲気に飲
まれていて、「ダメな子だけど可愛い」というような風にすら思っていました。


**早苗ルート
正直なところ、前二つのルートに比べれば、割合とすんなり物語は大きな違和感もな
く進み、さな姉のちょっとウザったい部分も、まあ、それ程ではなかったりもして、
要は普通に楽しめたルートです。
ベタベタな展開でも、ちょっとウルッとさせられる部分もあったりして、一方で、や
っぱり無難な感はあって物足りなくも思うのですが、これはこれでいいんじゃないか
な、と思える程度には落ちつけたのではないかと思います。

ただ、このルートでビックリしたのは、早苗自身も、主人公の父親も知らない、早苗
の母親が抱えていた爆弾だったりするのですけど、まあ、そこは作中でもネタ程度に
扱われているので、ライターの遊び心と見過ごしておきましょうかね。


**あゆなルート
もうね、ツボだったんです。こういうキャラ。
でもね、個別ルート入ってから、ひどかったんです。

これは、早苗とあゆなが創を取り合って、でもちょっとじゃれあい気味な修羅場シー
ンの一幕です。
>>
あゆな 「……私、創君から好きだ、って言われてないんだけど」
創 「……そうでしたっけ? いえ、普通に大好きですけど?
   言いましたよね……って、ああ」
そう言えばウヤムヤにしちゃったんだっけ。
だけど……。
創 「……なんかもう、どうでも良くないですかそんなこと……?」
俺はあゆなさんもさな姉も大好き。
<<
ドタバタな展開でした。
でも、どんな状況だって、「好き」と言う事を「どうでも良い」とか言ってしまう主
人公を許せますか?
プレイヤーが、製作者の狙い通りにヒロインに萌えて「可愛いなぁ」と思っていると
ころに、こんなセリフで冷水を浴びせられたら、主人公に殺意を覚えるとは思わない
のでしょうか?

この後の展開としても、初恋だからとか、鈍感だからとか、子供だからとか、芸能関
係者じゃないからとか、そういった事を理由に、フラフラと主人公の心が揺れ動きま
す。
他のルートでもそういった面はありますが、その辺りはご都合であっさり解決して、
ヒロインの笑顔で気持よくハッピーエンドを迎えていたではないですか。
それなのに、このあゆなルートに限っては、延々と主人公をフラフラさせた挙句、結
局はチート能力なサトリという頼みの綱で乗り越えてしまうという始末。


プレイした順番により、狂ったふりこ細工の生みだす歪な残響音だけを、耳に残して
しまった結果が、無念でなりません。