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えびさんの僕らのカタチ、世界のカタチの長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
僕らのカタチ、世界のカタチ
ブランド
のると
得点
38
参照数
3228

一言コメント

絵12+文10+音16+他00 お金をどぶに捨てて、「騙しやがったな、このヤロー!」と叫ぶのも、た、楽しいんですよ。久々に出会った、一部の隙も無い、見事な作品でした。

長文感想

映像面・・・
上手い下手は、この際、どうでもいい。
OHPを見れば、そんなことは判るのだし、それを踏まえた上で購入したのだから、
そこに憤りを覚える資格など、私にはありはしない。
安定したクオリティを実現するには、クリエーターの経験値が不足しているのだろう
から、名も無き新規ブランドにそれを求めるのは酷な話だ。
けれど、可愛さもなければ、エロさもない、なによりも、自分たちが表現したいもの
に対する、こだわりが感じられない。
あまりにも残念だ。

あと一点、問題を挙げるなら、テキストとの齟齬であろう。
例えば、こういうシーンがある。
・朝、主人公を起こしに来た幼馴染。
・主人公は寝ぼけて、幼馴染を抱き寄せる。
・戸惑う幼馴染。
さて、ではOHPのビジュアルの項、一番左下のCGを見ていただきたい。
未央、なぜ、お前は『布団の中』にいる?


シナリオ・・・
この作品の傾向を、ヒロイン・日常・エッチ・構成と、順に記す。

ヒロインのキャラクターは、実にテンプレートである。しかし、テンプレであるが故
の魅力よりも、テンプレであるが故の欠点の方が目立つ。
乃亜は、自己中心的で周囲を気遣うことを知らず、けれどそれを精神的な幼さという
設定だけで片付けてしまっている。エロゲでよく嫌われるヒロインのタイプ。つまり
は、イライラするだけのガキというタイプ。
未央は、おどおどして、おろおろして、めそめそしているだけ。『女の腐ったような
女』であって、ヒロインとして芯が細すぎる。
涼子は、比較的、キャラが立っていた。しかし、振り返ってみれば、それは彼女の個
性というよりは、彼女の周辺に存在する『ちょっと異質なサブキャラ』が演出した個
性に思えてならず、『キャラクター』としての魅力はあっても、『ヒロイン』として
の魅力に乏しすぎる。

日常のエピソードは、ドタバタ重視。
キャラ萌え要素を上手く扱えているなら良いのだが、どちらかといえば、そのキャラ
のマイナス面ばかりをことさら強調し、それを連鎖させていくことで見せる笑いだ。
シナリオ作りとは、プロットがあって、そこに肉付けをしてく作業だろう。
その方法は、肉を多めに盛って彫刻(カービング)していくのか、肉を少なめに盛っ
て彫塑(モデリング)していくのか、二通りの方法があるかと思われる。
このシナリオは後者であるように感じる。しかし、最初に盛った時点でパースは崩れ
ており、更に無駄なディティールを付け足していっただけのように感じられる。

さて、エッチであるが……
『挿入したら、15クリックで発射。』
もう、これ以上、語る必要があるだろうか?
いかにエロを重視していない作品とはいえ、これでいいのだろうか?

全体の構成を語ると、ネタバレになるかと思うので、部分的な構成の癖だけについて
述べる。
このライターは、よく回想を用いる。それは子供の頃に限らず、昨日の日常にも用い
られ、更にそこにマルチアングルの要素を盛り込んできたりする。
時間軸が掴みにくく判り辛い上、マルチアングルは主人公視点で事足りる事の繰り返
しが多い。
構成のアイデアそのものを否定はしない。だが、繰り返し読ませることへの配慮が足
りず、繰り返し読ませることの意義が少ないのだから、いらない構成だったと判断す
るしかない。
更に、こんなまだるっこしい構成を、シナリオの締めであるアフターパートにまで持
ち込むのだから、読み手としては苛立ちを通り越して、笑うしかなかった。

と、ここまで欠点ばかりをあげつらってきた。では、肝心の内容はどうだろうか。
ネタバレは控えたいが、あらすじの『もう一つの世界』というキーワードや、タイト
ルロゴのシュレディンガーの猫を見れば、これがパラレルワールドを扱っている作品
だというのは、予め想像出来るだろう。
並行世界設定は、説得力に乏しい理論的な裏付けをしたり、摩訶不思議な幻想だけで
染め上げたり、SFとしてもファンタジーとしても、受け入れ難いシナリオになりが
ちである。
逆に、それを上手く扱えれば、高評価に直結する要素になり得るのだが……
この作品も、その御多分に漏れなかった、残念な内容であった。


音楽/声優・・・
こういった残念な作品においても、音楽は一定のクオリティを提供できる。
それは、音楽が他の要素との共同作業ではなく、個別の要素として製作できるからな
のだろう。
であるから、個別の評価もしやすい。
特に、感動もなにもない、味気ない音楽だった。

金田まひるがメインヒロインという、実に久々の作品であったが、あまりにも当たり
前のキャスティングであり、面白みが無い。
涼子役の手塚りょうこは、まずまずの好演であった。


新しいブランドが台頭してくることは、私としては非常に好ましい事態だ。例え、凡
作であろうと、出来うる限り、その作品の良い所は拾い上げていきたい。
けれど、このクオリティではどうしようもない。

この8/28発売の作品においては、明らかに勝算の薄い、新規ブランド処女作を2本、
金をどぶに捨てる覚悟で予約購入した。
(もう一本は、『こすぶろ・はじめました!! (Coin-Software)』)
これらが、他のブランドの作品と比べ明らかに劣るのは、コンセプトの不明瞭さであ
った。新規ブランドには、もっと、自分たちの作りたいものを煮詰めて、情熱を感じ
させる作品を作って欲しい。


取り敢えず、今期は判っている範囲内で、以下の明らかに勝算の薄そうな作品を購入
予定であるが、嬉しい誤算で、私を喜ばせてくれることを期待する。
『Distance -ディスタンス-(Silksoft)』
『L.I.N.K. 奇妙な運命に繋がれた者達の、血と涙の謡(うた)。(SGPSoftware)』※
『Skyprythem(Armonica)』

※SGPSoftwareは2作目。

【ジャンルタグ】
/ #パラレルワールド /