Yes,You can make it!

Yes,You can make it!(ボーカル有り)

音楽得点分布

得点度数グラフ
1001
90~990
80~890
70~794
60~690
50~590
40~490
30~390
20~290
10~190
0~90

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癖の強いボーカルと、なめらかなヴァイオリンは混じり合わずとも―― Yes !

 作編曲・ホスプラグでクレジットされていて誰やねんだけど、エロゲソングではおなじみ、細井聡司その人です。手堅い作曲がなされており、流暢なストリングスアレンジをばっちり鳴かせるあたりお手のもの。
 萌えゲーはその性格からエモーショナルな(≒女々しい) お話が多いゆえ、主題歌もまた感動ヴァイオリンを好んで取り入れている。それでMANYOやぺーじゅんなどなど、ストリングスアレンジで名をはせた作曲家も多くいらっしゃる。
 そうしたなかでも細井サウンドは、対位法的な(ボーカルとヴァイオリンそれぞれに音を進行させる) アプローチがとりわけ強くて、ヴァイオリンがはっきり前に出てきて歌うふうに感じる。例えば、「砂の城」では中低音Vo.のはるか頭上とか足もとを、Vn.が音程を上げ下げしつつ並走してみせるのが印象的。また近作の「星々の刻をこの掌に」でも、悠々と伸びゆくVo.のわきをVn.がこと細かに飾りつけていくようなコンビネーションが好い。

 さて、本作「Yes,You can make it !」。こちらでも、ボーカルが「連れていって あげるよぉ~」「その小さな背中ぁ~」「せまい鳥かごからぁ~」音を伸ばすところの裏には、ヴァイオリンが細かく動くメロディが配置されている。新堂真弓は悪友ヒロインの演技などでよく映える、癖がありつつも気の置けない声質が魅力なのだけど、その反面、ベタな歌い方で聴かせすぎると、どうしてもちょおっとだけ野暮ったくなっちゃう感じ。そこで歌がベターっと伸びるところへは、弦楽がこしょこしょ繊細な変化を散りばめておく。すると野暮ったさを消しながら、声質の魅力はいっそう立てるようで好い。
 一方で、新堂真弓のスピッカート(飛ばし弓) はといえばさらに素敵でして。「Yes !」の跳ねっかえりな声づかいだ。これほんと耳に残っちゃう。そして、その裏ではヴァイオリンがのっぺりと長音を聴かせており、ここでもまた互いがよく際立たせ合うようになってる。Vo.が伸びるときは、Vn.がすばやく駆け上がるみたいにして。Vn.のボウイングが長いときには、Vo.が独特なアクセントで跳ねて。けしてタイミングが重ならないからよく噛み合う。ひと癖もったVo.の気安さと、癖を消したVn.の優雅さを、いいとこ取りしてみせたようなポップスにはさらりとした温か味がついてる。

 (余談だけど、「THE ANNUNCIATiON」フルバージョン音源の発売はまだでしょうかC:drive. / onomatope*さん。これまた癖のあるツインボーカルだけど、新堂真弓がカッコよく歌ってきたところへ乱入しやがる雪村とあが、あまりにも暴力的にかわゆい。笑ってしまったので、全体の展開を聴いてみたいです。)
 この曲が収録されている「しとろんソフト メモリアルソングス」というミニアルバムは実に奇妙なCDである。収録曲のエロゲタイトルは、「みここ(じょうずにできる恋愛成就)」「妹スマイル(Yes,You can maki it!)」と、ここまでは確かに「しとろんソフト」。だがラストトラック、3曲目に入っているのは「どこでもすきして いつでもすきして」のOP曲「君のスキにしてして♪」である。
 実は「どこでもすきして いつでもすきして(以下してして)」は、「しとろんソフト」作品ではもともとなく、「C:Drive.」の作品であることは、このえろすけを見れば一目瞭然である。ではなぜこの曲がしとろんコンピに入ってるか? 
 単純に「してして」がそれなりにヒットしたから、この路線(ギャグ&イチャラブ路線)を突き進むべく、Cドラ系列で新たにブランド「しとろんソフト」が立ち上げられたわけである。なので、「してして」こそがしとろんの直系の元祖であり、むしろ2013年、onomatope*「ずっとすきして たくさんすきして」が何か「してして」の直系の後継作っぽく売り出したのは、「え……このタイミングで? それも、その後継の仕方、ええんか?」とわたしは疑問に思った。
 さらにもっと言えば、このしとろんソフトが現在呼吸をしていない、というのは、3作目「初恋タイムカプセル」開発時に、「なにかとてもいやなこと」があったらしく、「初恋タイムカプセル」の出来は非常にお粗末。というか「なにかとてもいやなこと」があったとしか思えない、不穏さがバリバリに漂っている作品……敗戦処理作品であった。
 このあたりは当批評空間の「商品の説明」欄では語られない、というか語ってはいけないことだろうからここで語る。
 さて、「しとろんソフト メモリアルソングス」は2010年にドロップしたものだ。しとろん第一作「みここ」は2009年2月作、第二作の「妹スマイル」は2009年11月作品である。「妹スマイル」のまあまあのヒットを受けて、「ここで稼ぐ!」と思ったのかは知らんし、もっとも「結構この路線(ギャグ&イチャラブ路線)も定着したな、よし、なんか出すか!」と思ったのかも知らない。ただ、このミニアルバムが出た当初のしとろんファン界隈は、「そんなに悪い感じじゃなかった」ということだけは付け加えておきたい。その後のしとろんを語る界隈が、「妹スタイル」で海原・鯉川ライターコンビが生存してることが確認されるまで、非常にビミョーな感じだったことも併せて……。
 うん、たしかに、このアルバムは、そういう、凪のように幸せな一時の花めいたものだったのかもしれない。

さて、どんだけ前事情語るねん、ということで、「Yes,You can make it!」の話に入る。
「妹スマイル」ははっきり言って妹もののB級エロゲである。ルート間の出来はバラバラ。しかしルートによっては非常に良いイチャラブ&ギャグを繰り出してくれる。
 そんなエロゲなのに、大変良い曲なのである。全体的にデジタル系のアレンジをしているのにかかわらず、非常にオーガニックな味わいで、これを分析すると、二つに分けられるだろう。
(1)新藤真弓の説得力ある穏やかでのびやかな歌唱
(2)ストリングス、デジタルサウンド、バンドサウンドのそれぞれ中間点とも言える音像の調和

(1)の新藤の歌唱であるが、ここには電波はない。あるのは、兄視点から妹との絆、その日常を描く、非常にしっとりした歌唱。歌詞もしとろんのくせに非常に詩的。タイトルをあえて訳せば「そう、君は「出来る」んだよ!」。
 それは恋なのか、それともシナリオで描かれた「妹が、自分のやりたいことを兄と共に出来た」を描くことであるのか。……後者寄り、とわたしは見たい。路線としては、「少女の日常の中で、妹がいろんなことを「出来た」」、という。
 なにしろ妹スマイルは、近親相姦的なアプローチのない妹ものである。むしろ重要視しているのは、妹の日常での生活。とくに夏希、秋穂のシナリオは、日常のどーでもいいシーンを丁寧につなぎ合わせて、日常の中で兄妹、お互いが手を取り合って、何かが「出来た!」という感情を大事にしている。詩季シナリオの同人風景だって、個人的には描写的に「うーん」と思うとこもあったが、それでもその「出来た!」の感情のみずみずしさは覚えてる。 それもこれも、この非常に実直な歌唱、アレンジ。主題歌自身が、その「出来た!」の感情を裏切ってないのである。(2)の嫌味なく、非常に「懐の深い」と思わせるサウンド・アレンジだってそうだ。非常に丁寧な出来で、聞かせるサウンド。最初、ほわぁあ、というアトモスフェリックなデジタルでテックなサウンドから、一気に羽ばたくようにストリングスが響く。バックはタイトにドラムを響かせる。時折、寂しげなエレクトリック・ピアノがバックで鳴らし、そこで感情性というものを描く。
 サビに至るところでは、またストリングスが空に駆け上がるように響く!「広がる無限の空へ」「その小さな背中 飛び立てる勇気与えよう」
 ……そう、これは実は兄の歌であるのだ。サビ以降の葉加瀬太郎か、それともアイリーン・アイヴァ―スかとでも言うような熱情的なヴァイオリンソロと、ギターソロの絡み。この熱よ。兄視点で、「いつも妹を応援する」「君(妹)の健やかな生き方を失わないでほしい」という思いがまっすぐに伝わってくる。そういう佳曲……を通り越して、隠れ名曲の域だとわたしは思う。
 しかし、新藤の歌唱の「与えよう」という大事な歌詞が「あたへぇよほぅ~」と聞こえてしまう箇所、ここだけはどーにかならんかったのだろうか。

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