amaginoboruさんの「螺旋回廊」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

悪意を容赦なく書き散らすテキストが印象的。心の表裏が反転するタイミング・手段が多岐にわたって描写されており読後感は最悪、気分が悪くなりました。インパクト一発で衝撃を与えるのではなく、じわじわと心を蝕む鬱ゲーをお求めの方はぜひ。ただ作品の展開上、20世紀末のインターネットを体験していないとピンとこない部分があるかもしれません。
鬱ゲーと呼ばれる作品の多くはインパクト重視なんですよね。不穏な空気を漂わせ、
鬱展開くるぞくるぞと脅し続け、ドカーンと悲惨な場面を打ち上げて「さあ鬱になれ!」
みたいな。あるいは逆に何の準備もなしにいきなり鬱シーンを入れてくるか。いずれに
せよ場面1つで衝撃を与えるタイプが大半です。

『螺旋回廊』も鬱ゲーとして有名ではありますが、シーンごとの衝撃度はそれほど
ではありません。ED「クリスマスプレゼント」の1枚CGが有名で、未読者はその辺が
衝撃的なのかと想像しがちですがそこじゃあない。凌辱ゲーならヒロインが捨てられる
ことなんて別段珍しくないですしね。

だのに未だ語り継がれているのは、その状況に追い込まれたヒロインや主人公、そして
追い込んだ側の心理をえげつなく描写しているから。絵ヅラは地味でも、えげつない
文章が描写の意味を克明に書き表しているからでしょう。

表裏なく欲望に忠実な天野。匿名の場でのみ暴れるEDENメンバー。それらを統括管理
し利益を得るWebmasterと側近。心身共に暴力をぶつけられ、自身を最低の存在と卑下
するまでになる葵。管理支配されることに溺れる香乃。あまりの不幸に下を見ることで
しか自らを保てなくなる葉子。姉への情欲から暴走する紫苑。そして佐伯先生。

人の気持ち悪さが様々な角度から、これでもかとばかりに表現されています。わけても
葉子の堕ち様は過程・行為の描写が凄まじく、絵的には地味なのに酷く陰惨で胸が悪い。
下僕と化した葵を見ることで自我を保つ様は憐憫以上に嫌悪感で溢れました。

かように性奴に堕とされ足掻くことを忘れたヒロイン達は、さながらローシュタインの
回廊が如く意識や思考を奪われ、同じ環境で延々さまよい続けます。虐げたEDENの側も
また、暴力欲のままに思考停止して事を続けます。

しかし実態は現状が維持されることはなく、行為はエスカレートしていきます。佐伯
先生が受け取ったクリスマスプレゼントを共有したように、香乃への責め苦が激化して
いくように、葉子が堕ちきったと思われた場所から更に突き落とされたように。
さながら下り続ける螺旋回廊のように。

「言葉にするとありきたりな物語を、過度なインパクトを用いることなく陰惨に表現
した作品」それが私の『螺旋回廊』への評です。ここまで気持ちが落ち込んだエロゲは
久しぶりでした。


ただ上記所感が現代のエロゲプレイヤーに共感いただけるとは考えていません。
現代におけるネット上のやりとりって、個人をSNSなどに紐づけて活動するじゃない
ですか。一応は匿名掲示板も残ってますけど、それらにしたって個人の特定が昔に
比べると簡単ですし。だからEDENのやり取りとか見てもピンとこないんじゃない
かなと。「こんなんすぐバレるやろwww」みたいな。

対して20世紀のインターネットって、まだ魔境みたいな雰囲気が満点だったのです
よね。表層部の安全なサイトは今と変わらないのですけど、そこからちょっと深い
当時の言葉でいう「アングラ」サイトから先は何が見られるか、覗いたことで自身に
どんな被害が及ぶか予想もできない興味と怖さがあったのですよ。Q2ダイヤルに
ロシアと自動接続されてウン十万飛んだとか、ハッキング()されて人生オワタとか、
情報不足から嘘と真が飛び交っていましたから。

それこそ「異界」と呼んで差し支えないほどの畏敬が、当時のネットにはあったと
思います。面白そうなものが置いてありそうだけど、踏み込んだら何が起きるか
わからない空気。黒塗り画面の「ENTER」は、あっち側とこっち側をわける門のよう
でもありました。

けどその雰囲気や感情って「そういうものがあった」と情報は得られても実感は
できないと思うのですよ。私たちの年代が戦争を実感できないのと同じで。原体験が
ない今のプレイヤーが触っても、私達が思う恐怖や気持ち悪さといった悪感情は
得られないんじゃないかなと。理屈では理解できても、です。

「クリスマスプレゼント」の画像も、昔と今では受け取る印象が大きく異なることと
思います。当時のネットを知っている側からすれば、かような状況が起こっても別段
不思議ではなかった。だから登場人物の感情へより移入して不快感もひとしおだった
のかなと。

しかし現代のプレイヤーは「冬空の中、ゴミ箱に裸のヒロインが詰めこまれている」
というインパクトのが先に立ってしまうのでは、と。そうすると冒頭で述べた「本作は
インパクト重視の鬱ゲーではない」という大前提が覆ってしまう。全く異なる所感を
抱く可能性が高そうです。

もちろん良否判断ポイントは1つではありませんし、20世紀を知っている方々が同じ
所感を抱くわけでもありません。けどエロゲが本格台頭して四半世紀経とうかという
中、いよいよ本格的な世代の隔たりが生じているのかなと、本作をプレイして実感
しました。

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