Atoraさんの「ヘブンストラーダ」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

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旧きよき時代のダンジョン探索にどこか懐かしさを感じるも、結果的にそれが仇となって古臭さだけが残っている。RPGと銘打つからにはより遊べるものを目指すべきだったが、このブランドはそれを怠った。皮肉にも、外部から持ち込まれたサウンドとムービーが高評価の残滓。シナリオのテーマなどは未知のものを秘めていただけに、この完成度は残念極まりない。
 本作はウンベルト・エコー著の『フーコーの振り子』という書物をRPGに互換したものである。4階層に分けられた塔は、アッシャー(行為)・イェツェラー(成立)・ブリアー(創造)・アツィルト(流出)の章題そのものであり、 スーフィズム(神秘主義)にまで言及した世界観を導き出した。行為とは物語の冒頭であり、成立とは物語の発端であり、創造とは物語の核心部(クライマックス=ハッピーエンドか破局か)であり、流出とは物語の終結を示す。その4点を繋ぐものこそ‘天上の道’、すなわち『ヘブン・ストラーダ』なのである。(Heaven=天の Strada=伊語で‘道’)

 このように、本作は起承転結がはっきりしていてその過程が表題となっている。しかし、ゆるやかな傾斜ではなく階段状に物事がすすんでいくので、展開についていけないプレイヤーが多いのは明らかだ。おそらく、書物自体を要約しようとして、うまくいかなかったのだろう。世界観は味わい深い。

 だがシステムには落胆を隠せない。ストーリーが面白い着目点だっただけに、SLGの完成度には憤懣やるかたない。SLGの基盤は、ダンジョン探索型という素朴なものだが、肝心のゲーム性が作業では流石に気概が削がれるし、そもそもあまりに陳腐すぎて最後までプレイする気にならなかった。この「Wizardryっぽい」作風は同系列の作品についても言えることなのだが、古きよき時代に制作していたならばあるいは主軸となっていたかもしれない。ただ今の時期にこれをそのまま使うのはない。なんらかの手段を講じないと使い物にならない。
 ストーリーが似ている作品として『Duel Savior』(2004年・戯画)が挙がる。大まかに考えて、話の根本である‘世界を救えるか云々’というストーリーは能動的(『ヘブンストラーダ』)か受動的(『Duel Savoir』)かなだけの違いなのに、面白みがまるで違う。ゲームなのだからシステムに注力してもよさそうだが、Aniseedはそれを間違えた。要は、工夫が見られなかったのである。
 私的な意見で恐縮なのだが、‘ゲームはいかに楽しませるか’ということを考えて作らなければいけないのではないか。ストーリーに凝ってもいいし、サウンドを重視してもいい。ある程度のことは許されるとは思う。しかし、面白みがなくなるような制作だけはしてほしくない。もっとできることがあったはず…そう思わずにはいられない。

 Aniseedというブランドはジャニスの一角に過ぎないが、絵・主題歌・デモなどは既存ブランドにおいて高いレベルにあると思う。私はシナリオや演出重視となりつつあるRPGの傾向に疑問を感じているから、そんなにストーリー性を重視しないプレイヤーなのだが。だからこそ、RPGを制作している割に肝心のシステムだけが欠けているのは絶対に是認できない。システムさえ良ければ化けるブランドであることは間違いないだけに、この出来は悔やまれる。



【雑談】
 私は『フーコーの振り子』やスーフィズムには詳しくないのでなんとも言えませんが、エロゲにするには膨大すぎる情報量だったと思います。この記を拝読してくださって、「へぇ、そうだったのか!」と驚いたり、納得したり、批判したりしていただける方がいれば幸いです。
 ところで話は変わりますが、霜月さんの歌は流石と言ったところですね。

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