カラスさんの「Ever17 -the out of infinity-」の感想

初読の楽しみ

この作品を評価するのは難しい。
どんな点数をつけるのか?、それがそのまま、初読の楽しみをどう評価するのに繋がる、これはそんなゲーム。

初読の楽しみ、
逆に言えばそれは、最初だけしか楽しめない、「楽しみ」のこと。
それを、最初だけしか楽しめない「楽しみ」に過ぎないと思うか、
それとも、一度っきりの貴重な経験とみなすかは、人それぞれだろう。

要するに、この作品にどんな評価を与えるか、どれくらい高い評価を与えるかが、
その人にとっての初読の楽しみに対する評価とほぼ直結してしまっている、これはそんな特殊なゲームだ。



まあはっきり言って、この作品からトリックをのぞいたら、あとはほとんど残らない、
あとに残るのは、ありがちなギャルゲの設計図、Ever17の抜け殻に過ぎない。
ミステリであることに極度に特化した作品、
あらゆる要素が、プレイヤーを騙すことに特化している作品。
こういった作品というものは、はっきり言って再読・再再読に耐えないと思う。
一度目のEver17と、二度目のEver17、このふたつは別物だ。
この作品をプレイしたことによる衝撃というものは、一度きりのものだし、
二度目以降で味わうなどということは絶対にできない。
たった一度きりのEver17。

けれど、でも、だからといってこの作品を低く評価しようなどというつもりは無い。
ただ、この作品を評価するに当たっての難しさについて述べているだけだ。
初読の楽しみをどれくらい重視するのか?、
いや、そもそも、初読の楽しみというものをどう考えるべきなのか?


例えば、小説というジャンルにおいては「ミステリ」というジャンルがあって、
「初読の楽しみ」に特化した作品ばかりが集っている。
ああいったジャンルにおいては基本的に、読者をいかに騙し驚かすか、という点に重点がおかれていて、
基本的にはそういった部分のみで作品が評価される。
この場合基準は明確で、話は簡単だ。
似たような傾向を持つ作品を一箇所に集めて隔離し、
そういった傾向の作品が好きな読者はこっちに来なさい、と「ミステリ」という看板を掲げる。
結果的には、似たような好みを持つ一群の集団(ミステリオタクとかミステリーマニアと呼ばれるような)が形成され、
マニアがマニアのために書き、マニアがそれを読んで評価するという、幸福な循環運動が形成される。


それに対して、美少女ゲーム界においては、「ミステリ」というジャンルが形成されていない。
もちろんミステリ要素を持つ作品というのは数多い、それに、
この業界のライターさんって、妙に叙述トリックが好きというかこだわる人が多いなあという印象さえ受ける。
けれど、美少女ゲームにおける「ミステリ」要素というものは、事実要素に過ぎないんであって、
SFだとかホラーだとかいった‘要素’と同列に扱われる。
ミステリという要素だけが特別に扱われることはほとんど無い。

Ever17という作品が特殊なのは、美少女ゲームであるにもかかわらず、ミステリ要素だけが突出したミステリ美少女ゲームであるという点だ。
あらゆる要素が、プレイヤーを騙すという一点にのみ向けられている。
だからこれは、美少女ゲームであると同時に、ミステリゲームなのだ。
だから、美少女ゲームとしての評価と同時に、ミステリ作品としての評価というものも考えなければならない、だから、
このゲームを評価すること、それってすごく難しい。



この「難しさ」を簡単にする方法はある、一応。
「初読の楽しみ」か「再読以降の楽しみ」か、この二つのどちらかだけでこの作品を評価すればいい。
そうすれば話は簡単だ。
「初読の楽しみ」を重視する立場からすれば、
こんなトリック見たことねぇ空前絶後だぜっ!、と絶賛すればいい。
「再読以降の楽しみ」を重視する立場からすれば、
確かにトリックに見るべきところもあるし驚かされもしたけど、二回以上やるゲームでもないよね(笑)、とそれなりの評価をすればいい。

この作品に対する評価、それは、「初読の楽しみ」に対する評価と等しい。
だから、この作品を評価しようとなると、
自分は「初読の楽しみ」に対して、どんな評価をしているのか、を考えざるをえない。



このエロゲー批評空間を利用しているような人というのは、通常のエロゲーマーよりも、濃い人たちだと思われる。
そうすると当然、再読・再再読に耐ええるような作品こそが素晴らしい作品で、
「初読の楽しみ」なんぞは、一回切りのものに過ぎないと低い評価をしがちなんじゃないだろうか。
つまり、再読に耐える作品こそが深い作品で、一回切りの「初読の楽しみ」なんぞに頼るような作品は浅い作品だ、と。

まあ・・・、自分なんかもちょっとばかりそっちよりの発想なんだけども。
でも、けれど、少しばかり発想を変えてみる、
「初読の楽しみ」って言うのは、それ自体独立した一つの価値なんじゃねぇの?、って。
要するにどっちが上とか下とかではなくて、このふたつを並べてみて、作品を形成する要素の一つだと、仮定してみる。
例えば、作品を分解して要素別に採点して、得点を決めるレビュアーさんのように。

そうするとどうなるか、
どんな作品にも、たとえそれがミステリ作品でなくても、「初読の楽しみ」成分というものが存在するということになる。
ミステリだけにそういった成分が含まれているわけじゃない、どんな作品にだってそれはある、
ただ、多いか少ないか、それをメインに据えているかいないか、それだけの違いだ。

それだけの違い?、いや、それは結構な「違い」だ。
「初読の楽しみ」に対して、どれくらい配点するのかということ。
これは恐らく、人によって結構違いが出てくるんじゃないだろうか。
この作品を美少女ミステリゲームであると定義して、「初読の楽しみ」に対して90点以上の配点をしてみるとか。
あるいは、あくまで美少女ゲームの一つとして扱い、「初読の楽しみ」に対して特別扱いをせず、
全体としてはそれなりの点数に収まったりとか。
やはり考えざるをえない、自分にとって「初読の楽しみ」はどれくらいの重みを持つのかということ、それを考えざるをえない。
それは、この作品を評価するにあたっての配点を考えることだし、同時に、
自分にとってミステリ(「初読の楽しみ」)はどれくらいの価値を持つのだろうかということを考える事でもある。





・・・・・・・・・などということを悶々と考え続けていたらだんだん面倒くさくなってきたので、点数は無し。
それに、プレイしたのも結構昔だし、ストーリーを微妙に覚えていなかったりする。
(トリックは覚えているけど、動機のほうは忘れた。)
だから、まあいいや。


でも、この作品が素晴らしい作品であることは間違いない。
ほぼ確実に、とんでもない驚きをプレイヤーに対して提供する。
実際この作品のトリックは、空前絶後の超大技なわけで、
この作品を「初読の楽しみ」という点だけで評価するならば、ほぼ満点に近い。
まあもちろん、一度っきりの楽しみを、
貴重なものとして扱うか、しょせん一度っきりに過ぎないとして軽く扱うかは、その人の自由だけど。
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