gurasさんの「神樹の館」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

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典型的な洋館を扱った閉鎖空間物。世界観は純和風。伝奇物ではあるが流行のバトル先行物ではなく雰囲気重視で幻想的な物語が好きな人は普通に楽しめるはず。ロミオ調の毒とペーソスの効いたペダン臭たっぷりのテキストはいつもの通りで、C†Cや家族計画などに代表されるような笑いの面や感動は無いものの、単純に「読ませる」読物として傑作。エロゲーではなかなか見ることのできない美しい日本語による美しい情景描写や言葉遊びに酔いしれながら夢中になりすぎて時間を忘れて読みふけってしまった。気が付いたら外が明るくなっているというのは久しぶりの経験だった。AVGというよりも絵と音楽と音声の付いたエロゲーとは思えない程にシリアスなミステリー小説。硬めの旧式文体を用いた独特なテキストはなかなか読み応えがありました。欲を言うとビジュアルノベル形式で、ゆったりと行間を読みたかった。あとバックログの使い勝手の悪さにはやや閉口。
C†Cのような感動や笑いも無く、読むこと自体がこの作品の本質で、そういう意味でもC†Cを期待すると、ありとあらゆる意味で肩透かしを食らうだろうと思う。指向性がまったく別物なので、C†Cが面白かったしロミオ作品だから買ってみる!なんてことはやらない方がいいです。

C†Cや最果てのイマなども確かにテキストは膨大ですが、あれら作品の場合は、キャラクター同士の掛け合いや、ギャグパートなどでテンションを下げないで、テンポが良いままひたすら進むので、それほど読書の虫でなくても普通に最後まで読めるのですが、この作品はそのノリで読もうとすると序盤で早々とダレます。エロゲーとは思えない程にテンションが低い。

序盤にこなせるシナリオは本当に説明ばかり、というか説明用に用意したのだろうか、というくらいに、ローテンションなまま、説明して説明して読み手にルールを覚えさせようとしてくる。どういう部分が謎で、これから自分は、どういう場所で、なにをするのかという部分について問答無用でひたすら「文字」を読まされ続ける。しかもその大半はやはり伏線の形を借りた「説明」にしかすぎず、ストーリーそのものはまったく進まない。

読んでいる最中は伏線だのなんだのわかりませんので、とりあえず与えられた情報を頭で噛み砕く作業になる。この部分で触れる「不思議」という、この作品の世界を装飾している部分にどこまで没頭できるかどうか。自分はこの部分でグイグイと世界に引き込まれましたが、この部分が人に寄り一番好みが分かれる部分じゃないかな。内容が難しいとかではなくて、テンションが低いままの読書が苦痛というタイプの人だと盛り上がりが無いために読書作業自体にかなりの苦痛を感じるはず。

テキストの7割前後は、個別部分含めて、そういった説明文です。そもそも攻略キャラのEND自体がBADEND含めて一部説明だったりもします。序盤は読み手が世界のルールを理解するための勉強時間で、ただただ読まされているという印象が強い。

この部分で情報として詰め込まれる民族学的な知識の類や山岳信仰等の伝奇描写をいかに楽しむか、得られる情報からオチを予想する部分をいかにゲームとして楽しむか、伝奇物の推理小説のようにその部分を楽しめないと辛いかも知れない。


ヒロイン毎にENDにも「なるほどね」と唸らされる場面は多いのだが、最初の一人目あたりだと、ほとんどなんの謎も解明できていないので、人によってはなかなかエンジンが掛からないような、煮え切らない感覚を味わうかも知れません。伏線に関しては三人目くらいになると大体の終焉は予想でき始め、最終的に竜胆までやらないと全貌は見えない作りになっています。

読解自体に楽しみを見出せる人間には、こういった「だんだんと見えてくる」感覚はやはり面白いはず。全体的に、積み重ねて行く情報からある程度オチは予想できてしまうので、そこまで大きなサプライズは無いのだが、吸引力が強烈で進めれば進めるほどに、ぐいぐいと物語に没頭していける。わけのわからない要素が入り込まれるよりも、よほど物語に没入しやすく参加できている感覚がとても楽しい作品になっている。


ヒロインはそれぞれとても魅力的に描かれており、とくに双子の描写に関して他に類を見ないほどのこだわりを見せてもらえた。自分では「年上キャラ」が好きだと思っていたのですが、なんだろうか「ロリもたまにはいいよね」という不思議な気分にさせられた。双子とだんだんと仲良くなっていく描写には、眩暈を感じるほどの興奮を覚えた。ガチでロリ属性を持っているような人だと、かなりたまらないものがあるのではないだろうか。ロリ属性は弱い方なのだと自分では思っていたのですが、このテキストの卓越した情景描写の美しさによるものがとりわけ大きいわけですが、この2匹の子猫のようなかわいらしさにかなりやられました。

それぞれの個別ENDにいたるまでの一連の流れにも鳥肌立ちましたが、ここはやはりメインヒロインの竜胆。というよりも他のヒロイン達は全て竜胆のシナリオのための踏み台。竜胆のシナリオが始まれば、それこそ一気に伏線を回収し始めるわけですが、この卓越した構成能力こそが田中ロミオの真骨頂。サプライズの連続で興奮度は抜群に高い。このシナリオは鳥肌立ちっぱなしでした。言ってみればこのシナリオは「神樹の館・解」という感じの今回の神樹の館という作品の総括であり、推理しながら読み進めた人間にとっては答え合わせのためのようなシナリオ。


同じ時を過ごし、かつては個別ルートで、一度は愛を確かめ合ったヒロイン達が次々と消えていく様は、感情移入していればいるほど、ただただ切なく哀しい。神樹の館という一連の物語の終着には涙ではない感動で体が震えた。長時間にわたる説明シナリオで物語に完全に引き込まれて、あまりの居心地の良さにまるでその世界の住人になったかのような錯覚に陥っていた私の場合は、最後に真珠邸から出る時には寂しさというよりも呆然とさせられてしまった。


本作は「最果てのイマ」等に比べると、素直にテキストを読んでいれば十分に解るレベルで、知らない言葉が出てきたとしてもそれを本来の意味で理解する必要はなく、ゲーム上の流れでのみ理解していればいいので、インテリ装った言葉の装飾に騙されて、嫌悪感を抱く人も多いとは思うのだけど、インテリな物を扱っただけの物語で、斜め読みできるほど簡単ではないので読書に集中する必要はあるが、読書自体の難易度はそこまで高い物ではないと思います。

意味不明な専門用語連発なためにやや衒学的なこともあり、色々と勘違いしやすい文体ではありますが、実際のところイメージ先行で文脈から自分なりのイメージや解釈は十分にできます。基本的に大半の伏線やそこから繋がる謎とその解は、きちんと読んでいれば解るシンプルなレベルにとても上手に収まっていました。

それぞれの個別のENDまでのプレイ時間も、よくある紙芝居形式のキャラゲーと同じくらいで、Hシーンを全て読んだとしても10時間ちょっとと、物語重視の作品にしては尺的に短めなので、集中しなければならない時間もさほど多くはありません。読むのが遅い人でも13時間も見ておけば余裕で終わります。そういう意味でクリアに鬼のように時間のかかるC†Cや最果てなどに比べると、ロミオ作品にしては珍しく時間の無い人にもオススメできる作品になっていると思います。

主人公が書痴(いわゆるビブリオマニア)なので、小説等を読むのがライフワークみたいになってる人間には精神的な面でかなり共感しやすい。自分の場合は好きなエロゲーの主人公を一人挙げろと言われたら迷わず工月秋成と答えられるくらいに私の好みの主人公でした。「本」自体が一部作品本編のテーマですので、本が好きな人間はぐいぐいと物語に引き込まれると思います。こんな館でかわいらしい双子と言葉遊びに耽りつつ、竜胆と一緒に手鞠歌を歌ったり、ひたすら篭るように紫織さんと一緒に本を読みあさるような生活を自分もおくってみたいです…。引き篭もり属性強い人間には間違いなく理想的な居住空間だな…。そんな事を考えながら定期的に彼女達に会いたくなり真珠邸に引き篭もるために起動してしまう。


欲を言えばビジュアルノベルのような形式にしてくれたら読みやすかった。っていうかこの形式で、この情報過多の膨大なテキスト量を読ませるのは無茶だ。面白いもんで本当にかんべんしてほしい。

AVG形式でここまで難解な読書をすると正直読み難いというか必要以上に精神的にも肉体的にも疲れる。とくにキャラゲーでも無いので普通のAVG形式にこだわる必要も感じないし、特別画面演出がこっているわけでもないので、なぜこの形式で作ったのかちょっとだけ疑問。このおかげで読む上でテンポは落ち読書作業をかったるいと感じる人には苦痛に拍車をかける。こういったテキスト量の多い作品は「いかに読ませるか」という部分にも注力して欲しいところです。せめてバックログ時には画面上に文章をどさっと展開してもらえれば、まだ行間を読みやすかったですが…。バックログが本当に「バックログ」なのでまったく役に立ちません。もう少しのんびりと自分のペースで行間が読めれば言うことは無かった。

わけの解らないと評価している人は、この読み難さに作業そのものを投げてしまっているようにも思う。そういう意味でシステム面で大ゴケしており一般的に埋もれたレベルの作品になってしまっているのでは無いだろうか。テキスト、音声、音楽、プログラム、どこを取ってもレベルが高いと思います。プログラムのレベルが低いわけでは無くてAVGとして見るとバックログ以外はどの機能も一定水準以上であり、かなり使いやすい良く出来た部類だとは思います。行数も多くAVG形式のわりには表示文字数も多目ではあるので、私の場合は読み難いと感じてしまいましたが人によっては気にならないかも知れません。オリジナルでここまで作り上げているあたりブランドとしてのモチベーションはかなり高いのだろうな。

この読書し難い環境の中で本当に推理小説よろしく最後のサプライズのための序盤に長時間にわたる文章読解の作業を強いられるので、割り切ってがんばって読んでください。まじで。

最近はすっかり伝奇物と言えばバトルという感じでさすがに食傷ぎみ、たまに本格的なミステリが読みたくなる、そんな人にオススメです。幻想的かつ蠱惑的な「幻想推理小説」。ぜひ一度、手に取ってみては?

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