houtengagekiさんの「何処へ行くの、あの日」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

ゲーム全体に漂う、寂しげで空虚な雰囲気が実に味わい深い。妹というテーマを一般的なエロゲとは違った形で扱ったシナリオは独特の奥深さがありますし、各ヒロインルートも、ミステリアスかつ胸を締め付けられるような切なさがあって強烈な後味が残ります。とても質の高い鬱ゲーだと思います。
 メインヒロインが妹であり、近親愛を大きく扱った物語ですが、
他のヒロインも全員幼なじみかその縁者であり、幼なじみモノとしての側面も大きい作品です。
冬らしい冷たい空気感があって、やや暗く寂しげな作品全体の空気によくマッチしていますね。

 この作品は魅力的な要素が多いですね。
鬱度の非常に高い個別ルートとか、考察の余地の大きい本筋の奥深さとか…
個別エンドといい最終的なエンディングといい、やるせなさが残る読後感が印象的です。
鬱ゲーが好きな人ならば、かなり楽しめる部分の多い作品ではないかと思います。

 まず、作品のキーになっているマージという薬、これの設定が面白く、
先の展開への興味をうまく惹いてくれるのが良かったと思います。
夢の中で過去を追体験することができ、そこでの行動次第で過去を変えられる(かもしれない)という設定のおかげで、
夢の中の幼年時代のシーンも、ドキドキしながら見守っていくことができますしね。
主人公は記憶にもやがかかったようになっていることに加え、
詳細がハッキリしないながらも、昔犯したはずの大きな罪に悩んでいるため、
その謎に包まれた記憶とマージの設定との組み合わせが絶妙です。
過去の夢の中にどんな真相が待っていて、どのように暴かれるのか、否が応にも気になる。
実に上手い設定と言えます。おかげで、作品全体がミステリアスな空気になっていました。

 ですが、各ヒロインのルートをクリアしても肝心の部分がぼかされたままで終わることが多く、
プレイヤーも主人公と同様に、一番知りたいことを明らかにしてくれないということに悶えること必至。
主人公の目的とプレイヤーの好奇心をうまくリンクさせて物語への没入度を高めさせる手法は実に見事。

 この作品は開始当初はヒロイン5人のうち3人しか攻略できず、その3人を攻略し終えたら千尋、
千尋を攻略し終えたらメインヒロインの絵麻と、攻略順がある程度決まっているのですが、
最初の三人のルートでは真相はほとんど解明されず、各ルートで少しずつ事実が明らかになる程度で、
三人の事情を深く掘り下げて、主人公と心を通わせる物語を描くに留まっています。
そして、その後に突入できる千尋や絵麻のルートで本格的に真相に迫っていくという構造。
思わせぶりに謎が残され、ラスト2人のルートまで明らかにならないことが多いため、
先が気になる、という気持ちがずっと持続するわけですね。

 素晴らしいと思うのは、最初の3人のルートが、ただ謎や伏線を振りまくだけの役割に終わっているわけではなく、
そのヒロインの物語として単体で見ても非常に質が高いということ。
桐季、一葉、智加子、それぞれ異なった形で主人公と結ばれていくわけですが、
ヒロインそれぞれが抱えている「過去」への想いの深さが印象的で、三人の内面を深みのあるものにしていると思います。
マージによる過去への遡行をメインに、過去の幼い日々の主人公とヒロインの繋がりを掘り下げていくことによって、
現在における関係に深みが感じられるようになっており、
幼なじみヒロインのシナリオとしての面白さがしっかり出ていますね。
過去の出来事と想いが現在に繋がり、そして結ばれていく様は、実に見ごたえがあります。
そんなわけで、メインストーリーだけでなく、ヒロイン個々の事情が明かされていくストーリーも
実に面白い内容に仕上がっています。
ことに、一葉ルートは過去のエピソード描写がすごく陰惨で刺激的な内容であり、
さらにちょっとしたトリックで工夫されてもいて、とても深みのある物語になっていたので、お気に入りです。

 ただし、ヒロインによりますが、個別ルートでは、この作品の鬱ゲーだる所以も思い知らされることになります。
どこか陰鬱なゲーム全体の雰囲気にたがわず、胸に穴が開くような読後感をもたらしてくれますので、
鬱ゲーが好きな人にとっては味わい深い内容だと思います。


 そして、本筋について。
この作品の大きなテーマの一つである「妹」について描かれていくわけですが…
妹と性関係を持つこと、その葛藤について描かれたエロゲーは数多いと思いますが、
この作品における妹というテーマの描写は、とても独特です。
ゲーム開始直後から実にハッキリしていますが、主人公は妹との性関係を忌避しており、
普通の兄妹の関係を望んでいるということが、これでもかと描写されます。
迫ってくるのは常に絵麻の方から。
このすれ違う想いが、ラストでどういった決着を見せてくれるのか、
プレイしている方としては序盤から気になり続けます。

 このルートを読み進めると、その破滅的な内容に胸が痛くなります。
そして、全ての真相も同時に明らかになっていくわけですが…
最期はとても素晴らしかった。
細かいことはさすがにネタバレすぎるので省略しますが、
とにかく、最後のCGに込められた感情の深さがすさまじい。
たった一枚のCGに、まさに万感の思いが込められていて、とても切ない。
あそこまで感情が集約され、見ている者の胸を打つようなCGは見たことがありません。

 この作品の原画さんは決して上手いとは言えないと思いますが、
あのCGについてだけは絶賛したい。
もちろんシナリオあってのものではありますが、CGの果たした役割も、
あのシーンに関しては同じくらい大きいと思います。


 欠点は、とにかく真相が明かされる最終ルート後半の文章が死ぬほど分かりにくいこと。
考察サイト見ないと、結局どういう事だったのかさっぱり理解できないような状態なのは
ちょっとどうかと思います。
時間軸の詳細とか自力で推察できる人いるの? って言いたくなるぐらいだし。
あえてプレイヤーを煙に巻いて考察させようとしているのかもしれませんが、
ラストがこれ以上ないくらいの名シーンであるだけに、ある程度分かりやすくして欲しかった。
真相を正しく理解しているかどうかが感動の度合いに直結する内容であるだけに、なおさらです。
いい感じに謎を振りまくことができているだけに、伏線回収の爽快感にはイマイチ欠けていたのが惜しまれます。
最初の三人のルートはラストまで分かりやすい内容でしたし、最終ルートもそのようにできたはず。


 とはいえ、そんな欠点もあるものの、作品としての出来は非常に良いですね。
各個別ルートも最終ルートも、容赦のない感情表現や救いのない展開の数々によって
胸に穴が開くような読後感を味わわせてくれるので、鬱ゲーとして申し分のないシナリオ。
加えて、そんな空虚な雰囲気をさらに味わい深いものにしてくれているBGMの数々も珠玉の出来。
初回版付属のサントラは今でもよく聴いています。
 思わせぶりな「夢」の描写など、演出面も謎めいた世界観をよく演出してくれていましたし、
各要素がシナリオをおおいに盛り上げて、良い雰囲気を作り出してくれている。
空虚でミステリアスな雰囲気が好きだとか、鬱ゲーを求めているなどの方なら、買って損はないと思います。
逆に、ハッピーエンドしか受け付けられない方には、あまりオススメできないかも。
あと、妹という題材を大きく扱った作品ではありますが、
妹に萌えられるような内容ではまったくない、という点も要注意ですね。


↓ここから致命的なネタバレ込みの感想になります。





































 この作品は、主人公の視点でリセットされる世界を繰り返しながら真相に迫っていく物語であると同時に
兄と結ばれる可能性を追い求めた絵麻の物語でもあるんですね。
普通の兄妹であることを望み続ける主人公と想いが交差することはなく、
絵麻があきらめることによって物語は完結するわけで、
兄の幸せのために自分の想いを封印した彼女の切ない感情は、
エンディングにおける泣き笑いのCGに、これ以上ないほど現れており、
このCGを目にしたプレイヤーの胸を切なさで締め付けてくれる。
真相が明らかになったという充実感と同時に、彼女にとってあまりに酷な終わり方であることの虚しさも強烈で、
そのふたつが相半ばする読後感を味わわされる。
各ヒロインルートもそうですが、とにかくエンディングを迎えたあとの切なさが強烈ですね。
ここまで、後を引く読後感が長く心に残るような作品は稀有でしょう。

 可能性として描かれる各ヒロインとのエンディングが、絵麻にとってはバッドエンドであるという事実。
この構成がとても好きです。
そして肝心の絵麻ルートは、他のルートと比べても恭介の絵麻に対する対応が忌避一辺倒になる上、
恭介の周囲の人間関係がほとんど壊滅状態になるなど、
何もかも上手くいかない展開であるあたりが象徴的だと感じました。
その道に幸せな未来は無い、という意味で。
 それだけに、あの遊園地の一幕は、絵麻はさぞ幸せな気分だったことでしょう。
何度もリセットを繰り返す中、兄が他の女の子と結ばれる未来ばかりを見てきた絵麻の気持ちを考えると、
あの時、遊園地での目撃者や、学園で一葉などに何を言われようと一切気にしなかったのも、
兄の想いを手に入れられるなら他の人間にどう思われても一向にかまわない、という強烈な執着心が
よく表れていたと思います。

 しかし、この作品、妹モノとして見ると、兄妹で性的な関係を持っていると疑われた時の周囲の反応が印象的ですね。
一葉を筆頭に、はっきりと嫌悪感を示してきますし、祝福してくれる人はほとんどいない。
一葉が激しい嫌悪感を示すのは、絵麻ルートに入れるのは一葉ルートを読んだ後であるだけに
とてもよく理解できますが、それにしても今まで仲の良い幼なじみをやってきたというのに
特に絵麻に対して、一切口もきこうとしなくなるほど嫌悪するというのは、生々しさがあって良かったと思います。
こうした容赦のない感情表現も、この作品の雰囲気を陰鬱なものにしてくれていますから。

 こういうところはライターの呉さんの長所だと思います。
それだけに、最近はこういった良い点を発揮した作品を作ってくれないのが残念でもあるんですけどね。


 あと書ききれなかった感想を箇条書きで。

・本来主人公と結ばれる可能性が薄いと思われるヒロインであるほど、そのルートの内容が救いのないものになっている気がする。
・一葉のエンドはさすがにかわいそうだと思った。せめて桐李エンドみたいな消え方にしてやって欲しかったところです。
・正体不明の「敵」が、途中から紳士の影絵になって喋り始めたのが残念。
正体不明だからこそ不気味だっただけに、意思疎通が出来てしまうと途端に怖くなくなってしまった。
・各週スタート直後にノベル形式で表示される「絵麻が自殺している本来の世界」におけるカウンセラーとのやりとりは
この作品の謎めいた雰囲気を大きく補強してくれていて、実に良い演出だったと思う。

 しかし、カウンセラーの件と関連しますが、
作中で唐突に描かれる、本編と人間関係に齟齬のある日常描写は、
クリアするまでは夢か何かを描いているのかと思っていたのですが、
あれが逆に現実だったというのは、実に面白い描き方だと思います。
こういった要素を活かしきってくれれば、プレイヤーに驚きを与えてくれる展開もできたと思うので
そこが惜しいですね。
このままでも充分名作だと思いますが、さらに面白くなる可能性もあった気がするので…

 最後に、個人的にこの作品で一番気に入っているキャラクターは一葉です。
ていうか全てのエロゲーの中でも、一、二を争うぐらい好きなヒロイン。とても可愛いです。
この子は、年下の幼なじみ特有の雰囲気があるというか…
気さくに接してくれる年下の女の子っていうのは、主人公を先輩と呼んで慕ってくれる後輩キャラと比べても
何か独特な可愛さがありますね。
歳相応の落ち着きと、生来の元気な気質が混じり合った感じの、バランスの良い明るさも魅力です。
そんな子だけに、思いつめた様子でドラッグを買う姿が非常に印象的に映るんですよね。
一種のギャップ萌えかもしれない。最終ルートの主人公&絵麻に対する激しいキレっぷりも含めて。
何しろ叩きつけた台詞が「吐き気がするほどロマンチックだね」だもんなあw
過去への執着心の強さといい、感情表現がとにかく強烈なところが魅力なのかな、と思います。
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houtengagekiさんの「何処へ行くの、あの日」の感想へのレス

レビューお疲れ様です。

イイですよねー「何処あの」。一葉好きというのもよく分かります。
友人ゆえに感じてしまう絵麻への疑念。友人ゆえに自分の恋心を知っている絵麻の裏切り。
vividな感情表現で、非常に人間臭いキャラクターがとても魅力的でした。
まー思い返すと、解放された千尋ルートをプレイすると、千尋もかぁいいなーと浮気心が騒いでしまい、エロゲーマーの業を感じてしまったりもしましたが。

「何処あの」は唯一シナリオ満点を付けているゲームですけど、ちゃんと感想書いてないですし、リプレイしたいゲームの筆頭の一つです。もう一つはSTEEL。
どっちも強烈な鬱ゲーなので、なかなか、リプレイ出来てませんが今年こそは……梅雨の時期は気分的に本気でヘコみそうだから夏以降に……そう思い始めてかれこれ4年が過ぎてるんですけどね。
2011年05月13日14時18分24秒
>えびさん
コメントありがとうございます。何処あのは本当に魅力的な作品ですよね。
シナリオもキャラクターも本当に深みがあって…
一葉は本当に感情表現が生々しくて人間臭かったですよね。あのキャラは本当に魅力的だったなと思います。
絵麻への反応も、一葉ルートのあのシナリオを経た後だけに余計生々しかったですし。
千尋も確かに可愛かった、最初は攻略できなくてもどかしく思ったのもいい思い出ですw
専用ルートの出来も良かったですしね。

何処あのはシナリオに奥深さがあって、自分もシナリオ面では一番好きな部類のエロゲですね。
これは鬱ゲー好きにはたまらないものがありますよねえ。
しかし、再プレイするには確かに、こういう鬱ゲーは私生活に影響が出かねないですから
時期を選んだりプレイ前に覚悟したりは必要かもしれませんねw
自分はPC版もPS2版も冬にやったなあ…

STEELも鬱ゲーとしての評判は耳にしていますが、自分はまだプレイしてないですねー
いずれ手を出してみたいところです。
質の高い鬱ゲーはかなり貴重ですしね。



>広尾さん
はじめまして、コメントありがとうございます。
この作品はシナリオや雰囲気がとても好みで、思い入れがとても大きいので
つい長々と書いてしまったのですが、楽しく読んでいただけたようなら嬉しいですね。

呉さんは、サーカス時代やMOONSTONEの初期作品の頃は、今よりもライターとしての個性があったというか
持ち味を発揮した作品を作っていた感じがしますね。
本当に魅力的で、追いかける価値のあるライターさんだったと思います。
この方には、できればまた持ち味を発揮して作品を書いて欲しいものです。

Clearも確かになかなか個性的な作品でしたね、あれは自分もわりと楽しめました。
心理描写が独特で面白かったことは印象に残っていますし、
何処あの以降の呉作品では一番好きかもしれません。
やはり、ある程度はシリアスで個性的な方向性での作品作りをしてくれた時の方が、
呉さんは面白いものを作れている気がしますね。
2011年05月15日14時07分11秒

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