Medotsuさんの「徒花異譚」の感想

お伽噺に彩られた幻想的な「夢」。そしてそれと密接に関わる「現」。2つの世界が織り成す物語。ライアーソフトらしい独特の世界観を構築しており、相変わらずこの分野では他の追随を許さない。2000円以下の低価格でありながらそれを感じさせない程のクオリティであり丁寧に作られているのがプレイしててわかる。問題はこのゲームが勝負をする土俵はエロゲ、ギャルゲー市場に近いところにあり、そこに所属するユーザーにどれだけプレイして貰えるのだろうか、と言うこと。同日発売のATRIと比べてもデータ数に開きがあり、相当人を選ぶ作品であることがうかがえる。長文はお伽噺関係は詳細書くがシナリオ部分の重要なネタバレは書いていないのでネタバレなしとしている。
黒筆と白姫の二人がお伽噺の世界に入り、紙魚に喰われた物語を修復していく。
その過程で徒花荒らしという鬼が現れ、それとどう向き合うかにより物語が分岐する。

簡単に説明するとこんな感じで、昔、少年サンデーで連載されていた月光条例を想起させる内容。
ただ、月光条例は和洋問わず様々なお伽噺が舞台だったがこちらは徹頭徹尾「和」の世界が描かれている。

このゲームの素晴らしい所は何と言っても主題に相応しい雰囲気を備えていること。
文章、絵、音、全てにおいて作中の世界観とマッチしている。

文章は日本古来のお伽噺の世界が舞台ということで古風な言い回しが多く、まるで純文学を読んでいるかのような気分になる。
故に難解な表現が多々あり、普段から活字に触れてないと読み進めるのもきついだろう。

絵はこれもまたかなり独特。水墨画のような絵で恐ろしいくらい作風にマッチしている。
物語が舞台になるゲームというのは他にもあると思うが、大体はギャルゲーの作風だと一見してわかるのがほとんどだ。
けどこの作品は絵草紙を見事に描ききっている。
絵草紙が完成すると鑑賞画面から見れるのだが挿し絵がこれぞ絵草紙、というものになっている。
立ち絵やCG、背景においても非常にレベルが高く、作中の雰囲気と一体となっている。

主題歌やbgmも和が強調されている。
「追憶」というbgmとともに過去の回想が流れるシーンや桃太郎編のラストのシーンはCGや演出も相俟って非常に美しい場面だった。
Ritaの主題歌も作品のテーマをズバリ表現している。ライアーとRitaの相性は相変わらず抜群。

シナリオ自体は驚くようなどんでん返し等はなく順調に進む。
プロローグや主題歌の歌詞、そして作中で度々回想される過去の記憶などから大体の予想はつくし実際その通りに事が進んでいく。
悪く言えば先が見えるシナリオなのだが、とにかく上記の演出レベルが高く、分かっていても面白いシナリオに仕上がっている。
シナリオを読みきった後は絵草紙に徒花異譚が追加され、シナリオでは語られなかった細かい点(例えば黒筆の物語など)も見ることが出来る。
この絵草紙システムは面白い試みだった。

以下、章毎の感想。

花咲かじいさん・・・正直者のおじいさんとおばあさんは飼っていた犬を失ってしまうが、犬は何度も姿を変えて二人の前に現れて二人を幸せに導いてくれました。犬を殺した意思悪な老夫婦は逆に酷い目に遭いました。
大切な家族を失っても生前に強い絆があれば、死んだモノは何度でも家族の前に姿を変えて現れる。そして良いことをすれば良いことが起きるし、悪いことをすれば悪いことが返ってくる。
という実に分かりやすい話。
幼き日の自分はこの勧善懲悪に満足し、犬も桜になって大好きなおじいさんとおばあさんの側にいられて良かったなと、シンプルな感想を抱いた。
しかし、この作品においては後者の部分が特に取り上げられ、「死生観」がメインテーマになっている。
現実で身近な大切な人を亡くした人にとって、死者が姿を変えてまた自分の元に現れるなど単なる幻想じゃないのかと、「リンカネーション」の存在を否定する。実際に身近に死を感じたことがある人とそうでない人とでは大分考えも異なるであろう。
昔は大団円と思われた花咲かじいさんも今読み返すと色々と考えさせられる物があるなと思った。
徒花荒らしと化したおじいさんが途中で目を覚まし、最後は正当な物語の結末を迎えることを望むのは、大切な人の死を受け入れられなかった人間が時間の経過とともにその人の死を受け入れていく様と似ている。
死後の世界がどのようであれ、その人と過ごした記憶は確かなものであり、不変の事実である。
この一緒に過ごした記憶があるからこそ、別れは辛いが一方でその辛さを乗り越えることも出来ると言うことなのだろう。

浦島太郎・・・このお伽噺、自分は昔から変な話だと思っていた。浦島太郎は亀を助けた良い人だ。そして最初は竜宮城に行くのを遠慮している。更に竜宮城に行ってからも最初のうちは直ぐにお暇しようとする。
しかし、さんざん引き留められて宴を眺め続ける日を続けた後に、家族・友人が気になるからいざ帰りたいと言ったときには帰還を快諾される。そして開けてはならない箱を渡される。
地上に戻り700年も時が立ちどうにもならなくなって玉手箱を開ける。そしておじいさんになる。
物語はここで終わる。全体的に何を訴えたいの?と初めて見たときから疑問だった。
人助けをしてもお礼は固辞しろと言うことなのか、或いは開けるなと言われたときは某ギャグみたいに開けろと言うフリじゃねーんだぞ!ということなのかいずれにしてもスッキリしない終わりかたではっきり言って好きじゃない話だった。
そもそも陸と海で時間の流れが違うなら浦島が帰りたいって言ったときに直ぐ帰せよ、開けてはならない箱なんか渡すんじゃねーよととにかく乙姫の訳の分からない行動には実はこいつ陸の人間が嫌いなんじゃねーか?と思ったくらいだ。一連の行動も酷い目に遭わせてやるための策略だったんじゃないかと。
ただ、このゲームでは浦島はおじいさんになった直後に鶴になり亀となった乙姫と夫婦になるというエピローグが追加されている。
これはオリジナルの話かと思っていたが実はおじいさんになって話が終わるのは教科書に合わせて編纂された近代版であり、お伽草子では浦島と乙姫が結ばれるところまで書かれているとの事。
これは初めて知った。自分が見た浦島太郎は全ておじいさんエンドだったからこれは非常に勉強になった。
この展開なら乙姫の行動も理解できるし、作品のテーマが「叶わぬ恋の成就」であることも理解できる。
陸に住む者と海に住む者では時間の流れが異なる。故に結ばれる為には全てをなげうつ覚悟でなければならない。しかし、浦島は地上への帰還を願った。これを乙姫が拒んだとしたら浦島はずっとモヤモヤしたままだろうし真の意味で結ばれたとは言えない。
だから帰還は快諾した。しかし、地上へ戻っても浦島の望むものはもうない。
それならば浦島を鶴へと変える玉手箱を渡し、自らも亀となることで形は異なれど結ばれる道筋を作ったと。
これなら自然だろう。
まあ浦島の地上での生活を奪ってしまった意味では乙姫は悪い女かもしれない。
しかし、浦島を愛し、結ばれたいという思い故の行動であり、少なくともなぜこんなことをしたのか?という疑問は解消される。
長年の疑問が解消されてスッキリした。

瓜子姫・・・この話は他の話と比べて余り記憶がない。瓜から生まれる→あまのじゃくがくる→さらわれる、までは覚えているのだがその後の展開がうろ覚えだった。この徒花異譚においても黒筆から語られる「瓜子姫は救われた」、白姫から語られる「瓜子姫は殺された」で展開が異なる。なぜこんなことになるか調べたら瓜子姫は地域によって結末が全く異なるらしい。
瓜子姫があまのじゃくに拐われて山に吊るされるが、鳥が瓜子姫が山に囚われられている事を教えてくれて駕籠にいるあまのじゃくを追っ払い瓜子姫が殿様に無事嫁入りして終わり、というのが西日本に多く伝わる話。
瓜子姫があまのじゃくに拐われて皮を剥がれて殺されてあまのじゃくは瓜子姫に成り代わり殿様に嫁入りするというのが東日本に多く伝わる話。
このように展開が地域によって全く違い、書籍によっても異なるから自分も混乱したのだろう。
結末の記憶が曖昧な理由がはっきりとした。またも勉強させられた形だ。
ちなみに徒花異譚において瓜子姫が最終的に迎える結末は前者である。
なので一見幸せそうに見えるがこの話の一番のテーマは「本当は殿様に嫁入りしたくなかった」と言うことである。
これには深く共感した。
例えば西洋のお伽噺ではあるが、シンデレラ。
この話ではシンデレラは劣悪な環境で虐げられている。
だから王子様と結婚して末長く暮らすと言うのは幸せな結末だろう。
しかし、この瓜子姫ではおじいさんやおばあさんに大切に育てられて大好きな機織りをしながら暮らしている時点で既に幸せな状況だとも言える。
だから、大好きな家族と離れて自由に生活できるかも怪しい殿様の元に嫁入りするのが果たして幸せなのか?と言われると確かにそうとも言えないのではないかと。例えば、人柄が良い青年を婿に迎えて家族全員が山で暮らすという選択肢もある。
金や名誉はないかもしれないが瓜子姫の機織りや婿が樵として生計を立てるなどすればそんなに食べるのには困らないだろうし慎ましやかながらも幸せに生活できるだろう。
故に殿様の元に嫁入りするのは殿様の求婚は断るとどうなるか分からないから、などと邪推も出来てしまう。
事実、金持ちと結婚するより真実の愛を選ぶ、と言うのは物語では常套手段である。
瓜子姫では真実の愛に当たる者が登場しないから殿様の元に嫁入りしても表面上は誰も不幸ではないが、よくよく考えると本当にこの状況は幸せなのだろうかと。
徒花異譚の瓜子姫の様な強い志を持った姫様ならそんな環境でも強く生きていけるのだろうが。

桃太郎・・・言わずと知れた超有名な話。細かいところを忘れている人はいるにしても「桃から生まれた桃太郎が犬、猿、雉を仲間にして鬼をこらしめる話」という根幹を知らない人はまずいないだろう。話的にも王道で伝えたいこともはっきりしており、上記の3つの話と比べて引っ掛かるところも特になく、善人は幸せになり、悪人は懲らしめられる、ヒーローが順当に活躍する、という極めて優しい物語であると言える。
しかし、この徒花異譚のシナリオ上は衝撃的な結末を迎える。そこに触れるとネタバレになるから詳細は控えるが、最も優しい物語が最も目を背けたくなる展開になるのは何とも言えなかった。
ただ、シナリオクリア後の絵草紙観賞では本来の物語通りの結末を迎えていて安心した。やはり桃太郎はああでなければならないと思う。いつの時代も子供たちが憧れるヒーローとその仲間、という存在は必要なものだろう。

徒花鄕・・・多くの人はここはどこなのか?なぜ絵草紙の修復をすることになっているのか?と言うことを途中で理解すると思う。特に深いギミック等はない。しかし、その過程に至るまでの物語を低価格作品ながら丁寧に描き、その内容も王道ではあるが演出によって強化されており、綺麗な物語に仕上がっている。展開は大きく分けて3つある。
1つはバッドエンドなので何とも言えないが残りの2つはそれぞれが味のあるエンドとなっている。
「現」エンドは王道である。ご都合主義では?という捉え方も有るかもしれないが一方でエピローグでの年の数が微妙にリアリティーを演出している。
「夢」エンドはある意味これもあの人にとっては幸せのかたちの1つかなと。もう一人にとっては辛いけど。

総評
シナリオに意外性はないがとにかく雰囲気作りが半端ない作品。
ライター、原画、塗り、音声効果、主題歌歌手、それぞれがしっかりと仕事をして物語を作り上げている。
これで2000円以下なのは本当にすごいとしか言いようがない。
それだけに勝負する土俵では中々評価されづらいのが足を引っ張ると思う。
同日発売のATRIは設定も絵もギャルゲーユーザーに受け入れやすいように出来ているがこちらはかなり癖が強い。
まず、前提条件としてある程度お伽噺を読むのが好きであることという制約がある。
例えば、ギャルゲーでもお伽噺や歴史物を舞台にした作品はある。
しかし、多くの場合は可愛いキャラが登場し、時には男キャラが何故か女キャラに変換されるなどオタク受けするようにデフォルメされているがこの作品はそういう媚びるような要素は一切ない。
文章はあくまでも現実のお伽噺を意識し、時代背景もかなり大事にしているため言い回しは難解なものが多い。
ラノベ等に慣れている人にはかなり読みにくいと思う。
絵に関しても作中の雰囲気にはこれ以上ないくらいにはまっているがギャルゲーをやってて親しみのある絵とはとても言えないだろう。とても美しく惹かれる絵ではあるがこれが万人に受けるか?と言われたら頷きづらい。
シナリオ面もかなり特殊で恋愛的要素は話の重要な構成要素ではあるけどそれが常に強調されるわけではない。
そもそも主人公は誰なのか?という問題もある。普通に考えたら黒筆と思われるが実質は白姫の方が主人公に近い。
それすらもどちらかといえば白姫、というだけで実質は二人の物語を眺める第3者という構図が適切。
だから自分を主人公に投影する人に取っては進めづらいかもしれない。
個人的にはこのような視点だからこそ黒筆も白姫もキャラがちゃんとたっていていいと思うが。

素晴らしい作品なのは間違いないが需要と供給の面で考えると中々マッチしないのではないかと思う。
元々ライアーソフトはかなり癖の強いゲームばかり出していて良く今の時代に生き残れているなとは思っていたがエロゲーで出している以上は仕方ないかなと思っていた。
しかし、全年齢版を作れるならもう少し幅広い層に宣伝した方がいいのではないかと思う。
黒筆、桃太郎等のイケメンキャラもいるし白姫は女性から見ても取っつきやすいヒロインだしお伽噺に興味があるなら女性ユーザーがやっても面白い作品。そちらの層にも普及できるのではと。
今回はロープライスゆえに手堅くまとまりライアーにしては癖がない作品だったから尚更そう思う。
一方でフルプライスにしてもう少し話膨らませて長い物語を作ったら個人的にはもっと点を上げてた。
そこまで行ったらアニメ化とかも狙えそう。
この作風で話広げられるなら一般ユーザーも受け入れやすいはず。
まあフルプライス全年齢版のForestみたいな作品も見たいけど。
ここはわざわざエロゲーで勝負する意味ほぼないから全年齢版でガンガン勝負する方がいいと思う。
花魁ルージュみたいな作品作りたいときだけ18禁で出せばいいし。
とりあえずこの作品やったことで久々にForest挑戦したくなったしフェアリーテイルレクイエムにも改めて興味が出てきた。近々やろうと思う。

※ここからはゲームの内容関係なし
このゲーム面白かったけどロープラなのにクリアまでかなりかかった。
話がロープラにしては長いのもそうだけど単純に集中力続かず中断するのが多かったからだ。
なんでそんなことになったか。その原因がなないろリンカネーションだ。
このゲーム、何とシステムの作成にシルキーズプラスの協力を受けている。
だから回想場面でフラッシュバックするときの音がなないろリンカネーションの例の場面の回想の時と同じだったりする。
これには参った。まだあのショックが抜けていないときにあの映像を連想させる音が来るもんだからその度に思い出してしまい手が止まったりすることがあった。
それに連動して普段なら全然怖いと思わないような花咲かじいさんの徒花荒らし化や血まみれの絵草紙などにもビビりかけるような始末でさくさく進まなかった。花咲かじいさんの感想のところでわざわざリンカネーションなんて単語を使ったのはそれになぞらえたためだ。こんなところでもトラウマを思い出させてくれるとはシルキーズプラスは怖いよ本当に。
ななリンとこれの間に神待ちサナちゃん挟んだときは忘れかけてたのにな。
ちなみに音声関係はさっぽろももこだけどこちらは伝説の鬱ゲーさよならを教えての音楽担当。

本当にクセのある製作陣が集まったものだな、と思う。
その分他のゲームにはない面白さがあるけど。
こういうゲームも生き残ってほしい。
全年齢の方がやりやすいから出来ればそっちで。

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