soulfeeler316さんの「BETA-SIXDOUZE」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

努めなければならないのは、自分を完成させることだ。試みなければならないのは、山野の間にぽつりぽつりと光っているあの灯火たちと心を通じ合わせることだ。
君という人間は、君の行為自体の中に宿っている。
君の行為こそ君なのだ。
もうそれ以外のところに君はない!
――――《戦う操縦士》の物語










【目次】
1.『ALPHA-NIGHTHAWK』『BETA-SIXDOUZE』未プレイの方へ

2.キャラクター雑感

3.《人間》の創造神話~リスペクトを語る~

4.愛のメモリー

5.後記と言う名の戯言

6.ソフマップ特典・FC特典の内容










1.『ALPHA-NIGHTHAWK』『BETA-SIXDOUZE』未プレイの方へ
Twitterキャンペーン参加記念SS「イライザの覚醒」を読んだ時から、いつか続編が来るだろうと思ってずっと心待ちにしていた作品
予想以上に告知が早くて、嬉しさのあまりすぐさま予約購入を果たし、先日無事にクリアの旅路を終えたので、まずはハッキリ言っておこうと思います。

本当に素晴らしい傑作でした。

偏に「愛」が光っていたんです。シナリオ&原画兼任の七星電灯氏含めた製作側全員がノリノリ楽しんで作っていたと分かる。決して適当な仕事に成果を留めず。自分達が与えられる全ての力で。僕等ユーザーを楽しませつつも、自身の想いをそれぞれ貫き通して形としている。これは生み出された作品にとって本当に幸せな事であり、こんな愛情溢れるエロゲに出会えた今この時程、PCゲームをプレイしてきて良かったと思う日もありません。
その「愛」は、作中でも実に様々な形で光り輝いていました。サンテックスへの愛。有名古典SFに対する愛。キャラクター1人1人へ向けた愛。ストーリーに向けた愛。そして前作から連綿と続いてきた、人生を含む壮大な歴史への愛
そんな愛情溢れる「物語」となった『BETA-SIXDOUZE』には、ライアーソフトの近作でも特に「本気」ってヤツを見せ付けられた気がします(最新作を最高傑作にする気持ちで、いつも取り組んではいるでしょうがね……いますよね?)
純粋な「物語」の面白さをプレイする僕等へと誘わせ、此方の世界へ引きずり込ませるこの感覚。ずっと待望してきて垣間見えたこの風姿。是非ともより多くの人に見ていって欲しいと希ってしまうのが、僕の純粋な心境と言えるでしょう。

しかし如何せん、本作『BETA-SIXDOUZE』は前作『ALPHA-NIGHTHAWK』から約50年後を舞台として紡がれた続編作品です。
一応クリアした身として個人的意見を申し上げるに、本作から始める事も充分可能な内容ではあります。『ALPHA-NIGHTHAWK』と関わりのあるキャラクターこそあれ、そいつらが絡む細かい設定は作中で語られますし、前作をプレイしてないから情報が足りないなんて消化不良状態になる事もありません(強いて挙げるならイライザの元祖電気羊設定位?)
ロジックパートで後から追記される説明も新情報共々多いですが、最後までプレイしたらばまあまあ、満足出来る仕上がりにはなっていましょう。そこは特に気になりませんで。

ただこのサンテックスシリーズにおいて、前作の一部キャラクターに対して抱いた想いってのは、本作を面白くさせる重要なトリガーとなります。時は移ろい、場が変わり、変化を遂げた世界においても、変わる事無き大切なモノこそ、本シリーズにおける1つのテーマであり。彼等へ抱いた感情、彼女等へ生じた観念に差があるなら、前作既読済みの方より思い入れが薄れてしまう確率は否めません。
また、鏤められた要素や伏線を回収した際に生じる高揚を味わいたい方もNG。本作を先にプレイしたらば、前作は答え合わせの様相が多くの価値を占める故、少々勿体無くも感じるでしょう。

だから、僕としてはやっぱり『ALPHA-NIGHTHAWK』をプレイした状態で『BETA-SIXDOUZE』へ突入する事を推奨します。ドラマCDやFC特典に触れていると尚良し。1つ1つの描写に対して、理解と感情が深まる事確実です。
一個人の意見として参考になれば実に幸い。下記からはネタバレ満載に語っていくので、未プレイの方は御注意宜しくお願い致します。
また、この先はあくまで自己満足的な一個人の解釈であり、断定出来る物でない事を予め、ご了承下さいませ。





2.キャラクター雑感
やはり前作から数十年経過している事もあり、いなくなった人も死んでしまった人もいて。微妙に切なさが漂う開幕となっていた訳ですが。
そんな中、唯一ちょっとだけ出たナユタの面影と、受け継がれし憎きケツアゴの系譜に癒されたり~の腹立ったり~のした最中に始まる、箱根羊介とジャン・バルジャンの「物語」でございます。
OP手前、鉄道内で笑い合う会話を拝見するまでの間に「コイツ等は良い奴だ」と思わせるだけの魅力を与えていたのが凄く好感触で。これは友情に厚い、性格が優しいってだけじゃなく、読んでいて興味の湧く2人のキャラクター性に自然と評価が上がっていきました。《人類》《人類の友》と言う2つの存在が展開を更に良くさせてくれるのを確信出来た故の期待。OPまでの会話劇にその真価を見事垣間見て、それは全く以って裏切られる事なく実に華麗に過ぎ去っていきます。

素直故に不器用で、色々と卑屈になりがちな悩み多き青年。しかし、大切なものは決して見落とさず、その為なら強く優しくあろうと生き続ける胆力も秘めた主人公、箱根羊介
獣として生を受け、生きる為に獣として生きてきた青年。しかし、その本質は純粋な優しさと愛に溢れ、大切なものを決して忘れなかったキツネの相棒兼影の主人公、ジャン・バルジャン

青年達の精神性含めた生き様の全てが素晴らしき魅力に繋がっており、そんな彼等だからこそ、ヒロインと深く育んでいく関係も、《世界の真実》を知っていく展開も、互いへの信頼に溢れている友情も、全く目が離せなかったと言えましょう。
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「もしあんたがおれをなつけたら、おれたちはお互いが必要になる。あんたはおれにとって、この世でたった一人のひとになるし、 おれはあんたにとって、この世でたった一匹のキツネと言うかけがえのないものになるんだよ……」

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』キツネ
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本作は、そんなパイロットと整備士が少女達と相見え、共に2人だけの道を追い求めていくボーイミーツガール。無論、ヒロイン勢も全く負けておりません。
39計画の生き残りにして、夜鷹一蔵やジャン・レグルスとも関わりの深かったアントワーヌ・ド・サガン。ジャン・バルジャンと身も心も通じ合っていく変遷の日々が、金色の麦畑に吹く風の音のように、穏やかで温かかったです。
彼女の場合「帰って来た世界にジャン・バルジャンが居て本当に良かった!」という感想が第一に来ます。オリジンは素性を明かせず、謎多きハナコとの関係に悩む部分もあった以上、孤独を抱えていた彼女が彼と出会えたってのは凄く幸運だった訳で。
そして、それは幸運でこそあれ、必然でもあり。ジャン・レグルスのアンネに対する純粋な想いがあったからこそ、彼女は彼と出会い、孤独を分かち合いながらも愛し合う事が出来ました。それはジャン・レグルスが死して尚、ネオフェネック誕生から約60年が過ぎた未来に至っても尚、生き続けていた「愛」の象徴であります。
「誰からも愛されない世界」なんて無い。アンネの世界は、それこそ1人の男の「愛」で満ちている。それを受け容れられた彼女だから「ジャン」に対して自立への感謝と別れを告げ、過去に囚われないで「ジャン」と共に突き進む覚悟を固めた場面は、一入の感慨に包まれる始末
そういや、小麦畑色の髪と蒼い瞳を持つナユタって、確かメモリー個体でした。……まあ、そういう事ですよね。
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「なんにせよ……キミたちネオフェネックを幸せにするのが俺の役目だ」
「小麦畑色の髪と蒼い瞳を持つ少女……どうか幸せになりなさい」

『ALPHA-NIGHTHAWK』ジャン・レグルス
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例え仮初の機会だとしても、ジャン・レグルスはナユタを助けた。ナユタだけでも、助けられた。
それは、彼にとっても酷く強い意味を齎した行為だったんだと。1年後の今になって、漸く理解出来た僕なのでした。


そして、ハナコ。羊介のバディにして、彼と共に宇宙を駆ける612の子供ヒロイン。僕がまんぐり返しに大層弱いって事を改めて自覚させてくれた、無邪気な罪で溢れた少女です。
僕は優しさと純粋さを内に秘めたヒロインが基本大好きで、アンネもその枠に見事該当するんですが、この娘に限って言えばもうドンピシャ。無性に可愛くてしょうがなかったヒロインでした。
それは、彼女の孤独に上手く共感出来たからだろうと、今になって痛感します。ハナコがずっと直面していた、自身のポテンシャルが齎した現実。誰かの為になるだろう才能が仲間と成り得る存在を傷つけてしまう。ハナコはずっと苦悩した状態で、持ってしまったが故の葛藤を押し殺してきたバディキラーでした。
そんな彼女が羊介と過ごす中で、互いにこの人以外ありえないと思える程の信頼へ昇華したのが本当に大好きで。
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「だって、だって羊介……っ、ハナコじゃなくて、この子ばっかりかまうんだもん!」
「今日はハナコとのデートなのに……! ハナコといっぱい遊ぶはずだったのにぃ!」
「こんなにヤな気持ちになるなら、デートなんてしなきゃ良かった!」

『BETA-SIXDOUZE』ハナコ
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《イルカ学園》のアクティビティで、ハナコが羊介に叫んだ内容。意外と胸に刺さったんですよね。僕も羊介と同じように考えていたから、尚更自分の浅薄を痛感した次第
大切にしようと決めていたもの、しなきゃいけなかったものをほったらかして続くデートに何の意味も無いんだって。
例えほったらかしていたつもりは無いにしても、ほったらかされたと思わせたら、それはまるで意味が無いんだって。
しかしだからこそ、そんな不可解の裏に潜む彼女の純心を理解してあげられなかった過去を反面教師に行動し続けた、羊介の愚直さには実に頭が下がります。
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「でもね、心配しなくても大丈夫だよ。だってハナコと羊介は612だから……」
「世界中のみんなが羊介のこと嫌いになっても、ハナコだけは羊介のこと、ずっとずっと大好きだよ?」

『BETA-SIXDOUZE』ハナコ
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そして、その失敗を糧に接してきたからこそ、信頼関係を結べた少女とビーチで抱き合い、彼女が彼への大切を伝えてくれる終盤。そこまで至れた軌跡には偏にハナコの彼へ向けた愛おしさを感じられ、ここまで来て本当に良かったと、僕に強く思わせてくれたのでした。


そして、そんなメインキャラクターを支えてくれた存在達にも少しばかりの言及を。
ウォー将軍。コンスエロ撃破数最多を誇る記録保持者にして英雄育成の為のシミュレーションチルドレン、そしてアンネの弟、チリン。僕は「イライザの覚醒」を予め読んでいたので、彼がチリンだと言うのは最初から薄々察せていました。とんでもねえサイコ野郎に成り果てたかもしれねえってのも、読んで正直覚悟していた次第。しかし、寧ろ彼は《人類》の為に身を粉にしてきた奉仕者であり、英雄と称されていたのも凄く理解出来てしまった顛末(ナイアとラキをぶち殺したのには衝撃を受けましたけど)
勿論、殺人は罪。ハナコに対して犯した内容も、彼女の正気を破壊する為とは言え、利用していた事実に変わりは無いので褒められたものじゃない。ラキは正直可哀想とも思った始末。しかし彼もまた、時代に翻弄された可哀想なヤツなのは変わらない訳で。だからこそ傍にイライザが居てくれる後日談に、少なからず幸福を感じたってのも僕の本心なのでした。


イライザ。ウォーの傍に控えるAIにして母親にして恋人。そして、ジャン・レグルスによって作られた《人工女神》
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「こいつは面白い。まさか電気羊がここまで徹底して《母》に成りきるとは」
「いや……《母》ではなく《女神》と言った方が正しいな。これは《ELIZAの覚醒》だ」

『ALPHA-NIGHTHAWK』ジャン・レグルス
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フロッピーのデータをマインドアップロードして作り上げた元祖電気羊は、偏にウォーを想って生きていました。この「人」は彼に対する愛が兎に角深い。読み終わった今、強く強く実感します。
「彼女が心を持っていたか?」って問いについては、最後の主張が全てでしょう。「人を愛しむ純粋な心を持っている」女性は、自分が何者であるかと言うアイデンティティを示すべき問いに、しっかり自身を誇示出来ました。この日は新たなる《人間》が誕生した始まりの一日となる筈です。僕はそう信じています。


オリジン。ジャン・レグルスの傍に控えた秘書にして恋人にして傍観者。そして、在りし日の「リュネット」と言う名を捨て、新たな名称で未来を歩まんとしている観察者です。
前作ではジャン・レグルスに御付きの人ってイメージしか持てなかったので、再登場したのは――『ALPHA-NIGHTHAWK』ヴィジュアルファンブックSS「五次元の旅人」で分かっていた事ではありましたが――非常に嬉しく感じた次第。ホームパーティで素性を明かせずとも、アンネと会話を交せた彼女に、嬉しくも少し切なくなったり。
また、彼女を語る上でイライザとラムさん(レオンラムダ)は地味に欠かせないと思っていて。正六面体のお姫様のお伽話で、レオンラムダはこんな事を言っていました。
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「アニムを表現することがアニメーションだ! それは命のない静物に魂を吹き込むこと!」

「もしかして彼女のことを笑っているのかい? 少しばかり自分と外見が違うだけで……」


『BETA-SIXDOUZE』ラムさん(レオンラムダ)
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「これだからAIは嫌いだ。気を許すとすぐに《反乱意志》を持つ」
「お前なんかスクラップになってしまえ。初期型電気羊のようにな」

『BETA-SIXDOUZE』ラムさん(レオンラムダ)
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しかし、自分で偉そうに語っていた事を、彼女はイライザに適用させません。その差別加減には、そこはかとない歪を感じたのも個人的感想
結局前者は、自分が笑われた事に憤懣遣る方無く思って反論した、人間味溢れるエネルギー生命体の反応だっただけ。どうしてアンネに怒られたのかわかっていないその愚鈍さは、知恵の保護者の名に恥じる滑稽の極みでございます。
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「酷い事を言ってごめんなさい……心が無いなんて言って悪かったわ」

『BETA-SIXDOUZE』オリジン(リュネット)
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しかし、オリジンはそんな自身の偏見から来た愚考を恥じ、過去から学んで前へ進もうとしていました。知恵を抱いて歩む進歩者として、確かな成長をしていると感じられたのが、個人的に凄く嬉しかった所
オリジンの旅はまだ終わりません。どうかその終着まで、彼女を見守っていきたいと思えた読後感でした。


ラムさん。又の名を《戦艦の女神》レオンラムダ。先程厳しく言及しましたが、別に嫌いじゃありません。ただ、彼女の性根はよくわかんねえってのも僕の本音
最終決戦における共闘は確かに心強かったし熱く燃えました。しかし、レオンの姿勢自体はあまり変わってないんじゃねえか?って疑惑も少々覚えるのです。
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「人類が盲目のままならば……このまま滅びてしまえばいいと思う」

「元より私は星の終わりを見に来たのだ。花子に対しての責任はあるが、人類に対してはそこまでの興味などない」


『BETA-SIXDOUZE』ラムさん(レオンラムダ)
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「滅びゆく星でどんな困難が襲っても、このふたりのように乗り越える者はきっと現れる」
「もう一度人類を信じてみよう。途方もない宇宙に生まれた奇跡のような存在達を――」

『BETA-SIXDOUZE』ラムさん(レオンラムダ)
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花子の為に慰めの言葉をかけるレオン。これはあくまで僕の個人的感想なんですけど、花子に対しての責任を「人類を利用した事で」果たせ、彼等に対して「そこまでの興味などない」からこそ、後者のような希望論を吐く事が出来たんじゃねえか?って。
言っちゃなんですが、人類の未来って花子が危惧していたように、確かに問題山積みなんですよ。展望を本当に心配していたからこそ、花子は間違った行動であれ行動を起こしたし、本当に心配するだけの慈悲を持っていたから、最後に彼等を信じようとしてくれました(詳細は後述)
しかし、レオンラムダは終始花子の為に行動してきて、それが結果的に人類をも救う事になっただけの話です。彼女の辞書に「人類の為」ってお題目は存在しないのではないか? 心の観点で言えば、間違っていた花子の方が実はよっぽど優しいと言えるのではないか?
39計画を命じたのは《クイーン》と呼ばれる《オールドレディ》の1人と、ブラックキャンパスは前作で語りました。神話や伝説的女神を示す際にも使われる「Queen」と言う単語。その事もレオンラムダを安易に信頼出来ない理由の1つ
そして何より、元々彼女は「星の終わりを見に来た」存在です。最後にオリジンの元へ戻ってきた事も含めて、何か怪しく感じてしまうのが衝動。こうして生じてしまう懐疑こそ、実に疑り深い僕の悪癖と言える事でしょう。

まあ、言及されなければ不確定なこの世界。僕が語った内容も妄想の1つに過ぎないので、話半分で聞き流すが吉
花子第一主義で生きてきたのはよく分かりました。その情報だけで、これまでの彼女を想像するには充分と言えるかもしれません。
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《セルは宇宙を駆け巡る光、魂の声》
《宇宙の数は無数にある》
《それこそ、ミクロからマクロまで》
《オールドレディは人体の中に宇宙を見つけ、細胞ひとつひとつにアプローチをかける方法を手に入れた》
《しかし彼女はこの次元から去ってしまった。永遠という夢を実現する前に》
《女神はそれを悲しみ、後を追うように次元を超えた》
《女神の骸は今でも目に見える形に残されているが、彼女の魂は私たちの次元を超えてしまった》
《我々はバオバブ塔に女神の亡骸を納めて祀った》
《オールドレディは今もなお、女神を呼び続ける》
《遥か彼方の月の花園から女神の魂を求めて歌い続けている》
《オールドレディの歌に引き寄せられるように、バオバブ塔は宙に浮き、花園にそっと寄り添った》
《もう気付いている者もいるはずだ》
《五億の鈴は彼女の歌を一身に受け、薔薇の声に共鳴する》
《ミクロの宇宙が彼女の歌にかき乱されている》
《彼女を想って鈴が鳴る。鈴が泣く。鈴が笑う》
《ミクロの宇宙が彼女の歌によって組み換えられていく》
《人類はすでにオールドレディに侵略されている》
《すでに五億の鈴の中から五千の薔薇が生まれている。気付いているだろう。異質な彼らの能力を》
《隣人が敵になる時は近い》
《99の病める羊たちよ、立ち上がれ》
《戒めの園に眠るハナコの亡骸に刃を立て、彼女の魂を開放するのだ》
《私は戦艦に眠り、電気羊の夢となる》
《薔薇を想い揺蕩いながら、闘志を燃やし続けるだろう》
《私はあの薔薇に責任がある》

『ALPHA-NIGHTHAWK』《五千の薔薇と五億の鈴》
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そして最後にジャン・レグルスと夜鷹一蔵。過去回想で登場したのみでしたが、本当に印象が変わりました。特に前者はある意味、本作キャラクター達の裏に立つ中心人物としてかなり上手く機能していた次第
と言うのも、前作まで僕はジャン・レグルスをケモナー変態鬼畜エロ眼鏡としか認識しておらず、ネオフェネックプロトタイプ資料を見た時なんて業が深すぎると中々戦慄していたんです。しかし本作をプレイして、それはあくまで夜鷹一蔵の元親友であった彼の一部に過ぎなかったと痛感させられます。
『BETA-SIXDOUZE』において、ジャン・レグルスはかなりの重要人物です。ネオフェネックを新たな《人間》として生み出そうと画策したのは然る事ながら、レオンラムダが使っていた知識伝達手法を《高速言語》として意図せず発明しているアイディアの深さ、観察者のオリジンやアンネに与えた影響と、要素は色々
また、ジャン・レグルスの本質ってヤツはあくまでアンネに対しての愛が多くの比重を占めており、彼女次第で如何様にも変わってしまうモノでした。偏に愛の深い人物だったと言う新たな側面を見出せたのは、かなり彼への見方を変えてくれたと言えましょう。
恐らく、前作と本作で1番見方の変わるキャラクター。親友を信じ切れなかった落ち度ってヤツは多分にありましたが、前作よりかなり親近感の湧く人物になったのが、僕としても凄く喜ばしい所なのでした。

夜鷹一蔵については、前作の批評で結構語ったので、取り立てて多くは語りません。これが、フロッピーの言っていた「素直な一蔵」かと。「……まあ、確かに素直か!」とちょっと笑ってしまった次第。後、「迷子の女の子」の話が出たのはちょっと嬉しかったです。彼にとってずっと大切な想い出だったんだろうと、微笑ましく感じたのでした(知りたい方は『ALPHA-NIGHTHAWK』のソフマップ特典ドラマCDをチェック!)


次章から本題。物語の本質を語っていくと致しましょう。





3.《人間》の創造神話~リスペクトを語る~
前作『ALPHA-NIGHTHAWK』と同様『BETA-SIXDOUZE』でも、先人に対するリスペクトが実に上手く光っています。
僕自身はSF愛好家からしたら大した事無いレベルに過ぎないので、寛大な心持で読んで頂けたら幸い。参考にしているかは確定でない事を念頭に、一先ず下記をお読み下さい(前作で挙げた作品は除外しておきます)


【SF】
『交響詩篇エウレカセブン』(これまで観てきた作品中、僕が最も愛しているアニメ。自分の人生観を確立させてくれた本作の面影を、ハナコの正体や羊介とのやり取りの中で思い出したり)
『天元突破グレンラガン』(『ALPHA-NIGHTHAWK』を批評した際、僕が参考にした作品。終盤なんてもう思い出しまくりでヤバかった)
『リロ・アンド・スティッチ』(ハワイに人間じゃない存在が襲来し、途中にエルヴィス・プレスリーなんて意識したら、自然と思い出しちゃいました)

そして恐らく、これは意識していたんじゃないかと思える作品がもう1つあって。
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人類はもはや孤独ではないのだ。

アーサー・チャールズ・クラーク『幼年期の終り』
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『幼年期の終り』(古典SF小説として超有名作の逸品)
『BETA-SIXDOUZE』はその随一な傑作をかなり意識していたんじゃないか?ってのが、僕の抱いた予想となります。
第1章(『ALPHA-NIGHTHAWK』)から約50年後の経過を経て、遂に姿を見せる知的生命体。「この世界のどこにでも存在するし、同時にどこにも存在しない」物質の束縛から脱却した《エネルギー体》オーバーマインド(レオンラムダ)。そして『幼年期の終り』も『BETA-SIXDOUZE』も、人間の新たなる「創造」を描いた点において、どうしても意識してしまうのが正直な所でした。


本作『BETA-SIXDOUZE』では、3つの「人間の創造」が描かれています。
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「アーダーマー……創世記でも気取ってるのか?」
「惜しい。アーダーマーはアダムの語源。正しくは《地面》という意味だ」
「アーダーマーは創世記とは別の道を辿るだろう。彼が《人間》になるのもきっと時間の問題だよ」

『BETA-SIXDOUZE』夜鷹一蔵&ジャン・レグルス
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前作に登場した宿屋のジジイ、アダムから始まった創造の歴史。「偉大なる知性」ジャン・レグルスの想像に適う成長を踏み出したネオフェネックの過程は、1つのインテリジェント・デザインによるものでした。
カプセルから生まれた存在は人と同じく交わる事で、命を未来へ繋いでいき、人類と同じ存在にまで自身を昇華していきます。電気羊に乗れないとされていた前提を、夢として叶え、覆した事を証明した本作。これが《人間》と同位置の別種族へ、ネオフェネックを更に一般化させるきっかけと成り得る事でしょう。
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「任せなさい! だって私、電気羊よ!!」

『BETA-SIXDOUZE』イライザ
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2つ目はAIについて。ウォーとイライザが婚姻を結ぶ事で《人間》はまた新たな道を歩みます。「人を愛しむ純粋な心を持っている」女性は、ウォーにとって心を持つ存在そのものであり。自分が何者であるか、アイデンティティをしっかり抱いた彼女の立ち位置もまた、更なる変化を遂げる筈。だからこそ、イライザが決意した日は彼女にとって、新たな《人間》誕生となる始まりの日に成り得ると言える事でしょう。

《人類》になれなかった《人類の友》2種が、新たな《人間》として歩む最初の一歩を確かに感じた『BETA-SIXDOUZE』
そして3つ目。残された《人類》にも1つの息吹となる創造を強く強く感じた次第。それは、人間の内に新たな人間が創造されたあの時。花子と羊介が邂逅を果たしたあの瞬間に始まったものだと、今ならはっきり断言出来ます。
彼等が最後に触れ合おうと手を伸ばしたCG。あれは恐らく『アダムの創造』と言うミケランジェロ・ブオナローティの宗教画を参考にしています。構図や描写に酷似している部分、人間に生命を吹き込む意図、花子を支えるソフィア、花子が「宙飛ぶスパゲティモンスター」だった過去等、様々に根拠は挙げられる仕様
人間性を表す有名なアイコン、神とアダムの指先が今にも触れようとしている場面は、元々の絵だと人間に生命を吹き込もうとする神の行動を示した部分であり、羊介がハナコの指先から生じる光に触れて回復したのも、偶然ではない気が致します。
そんな花子の傍には智慧・叡智を意味するソフィア、レオンラムダが控えていました。古代ヘレニズム世界だとそれは「人間救済における元型象徴」と見做す事も出来た次第
そして、宙飛ぶスパゲティモンスター。これは「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教」をもじってつけられた名であるのは勿論ですが、その中に『アダムの創造』の「神」を「スパゲッティ・モンスター」にパロディ化して生み出されたアルネ・ニコラス・ヤンソンの作品があります。

以上の観点から、あの2人が手を取り合えなかったCGは『アダムの創造』を意識して描かれたものってのが僕の考察
そして、その事を踏まえた上で最終段階。羊介とハナコ、そして花子の物語を解釈していきたいと存じます。





4.愛のメモリー
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「俺が操縦士を目指した最初の理由……」
「思えば俺は、じいさんの生き方に憧れてたんだ。大切な人の平和を守る強い人間になりたかった」
「中佐の代わりに修羅に乗る、今のお前みたいにさ……」

『BETA-SIXDOUZE』箱根羊介
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ハナコと語らい過ごしていく中で、思い出していく彼の初心。童心。原初の記憶……天才夜鷹一蔵のように生きたいと言う凡人の気持ちは形を変えて、違った形で、羊介の心中に舞い戻ります。
「大切な人」が《人類の敵》であったハナコだとしても、決して打ち拉がれる事はない。
あの娘が平和を脅かす発端になってしまうとしても、彼女と今まで接してきた想い出が、彼を闘志へ駆り立てる。
万人の思想、偏見、平和より大切なのは、自分自身の想いである。
それを追求する、ただそれだけの為に箱根羊介の《意志》はある。
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「ハナコと出会って、彼女と共に時を過ごして、俺は初めて自分の心と向き合えるようになったんだ!」
「俺の行動だけが、俺自身を何者か決める!」
「だから俺はハナコを迎えに行く! 戦う操縦士として、それ以外に他はない!」

『BETA-SIXDOUZE』箱根羊介
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敵とか味方とか、常識とか偏見とか、世間体とか他人とか、そんな事はどうでもいい! ハナコを絶対に連れ戻す!!
強き心情の元、最終決戦となる薔薇の中へ向かう、泥臭くも天上の高みへ昇り続けようと動くヒーロー。彼女を一途に想うそんな格好良さが羊介の中には確かにあり。この時点で彼はもう、ハナコを支えられる最高のバディになれたんだと改めて思えた次第


そして舞台は最終決戦、薔薇の中。花子の一部から生まれたハナコが人間と育んで生まれた心を行動原理として、母人へ持ち帰った最終話に至ります。
花子にハナコを取り込ませた場合、融合した2人の行動原理に変化が加えられ、ナノマシンの効果は食い止められましょう。しかし、ハナコの犠牲を前提とした作戦に羊介は反対。彼女を連れ戻す為、薔薇の中へ突入すると言うあらまし

こうして足掻き続ける彼の行動に比して花子がしたかった事とは何か。それを考える上で重要となるのが、宇宙のオアフに住む猫、シュガーボールの外伝
自由気儘に暮らしていた中、トロリーバスに撥ねられた愛猫。この時彼は、夜鷹一蔵のように1度死んだんじゃね?って予想が生じますが、不明点は横へ置いといて。ハナコと邂逅した、その先が大切!
彼女は自由に身体を使わせて貰う代わりに、餌を沢山取ってあげる取引をシュガーボールに提案します。快く受諾した猫ですが、護民官は徐々に退屈を感じ始める始末
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身体は問題なく動いて獲物を捕らえ、日常を繰り返してくれる。
今の生活は生きていく上で不自由な面など何もない。
我輩の行動に我輩の意志は全く関与していない。

『BETA-SIXDOUZE』ハナコ
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飢えで死ぬ可能性もない代わり、生きる事への喜怒哀楽もない。そこに意志は介在しておらず、ただ「生きるだけの生物」と化したハナコの姿しか存在しない。
ナノマシンに乗っ取られた心弱き者の末路は、仮初の名前を手に入れた猫の如し。ハナコは、定着した者の元々持っていた意志を殺す事で、無意識的な生命維持活動を齎していたのです。「ゾンビ」って例えが1番分かりやすいかと。

で、そんな事をしたのは何故かといったら、作中でしっかりと口にしていますね。
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「私の目的は恐怖そのものに終止符を打つこと」
「生まれた瞬間から抗えぬ死に怯え続ける。死への恐怖は人の心を怪物にする」
「恐怖を前に生きるのは可哀想。私と共に永遠の安らぎを揺蕩えばいい」

『BETA-SIXDOUZE』花子
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自身の未来医療研究によって、態度が変わった人間を見たからこその解答。「死を蔑ろにせず、人の意思や生命を尊重していた」彼女が、こんな冷たい方程式の解へと辿りついてしまいました。

その無慈悲さに、酷く心が痛むんです。

花子は元々、死ぬと分かっていても生きていく人間の《意志》に「意味」を感じていた科学者でした。しかし、死ぬ事への恐怖が不老不死を切望していた大人達の心を怪物へ変え、彼女も「スパゲッティ・モンスター」と言う怪物に変貌してしまいます。
そして、そこに至るまでの経緯を知ってしまったから、否定された自分の考えを塗り潰す代用思想を生み出した次第。「死に対する恐怖の大元である『意志』を無くせば、ナノマシンに支配された人類全てが救済される」と捉えるようになっちゃった始末

その結果、花子が行ってきたのは、適合した宿主に対する寄生から始まる身体と意志の支配
その結果、花子がしたかったのは、死の恐怖から救ってあげようと無情の呪縛を植えつける事
確かに、ハナコの言い分も理解は出来ます。彼女が予知していたかは知りませんが、事実本作でも不穏な要素ってのは目立たない形でひっそり顕現しているんです。
「地上世界で頻発している天変地異」「セルエネルギー枯渇?問題」と言った、コンスエロ以外にも立ち向かうべき目標は、次から次へ沸いてます。登りきった山が新たな目標の麓、スタート地点にすら立っていなかったなんてザラな世界
そして、見方を変えれば花子は凄く「優しい人」だとも思えるんです。手酷い騙しを受けて、自身を怪物へ変貌させた《人間》に恨みを抱いてもおかしくないのに、彼女は全くそうしようとしなかった。寧ろ《人類》の展望を危ぶんで、自身が生み出した未来医療技術の責任を自分なりに何とか果たそうとしていました。
責任感が強く、純粋な意志を内に秘めた、心の透き通った優しき少女。この娘からハナコが生まれたのは、無知故の成長と言う側面もあるんでしょうが、正直結構納得したんですよ。彼女から生まれた生命体なら、ハナコもまた、この娘のようになるのは必然だったかもしれないって。

「もう苦しまずともいい」と、甘受の調べを植えつけようとする花子。間違ってはいたけれど、確かに間違ってはいたんだけれど、そこへ辿り着くまでに至った気持ち自体を否定する事は、僕には終ぞ出来ませんでした。
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「そんなの有難迷惑だ! 永遠なんて誰も望んじゃいない!」

「永遠なんていらない……! 俺は死ぬまでハナコと一緒に生きていたい!」


『BETA-SIXDOUZE』箱根羊介
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しかし、これだけははっきり言います。羊介の言った通り、それは「有難迷惑」に過ぎません。残念だけど、こっちはそんなの望んでないです。
これは結局《人間》と接して、その気持ちに向き合おうとしなかった花子自身のミスと言えます。自分独りで勝手に決めつけ、それが他人をも幸せにすると信じて疑わなかった彼女自身の「エゴイスティックな罪」
そしてぶっちゃけ、羊介もエゴでここまで至りました。だからこれは結局、エゴとエゴのぶつかり合いに過ぎず、どちらの心が早く折れるかの真っ向勝負だったと言えましょう。

しかし、ハナコと花子を比べた場合、それはまた別の視点へ辿り着く次第。《人間》を知って彼等の為に行動しようと変化した薔薇と、《人間》の想いなんて知ろうともせず自分勝手な優しさを押し付けた薔薇
《ハナコ》と《花子》の違いは結局の所、そこだけであり、そのちょっとした相違が羊介と噛み合わない「断絶」になったと言えるんです。
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「嘘……レオンも私のことが嫌いなんでしょ?」
「恐怖を捨てない限り人類は過ちを繰り返す。この先どんな困難が人類を襲うかわからない」
「私はみんなの為を思ってるだけなのに。それなのにみんなから拒絶される……!」

『BETA-SIXDOUZE』花子
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結局の所、花子は《人間》と触れ合う術を、ナノマシンを用いる事でしか見出せなかったんでしょう。《人類の敵》と化した彼女は、それ以外の術を持ち得なかったんでしょう。
人間時代、寂しくなったら空を見上げて、同じように宇宙を旅立った仲間を思えば、心が弾んで嬉しくなると1人の少女は語りました。何百万もの星のどれかに咲いている、たった1輪の花が好きだったら、その人はその沢山の星を眺めるだけで幸せになれるんです。「私の好きな花が、この星のどこかにきっとある」って思えるんです。
しかし、そんな純粋無垢と過ぎた希望の過去に裏切られ、空を見上げてもどうにもならない気持ちしか芽生えなくなったら、誰かとどんな形であれ「触れ合いたい」と思うのは情状でしょう。だから、彼女が偏に感じていたのは1つだけ。

ただ只管に、花子は「孤独」だったんです。彼女はもはや《人類》ではないから。

ああ、悔しいな。本当に悔しいなって。思わず歯噛みしてしまいましたよ。どうしてここまで花子に業を背負わせたのか。この娘は何も悪い事なんてしてないんだぞ。寧ろ《人類》の為に貢献しようと自力で頑張って来たんだ。その結果がこの様か? 宙飛ぶスパゲティモンスターとして恐怖、揶揄される未来の末路か? コンスエロとして生きていく他なかった孤独の日々か? 腐ってやがる。運命諸共ふざけてやがる。
と、彼女の素性を知った際は、何故だか無性に悔しかった次第。どうして自分でもこんなに感情移入してしまったか分からないんですが、それだけ僕の中で感じ、考えさせてくれるキャラクターだったのでしょう。《ハナコ》を選んだ羊介とは別れるしかなかった《花子》だから、尚更に。


花子は、羊介に愛されるハナコの姿を見て、悔しく寂しく切なく感じながらも「新人類」との別れを選びます。自分が信じられると感じた《人間》の姿を見て、新たな未来を描こうと奮闘する羊介の姿を見て。遠く離れても彼がいる世界を信じると決めました。
それは間違いなく、羊介の為に想い考え決断した事です。ハナコの行動原理に感情が同化したんだとしても、花子自身にハナコの心が最初から芽生えていたんだとしても、その結論は変わりません。心優しき薔薇の花が、自分の想いとして考え決断、行動した事であります。
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「そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。もうよそへいくことをおきめになったんだから、いっておしまいなさい、さっさと!」
花がそういったのは、泣いている顔を、王子さまに見せたくなかったからでした。
それほど弱みを見せるのがきらいな花でした。

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』バラの花
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それは、ハナコが花子を優しく変えた証。彼女自身の決断として、新たな人生を歩み出した証
そして羊介もまた、ハナコと言う薔薇を選んだ責任を全うする事を誓いつつ、母艦に帰る次第。花子の意志を尊重し、ハナコとの未来を切望した自分として生きていきます。それが、彼女等2人に向けた彼の「責任」だからです。
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「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思ってるのはね、そのバラの花のために時間を費やしたからだよ」

「人間っていうものは、このたいせつなことを忘れてるんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。まもらなけりゃならないんだよ、バラの花との約束をね……」


アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』キツネ
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だから、共に空を見上げて同じ星の光を眺め続けるセル乗員と操縦士を見て、僕は偏に感慨深くなりました。
2人に死が訪れて、星になる日が来ても、決して離れはしない導の繋がりを、見事感じられましたから。
β-612として結ばれた羊介とハナコの契約は、もしくはβ-612として結ばれなかった羊介と花子の契約は、作中でずっと続いていく事でしょう。
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創世記17章。
「私はあなたとのあいだに契約をたてて、永遠の契約とし、あなたの神となるであろう」
「あなたは私の契約を守らなければならない」

『パンセ』B-612(ブルンシュビック版 断章612)
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サン=テグジュペリは、聖書に書かれている神との契約の中味を、B-612が暗示するような権威的な書き方で表現したくなかったのではないか。
そうではなく、キリストが体現した福音そのものである「人を愛すること」(中略)を、伝えたかったのではないだろうか。

『「星の王子さま」からのクリスマス・メッセージ』
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「愛する者に対して責任を持つ」契約と「自分を愛してくれた人を裏切らない」契約。それは彼等が死んだ後も、この星が滅びた後も、きっと揺るがない。
「薔薇が奏でる優しい歌」と共に、その誓いが揺らぐ事はきっとない。
いつまでも同じ星の光を眺め続ける2人。その姿に、彼等が紡ぐ信頼の強さを信じてみたいと思えた読後感なのでした。





5.後記と言う名の戯言
まずは昨今大変な状況の中、常態と変わらず新作を生み出してくれたLiar-soft製作陣に最大級の感謝を申し上げたく思います。本当にありがとうございました。
今のご時勢、何がこうなって誰がどうなってしまうか分からない世の中です。だから、伝えられる時に感謝しとけってもんであり、『BETA-SIXDOUZE』はそれを「今」純粋な真意として伝えるに相応しい傑作として、僕の中で君臨したと言えるでしょう。
と言うのも、本作は随所に「今の日本が陥っている現状」ってヤツを意識させる描写が目立っていたように感じた次第
ウイルスが猛威を振るうハワイの渦中を描いたり、昨今のSNS事情なんかにも踏み込んだりした上で、どう生きるべきかってヤツを示してくれた、2020年産エロゲとしても実に最高の一品でした。

しかし、『ALPHA-NIGHTHAWK』の批評で「150%は出せた所を、80%位に落としたような印象」なんて偉そうに書いてしまいましたが、見事に本作で真価を叩き付けてくれたと実感します。僕の言及した伏線回収内容がほぼ完璧に回収されたのは本当に驚きました。これだけで、もう高評価に与せざるを得ない代物
「2作目で作者の真価が問われる」と、聞き馴染みのある文句があります。その観点から語るなら、七星電灯氏は間違いなく作品に対しての真摯さとそれを伝えようとしてくれる作家としての純粋な姿勢がありました。応援してきた身としては、その星あかりのように輝いた綺麗な成長がとても嬉しくて堪りません。


さて、『BETA-SIXDOUZE』まで終わってみると、本シリーズは偏に「《人間》の創生」を一貫して描いていると痛感します。
夜鷹一蔵から始まった、自分が自分である為の戦い。その形成は本作で更に多方向の分岐を与え、広がりを齎し、世界観と設定の幅が柔軟となった心持を感じました。
そしてだからこそ、その帰結を見てみたいとも思える次第(ここで終わっても凄く綺麗ではあるんですが)
皆さん、結構の方がこれで完結と思っているようですが、解決し切れてない問題も一応ありますから。
前述したように「地球の天変地異」や「セルエネルギー枯渇?問題」なんて全く取り沙汰される事なく、不穏な響きを控えたまま終幕しています。「結晶化した薔薇園の影響」ってのも怖い所だし、回収し切れてない謎も39計画の《クイーン》やロココナココの意味深な歌等、あるっちゃある始末
そして何より、これで終わっていいのか?って部分も僕の中には少しあるんです。主な理由はこれ以下に。
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あの日、あの時――
羊介に別れを告げたコンスエロの中にも、確かに《ハナコ》が存在した。
今隣に立っているハナコは紛れもない彼女自身だ。
羊介にとって大切な、正真正銘のハナコそのものである。
だが――あの日別れた《コンスエロ》の中にも《ハナコ》の心が確かに存在するように思えたのだ。
ここにこそ《宇宙と思考を繋ぐ可能性の神秘》がある。
薔薇園に《ハナコ》がいるかいないか考えるだけで、世界の何もかもが変化して見えることに気が付くだろう。
ハナコと空を見上げるたびに羊介は考えてしまう。
彼女は今、この星を見て笑っているのだろうか。それとも泣いているのだろうか――
人間の思考次第で、世界の見え方や真実、先の未来まで変わっていくと言うのならば――
人類は今、何に気づき、何を思って生きるべきなのだろうか。

『BETA-SIXDOUZE』
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「私を乗せた船は地球から銀河へと旅立ちました。辿り着くのはどこか遠くの小さな星……」
「その星で私は自由気ままに暮らしてるの。たったひとり、誰にも邪魔をされず――」
「寂しくなったら空を見上げるんだ。私と同じように宇宙を旅立った仲間を思うの」
「満天に輝く星のどれかに私と同じ《人間》がいる」
「それは意外と近くの星かもしれない。私と同時に空を見上げて、星を眺めているかもしれない」
「そう考えると心が弾んで嬉しくなる……レオンの友達もこの宇宙の何処かにいるんでしょう?」

「たとえ地球が滅びてしまっても、宇宙のどこかに私たちの仲間がいる」
「それってとっても素敵なことだよね……」


『BETA-SIXDOUZE』花子
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そう、花子です。彼女の結末を純粋な笑顔のないまま終わらせて良いのか?って、憤懣遣る方無い想いによるもの
それは、花子が信じた「その先」をどうか見てみたいって純粋な願望。そして、この優しい心を秘めた少女が真に満足して救われる日が来る事を祈ってしまう、不純な願望によるものでござい。「レオンラムダがいるじゃん!」って意見もあると思いますが、羊介と傍にいられなかった寂しさ悲しさ切なさを「この世界のどこにでも存在するし、同時にどこにも存在しない」彼女で代用出来るかは疑問に尽きる所。「出来る!」と言われたら「そうか!!」と納得する他ありませんが、現状はそう思えないのが正直な所

今回、コンスエロの事は終始「花子」と綴りました。僕だけでも1人の《人間》として認めてあげたかった。そんな僕の傲慢な理由によるものです。
あの時、寂しげな笑顔を浮かべた彼女が「笑い上戸の、ちっちゃい五億の鈴」から真に笑顔を獲得出来る事を願った。そんな僕の頑固な我儘によるものです。
だからこの批評は、彼女が《人間》を信じた先、どうか優しい薔薇の少女自身が本当に救われる未来が来る事を望んだまま、綴じていようと思います。
羊がバラを食べたか食べなかったかで、全く違って見える世界。これはそんな世界で生きる僕の願いを記した、実に独善的な批評なのでした。





6.ソフマップ特典・FC特典の内容
☆店舗特典
ソフマップ「もっとミクロからマクロまで!~小さなハナコの大冒険~」
ハナコが夢の中で、一蔵とミリヤに邂逅する話
本作における「夢」と「想い出」の解釈が凄く好きだなあ……と。
批評内だと詳しくは語れませんでしたが、本シリーズの占星学に準じた身体的宇宙観から成る構造も魅力的だと思えた内容でした。

FC特典「612のエンゲージ」
ずっと傍にいる事を誓った、彼と彼女の「これから」の話
釣り合わないと悩むのが、本編と真逆なのが実に面白いですね。そして、羊介の成長を偏に感じた内容でした。
どうか末永くお幸せに。



P.S.
ところで、皆さんが話題に上げない中ずっと気になっていたんですけど、モエちゃんって結局どうなったんですかね。
事故で死んだのか、ウォーに殺されたのか、描写されなかっただけで生きているのか。
愛らしくて優しい童顔巨乳の少女は大好きです。どうかまだ生きていて、友達が死んでも諦めずに、夢を追い続けていたらいいなと思いました。





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あのともしびの一つ一つは、見渡すかぎり一面の大海原の中にも、なお人間の心という奇跡が存在することを示していた。
それぞれの糧を求めて、それらのともしびは、山野の間にぽつりぽつりと光っていた。
(中略)
努めなければならないのは、自分を完成させることだ。
試みなければならないのは、山野の間にぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じ合わせることだ。
たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが自分達の役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる。

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『人間の土地』
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