エストさんの「夜巡る、ボクらの迷子教室」の感想

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世間と折り合いがつかず社会のレールから外れてしまったヒロイン達と教師の紡ぐ絶望と成長の物語。各ヒロイン達の「いかに生きるべきか」という葛藤の切実さがひしひしと伝わってくる良い作品だった。pororiさん、画用紙さんと不条理や絶望を数多く書いてきたライター陣の筆力にけん引され、ヒロイン達の抱える孤独、苦悩、生き辛さが迫力をもって描き出されている。特にきな√のトチ狂ったようなヤケバチ感、絶望感はかなりの迫力を感じた(ほぼ確実に画用紙さんの担当√だろう)。個性が光り過ぎるライター陣だからこそ文体や主人公像の統一には難を感じる場面も多いが、負の感情から目をそらさず真正面から向き合った、この制作陣だからこそ作れる意欲作かつ良作だったと思う。失礼な話だがこんだけライターが多いと捨て√が出てくると思っていたがそんなこともない。総合力の高い一作だった。

挫折や苦悩、孤独やトラウマに囚われ、生き方に迷ってしまった少女達の成長譚という王道のストーリーで勝負してきた本作。こう書くと明るい王道物語に聞こえるが、18禁ならではの描写で不幸の根源を鬱々と描き、社会や世間の厳しさ、理不尽さと真正面から向き合うダークな側面が強い作品だった。重い展開を穏やかに描きテキスト力にも定評のあるpororiさん、癖のあるテキストながらも落差のある展開で読者を惹きつける画用紙さんと豪華ライター陣が名を連ねる製作スタッフの名に恥じない良作だったと思う。個別√を担当されたもうお一方は恐らく御導はるかさんという方だと思うのだけど、この方もかなり丁寧にテキストを書かれておりヒロインの抱える辛さや闇に非常に共感することが出来た。ストーリーも勿論なのだが、テキスト力が全体的に高いことも本作の特徴だったのではないかと思う。以下、個別√毎に簡単な感想を。

〇はやて√
家族モノであると同時にヒロインの抱える「孤独感」「承認欲求」、そして「誰かとともに歩む生き方」に焦点があてられた物語。
家出娘というはやての設定からお家騒動が物語の中心になると思いきや、主人公とはやての恋愛物語に大きく尺を割いているのが意外ながらも良かった。社会からドロップアウトしかけている者同士、家族を憎む物同士、そして少しツンデレ気味で素直になれない者同士のすれ違いながらの恋愛描写はクスリとさせられる場面も多く、ラブコメ的な面白さがあった。また後半の家族の問題に話を移す前に、はやての抱える家族への複雑な思いを描写しておくのも良かったと思う。ネグレクトへの怒り、憎しみを抱えながらも、唯一の家族だからこそ許したい、愛したい、愛されたいという思いが切実に描かれており、後半の展開に感情移入するための足掛かりになっていた。

不満点は家族(母親)との和解の描かれ方だろうか。長年に渡りはやての存在を悉く無視し、なかばヒステリックな状態になっていた母親が、父と弟の想いに応えすぐさま大人しくなるという展開に私はちょっと嘘くささを感じてしまった。はやてを助けるために奔走する先生や生徒たちは素直にかっこ良かったし、ハッピーエンドを望みながら私も読み進めていたのだが、ちょっと理想的な大団円に持ち込み過ぎたのかなという感じがする。父親が中心の家庭という説明や弟の援護射撃があれど、母親の気持ち的にもそんな簡単な問題じゃないと思うのだ。本作が理不尽でどうにもならない社会や世間様に振り回され道を外れた少女達の成長譚だからこそ、そのどうにもならない環境をリアルに描くことは大切だと思う。家庭内不和の解決をリアルに描くというのも難しい事だとは思うが、ご都合主義を感じてしまったあたり個人的には惜しさも感じた物語だった。

〇きな√
一言で言うと、画用紙さん流乙女現実的絶望ノベル。
恐らくプレイヤーの中で好き嫌いが最もハッキリと別れる物語だったのではないか。というのもこの√はこれまで描かれてきた主人公像や文体を無視して一気に画用紙さんワールドに突入してしまう。煙草をベランダでクールに吸い、生徒にも大人として真面目に接し導いてきた主人公だが、この√では授業中に人生ゲームに興じるわ室内で花火をやらかしスプリンクラーのシャワーを浴びわなど非常にコミカルな描かれ方をする。内心の描き方も「~です」など急に丁寧語でギャグを飛ばすなどこれまでの主人公像との隔たりを感じた人は多かったはず。テキストに関しても「w」の多用など癖の強い画用紙さんの文体が前面に出ている。コミカルな少女漫画的描写でプレイヤーの感情移入を誘い、絶望的な展開で一気にプレイヤーの心をどん底に叩き落す手法を得意とする方なのでこうなることは割と予測出来ていたが、複数ライター制の商業作で書く画用紙さんの光り過ぎる個性に違和感を覚え、物語に冷めてしまったという人も結構いたと思う。

しかし内容的には私はかなり満足できた。99%の幸せを台無しにするほどの圧倒的不幸として本√はイジメをこと細かに描写しているが、この描写があったからこそ新島きなの抱える絶望感の迫力がひしひしと伝わってきたと思う。楽しいからこそ募る終わりへの不安、明日という時間が始まってしまうことへの恐怖など、きなの抱える負の感情がこれでもかと伝わってきた。イジメの加害者である橘をぶん殴り「殺してやるっ!」と喚くシーンやハサミを片手に部屋にたたずむきなのシーンは特にゾクゾクさせられ、同時に「こんなのってないよ…」と暗い共感の涙を流すことが出来た。

全体を通し人のむき出しの負の感情が妥協せずに描かれており、このライターらしさの詰まった物語だったのかなと思う。はやて√ではすぐにはやてと両親(特に母親)の和解が成立してしまったりとご都合主義を感じる場面もあったのだが、きな√では慈悲なくきなに退学処分が告げられているなど現実感にはこだわりを持って作られていたと思う。どうにもならない気持ちをリアルにしっかりと描写したからこそ、エピローグの「てんとう虫が可愛い」と語るきなの一枚絵には尊さを感じたし、救いのような穏やかさを感じた。劇薬のような展開を入れながらも爽やかな読後感、というこのライターの持ち味が十二分に発揮された物語だった。

〇りこ√
たぶんこっちがpororiさん。
前半と後半で大きく展開を変える2部構成の物語。前半では綾子とりこを取り巻くどうしようもない理不尽な環境がクローズアップされるとともに、親子の絆の強さが美しく描かれていた。本作でもっとも社会の酷さや醜さをリアルに描き切ったのはこの前半部の物語だと個人的には思っている。シングルマザーで仕事と学業の両立に励み、さらに子育てもというだけでも限界に近いのに、発覚する娘の心因性自律神経失調症。こんなのもはやどうしようもできない現実である。流石にここまで押しつぶされかける母子家庭が一般的だとは言えないが、物語からにじみ出る生活臭とでも言えばよいのだろうか、数軒先の家で物語が始まったかのようなどうしようもないリアルさを感じた。上げ底のたとえ話など読者を共感に引きずり込むテキストも相変わらず上手いし、リストラされ暗闇に座り込む綾子と血を流すりこのシーンなど見どころとなるシーンへのもってきかたも上手い。終始穏やかな展開ながらも心に深く突き刺さる良い展開だった。

後半は母子から視点を離し、主人公をクローズアップした物語が展開される。ここから一気に主人公がpororiさんの得意とする「許し」や「愛」に飢えた詩的な主人公像に変わっていく。弱者を見放す自分の最低な本音に気づくという転換点が用意されていたので違和感を覚えた人は少ないとは思うが、きな√と同じくライターの個性を前面に出すシナリオ展開だった。ライターお得意の言葉遊びが光り、不幸な境遇から大人び過ぎてしまった一面と幼さからくる無邪気な包容力が同居するという聖母がごときヒロイン像が描かれるなど、もはやロリータシリーズ(ライター主催の同人サークルの人気シリーズ)の新作を読んでいる気分であった。
世間の煩わしさを捨て去って、最低な自分を隠さずにぶつけ、受け入れられた先にある性行為という「許し」。倒錯的な少女との関係の中で「生の実感」を探り、もう一歩前へ踏み出す活力を主人公が得るまでの流れが丁寧に描かれている。世間を置き去りにしたたった二人の関係の中、社会との摩擦に擦り切れてしまった心を癒し前へと進んでいく、このライターだからこそ描ける穏やかな再起の物語だった。

〇余談と総評
ここまで感想を書いていて本作がなんでこんなに面白かったのだろうと改めて考えてみると、やっぱり「ライターが好き勝手書いてるから」の一言に尽きると思う。複数ライター制の商業作ではプロットだけ渡してライターがテキストを書くだけという制作体制も多いが、本作は多分そういう作り方をしていない(制作現場を見たわけではないけども)
少なくともきな√とりこ√に関しては企画からライターがやらないとこんなテイストのシナリオは出てこなかったと思う。だってほとんど同人でライターが出してる作品と同じテイストなんだもの。賛否両論あるとは思うけども、整合性とか統一性とかを気にせず各々が得意な土俵で本当に書きたいことを書き抜くことが出来た作品はやはり心を打つし、そういう作品を私は応援していきたいと思う。読者の心に何かの波紋を残してくれるような、各々のライターの寄せ集めではあるがまさに魂がこもった一作であった。

※ちなみに
きなルートがお気に入りの方は同じくイジメをテーマにした「酷罪を受けるべき者」または評価の高い「キナナキの森」をどうぞ。
りこルートがお気に入りの方はロリータシリーズを是非。「相思相愛ロリータ」はもちろんのこと個人的には「ゆびきり婚約ロリイタ」がオススメです。りこルートに一番似てるのもゆびきり婚約かな。
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