ogosikanさんの「景の海のアペイリア」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

前作、『あの晴れ』にあって、今作にないもの。主人公の理解、青春、ドラマ…………
『あの晴れ』のライターは間違いなく、このエロゲ業界に必要な人の一人だな、と思わせてくれる反面、『あの晴れ』で引いた正解の数々を、今回は生かすことができなかったということに不安を感じもします。


本作は量子力学を利用したタイムリープものの物語で、本編を通して「タイムリープを徹底的に理論的に解明してやる」という熱量を感じる、設定面においては唸ることしかできない、物凄い作品だと思います。SF系の知識やタイムリープものに詳しいわけではありませんが、後半のシンカーによる「単一世界が多世界に変わったんだ」という世界の解釈の仕方は、本当に類例を見ない作者のオリジナルなのではないでしょうか。

VRMMO、タイムリープ、二重スリット実験、クローン技術、スワンプマン、様々な要素が絡み合って出来上がった世界観は、間違いなく傑作のものと言えます。



そう、設定は、傑作クラスです。


また、ルート構築と選択肢システムに関しても結構挑戦的で好印象です。
いわゆる枝分かれ式の一本道ですが、記憶を引き継ぐ際のメールとして選択肢を提示。ルートが終わると「この感情を思い出したらアペイリアが助けられないかもしれない」として、助けたヒロインと過ごした記憶を引き継がない選択を取る。凄いせつない要素だと思います。

個別ルートの中で、ほかのヒロインの情報を手に入れるのも、いわゆる「選択肢の前まで戻ってやりなおす」という行為を行いながらも、ほとんど地続きのまま読んでいる感覚を得られてよかったです。




さて。


前作『あの晴れ』と同様、かなりの専門知識を要する物語であり、想像でしかありませんが今作においては割と多くのユーザーが設定の半分くらいを理解できないままエンディングを迎えたんじゃないかと思っております。というほどに今作は難解で、なおかつそれが物語に絡んでいるかと言えば「否」なのだから設定が印象に残りづらい。
この上、我々が必死に読んだこれらの情報は大体が「嘘」か「ただの思考実験だった」という調子で物語が進むため、果たしてなにが本当なのかを理解しづらすぎる。

私は終盤、シンカーの語った「単一世界がアペイリアの登場によって無限ループが発生したことにより、自然が無限を許容できなくなり多世界が生まれた」という解釈に対して「えっ、すげー!!!ちょーおもしれー!!」とかなり感心したものでしたが、まあ実際大切なのはそんな要素でもなく、なんなら別に多世界でもなかった可能性があります。

私たちがあのクソ長くわかりづらい説明を必死に読んだとしても、それが物語への快感に直結せず、本当に「この世界にはこういう可能性があるんじゃないか?」という思考実験を読まされる、

まさしくおなにーを見ていたことになります。



前作では主人公は「ロケット工学」に対して完全に無知の状態からはじまります。これにより、主人公=読者という構図が成り立ち、主人公は自分の疑問に思ったことを次々とヒロインたちに投げかけることによって「表向き」理解していきます。

実はこれが非常に、ひっじょうに優秀な設定をしており、真の意味では読者も主人公も理解していないのかもしれませんが、物語上「わかった気にさせる」効果があり、このことが設定を理解することの快感へとつながっています。

が、今作では零一はガチのAIプログラマーであり、なおかつ異様なまでの考察好き、読者を完全においてけぼりにした「俺TUEEEE」の亜種とも言えるような天才っぷりで世界観に対して考察を行っていきます。当たり前ですが、感情移入なんかできません。
これに対しヒロインたちは割と無知であり(三羽だけがある程度の理解者でありが、やはり三羽をもってしても主人公のレベルに届いていない)、主人公が彼らに、および読者に解説するという『あの晴れ』とは逆の形を取っています。

これはつまり零一は=読者、ではなく、零一=作者の図が成り立ちます。
体験版の時点でこの構図は見て取れたので、正直な話、不安でした。

まあ見事に失敗に終わったわけですが。


主人公は物語をけん引することが役目であり、完全主観のノベルゲームにおいては特にその役割が強く、設定の説明役としての役割を与えてしまうとどんどん物語に対する没入感が失われていきます。なぜなら、設定の説明役が設定を説明しないと、物語が先に進まないからです。結果、物語を進行させるためには主人公に考察させるしかなく、どんどん読者との乖離が起こりました。




目的について。

『あの晴れ』では、明確な物語上の終了地点が定められており、これを突破することがストーリーの主軸でした。
『アペイリア』にも一応、アペイリアを助けるという地点はありますが、過程に対する可能性が膨大で、不透明で、読んでいて「なにがクリア条件なのか?」を推察することが非常に難しいです。

この物語はつまるところ、

「混沌の姫と化したアペイリアを救出すること」ことが当初の目的でした。

そして本来、この目的は別のものとすり替わってはいけません。

が、最後私たちが見たのは

「手に負えない強いAIが生まれたので、どうにかしてなんとかしようとしていた研究員の話」でした。

VRMMO『セカンド』とは、この物語のメタファーであり、主人公は実際には零一ではなく三羽だった、ととらえることができます。オブザーバーは三羽だったのですから、ラスボスとも取れますね。

ただ、当たり前ながら三羽を助ける物語でもなければ、三羽を倒す話でもありません。
オブザーバーを見つけ出してぶん殴る話だったならまだしも筋は通りますが。


「シンカーはオブザーバーではないのか?」「タイムリープを起こしているのは誰だ?」「この世界はどうなっているのか?」

これらすべての要素は、アペイリアを救出することに終始せねばなりません。
しかしながら、やはり物語はそうはなっていなかった。シンカーを倒すこととアペイリアを助けることは関係ありそうで、実際にはないんです。





エピローグについて。

この作品の不満の90%はここに占められると思います。実際私も、「え?終わったの?」と攻略サイトを漁りにいきました。それくらい唐突で、物足りない。
しかも物語に対するカタルシスにもなっておらず、先述の「アペイリアを助ける」ことはできたのか?という明確なシーンが存在しません。というか、ましろと久遠は人間なの?AIなの?クローンなの?

ファーストとという仮想現実が登場したことで、いままでの情報というのはどれも不透明になり、ふわふわしてしまいます。ぶっちゃけ、シンカーを倒し現実世界に戻ったあと、もうひと展開あるのかと思ったらあっさり終わり。


これはつまり、作者が世界の真相を説明し終えたから終わった物語で、やはりそういう意味でも「アペイリアを助ける物語」になっていなかったのです。

というか、そうじゃなかったとしても、もうちょいエピローグ書きなさいよ……って話です。どんだけクソ長い説明に付き合わされてここまで来たと思ってんじゃい!!!!!零一よりも俺らのほうがつらかったわ!!!!!




キャラクターについて


アペイリア、思ったよりいいキャラでした。

個人的に「俺に恋をしろ、アペイリア」って言われてキスするシーン、ガチで好きです。(裏で全員死んでるのに恋愛しはじめた、ということは無視するとする)


キャラクターもみんなええんや……エロシーンも褒めるとまでは言いませんが、こんだけシリアスな話しながらも違和感なく挿入されていた(ごり押しではある)ので、「この作品にエロいらんやろ!」っていう風にはならないです。



総括。


これだけの規模の作品に対して言いたくないですが、かなり苦しいです。
実際に面白いところも多いし、褒める点も多いですが、とにかくラストに話が繋がっていかない歪な構成が読後感を阻害する。

私個人としては、今後「アペイリア2」を作って、同じ世界観でもっと面白い「物語」を作ってほしいなあ、とか。
『あの晴れ』のライターとして信用は落ちはしませんでしたが、もう一度『あの晴れ』の良かったところを思い出してほしいなと思いました。『あの晴れ』だって十分小難しい話で、あほみたいな量の情報がでてきますが、それでもしっかり「面白かった」と言えます。


まだまだ今後に期待です。







ogosikanさんの「景の海のアペイリア」の感想へのレス

「あっ途中で興味が失せてくるのはそういう理由もあったのか」と今更ながらに気付かされるような感想でした。
アペ子を救うためにこの世界の謎を解明する、というのが主人公と読者である自分の目的だった訳ですが、

>私たちがあのクソ長くわかりづらい説明を必死に読んだとしても、それが物語への快感に直結せず、
>本当に「この世界にはこういう可能性があるんじゃないか?」という思考実験を読まされる、
>まさしくおなにーを見ていたことになります。

この一文に集約されているかと思います。
すごく意地悪な言い方をすると、思い返してみればアペ子は途中からただのダシに成り下がってる印象があります。
ライターの思うSF/世界設定を聞いてもらうためのエサ、というのは言いすぎかな。

そう考えると最後(のヒロイン達との邂逅)が投げやりになってる理由も推察できます。
登場人物や物語においてのドラマよりも、自身の考えたギミックの方に重きを置いており
一番のネタばらしを終えてしまえばもう満足というか、そこで燃え尽きてしまったのかなと。
ギミックに関する整合性にはものすごく注意を払っているように見えますが、
しかし遊び慣れしている割にはサイコ母ちゃんを連れてくるオヤジや
喪に服すどころかすぐにセックスを始める主人公サイドその他、どうも人間関係や感情においての整合性には
あまり気を使っていないともいいますか。仮想世界だから、で流すのは厳しいですねw

「作者が世界の真相を説明し終えたから終わった物語」、
実に鋭く的確で、気持ちがいいくらいに見事な評だと思います。
読んでいて面白かったです。レビューお疲れ様でした。

2017年08月28日02時43分24秒

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