nezumoさんの「水葬銀貨のイストリア」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

物語の魅せ方が上手いのは変わらず。伏線回収が上手く、二転三転する物語は読んでいて飽きさせないのは勿論、次々に訪れるどうしようもない展開に先が気にならずには入れなかった。半面、終わった後に何か特別な感情が残るかと言われたら個人的には微妙で、むしろそこはこの作品についてよく考えてこそ得られるものなのかもしれない。
不幸だ不幸だと言われるタイプの主人公が物語を進めるにつれて定期的に不幸を供給されていくような物語。
こうやって書くと非常に性格が悪い。しかし実際そう見えてしまうのだから仕方ない。

「――ハッピーエンドを約束しよう」
このわけのわからんキャッチコピーからは程遠い物語にも見えたが、実際はそうでもなかった。
それどころかハッピーエンドとは何かについて、迷い考える機会を与えてくれたように思う。
確かに紙の上の魔法使いよりはハッピーエンドに見えたとして、中途半端にハッピーに見える終わり方はどう判断すればいいんだろう。

そういうわけで、特にトゥルーエンドでのそれぞれの登場人物の動きや結末を見ながら、
ハッピーエンドという言葉を中心にして色々考えてみたい。




茅ヶ崎英士

全てに決着をつける存在。物語をイレギュラーな方向に動かす存在。
紅葉の操る駒でありながらちゃんと自分を持っていて、最後にはそれを良い方向に使ってくる。
このキャラクターを主人公においているからこそ、「ハッピーエンドは自分で掴み取るもの」みたいなメッセージが生まれてくるのも分かる。
ポーカーに強いのかどうかは最後までよく分からなかったが、サイコロの勝負においてかなり恵まれていたのは事実である。
当たり前だが強い人が勝つのではなく勝った人が強者なので、その点で言えば英士くんは間違いなく強者だ。

英士くんが紅葉の描いた物語の可能性を辿るのが個別√で、その可能性をぶち壊して紅葉に一泡吹かせるのがトゥルー√なのかなと思った。
そう考えると個別で使われる皮肉じみたハッピーエンドという言葉には納得がいくし、
英士くんが掴み取った最後と考えればトゥルー√もハッピーエンドと胸を張って言えそうな気がする。


煤ヶ谷小夜

ハッピーエンドなのかどうかよく分からない存在。ただ一つ言えることがあるとすると、彼女は結構早い段階で成長していたと思う。
むしろどこまでが演技でどこからが本当なのか分からないから怖い。カジノでイカサマをしていたのはともかく、過去を怖がる妹を演じるとか正気ではない。

英士とは兄妹のような関係を求めていたのは間違いないと思うが、じゃあ実際に兄妹だったと言われてしまうと困るものがある。
英士は小夜のことを妹とは見ないように接してきたし、家族ではあるが妹ではない、という絶妙な距離感を保ってきたつもりだったからだ。
これについては小夜としてはこれは良い報告になっているかもしれなくて、自分の(育ての)父親が殺された真実を知り、改めてもう一度人生を歩み始めたという意味では、
ただ一点想いを寄せていた英士と結ばれなかったということ以外は、心理的にはハッピーエンドを迎えられているのだと思う。


汐入玖々里

ヒロインとしては一番のお気に入り。英士を信じるという行動を通して英士への愛が深まっていく様子を見ているのがとても気持ち良かった。
思考回路が色々と特殊らしい行動をしてくるところが何よりも好き。会話をするたびに英士よりも上に立っているようにも見える。
心はシナリオを辿っていくにつれてどんどん強くなる。自己犠牲の人魚姫とも言うが、彼女に関しては自分の決めた人以外には自己犠牲を発動しない。
これも彼女の成長がもたらした人の良さなのだろうか。

玖々里に関してはむしろ個別√よりも最後の方がよっぽどハッピーエンドに見えるかもしれない。
英士に愛情を抱いているという点では変わらないが、彼女が最後まで大好きだった姉が生きているかどうかの違いがある。
勿論、姉は妹よりも先に死んでしまうだろうし、彼女が人魚姫である以上それも顕著になるのかもしれないが、
それでも最後のあの状況でヒロインの中で一番幸せだったのは玖々里だろう。


茅ヶ崎夕桜

夕桜の一番の目標は、「父親を殺すこと」おそらくこの一点に尽きるのだと思う。
その割には日頃父親殺しのために訓練を積んでいたようには見えない生活だったが、話の端々で発揮する謎の身体能力がそれを物語っている。
ただ、あれだけ訓練を積んでいたはずなのに病院で易々と父親を逃がしてしまうのはやっぱりわけがあったんだろうか。
父親には心底ムカついていたのであそこで決めてくれと素直に願ってしまっていたので、
(英士がとどめを刺したものの)終盤父親を殺すシーンでは、やっと終わったのかみたいな感情が渦巻いてしまった。

父親殺し、なんだかんだで好きな英士、この2点を考えれば、やっぱり夕桜にとっても幸せだったと言える。
トゥルー√では誰とも結ばれることなく終わる(結ばれる前に終わる?)ので、恋の行方がどうなったかは分からないが、
誰かと結ばれてしまった時点で他のヒロインの不幸を助長するようなものなので、締め時としてはあれが正解なのかもしれない。

ふざけた演技、死ぬ気で恨むような演技、トーンを落とした真面目な演技……
秋野花の良さが存分に発揮された素晴らしいキャラクターだと思う。
感情の機微の表現が本当に上手くて、秋野花はこういう小柄なキャラクターを演じさせたら上手いなと素直に感じたし、
普段ふざけ気味のキャラクターだからか尚更真に迫った時の演技が素晴らしいものに見えた。


小不動ゆるぎ

個人的には少し苦手だったキャラ。
上手く言えないけれど、ゆるぎの行動として「自分ができないと分かっていながら実行して他人に迷惑をかけがち」という点がある。
ヒーローという表現が良く出てきたが、ゆるぎの場合はこのヒーローになりたかったからこそ、
自分ができないと分かっていながらもわずかな可能性にかけ続ける。これでゆるぎが主人公なら(物語の都合)で全部上手くいったのかもしれないが。

結果論じゃないけど、成果を出せないどころかむしろ足を引っ張っているならそれは問題があるわけで、
ゆるぎの勇気や行動力自体にはとても目を見張るものがあるのだが、どうしても他のキャラと比較した時に成果に劣る。
もう少しゆるぎに能力があればいいのだが、基本的には灯さんに劣っているし、英士のために動けるということくらい。
別に嫌いではなく苦手と表現したのはこういうことで、むしろ個別√自体は割と好き。半分くらい和奏√でしたが。

掘り下げる気がないのでついでに書かせてもらうと、同様の理由で祈吏もキャラクターとしては苦手なタイプだった。
祈吏の中身にはゆるぎに通ずるものがある。それでも最後には能力をつけてきていることを考えると、灯さんとの中間くらいに考えるのが妥当そうだが。


神峯灯

一番好きなサブキャラクター。本質ではゆるぎと何ら変わりないのに、どうもこちらには肩入れしたくなる。
単純な見た目の好みというのはあるだろうが、何よりも彼女の生き方にあるのかもしれない。
一度はゆるぎのような夢を抱いてヒーローを演じてみたものの、結局全く上手くいかずに柴乃さんを見殺しにしてしまった。
その事実がずっと彼女を引っ張り続けていて、「今度こそ誰かの役に立ちたい」という心の入れ替えと共に、相応の能力を手に入れている。

年齢事情は分からないが、灯さんは未来のゆるぎのようなものなのだと思う。
成長物語として成長する余地がないくらい灯さんは完成されている。
だからこそヒロインにはならないし、発展途上のゆるぎこそヒロインには相応しい。
終盤紅葉さんを裏切るような行動をしたのは、「自分の信じるものが紅葉ではなく、誰かの役に立つという目標だったから」と考えるのがいいだろう。
ちなみに、人柄が変わる余地がないだけに、なんだかんだで攻略したかった感があるのは否めない。


久末紫子

どこからどう見ても悪役なのに、最後にはまるでヒロインのように幸せな顔で息を引き取ってしまう存在。
怒涛の回想を見て初めて憎めなくなる存在というか、最後の最後にあんなこと言われたらちょっとは好きになってしまうというか。
言い方を変えれば魅せ方がズルいヒロイン。幸せかどうかという観点においては、彼女は間違いなく最後だけは幸せだったと思う。

ただ、この紫子という人間像が出来上がる背景に灯さんの存在があるのがなんとも辛い。
結果的に灯さんは英士サイドの人間を数多く救っているのだが、それは英士サイドで物語を読んでいるから言えることであって、
もし紫子さん視点でこの物語が進んでいたならば、多分このキャラクターを同じように見ることはできない。

彼女の死別についてだが、そもそも彼女を救える状況にあった時点で彼女の命は残り少ない段階まで来ていたと考えると、
死に際ギリギリでようやく英士が彼女が望んでいたものを見せることができて、そうして満足して死んでいったと言える。
死んでしまって最後にはいないキャラクターだが、実の子供に殺された征士の最後とは対照的に、納得のいく最後が描かれている。
そういうことを総合して考えると、自分としては彼女は人生をハッピーエンドで迎えられている。


八椚紅葉

個人的には結構好きな人。明らか最初の方が悪役な雰囲気が漂っていたので、最後のカミングアウトにも大して驚くことはなかった。
彼女は根っから狂った人間なのだと思う。人魚を寵愛し、人間をその道具とみなし、悲劇が起こる過程をエンターテインメントとして眺めている。
そのおかげか、物語がちょっといい方向に行こうものならすぐに悲劇を投入して軌道修正をしていたように思える。
自分はプレイヤーとしての物語の傍観者だが、対する紅葉は物語の中から自由自在に操って傍観しているように見えた。

紅葉の本質としては楽しいものが好きだし、自分に尽くしてくれる奴隷が欲しいだけなので、英士の行動はかなり紅葉の好みではあったはずだ。
意味不明なくらい金と名声があるし使える人間が多いので、自分の思い通りに事が運ぶことが多い。
それだけに最後のポーカーの試合は自分の思い通りに動かない試合ができて、内心はかなり楽しかったのではないかと思う。
自分が決める未来ではなく、神様がどちらに微笑むかというそれだけに託された未来を見るのも悪くはないと感じてしまったのだろう。

個人的には別に紅葉は殺す必要がなかったのでこれでいい。なぜなら紅葉という人間像は自分が割と好きだから。
約束を守るなら勿論殺した方が良かったのかもしれないが、エピローグのよく分からないけど幸せそうに戦ってる英士と紅葉を見るとそうも言ってられなくなる。
紙の上の魔法使い同様、こういうキャラクターに弱いだけなのかもしれない。


まとめ

投げやりな結論になるが、見る人、キャラクターによってその人の物語がハッピーエンドだったかどうかなんていくらでも変わる、というのが正しいのだろう。
ただこの物語の主人公は英士くんで、英士くんの味方はハッピーエンドを迎えることができたというそれだけの話だ。

別にまとめというほどまとめることもないので軽い不満を言っておくと、エンドロールが流れないのはやっぱり勿体ないなと思った。
エンドロールを見ながら余韻を感じる時間は勿論、ひとつの物語が終わったという実感が欲しかったし、
何より最後の最後トゥルーエンドを迎えたのに、トゥルーエンドという文字だけが現れてタイトル画面に戻されるのはあまりにも味気がない。

あとどうでもいいけど物語展開がかなり性格が悪い。何度負の感情が外に出そうになったことか。
それも含めてのルクルさんのテキストなんだろうけれども。

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