kihaneさんの「Summer Pockets」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

なぜこれほど高得点が連発しているのか、一応理解はできますが、共感はできません。key信者や懐古厨の贔屓点かと疑ってしまいます。私はプレイ後に虚無感で胸が一杯になりました。が、それなりに良い要素のある作品ではあると思います。
 
 当初、私は本作をひとまずスルーする予定でした。
 ライターが麻枝氏だったら迷わず買ってたんですけど、新島氏だったので……。
 とはいえ原案は麻枝氏でkeyですから、ここでの評判が良ければ買ってみようかなと、全く期待せず体験版もやらず様子見の姿勢でいたところ、ヤフオクでDLカードが2000円で出品されていたのを見て、発売日の翌日に思わずポチってしまいました。

 結論から述べると、ALKAやPocketなどのトゥルールートはほとんど感動できませんでした。
 なぜ、感動できなかったのか。
 要因は複数あると思うのですが、中でも特に、キャラにあまり感情移入できなかった点、お涙頂戴感があざとかった点、二番煎じ感が強い点、この三点が大きいと思いました。あとは私自身の物語というものに対する見方(価値観や感受性)もありますが、そこは物語外のことなので割愛。



 鴎→蒼→紬→しろは の順番で進めていきました。
 共通ルートは普通に楽しくて、特にダレることなく個別ルートに進めました。
 共通ルート終了時点で、サブキャラたちの魅力的な個性、ヒロインの可愛さがある程度伝わってきていたので、プレイし続ける原動力は十分得られていました。


 鴎ルートでは他のヒロインが全然出て来なくて、やけに独立性が高いというか、「まさか複数ライターの弊害か?」とか思って不安に思いつつ読み進めていましたが、存外にシナリオの完成度が高くて少し驚きました。私は奇跡とか、幽霊とか(鴎は幽霊とか少し違うのかな?)、そういう要素のある感動ものって、よほど丁寧な展開を積み重ねていかないと感情移入できない人間なので、正直ほとんど感動はできませんでした。しかしユーザーに「主人公は実は以前島に訪れたことがあるのでは?」と勘違いさせる展開は良かったです。最初にプレイしたルートでしたから、私はまんまと騙されました。
 それなりに綺麗に終わったので、この調子なら次のルートもダレずにいけそうだなと思いました。


 蒼ルートは可もなく不可もなかったです。
 物語の設定上、七影蝶や鳥白島の説明をするルートだったと思うので、その点でいえば及第点。
 藍が目覚める代わりに蒼が眠りに就くという展開は、もう途中から完全に読めていたので、特に物語的な面白さはなかったですが、ヒロインが可愛かったので退屈ではありませんでした。


 紬ルートは途中で投げ出しかけました。
 本作がいわゆるギャルゲに分類される作品であることは承知した上で言わせてもらいますけど、「むぎゅぎゅぎゅぎゅ」ってなんだよ。
 あの台詞が出てくる度に新島氏のテイストを強く感じ、はつゆきさくらのシロクマを思い出しました。「ぐるるるしろ」とか言ってたヒロインです。
 新島氏はなぜこの手の如何にもな萌えキャラを出してくるのか、理解に苦しみます。いやkey作品だと思えば、ああいう頭の残念なヒロインがいても古参ファンなら受け入れるんでしょうけど、私は受け入れがたかったです。明らかに紬だけ、他のヒロインの萌え要素というか性格的な可愛さより、現実離れして萌え萌えしてるんですよね。「むぎゅむぎゅ」とか出てくる度に、もう寒すぎて失笑を零し、プレイする意欲が萎えていっていました。
 紬のような、「おら萌えキャラだぞ豚共、萌えろよ」とでも言わんばかりのあざとすぎる萌えキャラは、本作の作風とミスマッチで、なんだか気持ち悪い。

 本作が萌え豚をターゲットにしたイチャラブゲーなら、そういう物語でそういう作品だからと納得して受け入れられますし、むしろ楽しめますが、本作のような泣きゲーとして売り出している作品に、紬のようなヒロインは必要ない。もちろん、あの「むぎゅむぎゅ」言ってる性格が過去の悲しい事件で精神を病んだ結果とか、そういうシリアス要素に絡めて物語に一役買ってるなら未だしも、あるいはギャグや冗談で笑わせるために(天善の言動みたいに)機能しているなら未だしも、紬の「むぎゅ」は歌詞になるほど至極真面目に描かれています。特段の設定的事情やコメディ要素でもなく、単にヒロインを可愛く魅せるために「むぎゅむぎゅ」言わせるだけなら、物語性とキャラクター性の乖離が気持ち悪いのでやめてほしい。もし、紬の正体がぬいぐるみだから「むぎゅ」とかそれらしい口癖を言っている設定だとしても納得できない。さすがにこの作風では、コメディ以外の理由で「むぎゅ」はいらないと思う。
 紬のようなキャラは、頭空っぽにしてプレイする類いの萌えゲーだけで十分なんですよね。
 はつゆきさくらのシロクマは、最後には人間として女として成長し、一人旅立っていったから、あの「ぐるるるしろ」とかいう幼稚な言動あっての成長物語として受け入れられましたが、本作はそういう点もないし、ただライターである新島氏の自己満足で入れたとしか思えない。
 紬ルートはシナリオも、ヒロイン造形も、低クオリティ。
 感動ものっぽく演出されてはいましたが、感動できる訳がない。感動して泣いた人がいたら、なぜ感動できたのか教えて欲しいです。
 この時点で、残るしろはルートが不安になり、所詮は2000円だしもう辞めようかなと思いました。
 今にして思えば、ここで辞めていても特に問題なかったんですよね……。


 しろはルートが一番面白かったです。
 物語的な面白さはあまりなかったんですけど、しろはが心を開いていく過程が読んでいて嬉し楽しかった。
 しろはがボッチな理由は納得できましたし、だからああいう性格であること、ああいう声や喋り方であることにも一貫性があって良かった。イベントCGのしろはは毎回可愛かったですし、声優さんの演技も上手だったので、特に不快な思いをすることもなく、作中で一番楽しめてました。
 ただ、それはシナリオを楽しんでいたというより、ヒロインの可愛さを愛でていたに過ぎません。
 とはいえ、シナリオ面での楽しさは、全ての個別ルートが終わってからのトゥルールートが本番だろうと思っていたので、特に不満はなかったです。トゥルールートまでに世界観や登場人物の事情を、それほど苦労せず把握できたと思えば、そして今後のカタルシスのためだと思えば、十分に及第点でした。
 しろはルート終了時点で私の期待値は最高潮に達し、ようやく物語としての面白さを存分に味わえると思い、少し興奮してました。


 そうして、ALKAルート。
 しろはルートと似たような粗筋を辿っていくので、既視感が強く、読み進めるのが少し億劫でした。
 それでも、しろはというヒロインの可愛さが牽引力となり私を引っ張ってくれたので、途中で投げ出そうという思いはありませんでした。
 うみちゃんが鍵になる物語だということは、リスタートする度に変わる彼女の言動で察しが付いていたので、どう物語の核心に絡んで、どう物語が困窮していき(困窮した状況が明かされていき)、それをどうやって主人公が解決していくのかと、ALKAルートを読み進めながら考えて期待していました。
 しかし、結局うみちゃんは主人公としろはの娘という、二番煎じ感の否めない手垢の付いた展開で、ALKAルートは「え?」という感じで終了。


 Pocketルートで登場人物たちが救済されて、物語としてのカタルシスが待っているのだろう。
 そう思ってPocketを始めてみましたが、語り手は知らない子。なんか合間合間に出てきた花澤香菜さんのキャラで(まあ結局はうみちゃんなんですけど)、そこに期待と不安を半分ずつ抱きながらも、さして面白くない展開を読み進めていきました。
 そして最後まで読んで、終わったとき……私の中には虚無感がありました。
 名作を読んだ後に生じる、あの胸にジーンと響くような、そういう感動ではなく、感動ですらなく、本当に虚無感。
 「な、なんだこの作品は……これで終わりかよ?」というポカーンとしたマジモンの虚無感です。



 たぶん本作がkey制作でも麻枝氏原案でもなければ、虚無感はあれど、それほど大きくはなかったと思います。
 所詮はこんなものかと納得しただけだったでしょう。
 なので、期待した結果としての落差は確かにあります。
 しかしそれを抜きにしても、本作はおかしい。歪んでいる。感動要素が感動要素になっていない。
 だって、根本的に救いがない。いや最後に主人公は船から飛び降りてしろはと再会しますけど、かなり後付けというかやっつけ感が半端ない。
 「こうしておけばハッピーエンドに見えて読後感いいだろ」といった制作側の苦肉の策めいていて、素直に受け入れがたい。なにせ、あの展開に至る少し前、主人公は浜辺で二羽の鳥を見上げて、

「彼らは傷付いていたから、出会えた。もし、その傷がなければ……出会わないのだろうか」

 とかモノローグってるんですよ。
 この一文を見たとき、私は「ああ、なるほど、そういう物語なのね」って、否応なく納得してしまいましたもん。
 主人公は後年娘をほったらかす父親になり、しろはは死んで、うみちゃんは最後に満足こそすれど根本的には救われない。
 うみちゃんが頑張ったおかげで、しろはは未来予知に目覚めず未来は変わるんでしょうけど、うみちゃんは? うみちゃんが頑張ったルートの主人公はクズのままで、しろはは死んだままで、それらをなかったことにして、終わり?
 まあね、それならそれで、物語的には納得はできるんですよ。
 不快というか残念ではありますけど、そういう教訓あるいは主義主張を孕んだ物語だったんだなと、受け入れられます。
 にもかかわらず、取って付けたように、最後に主人公としろはが再会する。

「彼らは傷付いていたから、出会えた。もし、その傷がなければ……出会わないのだろうか」

 でさ、この一文はなんなんだよ。
 うみちゃんが根本的に救済されない展開にしたなら、この一文を本作の主張として終わらせとけよ。
 それが頑張ったうみちゃんに対する礼儀ってやつだろ?
 それが彼女に対するせめてもの手向けだろ?
 なのに、最後の最後で、制作側がユーザーのご機嫌を取ってきた。
 ハッピーエンドを装ってきた。

 巫山戯るなよっ、初志貫徹しろよ!
 うみちゃんの犠牲はなんだったんだっ!
 制作側は、うみちゃんの頑張りを見たユーザーに伝えたいことがあったんだろ?
 うみちゃんが頑張って作ったチャーハンを、制作が食卓に並べて、我々ユーザーがそれを頂く。
 しかし完食する直前、制作が制作の都合で、不意打ち同然にちゃぶ台をひっくり返したんだ。
 うみちゃんも俺たちも唖然だよ。
 いや、うみちゃんなら最後に両親が出会ったことを喜ぶだろうけど、俺たちはどうすればいいんだよ?
 祝福しろって? まともに子育てしなくなった父親のことを? トゥルールートでは特に何の活躍もせず、うみちゃんを救済できず、本作の核心部分では何の貢献もしなかった無能のことを?

 あのさぁ……少なくとも私は、主人公でもしろはでもなく、うみちゃんに一番感情移入してるんですよ。
 だってアレ、そういう構成で物語が進んでいましたよね?
 途中から主人公とか蚊帳の外ですよ。明らかにうみちゃん主軸で、うみちゃん(あるいはしろは)に感情移入させるように、物語を構成してましたよね?
 だから、うみちゃんが救われてほしいという思いは至極真っ当なはずです。
 しろはの死なないルートで誕生するだろう能力の無いうみちゃんではなく、能力のあるあの頑張っていたうみちゃんが報われてほしい。
 でも、うみちゃんはお母さんと再会したことで満足し、消えた。
 そして我々ユーザーに、何かを残した。身体を張って、何かを――あの一文を我々の心に届け、刻み込んだんだ。

「彼らは傷付いていたから、出会えた。もし、その傷がなければ……出会わないのだろうか」

 もう三度目でしつこいと思うでしょうけど、それほどこの一文は本作において重要だと思うのです。
 この一文がなく、主人公としろはが出会う最後なら、まだ許せた。
 この一文があって、主人公としろはが出会わない最後なら、まだ許せた。
 この一文があって、主人公としろはが出会う最後だから、許せないんですよ。
 この部分が物語(の主張)を歪めている。



 うみちゃんとしろはが再会するシーンとかでも、私は全然感動できませんでした。
 うみちゃんに一番感情移入していたとはいっても、所詮は比較の話です。泣くほど、感動するほどではありませんでした。
 素材はいいと思うんですけどね……魅せ方が悪かったように思います。読み手の感情に訴え掛けようとするだけで、展開の一つ一つに理性でも受け入れられるだけの説得力といいますか、重みがなかった。

 感動ものって、読み手の感情に訴え掛けるだけでなく、上手く理性を納得させないといけないと思うんです。男は特に理路整然とした論理を求めがちな生き物ですし、どんな状況も冷静に俯瞰しようという意識が少なからず働くものです。だから泣きゲーなどでは、その冷静な意識を上手く誘導して、あるいは麻痺させて、物語に没入させないといけない。説得力のある展開をきちんと積み重ねて、まずは理性を物語の虜にさせる。それから感情に訴え掛けないと、冷静な自分が邪魔をして感動なんてできないですよ。
 本作はそこが弱いんです。理性への働きかけが、感動の下準備が足りていなかった。
 愚直に感動させようと迫られても、こっちの理性が健在な状況では素直に心を動かせないんです。
 なにせ本作の核は七影蝶とか未来予知とか時間旅行があってこその感動ですから、その辺の世界観設定を理性が上手く受け入れられるように物語を動かしていかないと、物語世界に没頭できず、感動っぽいシーンを見せられても理性が邪魔で心が動きませんよ。

 本作の展開についてですが、私としては主人公が頑張って、うみちゃんとしろはを救済する展開が欲しかったです。ただ、それは本作の構造上不可能なので仕方ない。とはいえ、なぜそういうカタルシスのないプロットにしたのかという疑問は当然あります。
 そういった不満点もあり、この点数ですけど、上述したような部分がなければ、普通に良作としては認めていました。


 物語において、頑張った主人公が報われず、その上で含蓄ある教訓や主張を我々読み手に残せたのであれば、まだ許せます。
 完成度によっては名作にもなり得るでしょう。
 でも、仮にも主人公(読み手)の娘として描いていた真ヒロイン的な存在の頑張りを、その言動によって響いた例の一文を、否定するようなラストにした。
 マジでなに考えてんだ。
 うみちゃんに対する精神的レイプだぞ……というのは言い過ぎかもしれませんが、私としてはそれくらい理解不能な残酷さを感じました。



 なんか色々酷評するようなことを書きましたが、シナリオが微妙で後味が悪かっただけで、他の要素は良かったです。
 CGは綺麗でしたし、楽曲も並以上、登場人物たちは個性的で魅力があり(紬以外)、作中の雰囲気も夏休みっぽくて楽しかったです。
 特にヒロイン四人の声優さんは、おそらく三人が新人さんだろうに、演技が上手かった。声も合っていましたしね。
 名作になり得る要素は十分に揃っていたにもかかわらず……シナリオがダメだった。
 ほとんど感動できませんでしたし、心にも響かず、余韻に至っては不快な虚無感。
 ALKA以降はプレイせず、しろはルートで終わっておけば良かったです。


 今後、どれだけ有名なライターを引っ張ってきたとしても、keyの新作はひとまず様子見に徹します。
 弘法筆を選ばずという諺然り、ライターという筆を扱うkeyという弘法が、信用できなくなりました。
 とはいえ、私は以前から新島氏が良い筆だとは思っていませんでしたけど……。
 本作は麻枝氏が一人でシナリオを書いてほしかったです。
 そうすれば、きっと私がこんな感想を書くこともなかったはず。
 私だって、こんな感想好きで書いてる訳ではないですからね……。
 吐き出さないと胸のもやもやが晴れなくて、仕方なく文字に起こしてるだけなんです。


 もしかしたら、私の感想は的外れかもしれません。プレイ中は物語に集中できるほど引き込まれませんでしたし、もう考察というか思い返すのも億劫なので、どこか間違っていたりしていても勘弁してください。指摘してもらえれば確認はしますけど……。
 私のこの感想で不快な思いになった方もいると思いますが、これが本作に対する私の率直な感想です。
 誰か共感してくれる人は……いるかな? 私が捻くれてるだけ?
 高評価ばかりの作品だと、単に自分がおかしいだけで作品に罪は全くないのではないかと不安になります。


 あまり推敲してないので、論理が破綻していたり誤字脱字があれば、すみません。


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