エストさんの「Summer Pockets」の感想

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煩わしい事を忘れてただただ夢中になり駆け抜けた夏、忘れた頃にふと振り返ると輝かしい時間が過去にあって、そんな一夏に感じるノスタルジックな想いを形にした作品だった。全編一定程度のクオリティを保った安定感のある作品ではあるが、伏線等の処理よりもただ「泣かせるシチュエーション」に注力した作品なので、この作品を楽しめるかはいかにこの夏の雰囲気に浸れるかに依ると思う。いわゆる「雰囲気ゲー」としては完成度の高い作品だとは思うのだが、麻枝さんの言う「本当に泣ける作品」をサマポケが形に出来たかは正直微妙なところだと感じた。キャラの造形が今一歩だったり既視感漂う物語構成もそうなのだが、全ての根本としてキャラクター達の信念や心の叫びといったものが希薄で、読者を否応なしに巻き込むだけの力が足りなかったように思う。
〇「感動的なお話だった」と「本当に泣いた」
麻枝さんが特典のクリエイターコメントの中で「プレイし終わった総評として感動的なお話だったという感想になるのではなく、プレイ中クリックしながら涙を流す本当に泣いたという評価を勝ち得なくてはならない」というようなコメントをされていたのがとても印象的で、「感動的なお話だった」と「本当に泣いた」の境目ってどこにあるのだろうか?と少し考えさせられてしまった。もちろんプレイヤーの数だけ答えのある抽象的な問いだとは思うのだが、個人的にはもうただただ単純に、「いかにキャラに感情移入させられるか、キャラの感情に否応なく巻き込まれてしまうか」という一点に尽きるのではないかと考えている。やはりシチュエーションに頼り切った「感動」や読者の思い出に頼る「感動」って弱いと思うのだ。いかにシチュエーションが感動的でもキャラへの愛着がなければ「イイハナシダナー」で終わってしまうし、例えば読者個々が持っている家族観や夏の思い出を想起させるような作品を作っても感動の度合いにはかなり大きなバラツキが出てきてしまう。キャラの感情や心の動きを丁寧かつ説得的に描写したり、強い信念を描いたり、そういった一本芯の通ったキャラの心情描写が出来ていて、キャラが一人の「人間」としてプレイヤーの中で出来上がっていき否応なく作品に巻き込んでいく、こういう作品が結局一番心を揺さぶってくるんじゃないかと思う。

そういう観点からサマポケを見直してみると、キャラの心情描写ってかなり薄めなテイストだと思う。登場人物みんなポエマーというか、相手と意思疎通しようとして会話するというより、自分のしゃべりたい事だけ話している印象が強く、キャラなりの想いや感情がわかりにくかった。また、内面の感情描写に関しても序盤の「傷ついた渡り鳥」しかり比喩的すぎて伝わってこない部分がかなり大きかったと思う。もちろんキャラをポエマー気味に描くことで日常シーンが軽快になったり、笑いを挟んでテンポが良くなったりといった効果はあるのだが、それにしたって終盤まで淡々としたテキストが続くものだからキャラへの感情移入といった点では問題があったように思う。「哀しむ相手を励ましたい」という想いを描写するのに、「手をぎゅっと握りしめた」とかの一言で終わらせるのは流石に厳しいと思うのだ。部分的にはそういう書き方もありだとは思うのだが、私がテキストを読んだ印象としてはほぼ全編でこういった表面的というか外面的な動作描写だけで終わりにしてしまっているシーンが目立っていたように思う。心情描写については冗長になるのを恐れずにもっとガッチリと書き込んで欲しかった。そういった要素が積みあがって最終的なカタルシスというか感動が生まれると思うので。

結果として私の中でのサマポケは「泣かせるシチュエーション」に注力した作品という印象になってしまった。逆に言えばシチュエーション作りと余韻の残し方については本当に上手い作品だと思うのだ。ブランドとして培ってきた「泣きシチュエーション」を詰め込んだ展開は、ブランドの積み上げの強さを確かに味わわせてくれたと思う。ただそれでも「二番煎じ」といったような感想も目立ってしまうのは、やはりキャラに魂がのってこなかったからなのかなと。個人的にはいわゆる「二番煎じ」が絶対に許されないのはシュタゲやEver17、Islandのような物語構成で読者を魅せるシナリオ展開重視のタイプの作品だと思っている。逆に「泣きゲ」ジャンルに代表されるタイプの作品は、少しくらい展開がありきたりでもそこに至るまでのキャラの想いが真摯かつオリジナリティあるものならまったく問題ないと思っている。本気で想いの丈をキャラが叫んでいるなら、「よくある設定だから感動しない」なんて事はないと思うのだ。その中で今作に「二番煎じ」的な批評も目立つのは、物語で魅せきれずにセルフオマージュへのシラけが先行してしまった形なのかなと思う。

〇各√雑感
一番お気に入りだったのは鴎√だった。作品全体のテーマでもある夏休みへの郷愁感、ただただ懸命に駆け抜けた眩しい夏休みといった内容が最もよく表現出来ていたと思う。鴎自身の存在が不安定なこともあって、主人公の「輝かしい夏を作らなくては!」という真摯な想いが一番よく伝わってきたお話だった。他にも主人公がサマーキャンプに参加していたと思わせてからの予想を裏切る展開、などミスリード関係も良く練られて作られていたと思う。最後の鴎の出航の合図では本当に泣いてしまった。この物語についてもラストは思わせぶりな読者の想像に展開を委ねるタイプの〆となっているが、本当に鴎には幸せでいて欲しい。鴎自身はもう亡くなってしまってるので救いようもなさも感じるが、お盆だけは帰ってくるとか都合のよい展開でも許せちゃうくらいお気に入りのキャラになった。

逆に最も楽しめなかったのは紬√だった。たぶんというか最早確信してしまうレベルなのだが、この√のライティングを担当されたのは新島夕さんだと思う。(2018/07/16 担当ライターさん違うみたいですね、すみません。)
このライターさんなんというかパラメーターが極振り育成みたいな人で、感動的なシーンやシチュエーションを演出することに長ける一方で、キャラ造形に関しては致命的に下手というかもうキャラ作りは諦めちゃってるんじゃないかと思う。今作も「はつゆきさくら」とかもそうだが、いかにもな「萌えキャラ」をヒロインにして読者のキャラへの愛着を集めるという作風をされる人で、キャラの真摯な想いとか感情とかが萌えキャラの背後隠れてしまってサッパリ伝わってこなかった。言動が幼稚すぎて感情移入しにいのだ。恐らくこの√を楽しめるかどうかはもう新島夕さんとプレイヤーの波長が合うか否かによると思う。好きな人は好きなのだろうけど、私は波長が合わない側の人間だと再確認させられてしまった√だった。あまり愚痴を書くと悪口みたいになってどうかとも思うが、感動的なシーンだけはしつこいぐらい緻密にテキストを差し込んできたりともう少しバランスよく書けないものかなと感じてしまった。

〇総評
全体的に不満点多めの感想になってはしまったが、それでも今年度の商業ノベルゲー界隈では一位二位を争うレベルの完成度の作品だったと思う。「夏に感じるノスタルジックな想い」というかなり抽象的なテーマを見事に作品に落とし込んでおり、思い返してみれば自分の過ごした夏休みも悪いもんじゃなかったなと謎の浸りに入ることが出来た。そんな郷愁感の演出に成功した一方で、物語が訴えかけてくる「泣き」要素については個人的にはイマイチだったと感じた。上記でほぼ言いたいことは書いてしまったが、感動系の作品って難しくてシナリオ構成も勿論だけど一番重要なのはやっぱりキャラなのかなと思う。本作はシナリオ面の片輪はしっかりしていたが、キャラ面の車輪は抜け落ちていたかなと。そもそもTRUE付近は心情描写以外のテキストも薄くて物語の尺自体に問題があったしね。次回作は今作の反省も踏まえ、輝かしいブランドの歴史を振り切り進化した物語を見せてくれる事を願っている。
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エストさんの「Summer Pockets」の感想へのレス

≫shn217さん

投票コメントでご指摘いただき有難うございます。
手元のサントラ見直してみたら、挿入歌「紬の夏休み」の作詞をご担当されているハサマさんが紬√のライティング担当っぽいですね。プレイ中どうしても新島さんのキャラ像と自分の中で被ってしまって見落としておりました。他にもご不快な思いをさせてしまった方がいらっしゃいましたらすみません。
そもそも「サクラノ刻」に新島さんが参加されると知って苦手意識克服のためサマポケを手に取った側面もあったので、私にとって非常に有用なご指摘でした。情報提供本当に有難うございました。
2018年07月16日23時00分55秒

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