asteryukariさんの「ChronoBox -クロノボックス-」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

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何をもって幸せと捉えるか、それをはっきりと示してくれた事に言いようもない幸福感を覚えた。構造も含めてとても私好みな一作。
閉鎖的な島を舞台にした作品という事もあり、途中で物語の流れについては何となく読めていたのだが、それでも声を大きくして好きな作品だと叫ばずにはいられなかった。


序盤はいきなりヒロインと付き合い始めてえっちするの繰り返しなこともあり、正直に言えば期待よりも不安の方が勝っていた。中にはふたなり要素なんかもあったりして、おいおい、このままちょっと奇抜なエロシーンがある作品なだけで終わってくれるなよと、画面にとびかかる寸前の状態で読んでいたわけだ。


で、中盤になるとグロ要素も追加され、キャラクターが命を落としたと思ったら、また元通りになったりと中々にカオスな展開が待ち受けている。グロの押し売りというか、エログロだけを主張してそのまま終わってしまう作品はこれまでに山ほど見てきたので、もしかしたら…と疑念を抱きながら読んでいる瞬間すらあった。


しかしながらそんな不安やら疑念は後々、見事に解消される事となる。


島の秘密やギフトの存在が提示され始める一気に面白くなり、本作を見る目が変わる。ああ、ようやく面白くなってきたじゃないかと自然と口角も上がっていった。しかし一方で、「実は主人公を含めた登場人物たちが被験者」、「これまでの日常はすべて仮想世界の出来事」等の展開の作品はこれまでもいくつか見てきたので、これだけでは弱いなとも感じていた。本当に今ではこんな浅はかな考えを持ってプレイしていた自分に腹が立つ。


初めてこの作品に対して良い意味で鳥肌を立ててしまったのは樺音が主人公と最後の時間を過ごそうとするシーン。

「ーあなたを想うこの気持ち、真実だって誓うよ」

その台詞を見た瞬間に脳裏に回想が走った。何の回想だなんて、そんな分かり切っていることを言うのも品がない話ではあるが、備忘録として一応触れておくと『天美の手紙』の事である。もう居ても立っても居られなくなってしまって、一旦セーブすると同時に即座に序盤の天美との交際部分を読み返してしまった。


彼女がなぜ『普通の女の子』として見るように言ったのか。そして、主人公は主人公でどうして彼女の告白を前に『彼女を想うために、俺がしっかりと胸に刻むべき言葉』なんて大げさにも見える気構えをしたのか。それらの事実がリンクしていく感覚は実に気持ちが良かった。


では誰が(何が)彼女を生み出したのかと考えると、ログワールドの仕組みと照らし合わせることで自ずと答えが絞れてくる。読み始めの頃は何か惚れっぽい女が仕掛けてきたくらいの気持ちだったのに…本当に驚かされる。単純に見えて実は綿密に練られたその構成にただただ圧倒された。


そして、忘れてはいけないのがこの作品の結末である。あの結末を見て私に何かできることがあるとすれば、それはこうして感想を書くか拍手くらいしかないだろう。


特に素晴らしいのが自身にとっての幸せを考えた上であの結末を選んだ点。はじめは自身への復讐のため、そして彼女への償いの為に行動していた彼だが、それは間違っていることだと気付いた。そんなことをしても自身の心は満たされないと気付いたわけだ。


自分にとっての幸せ、それは『樺音の傍にいること』。そんな当たり前の事実に気付き、何の躊躇いもなく海へと足を進めていく。なぜなら「そのために、全てを失っても構わない」のだから。ようやく色々なものを捨てて、自分の幸福の為に歩み始めてくれた彼を見てこの作品をやって良かったと心底思った。


TRUE ENDを迎えた後のタイトル画面はずるいの一言で、穏やかな寝顔を浮かべる那由太も見ていて中々くるものがあったが、それ以上に樺音の表情に心を掴まれた。「恨んでいない」とか、「そんなことしなくていいのに」とか色々と言いたいことはあっただろう。けれどそれじゃあ、あの微笑みは生まれない。「…だけど、そんな彼だから好きになった」と安堵から微笑んだのだと私は思う。

「ああ…この人を好きでよかった」

かつて恋人として認めてもらった際に抱いた想いと繋がるなぁと気付くと同時に、涙が零れていた。





改めて凄まじい作品だったなと。一つ一つの要素を見ると他でもありそうだったり、似ている過去作というのもちらほら浮かんでくるのだが、そんな簡単にカテゴライズして良い作品ではないかなと今は思う。本当に一瞬でも疑ってしまい申し訳ない、文句なしの名作であった。
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