ionittaさんの「人気声優のつくりかた」の感想

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現状でも良作だがあと少しで名作になり得た感
点数値が70~80台の間、というのが頷ける出来ですね。
自分は概ね楽しんだのですが、否定的な意見にも結構感じる部分が多いというか。
イベントムービーとか沢山作る余裕があるなら、もっと本編を増やせよと思ったり。そういうものではないんでしょうけど。

まず、圧倒的にいい部分はシステム周りの快適さ。
バックログでシナリオの最初から最後まで全て記録されるうえに、サムネイル付きでシーンジャンプでき、クイックセーブも複数記憶できるので、殆どセーブいらずです。通常画面でカーソルを合わせるだけで簡易コンフィング可能も有難い。まるで動画を見るような手軽さです。

そして、最大の魅力は全編に渡る会話パートの楽しさ。
長過ぎず短過ぎず適度な間、説明過多なモノローグも無くイベントがとんとん拍子に進んでいきます。専用√に入って以降もメインから脇役までさらりと絡んでいくのが嬉しいですね。

ゆかこ√
シナリオの出来は一番下げてしまいましたが、この来栖 祐果子というキャラクターは本作で一番よく創りこまれていると思います。「人気声優のつくりかた」というタイトルを掲げた以上、説得力は人気声優をどれだけ描けるかですから、いつみがメインヒロインならゆかこは看板ヒロインといっていいでしょう。
妙にハスキーがかった声といい、もの腰柔らかな態度、くるしーの愛称、「ゆかこけっこー朝ですよラジオ」のタイトルまで彼女を取り巻くデザイン全体が凄くありそう!感満載。
で、ありながらルックスはクリーム色の髪に蒼い瞳、ガチのゲーオタと、フィクションでしかない理想も乗せてるので、現実に似過ぎて生々しくてヌけないということもない絶妙のバランス。
それに新人や無名声優より人気声優と恋することはなにか禁忌的な香りがしていいですね(実際に禁忌なのは小夏のほうですが)。
また人気声優が私生活で彼氏とセックスしまくりというシチュエーションを歓迎できるのも、エロゲの構造をもっとも上手く活かした√なのではないでしょうか。

ゆかこ√は一見華やかな人気声優が、酷使される日常の前半と、一応それは脱したあとも演技に自信が持てない仕事が続くという、まさに人気ゆえの苦悩が描かれます。
無名のいつみや小夏の場合は頑張るしかないわけですが、既に一定の位置に据えられてしまったゆかこの場合、何が正しいかすら分からなくなる、というのは面白い問題提示だったと思います。
ただ主人公は、いつみや小夏の所属する弱小声優事務所「ブルーム」にはかなり懇意にしているものの、
ゆかこの所属する大手「クラブフット」には何のコネもないため、ゆかこ√では殆ど間接的にしか話に加われません。ただでさえヒロインの自己実現が目標である以上、かなりヒロイン視点が多い本作でもゆかこ√は実質ゆかこ本人が主人公といっていい量で話しが進むので、ユーザーはただ読まされている感覚が続き、(まぁそもそも本作は専用√に入ったら一本道ですが)ゲームとしての実感に乏しい。
物語の解決も、一応主人公の「人気声優でなくとも愛している」という気持ちのいいメッセージで背中を押されて現場でも変わることで活路を得るという、まぁいい話ではあるんです。
ただ、役が獲れないいつみ、演技が上手くできない小夏に比べると、やる気になったらなんだか上手くいったゆかこ√はなんだか安易じゃないかと。
むしろ、アイドル声優としての自身の才能を受け入れて、声優もアイドルも相互に力にしていくような着地なら、やりたいことを遂げたいつみ、やりたいことを見つけた小夏に対し、やりたいことを変えたゆかこといった対比になったのではないでしょうか。
ゆかこはむしろ小夏√での先輩としての頼りがいや、いつみ√での分け隔てのない対応から見える優しさなど、専用√以外のほうが魅力だったようにもみえます。

小夏√
ぶっちゃけ彼女の場合、別に兄と恋仲にならんでも全く問題ないんですよね。主人公がかなめさんを攻略して小夏のためにマネージャーになるとかのほうが自然だったんじゃ。
まぁエロゲだから妹とセックスできます、お母さんも全然許しますはちょっと面白かったです。
という、あらゆる視点でどうでもいい近親相姦ネタを気にしなければ、かなり正統派声優道な内容でした。
声優モノを作るときに、新人、無名、人気声優という3大ポジションはテンプレになりつつありますが、小夏の場合、声優の卵どころか生まれる前からスタートするのが白眉ですね。
殆ど路上でスカウトみたいな勢いで拾われた小夏には声優の最低限の常識すら分からないので、ユーザーも同じ目線で状況を追体験できます。案外この設定は発明なんじゃないでしょうか。
と同時に、このシンデレラストーリーが幸運どころか、いつみを曇らせるわ、現場からは曇らされるわで散々なところがまた面白いですね。

ここで片野しおりという、一応中堅声優らしき先輩がかなり黒い存在感を発揮します。
ゆかこ√にも人気を利用するためだけに近づくド不快な人物として登場するのですが、折角ならいつみ√にも悪役で登場して欲しかったですね。
彼女にいびられるも、主人公とのセックスで覚醒した小夏が演技でやり返す顛末は、彼女の人となりを察していた感もある音響監督の圭さんも遂に嗜めるとこまで含めて、ゆったりした進行の本作でも珍しい、分かり易く痛快な一幕ですね。
ただ、結局小夏とはなんら関係のないとこで自滅するのが拍子抜けというか、まぁ本作のリアリティだとはっきりやり込めるみたいなオチはないんでしょうけど。この片野という悪役は楽しげだけど心からは笑っってない話し方がいかにも声優っぽくて、すごく嫌な感じ(褒め言葉)だったので、立ち絵があってもよかったくらいです。彼女を通してメインヒロインでは描けない業界の闇を仄めかすとか、もっと掘り下げ甲斐のある存在だったと思いますね。
先述しましたが、小夏ENDは他の二人と少し違ったところに着地するのですが、この最初に望んだところではないし、世間的な評価の範疇でもないが、確かに実を結んだラスト。単に嬉しいとか泣けるとかを超えた、どこか切なくも誇り高い気持ちにさせるエンディングだったと思います。

いつみ√
やれる限りのことは全部しているのに、とにかくなんだか上手くいかない時ってのがある。
頑張っても頑張っても報われずとも頑張って、遂に見えかけた微かな希望がある意味最悪の形で折られる瞬間は最大の名シーンだと思います。彼女の努力を見ていれば、声優以外の人生があるなんて絶対にいえないし、それでも君には価値があるといいたい、そんなときどうすればいいのか。本作は常に単純明快な答えを提示しているのが、なんか素敵ですね。

怒涛の前半と、努力が報われていく後半の、暗いときも明るいときもストレートな√でした。正直、購入前の体験版段階だと、推しはゆかこで、いつみは最下位だったのですが、プレイしてみると、本当にマジメで努力家のいつみの真っ直ぐな魅力に見惚れてましたね。
前半のしんどさとそこからのテキストの愉快さも含めた逆転の飛躍が面白かったので、ラストはなんか普通。全体を通して裏表無く楽しめるので、かえってあまり語る部分が無かったり。
兄との仲を知って本人さえ分からない涙を零す小夏はみていてこちらも泣きたくなりました。

サブキャラクター
新条 音杏
攻略できないメインヒロイン、いや、もう裏の主人公なんじゃないかと。というのも一応、本作は主人公がヒロインの膣、もとい背中を押すことで道を開くのですが、どうも他の√みても結局上手くいっているので、その辺りのサポートは愛され処女が補っていたのじゃないかと想像します。
数多く指摘されてますが、本当に攻略できないのが不自然なほど全√で活躍しますし、全瞬間が魅力的なので彼女の√がなかったのが本作最大の惜しまれる点ですね。
脇坂かなめ
音杏ほどでなくても、攻略したくなる魅力的な方でした。
いつみ√での、学生なら啖呵をきれば格好もつくが社会人がそんなことやったら不興を買うだけだし実際そうなるんだけど、言ってくれた場面は素晴らしかったです(一応、後日報われます)。
本作はここを描いてくれたらよかったのにという部分もあるんですが、よくぞこれを描いてくれたという瞬間のほうが多々あります。
脇坂 徹心
専用√以外ならヒロインを抱かせてもいいんじゃいかと思うくらい、いいやつでしたね。彼は舞風寮の寮生ではないので、音杏に比べると出番が少ないのが寂しかったです。

まとめ
シナリオの出来はいつみ>小夏>ゆかこ。
私はゆかこ、小夏、いつみの順でプレイしたので、どんどん面白くなっていったなと。
ただエンディングは小夏√が独特の感慨で胸に迫ったので、小夏√を最後に持っていくのがお勧めかも。3人の物語はそれぞれが微妙にリンクを感じさせるので、他のヒロインがどんな心境で仕事に望んでいるかが想像できます。
3人は得たいものは同じでも(主人公の愛、声優としての成功、満足のいく仕事など)、得ているものや得られるものが時々で違うのが上手いと思います。
終わってみると絶対必要だったと思うのは(音杏√はもちろん)三人が現場で並ぶ場面ではないでしょうか。小夏√で三人でラジオに出る場面はありますが、演者としてではなかったので。例えば全√をコンプすると、誰の√の後日談とも解釈できるようなエンディングが解放されて、いつみ、小夏、ゆかこがどこかの舞台で競演を果たすところで終わるとか、まぁ何か欲しかったです。

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