OYOYOさんの「人気声優のつくりかた」の感想

2017年一発目の当たりクジ。とても楽しいラブコメで大満足。
「真実度・78%の声優業界ラブコメディ」という文字がパッケージ裏に踊る本作、さぞや赤裸々な業界裏事情が暴露されるのかと思いきや、業界ネタはおまけ程度。過去のセクシービデオ出演疑惑だとか、裏名義と表名義だとか、枕だ何だといったヤバげな話はまったく出てこない、きわめてスタンダードな青春ラブコメ。どちらかというとトリビア的なネタを丁寧に散りばめた感じで、業界への配慮が見える。まあそれは、実際に声優さんに演じてもらう手前、某ソ○マップアイドルに無茶苦茶な枕をさせたりといった下世話な路線にはしづらいだろうけれど。

ともあれそういうゴシップの力を借りなくても非常に楽しく、とても満足できる作品だった。あまりに楽しくてやめどころを見失い、後ろ髪を引かれながら仕事に出かけたのは久しぶりだ。ちなみに、どのあたりが「78%」なのかは「エリを正してソデまくるラジオ」のキャストトークで言及されています。

ヒロインは3人。まず、弱小事務所の新人声優で、努力はしているが伸び悩んでいる瀬能いつみ。主人公のクラスメイトでもある。CVすずk……遥そら。続いて、いつみとは対象的に大手事務所に所属し、新人ながらブレイク中の人気声優・「くるしー」こと来栖祐果子。CVは奏雨。最後に主人公の実の妹にしてひょんなことからいつみの後輩として声優デビューすることになった永倉小夏。CVくすはらゆい。フルプライスにしてはやや少なめのラインアップ。3人とも、ヒロインが抱える悩みを主人公・永倉啓人がサポートしていくうちに仲が良くなるというド直球な「白馬の王子様」型の物語になっている。分量的には共通6:個別4くらいで、付き合いだしてからの描写にそれなりにボリュームを確保している。

作品の魅力は数多くあるが、「日常パートの楽しさ」をまっさきに挙げておきたい。メインキャラはもちろん、サブの面々も非常にキャラが立っており、ウイットに富んだ知的トークから身も蓋もない下ネタまで軽快に繋がっていく。息の合った彼らの掛け合いは、読んでいるだけで楽しくなってきて心地良い。

楽しいだけではなく、ハラハラする展開やぐっとくるシーンもあるのだが、過剰に泣かせようとする意図が透けて見えたり胸糞悪いキャラが押し出されることはほとんどない。抑えを効かせつつ起伏を出していて、派手さはないけれど安心して見ていられる内容となっている。

次に、ストーリー自体も良い。3人のヒロインのうち、とくに気に入っているのはいつみ。努力しても報われず生真面目さゆえにぶつかった壁の前で苦しむ彼女が、主人公と出会うことで成長していく姿は、(我ながらキモいのだが)愛しさ炸裂というか、こうキュンキュンくるものがある。啓人といつみが役者としてお互いに影響を与えあっているのも物語に説得力があり、啓人が観覧車でいつみに「そんな風に思わせてくれた瀬能さんに、伝えなきゃいけないことがある」と告白するのがこのルートのハイライト。そこから二人三脚で切磋琢磨する流れも含め、全体が「役者として成功する」という一本の流れで綺麗にまとまっており、完成度が高い。個人的に笑ったのは、某グッズ専門店へデートに行く流れと、「おもしろい役」をもらえた時の話。これは是非、プレイして確かめていただきたい。

祐果子、小夏も悪くはないが、いつみと比べると少し物足りない。たとえば祐果子。自分の人気が実力によるものではないという彼女の悩みは明確なのだが、解決までの流れに少し強引さがあった。主人公の通う学校に転入する流れやネットゲームのエピソードなども唐突さや無理が目立つし、マネージャーの話のようにあまり後につながらない部分を膨らませすぎていて、ちぐはぐした感じが否めない。

小夏も同様で、分不相応な抜擢によるプレッシャーやそれに伴う先輩声優によるいじめ、また兄妹間の禁断の愛といった、核となる要素がかみあっておらずどれも中途半端に終わってしまった印象を受けた。

また、両者とも啓人がヒロインを好きになる理由は描かれているが過程の描写がぼやけていて、「これが理由ですよ」と提示される感じだったのが、いつみほど話に入り込めなかった原因だろうか。とはいえ、あくまで高いレベルでの差であってじゅうぶん普通に楽しめる内容ではあるのだが。

本作の魅力としてもうひとつ取り上げたいのは、やはり中の人の演技。「新人声優」の演技だとか、演じ分けに苦労する声優の演技といった、メタ的な難しさのある内容がきちんと演じられている。もちろん私は声優業界のことなど知らないので実際に「きちんと」しているかを把握はできないのだが、そんな私でも作中の声を通して「これが新人声優か」という具体的なイメージを持てる。そういう意味できちんとしている。絶叫の演技などは、「素の絶叫を演じる」というもう何がどうなっているかわからないメタメタしいアクションがみごとに表現されていて、素直に凄いと思った(なお、ベスト絶叫は徹心くんがくるしんでいるシーンだと思う)。この作品に魂を与えているのは、まちがいなく脇役も含めたすべての声優さんたちである。

それにしても、CVを担当されたみなさんは実際いったいどんな気持ちで収録したのか気になるところ。

Hシーンは各ヒロイン5つで計15シーンとそこそこ多め。ストーリーと噛み合っているため真顔で読んでしまいご使用はしなかったものの、内容は割と濃い。若干ギャグっぽくなっているものもあるけれど、そこはコメディ要素として許容範囲。それにしても、音杏にかなめさんという、Hしたら超絶楽しそうなライン2人が攻略不可なのは泣ける……。

あまり「今風」ではない浅川しなさんのキャラ絵も、表情が非常に魅力的で終わってみればこれしかなかったなという感じ。そういえば『i Virgin』(Jellyfish)の制作発表時、「キャラデザイン浅川しなさんの18禁デビュー作ということで、皆様にいろんな"はじめて"を感じていただけたら」というプロデューサー氏のコメントが出ていたけれど、こっちのほうが早く発売されてしまったのは、見るもすずろにあはれなり。

良いところばかりを書いたが、物足りなさがなかったわけではない。具体的には、キャラの掘り下げに関して。啓人なら、頑張っている人を応援したいという気持ちと、自分も演技者として表現したいという欲求がたびたび出てくるが、そのあたりのモチベーションの描写がいまひとつ表面的。ヒロインたちを支えるのも、そうした気持ちのためなのか、単に主人公がお人よしで困っている人を放っておけない性質だからなのか区別がつかない。役者兼音響兼マネージャーという主人公の便利屋的ポジションのせいかもしれないが、だからこそ「芯」がどこにあるかははっきりさせてほしかった。

他のキャラクターの掘り下げも同様で、声の仕事が好き・演技が楽しいというのは分かるのだが、ではなぜナレーションではなくアニメやゲームなのか。舞台役者でなく声優なのか。彼女たちがそこにどんな意味を見出しているのか、というのがあまり見えてこない。私の目が悪いだけかもしれないが、いつみや小夏のルートではそれなりに焦点化されているテーマなのでそれなりに気をつけて読んだつもりではある。プロは楽しいだけではやっていけないというシビアな部分も描いているだけに、ただの憧れではなくリアルな仕事として声優を選ぶ苦しみが曖昧で、しかもそのとき支えになる気持ちがアマチュア的というのは、どうも腑に落ちなかった。

そのあたり、もっと丁寧に見せてくれていたらと思うのはないものねだりだろうか。ただ、そこまでハードルを上げてねだりたくなるほど魅力のある作品。一年の最初の月にこのクラスのゲームと出会えたのは本当にラッキーだったと思う。

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