Atoraさんの「手垢塗れの天使」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

大は小を兼ねる。エロゲーでは、それが通じない。
近ごろのロープライス界隈では、大作に劣らぬ高質な作品をよく目にする。
本作も、抜きゲーと読みゲーの境界において、絶妙なバランスで成立している。
スマートに題材を描き切った本作は、小ぶりなフォルムならではの手軽さがある。
これだけでも瞠目に値するが、その価格帯が、作品の評価を一段と高めている。


豊富な抜きどころは、作品のテーマに沿ったもので、数だけは実に手堅い。
フルプラに見劣りしない実用性は、昨今のロープラの特長と言える。
それに加え、ドラマ性の高い短編として、ライターは物語を仕立て上げた。
聞くも涙、語るも涙の物語。これを抜きゲーの一言で片づけるのは惜しい。


現実世界においても、アイドル業界の枕営業は実しやかに囁かれている。
時にスキャンダルに発展し、お茶の間を賑わすことも少なくない。
表は純真無垢で通っているが、その裏で取り返しがつかなくなるまで汚れていく。
紆余曲折のアイドル模様に焦点を当て、一人の少女の盛衰を描いたのが本作だ。


アイドルとして活躍したい少女が、枕営業の果てに認知できない子を身ごもる。
そんな状態でファンと関係を持ち、その間に出来た子供として、先の子を産む。
そこまでして掴み取った「幸せ」は、本当の意味で「幸せ」と言えるのか。
倫理的に悖る行為だし、他の道を選ぶこともできたに違いない。


だが、事実として少女はその道を選び、垢に塗れた手で「幸せ」をつかんだ。
それを否定することは、物語の否定につながりかねないため、私にはできない。
かくして掴んだ「幸せ」が脆くも崩れる時、新たな物語が幕を開けようとする。
興奮冷めやらぬ中、「さあ、これから」という時に、物語は終局を迎える。


抜きどころの連発で終わらないのが、このライターの良いところだ。
実用性を強くアピールしておきながら、最後の最後ですべてを回収する。
そのテキストの量たるや、プレイ時間にして、わずか10分足らず。
このラストシーンで、作品の評価を上げるプレイヤーは多いだろう。
終了間際にドラマ性をグッと高めたその手腕は、見事と言うほかない。


抜きゲーとしては、やや挑戦的なシステムを取り入れている。
Hシーンのテキスト・CG・CVは、裏表自在にカスタマイズすることが可能だ。
たとえば、テキストを裏、CGを表、CVを裏という具合に、組み合わせることができる。
この例で行くと、好意的な表情のまま、嫌悪感をむき出しにできる寸法だ。


この発想自体は面白いが、さらなる精査が必要であると評価したい。
肝心の実用性を強化できるのは、限られたプレイヤーだけだからだ。
相性が悪いと言えばそれまでだが、私は、埒外のプレイヤーだったようだ。
現段階では単に物珍しいだけで、機械的に組み合わせているに過ぎない。


発言の内なる感情が透けるのは、二次元の得意とするところだ。
だが、多くのプレイヤーは、侮蔑的な感情を向けられるのをよしとしない。
ヒロインと相対しているのがゲーム内の男でも、本来の対象はプレイヤーなのだ。
萌えゲーのヒロインが、実は嫌々ながらHしている……想像するのも恐ろしい!!


この作品では、ヒロインは来たる栄光を掴むために、枕営業を続けている。
嫌々ながらの行為と分かっていても、あくまでも、見かけは和姦なのである。
それゆえ、侮蔑的な感情をオープンにすると、実用性が損なわれてしまうのだ。


枕営業において、マイナスの感情を向けられて、仕事を斡旋する変人がどこにいると言うのか。
事実は本作どおりだろうし、そのギャップに面食らうことはできる。
だが、パターンによってはあまり特殊すぎて、私の心が受け付けなかった。


心情を明け透けにするならば、好意を相乗的に高める方に舵を切るべきである。
似たようなシステムで言えば、「のぞきみダイアリー」の使い方がより好ましい。
本作の仕様では人を選んでしまい、抜きゲーとしての価値を下げかねない。
発想を否定するつもりは毛頭ないが、換骨奪胎まで今一歩の感があった。
もっとも、裏の本音を見聞きしなければいい話なので、評価には、さほど影響していない。


それに、この価格帯であれば、いま以上を求めるのは酷な話とも思う。
本作では地の文を重用して、ところどころ描写を端折っている場面がある。
ライターの工夫で適度な息抜きに見えるが、やはり製作費の都合は見逃せない。
フルプラの約三分の一の価格で、この出来ならば、満足感の方が勝ってしまう。
そう考えると、本作は短編なりにベストを尽くしていると思う。


フルプラにはフルプラの良さが、ロープラにはロープラの良さがある。
だが、昨今のロープラ作品の一部は、フルプラを凌駕する満足度の高さを誇る。
その意味では、フルプラとロープラは相容れない存在なのかもしれない。


エロゲー業界においては、大は小を兼ねることはできないようだ。
この作品は、大作の合間にプレイするには、うってつけの存在だ。
抜きゲーにとどまらない、しっかりと作られた山椒のごとき一作だと思う。



【雑談】
フルプラブランドの低価格作品を、自分の中で勝手に切り分けてます。

①切り分け型(フルプラを分割した形態)
②一話完結型
③抜き特化型

個人的な実感ですが、②と③の合わせ技は満足度が高くなる傾向にありますね。


EVCGと立ち絵の原画さんが違うようですが、違和感はありませんでした。

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