cyokin10wさんの「さくらにかげつ」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

ヒロイン全員がポンコツな上に、主人公はロリコン変態の傲慢野郎で、冷静に考えるまでもなく常識をすっ飛ばしてしまっているような会話や行動がまかり通っている世界であるにも関わらず、その作品世界に流れる雰囲気に呼び起こされる感情は、『どうしようもないくらいの切なさや寂しさ』だという、摩訶不思議な作品。2000年代前半の、泣き要素のある萌えゲーなんかが好きな方には、案外ハマるのではないでしょうか。あるいは『君の名は。』へたどり着く前の新海誠作品なんかが好きな人にもいいかも。
ずっと、タイトルを漢字にすると『桜に花月』なんだろうなー
洒落た名前付けちゃってまぁとか思ってたんですが、これ違いますね。

『サクラ、二ヶ月』なのですね。

そして主人公の名前は三ヶ月耶澄。これをひっくり返して→『耶澄、三ヶ月』

ころぶがサクラとして主人公の前に現れて、彼に干渉しながら過ごす共通√が、二ヶ月。
耶澄が選んだヒロインと恋仲になり、その彼女に深く関わっていく個別√が、一ヶ月。(共通√+個別√=三ヶ月)

止まってしまっていた彼らの時間が動き出すまでの期間。

立ち止まってしまっていた彼女らが、再び前を向いて歩き出すまでの期間が
タイトルと主人公の苗字に表現されていたのです。


両親や妹たちに支配され見下げられることに反発しながらも、そこからは抜け出せないと諦めていた守里は
新しい道を見つけ、主人公と共にそちらへ向かって歩いていきます。

”呪い”というどうにもならないものに囚われて、自らを諦めてしまっていた詩舞は
なゆに泣かれ守里に怒られた末、もう皆にあんな顔はさせたくないと、「世界一頼りになる彼氏」と共に立ち向かう決意をします。

みんな一緒じゃなきゃ嫌だと、自分の幸せにしか目がいっていなかったなゆは
みんなで幸せになるために別れを選択し、ルッキーネとの別離も乗り越え、成長していきます。

自らの命を諦め、想いを込める術で遺言を箱に詰め、それ以降昏睡していた一辻八子は
自らの想いの結晶である一都ハコが繋いだ耶澄との関係性、桜の枝の奇跡を手繰り寄せ、病を退けます。

三ヶ月耶澄は、そんなヒロインたちと真剣に向き合うことで未来に目を向け
ころぶの死以来、立ち止まってしまっていた足を動かし、ヒロインと共に歩いていきます。

そしてサクラこと夜九ころぶ。
立ち止まってしまった耶澄の背中を押そうとしている彼女もまた、過去に囚われ、立ち止まっていたのですが
耶澄がくれた言葉と想いを抱いて、スズの誘惑を振り切り、今の自分の居場所へと帰っていきます。


サクラ(ころぶ)にとっては二ヶ月
耶澄や他ヒロインたちにとっては三ヶ月

その間に彼ら彼女らは、大切な誰かと別れ、出会い、そしてまた別れ。
その中で自分の道を見つけ、未来を見据え、痛みを伴いながらも成長していくのです。


人の営みの中ではごく当たり前に起こり続ける出会いと別れ。


そんな《当たり前》が繰り返される中で、人がどうしようもなく感じることになる悲しみや喜びを
例えようもないほどの切なさと寂寥感漂う世界の中で綴ってみせた作品。



それがこの『さくらにかげつ』という逸品なのでした。





























―-― 蛇足 ―-―


・いや凄い作品ですね、これ。

 ヒロインの魅力や物語の展開を表現するのに、これ以上削ったら伝わらなくなるんじゃないかというくらい
 必要最小限なところまで削られている感のある文章。
 (並みの作品なら冒頭の生徒会入るまでで1~2時間かかりそうですし
  大黒天神社や折音を舞台に、もっとドタバタ描写をぶち込んでくるでしょう)

 派手さの欠片も無い、静かに透き通るように響くBGM群。

 常にくすんだ色調の背景。(但し夕焼けだけは鮮やか(その方が寂寥感を刺激するから)で
              完全に狙って色付けしてると思われます)

 演出らしい演出をほとんどしない、【演出】。

 これら全てが、プレイヤーを切なく寂しくさせるためだけに使われているような。
 そう思ってしまうくらいに、作品全体が醸し出す雰囲気の力が強くって。

 あえて演出を抑えることで、小さく、但し長時間に渡ってプレイヤーの感情を揺さぶり続けるという、このやり口。
 ここまで徹底されて、しかも狙い通りに心を揺さぶられ続けてしまったワタクシは、もはや兜を脱ぐしかありません。

 お見事でした。
 


・そしてその演出の仕上げは、エンディング曲『Ring』ですね。

 物語自体はご都合主義の塊のような締め方をされますし、お世辞にも出来は良くないと思うのですが
 にも関わらずこの曲が流れてきた途端に刺激される涙腺。

 プレイ中ずっと抱え込んでいた寂寥感を思いっきり刺激してくる声と旋律に
 思わず「卑怯だ!」と涙ながらに叫びだしたくなる気分を味わいました。



・声優さんは皆さん素晴らしかったです。

 正直特別上手いとは感じなかったのですが、とにかくキャラに嵌っている演技で。
 台本を良く読み込み、丁寧に演じてくださっていた印象です。

 すぐ声が裏返るハコとか、感情の起伏の少ない詩舞とかはかなり難しい役どころだと思うのですが。

 他の作品でも聞いてみたい方々です。



・好きなヒロインは守里です。

 古典的正統派ツンデレな彼女ですが
 下手なツンデレにつきものな理不尽暴力が少ないのはポイントが高い部分。
 
 さすがに”好き”を知ってしまった直後はパニくって手を出してきますが
 それ以外で彼女が怒ったり蹴りを入れて来たりするシーンは、概ね主人公が悪いので(笑)
 廊下でなゆとイチャついていた耶澄を蹴っ飛ばした後、正座させて説教を始めたのには大いに笑わせていただきました。

 お姉さん気質で詩舞に慕われているのも好印象です。



・Hシーン。

 付き合ってもいない年頃の女の子たちと当たり前のように一緒に風呂に入る作品にエロスを求めるだけ無駄でした。

 見慣れてる触り慣れてる女の子とのHをエロくするには
 体位とかシチュエーションとかをとにかく特殊且つ豊富にするとか
 科白や塗りをとことん過激にして、濃厚なシーンにしてしまうしか無いと思うのですが
 そのどちらも達成されず。

 力を入れないにしても、もう少しなんとかならなかったのでしょうか。



・おっぱい。

 この作品のおっぱいの描き方はとても不思議で
 小さい方担当のハコと詩舞のおっぱいは、立ち絵の方がやや小さめに描かれて
 大きい方担当のなゆと守里のおっぱいは、立ち絵の方がやや大きめに描かれているのです。

 特に守里が顕著で、立ち絵だと巨乳と言ってもいいくらいの大きさなのが
 CGになると途端にやや貧乳寄りの普乳クラスまで小さくなります。

 普通、CGの方がより極端な描き方をしそうなものですが、それとは真逆の描かれ方。
 何でしょう、極端な描き方が嫌いな絵師さんなのかそれともオレンジエール自体の方針なのか。

 、、、、、、ワタクシとは話が合いそうです。(奇乳も無乳も苦手なんです)



・一都ハコは、あれはいわゆる一辻八子のスワンプマンですよね。つまりは別人。

 それ故に、『一辻八子エピローグ』という小見出しがついて
 一辻八子とのこれからが始まりそうなあの締め方は、ハコがあまり報われないなーと思って、しんみりしてしまいました。



・詩舞の名前についての詩舞の解釈は、穿ち過ぎではないでしょうか。

 「代々受け継がれてきた呪いが”おしまい”になりますように」

 名前に込められたこの想いを詩舞は『子どもを作るなということ』と解釈していたようですが
 もっとシンプルに、詩舞の代で決着をつけるという、親としての意気込みの現われだったのではないでしょうか。

 何とかして自分の娘を、詩舞を呪いから解放して幸せに生きてもらおうという親の愛情。

 そういうことだったらいいなと、妄想する次第です。





 

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