Planadorさんの「なついろレシピ」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

料理をメインに押し出した作品ですが、料理系作品として見るならば肝心の飯画像の問題で失敗作と言えるでしょう。田舎の里山で田舎暮らしを楽しみ、その村での年下ヒロインと触れ合うキャラゲーとしてなら、十二分に及第点じゃないでしょうか。長文前半はネタバレなし。
 天涯孤独になったヒロインの元へ、帰ってきて欲しいと直々に実の父親へと手紙を出す。しかし、そこへやってきたのは腹違いの兄であった――。


 PULLTOPが姉妹ブランドの体で出したキャラゲー。実際本家PULLTOPみたくシナリオに本腰、というつもりではなく(恐らく)、でもLATTEの色では絶対になく、ということを考えてのAir新設だったとは思うのですが、この分なら本家PULLTOPでよかったようには思いますね。
 実際、この作品での飯画像は本家の「見上げてごらん、夜空の星を」に於いておでんの絵を出すのにも同様の描写として使われており、そのための練習というのはあったのかもわかりません。
 ただ、見上げて~よりは明らかに低予算で作られてますね。見上げて~以外のPULLTOP作品やってないのであまりわからないのですが、実はブランド内での実験作的側面もあったのでしょう。

 舞台は日本のどこか片田舎。特にどこをイメージ、というのは作中にはありません。予約特典の冊子にはもしかしたら何かあったのかもですが、読んでないからわからない。
 しかし舞台イメージはどこなんでしょうね、白珠村の雰囲気と鯵ヶ沢などの苗字から青森県白神山地、具体的には深浦~鯵ヶ沢~五所川原より内陸かと思いましたが、けど柑橘類取れるとなるとそうではなく。
 恐らく四国山中……ぐらいしか想像付きませんね。でも冬場雪が降るみたいとはいえ、それ以上そういう事は一切書いてないからこれ以上想像しようもない。

 音楽は21曲+OPED曲とそこそこの分量。その分一曲一曲が包丁や鍋などの音をイメージした作曲がなされていて、雰囲気作りという意味での仕事は十二分にこなしています。

 で、肝心のキャラ。主人公から見れば全員年下(一番近い椋香でも最低四歳下、こごみは最低八歳下)ですが、案外年齢がどう、というようなことはありません。せいぜい柚と早蕨姉妹のお兄さん呼びくらいで、先輩後輩みたいな年功序列的な感じの描写とかはそこまで多くもなく。
 キャラデザだけならすずな、関係性は柚、プレイ始めて性格は椋香が好み、という感じでしたが結局全員なんらかの形で好きにはなってました。

 どちらかというと主人公杜丘岳史の設定ですね。大学卒業時に内定先の企業が倒産してしまったため、仕方なく白珠村に来たという設定ですが、普通に好青年故別に他にも内定取れてるんじゃないかなぁと。
 「動転すると土下座しちゃう系男子」である主人公岳史ですが、主人公の人間としての出来を見るに、内定先が倒産と言うのは、よほどの大企業かそこらぐらいしか浮かばないんですよね。実はそこは譲れなかったとかなんとか言うのかもしれませんが、東京に未練がないという発言もあるしどうなんだろう。
 ともあれ、主人公は高校卒業直後ぐらいの方がよかったんじゃないかなぁと思います。そうするとすずなルートが成り立ちづらくなりますが、まぁそこは専門学校か短大志望ということで。

 エロシーンは、本編挿入分とは別にエクストラシーンも用意されており、内訳は以下の通り。ちなみにエクストラは開放され次第画面右上にポップアップが出ます。

  柚:8(本編4・エクストラ4)
すずな:4(本編2・エクストラ2)
こごみ:4(本編3・エクストラ1)
 椋香:4(本編3・エクストラ1)

 見てお分かりの通り柚の優遇っぷりがすごいです。ここまで優遇してるんだったらパッケージに描くのは柚一人でよかったんじゃないだろうか。
 一部は自慰場面だけのも含まれますけど、それら込みで柚の優遇たるやという感じ。強いて言うなら割食ってるのはすずなかもしれない。


 で、個人的に気になるところを何点か。
 以前、「見上げてごらん、夜空の星を」で、描写が丁寧で、且つ設定を作り込んでるからこそありえない設定の粗が目立つ、というようなことを書きましたが、本作は設定を意図的でしょうが相当ぼかしています。
 別に感情移入してどうたら、という作品ではないのでまだいいですが、本作も基本に忠実で丁寧な分、粗があると妙に悪目立ちしちゃうんですよね。

 その様々な方がそんな深夜にやるなと言われる所以の飯画像ですが、私にはどうにもそこまで食欲をそそられませんでした。
 どうしてかというと、amaginoboruさんの感想では「食品サンプルを見ているみたいだ」というのがありましたが、私は飯画像の構図のせいかな、と考えます。
 食品関係の資料を読むとよくありますが、構図の3/4ぐらいで大写しにするイメージで、料理が写されることが多いと思います。何故かって、「その料理の一番おいしそうなところだけを切り取ってる」からなんですよね。
 ある意味当たり前の話なんですが、幕の内弁当宜しく、何品も一つの容器の中にあって、それを全部写す必要がないというだけの話です。
 ちなみに雑誌の東京ウォーカーなんて、意図的に料理を皿の端に寄せて、豪華そうに見えるような撮影技法(ウォーカー撮りと巷では呼びますね)をやるぐらいで、何も皿の端から端まで写ってる必要はどこにもないわけです。
 それに対して、本作の飯画像は料理をただ上から、料理を構図の真ん中に持ってくるように写すだけ。もしかしたら実際に食品サンプルの模写なのかもわかりませんが、恐らく問題はそこではなく。

 加えて、彩色でなのか線画の時点でなのかが微妙にわからないですが、一部飯画像に艶が無いように見えるんですよね。具体的には米料理と一部の野菜に魚。
 正確に言うならば、「ヒロインの肌や瞳と艶具合が同じ」なのですが、明らかに「あ、絵だな」と思う感じのも混じっています。いつもは特段気にならないのですが、そこを推してる作品としてはちょっとばかし宜しくない。
 真上から見下ろした時に湯気で少し見る目が曇る、ということまで考えてたかどうかはわかりませんが(多分そこまで考えてない)、食欲か何かをそそられるかどうかと言われるとそこまででも。
 恐らく、絵柄を見る限り絵というより写真の加工なんだとは思いますが、ネットに転がってる撮り方指南のまんまでいいですからもう少し工夫が欲しかったです。
 ちなみにCGだけを見た際に一番何かこれじゃない感があったのはザクパニール。あれパクチーか三つ葉の汁物だと思ったもん。次点でヤマメの南蛮漬け。

 というわけで本作はあまり飯要素は期待しないでください。物語進行も、基本的には食堂再建や料理などはヒロインと主人公の距離を縮めるための調味料としての扱いですので。

 それとパロディーのネタがライターの趣味かどうかは知りませんが妙に偏ってます。どれもこれも妙に古いんですよね。そういう意味では対象年齢が地味に他より高く設定されています。
 ラノベの「這いよれ! ニャル子さん」みたいに一定の年代向けに集中的にネタをぶっ放せばまだわかりやすいのですが、唐突にパロネタをぶち込まれて自然に流せるならいいんですけど、一つのネタを繰り返し使う場合は十人中十人が理解できるネタでなくてはいけません。
 別にわかんなくても気付けばいい、というぐらいのつもりならまだいいのですけど、殺人鬼ジェイソンなどを時々読み手に知ってて当然という体で進めるのは、流石に自己満が過ぎるかな、とは思います。まぁルイス・風呂椅子はツボったけど。
 とはいえ、わかる人がやれば色々と実は古典パロゲーだったんだよ! とかで評価一変の可能性もあるので、誰か全解読お願いしたいところです←

 そもそも、作中の時代設定を2006年頃といった少し前に設定しているんじゃないかなと。タブレットの存在以外はそれが可能ですし、となると少しはパロネタが古いのも納得できますし、すずなとのやりとりがLINEみたいなリアルタイムでの会話を見れるようなものではないように見えるのも納得がいきます。



 以下ネタバレ。



共通
 実質的に主人公は脇役で、主人公と柚が周りに振り回されつつも段々白珠村に馴染んでいく様子が映し出されます。
 なんとなく程度なんですけど、外部からやってきた主人公とその村にいた四人のヒロインというのは、07th Expansionの「ひぐらしのなく頃に」を想起させます。いや何も腕がまだ一本見つかってないなんてことはないけど。

 その肝心の導入ですが、とにかく主人公を置いてきぼりで話が進みます。噂が伝播するうち猟奇殺人者とされた主人公が、どのような形であれ村の人に存在が認知されていくという流れ。
 この辺り、噂の真偽はともかく、「余所者が閉鎖的な村に風を吹き込む」という構図はよく出来ていると思います。
 サブキャラが騒ぎまくって、肝心の主人公やメインヒロイン(主に柚)がキャラ立ちしないというのはありますが、「主人公が意図せず自身の存在が認知されていく」というのはアリでしょうね。

 そのサブキャラですが、下手すると攻略ヒロイン群より始めの内はキャラ立ちしています。特に椋香の祖父である鯵ヶ沢猪左夫と柚を信仰してやまない小田巻花梨。

 で、その花梨なんですけど、共通個別関係ですが、どうして柚を信仰してるか、という事柄が曖昧というか、弱いんですよね。特にお嬢様設定は都合のいいように付けられたようにしか見えない。村長の娘とは名ばかりで、ほぼ別にただの金持ち設定でいいじゃんという。村長家だからといって執事がそうほいほいいてたまるか。
 ちなみに早蕨家も(農家やってて)金持ちという発言があったので、ただの金持ちの家というだけならこごみのさらに妹の、幼心に柚を慕う、ぐらいでよかったよねと。それなら執事もあざみさんが代行すればいいし。
 キャラ立ちはしている分、大元の設定の適当さがどうしても目に付いたキャラでした。
 ちなみに一番印象に残ったのは風邪をひいても無理やり外出しようとして連れ戻されるシーン。何言ってるのか素でわからないことなってるのは普通に笑いました。

 ともあれ、岳史が白珠村で迎える初めての夏はヒロイン、特に柚との距離を段々と縮めることに専念しています。
 ヒロインの可愛さを見せるための下積みは、それらの中でそれなりに出来ています。やりすぎちゃうと個別での見せ場がなくなっちゃいますし、こんなもんでしょうね。

 で、その中で柚の言動が気に入らないという人も多かったように見受けられますが、私はあれでよかったと思います。
 柚個別でも補足されていますが、親戚間を厄介者扱いで盥回しされ、自身が要らない子だという考えが身についてしまってるんですよね。
 加えて世間知らずのことも、厄介者扱いでまともに教えてくれる人がいなかったことを考えればそう不思議でもないです。
 これが凌辱モノの作品だったら、「世間知らずで厄介者扱いの少女が村の誰かに引き取られて村の男たちに輪姦される」とでもなるんでしょうけど、純愛和姦モノのキャラゲーだから血の繋がりの無い兄が優しく世話してくれるよ! 家族が増えたよやったねタエちゃん!
 これらは大体共通の段階で書かれずとも察せられるように思いますし、実際記述がそこいらにあるので、いいとまでは思わずとも私は流しつつも理解はして読んでいました。
 勿論それを理解していても好きじゃないという方もいらっしゃるでしょうし、好きになれない人がいるのもわかりますが、こごみよりは年上と名言している柚がこごみ同等か、もしくはそれ以下の年齢だと考えて読むなら、割と理解できるんじゃないかなと。
 ともあれ、柚はその辺りを念頭に置いてみてください。好き嫌いの如何はともかく、理由はちゃんと書いてありますので。



 以下ルートプレイ順に感想。



早蕨こごみ
 最低八歳差はある年下のヒロインに女子の匂いを感じる主人公、正に変態である←
 という戯言は置いといて、年齢の割にかなりのしっかり者の性格で、良くも悪くも他ヒロイン比較年下という感じがしない。
 ちなみに見合い結婚が主流だったころは実際これくらいの歳の差婚が普通だったわけで、ド田舎が舞台だと実際に岳史の嫁はこごみ辺りになるのかもしれない。
 あざみさんが柚ルートで「岳史の嫁にこごみを」と発言しているのは、こごみの性格のこともあるのでしょうね。そこですずなでないのは都会に出たがってたからこそ都会で男を捕まえるだろうということもあっただろうとはいえ。

 ただ、割と年齢が離れた年下ヒロインだからこそ、年相応の甘えたい欲だとか、そういった描写が見たかったとは感じます。
 こごみが悪いヒロインとはいいませんが、年齢の割に妙に人として出来すぎてる感はあるんですよね。そういう意味ではもう少し年上設定(柚と同い年ぐらい)でもよかったのかもしれない。
 ただ、唯一主人公がヒロインに意図的に甘えられるルートでもあるので、そういう意味では貴重なシナリオです。性格的にも主人公が甘えられるのは実際こごみぐらいだったし、必然だったのかもしれません。
 その観点からも、告白シーンは、恐らく意図的だと思いますが、好きと言わせなかったのはよかったと思います。基本は抑えつつも幼妻大好きな人はやるべきなシナリオですね。

 と言いたいんだけど、明らかにこごみルートだけ短いと思うんですけどどうしてこうなった? 出来が悪いわけじゃないけど、他個別に比べて何故かこれだけ段違いに短いです。
 告白までの流れはしっかりやってた分、それ以降が圧倒的に長さが足りなくてすごい駆け足に感じるんですよね。水増しじゃないけど、流石にもっとテーマやネタを追加せずとも書き足せたと思うんです。
 実際、年代ジャンプが他個別が二回以上なのに唯一一回だけで、それでこの短さは「恋人関係になってから一回えちシーン挟んで、一年後甘々な二人の関係が書けただろ」と声を大にして言いたいからなんですよね。そこまでやれば同発売日の作品でルート一つで覇権を取れたんじゃないかなと。



早蕨すずな
 トラブルメーカーなんだけど、妙に憎めない。ころころ態度は変わるんだけど、単に何も考えてないわけではない。
 萌えに傾倒しないように、だけど程々に阿保っぽく見せるものとしては中々難しい塩梅であるこのキャラ設定を意図的に仕向けたものなら大したものです。
 実際、いい意味であっさりした性格のせいか、そんなに嫌らしくないんですよね。

 ルートとしては、故郷の村は大事だけど、それでも都会に出たい少女の話。
 ただ、ルート途中で合格して一旦は都会に出るので、出ることが目的でそれに終始、というわけではないのが他作品と違う所です。そういう意味では他でもあるようなルートのようでそれらともまた一線を画しています。

 塾や家庭教師、というのの基準が、過疎? の村での基準がわからんのでアレですが、「周りのみんなはほいほい塾に行く」ほどには塾があるんですかね?(失礼
 というのも、恐らくすずなは村の雰囲気見る限り通学に最低一時間はかけていて、同様に奥地から通う生徒がどれだけいるんだろうって話ですよね。まぁここはそこまで気にしても仕方ないのかもしれない。
 とりあえずあっさり受かっちゃうのもどうかと思わないでもないですが、そこは本題ではないのでまぁいいとして。

 合格後は、友達以上恋人未満の状態での遠距離での交流が図られます。「村を出たい少女を応援する話」は多いと思いますが、「村を出てから帰省で村に帰って来てからが関係性の本番」というのはありそうでそう多くないと思います。
 でもずっとメールは送り合いっこしてたし、心の距離が離れているわけではない、けどだからこそ肉体的に離れているのは辛いというのはいい描写でした――ってならなんでせめて電話しないのよさ?
 とはいえ、年毎に手順を踏んだシナリオは段階を踏めていて好感が持てましたし、基本通り、だけど隠し味を添えて忠実に作ったシナリオは割とよかったです。

 しかし、難関大学(描写見る限りどっかの国立)受けて卒業後帰って実家継ぐみたいな感じだとあまり大学行った意味がないということにもなってそこがなぁ、と。
 帰郷後色々使えそうなのは農業工業大学ですけどね。とするならばそこでの農学部ということで府中キャンパスに通ってたと勝手に脳内補完しております。
 でも文学部のレポートがうんたらみたいな記述もあったので、余計になんのための大学だったんだろうとも思うのが……うーん。



鯵ヶ沢椋香
 性格的には一番好みだったヒロインですね。テーマ的には「食べるための料理」として、椋香が何かを食べることで話が進みます。

 共通イベントの段階から、必要な物事は数言で済ませる椋香とは妙に熟年夫婦感がありましたが、ルート間ずっとそんな感じです。新婚なのに「早くも熟年夫婦のような以心伝心ぶり」ってエクストラHシーンでも言われてるし。

 ともあれ、ルートはまず森林仕事のボランティアなどに精を出す椋香に昼食の弁当を持って行くことから。
 デコ弁や椋香の作ったおにぎりなどでの美味しそうに食べる椋香の描写もですが、それら合間に椋香のやってること、やりたいことが描写され、椋香自身のキャラの掘り下げを行っていきます。

 椋香は鯵ヶ沢雑貨店の看板娘として色々なことをやっています。本業の雑貨店の他、キャンプ場の経営、キャンプ場での渓流釣りとしての即席釣り堀の設営……。
 村の一員としてもやることは沢山です。先述した森林仕事のボランティアの他、地元青年会の会長、趣味で行う渓流釣り、そして自身が志す猟師としての収集や猟……。

 で、そんな椋香のやってること、完全に一人里山です。他の人は描写されてないからそれ以上はわからない。
 しかし、椋香だって一人の可愛い女の子。そういったものに憧れを持っていることを、猪左夫はわかっていたし、だからこそ猟師という時には危険を伴う仕事を任せられない、任せたくないというように思うのも無理はないことである。
 故に猪左夫の、椋香を思うからこその猟師になってほしくないという気持ちも、またわかるのだ。


猪左夫「君は知っとるか? 猟師の数が年々減少しとることを」
猪左夫「山は切り開かれ、山とは違うものになった。木々や獣たちもまた、それに伴い変わろうとしている」
猪左夫「人も変わった。猟をするワシらを蔑み、残酷だと非難しよる」
――以上鯵ヶ沢椋香ルートより


 猟師は蔑まれる仕事だ。愛娘にはそう人から言われてほしくない。全ては、孫に幸せになってほしいから。
 だからこそ、直後にいつものタンクトップ姿から着物に着替えて戻って来た椋香のギャップには、やられる人が多いんじゃないかなと思います。

 個人的には、そこからさらに一年後の、ゆっくりながらも着実に接近していく状況の方にやられましたけどね。
 極めつけは店で寄り添って一緒に漫画を読むシーン。せいぜい20クリック前後のかなり短いシーンですが、ここにそれまでの時間の積み重ねと関係性が詰まってると言い切っていいです。
 だからこそ、なんで告白したその日にえっちしちゃうかなぁという不満がないわけじゃないですけど。

 後半戦、もとい最後の方では、前半の猪左夫と対峙した椋香の構図そのままに、岳史と柚の対峙する様子を描いています。すぐに終わるとはいえ、「柚ルートに入らないからこその対立」である点は見逃せない所です。
 ここは、柚の小姑的側面もそうですが、プレイヤーは全員が全員血の繋がりがないということをわかっているからこその展開です。ここはそれ以上は言わないのでしっかり見て欲しいですね。

 終わってみれば、食べることに的を絞った、文章でプレイヤーの表情筋、ではなく腹を狙い撃ちするシナリオでした。だけどその中で岳史と椋香の自然な、けどどこか椋香が憧れていた少女漫画的展開を織り交ぜたシチュも用意できたのは見事。
 個人的には猟師志望だからこその、食べる大切さがもう少しあればよかったかなとは思いますけどね。あと里山のこと。

 とりあえずそれと別に、このルートやって思ったのは、全ての料理シーンは文章だけで表現して料理CGいらなかったんじゃね? ということ。
 CGについては先述した通りですが、それくらいには実際文章としてよく書けていたんですよ。
 よくパンツとかの話で、ソックスとスカートまたはズボンの間の所謂絶対領域がエロい、という話を聞きますが、あれは見えないところへの想像が働くから、という側面が大きいです。
 本作の料理も全くの一緒で、文章で料理の様子を想起させ、また酒の香りが浮かびつつ料理の味が舌に広がる「ような気がする」というのは、あくまでそれが想像力が働くからこその描写であり、そこにCGはいらない五感を無駄に働かせるだけになってしまいます。
 古典落語に「始末の極意」という話があります。それだけ聞けば何それと思う方も多いでしょうが、落語の中の一文節に過ぎないとはいえ、「うなぎ屋から流れてくるかば焼きを焼く匂いをおかずにして飯を食べた話」と聞けばわかる方も多いと思います。
 理屈としてはこれと同じです。文章が秀逸だからこそ、ついつい思ってしまう事柄です。



八重樫柚
 ルート突入直前に、岳史とは血の繋がりがないということを柚が唯一知るルート。
 故に他の方も書かれてますが兄妹モノとしてみるのではなく、血の繋がりがない若者による疑似兄妹モノとしてみるのがいいですね。
 内容としては「血の繋がりの無い家族の横に入れるようヒロイン自身も料理を頑張ってみる」という話です。
 ここで注意なのは、料理そのものではなく、調理過程がメインであること。ですのであまり出てきた料理の絵が、ということに期待すると肩透かしになると思います。
 ただ、「食堂の再建」という意味では共通からの流れを椋香ルートとは別に色濃く継ぐ流れですので、柚ルートのテーマとしては必然でしょう。
 椋香ルートが「食べるための料理」なら、柚は「作るための料理」又は「食べてもらうための料理」という差別化が図られているのは特筆すべき点です。

 で、導入始め、あの、台風描写雑過ぎませんか(白目
 「小雨もぱらついてきた」とか言いながら夕暮れ背景だったり、夜雨のエフェクト入るも背景の空は星空だったり。他でもちょこちょこありましたが、本作で一番雑だと感じた部分ですね、ここは。

 その台風の後の岳史の夏風邪シーンは賛否両論別れると思います。岳史も柚も一向に引かない、我がぶつかり合うこの場面は見ていて気持ちのいいものとは言えないという人が多いと思います。
 ですが、ここまでの柚の描写は、「同年代で頼れる人を初めて知って、その人が離れていかないというからこその心配」なんですよね。
 それは、風邪で岳史を寝かした際、花梨が遠方で療養させるかと言った時の柚の受け答えに端的に表れています。


柚「岳史さんは私の家族です。私が看病するんです」(八重樫柚ルート


 関係性を把握したうえで、この人は家族だと宣言する、ここの時点で、ほぼ兄妹ゲーとしては終わりを告げたと言っていいでしょう。
 一方の岳史も、そんな柚の境遇を知った上で、自分が守らなくてはいけないという責任感、兄としての役目を果たそうとするからこその行動であることは想像に難くありません。
 見てくれがいい場面ではなかったにせよ、その後の段階的な関係性の進行を表す上では、必要な場面だったように感じます。

 その後は、ザクパニール――ほうれん草のカレーが食べたいという柚の希望や、フレンチトーストを柚が作ってみるところなど、料理に関連した「柚が岳史を攻略していこうとする姿」が描かれます。
 その料理の腕だけでも岳史の隣に並ぼうとする柚の頑張りを軸に、その中で村に段々と浸透していく二人の姿を映し出します。

 その「村に段々と浸透していく二人の姿」が本ルートの肝になっています。どうしてそうなっているかと言うと、先述した「食べてもらうための料理」を食べる役割であるからに他なりません。
 故にその実、このルートで大事なのは、岳史と柚の関係性以上に、周囲の人物の描写です。特に柚以外のヒロイン三人+花梨は地味に登場率がこのルートでは同じぐらいに設定されています。
 また大人組も同様で、先生+あざみさん+猪左夫もそれぞれ登場率は同じくらいです。立ち絵無し声だけのモブも、意図的に多く喋る機会が増えています。棚下さんがわかりやすい例ですね。
 その棚下さんですが、反省会での報告での言うこともごもっとも、というより人が好過ぎる白珠村の中では唯一リアリティがある人かもしれません。
 すぐに丸め込まれるのはまぁキャラゲーだからいらんシリアスない方が、ということで丁度いいでしょうね。個人的には認められずに村を出ていくルートもそれはそれで見たかったですが。

 ともあれ、その反省会での発表が、本ルート一番のメインイベントとなります。ここで、これまでの展開を下敷きにキャラの想いがドバっと出るんですよね。丁寧にそれまでのことを積み重ねたからこその、自然な流れです。

 そして付き合い始めればあとは気持ち結婚に向かって一直線ですね。その中でお互いの亡き母の墓を移したり、思い出のラーメンの味を再現しようとしたりするのは些末な出来事でしかありません。そう言い切っちゃっていいかどうかは微妙とはいえ。

 まとめると、すずな同様、年毎に手順を踏む着実なシナリオ運びでした。柚自身の好き嫌いは分かれるでしょうが、trueとまでは言わずとも、構成上普通にメインシナリオの風格はありましたね。
 最後は結婚まで行かないんだとは思いましたが、あの終わらせ方は白珠村の風習を踏み台にした、いい終わり方だったと思います。

 あと、ありそうでないのが、付き合い始めてから立ち絵の髪型がたまに変わる事。
 結び方を単に変えてるだけではありますが、そういうなくても困らないことをやるのはいいなと。



総括
 前述の通り「料理を始めとした田舎暮らしの中でヒロインと触れ合うキャラゲー」ですね。故に料理をここまで推す必要もなかった感はあります。
 読めばわかりますが、主人公から見て、各個別が各々「どのヒロインを気にかけるか」という感じで進むので、基本的に「ヒロインが主人公に甘える図を楽しむ」作品です。
 例外はこごみルートですね。何故か他より短いですが、唯一ヒロインに甘えられるこごみルートは、他ルート途中にやるのがいいかもしれません。

 ただ、柚の過去描写といい、飯画像といい、もう少し想像力を働かせるような作品にしていたらよかったように感じます。
 個人的には、十年前にこの作品が出ていたら、飯要素とか抜きにしてかなり売れたんじゃないかなぁとは思いますね。バブみとかなんとか甘えたい要素が増えた昨今とこの作品は少し噛み合わせが悪いかもしれない。

 ということで悪いキャラゲーではないのですが、公式が一番推してたはずの肝心の飯要素の画像がなぁ、ということでこれくらいの点数に。あと諸々勿体ないと思ったところもあるし。
 そんなこんな言ってますが、雰囲気ゲーとしては普通に及第点ですし、「田舎」で、「ゆったりとした雰囲気」の中、「年下のヒロインと触れ合いたい方」に、お勧めできる作品です。
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