houtengagekiさんの「夏の色のノスタルジア」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

シリアスな雰囲気が強めの、幼なじみ物のエロゲー。キャラの内面の深さと感傷的なストーリーで楽しませてくれる、読み応えのある作品でした。特に妹キャラが非常に個性的で、印象に残りました。
時間の閉鎖された不思議な学園を舞台にした恋愛劇です。
大きくなってから再会した幼なじみグループ5人(主人公1人とヒロイン4人)が
その学園で共同生活を送り、日々の触れ合いや、主人公と仲を深めていく中で、
ヒロインの抱えている心の闇やわだかまりなどを深く引き出していく、といったシナリオ。

序盤から、舞台となるひまわり学園やその周辺施設にそこはかとなく不気味な雰囲気があり、
屋敷の中の謎の扉、冒頭の殺人のような描写など、伏線はいろいろ張り巡らされていて、
その正体が明らかになるであろう後半が楽しみになってくる。
舞台に謎めいた感じを出すことができていて、雰囲気作りはいい感じだったと思います。
5人の誰かの思念に反応して新しい施設が現れたりする、という設定も面白かったですしね。
新たに現われた施設でのデートなどで、各ヒロインの個性がより掘り下げられていた感があるし。

ひまわり学園での日常描写は結構まったりした雰囲気が出ていたり、
デートイベントなどの描写は普通に明るさがあったりもしますが、
基本的にはシリアスな作品です。
キャラクターが暗い過去を抱えているのは序盤から描写されていきますし、
各キャラの抱えるわだかまりに触れるシーンなどではしんみりした雰囲気にもなる。
BGMもわりと抑え目の曲調、暗めの曲調の割合が多めでしたし。


ヒロインは4人いますが、全員それぞれに置かれている状況に対しての思いは違っていて、
ひまわり学園にずっと留まっていたいと思っているキャラはエデンと呼び、
出て行きたいと思っているキャラはラビリンスと呼んでいる、というのがポイントですね。
ヒロイン同士の人間関係もなかなか濃密だし、過去のこともよく描かれているので
幼なじみグループらしさも出ています。

ヒロインはみんな個性的ですが、双子の妹である美羽は特に個性的かな。
兄である主人公以外はどうでもいい、という偏執的な感情が序盤から強く出ていて、
他のヒロインに対して冷徹な態度を取ったりするあたりは、見ててドキドキします。
良し悪しはともかく、兄を強烈に特別視してくれる妹というのは印象的に映る。
この兄妹の共依存的な関係は個別ルートで深く描かれていて、なかなか読み応えがありました。
兄妹という関係から恋人になる過程にも、特に美羽は感情表現がひと癖あって新鮮です。
こういう、兄への感情が病的な感じがする妹を書かせたら、本作のライターである呉さんはかなり上手いですね。
面白い妹を書くなあ、と感心してしまいます。

それ以外のキャラも、ちょっと性格的にクセのあるキャラが多めで、それが暗めの展開とマッチしていて、
やっぱりこのライターさんはシリアスな話の方が合う気がするなあと改めて思いました。
エデン/ラビリンスでのヒロインたちとの生活や、その過程で起こる不気味な展開なども
読み応えがあって面白かったです。


ヒロイン4人の個別ルートはどれも、主人公との過去、子供時代を含めて掘り下げられ、
そして現在抱えている心の闇に繋がっていくように描かれています。
だから、しっかりと幼なじみヒロインという感じがするし、
同時に主人公の掘り下げにもなっているから、良いと思います。
とにかくストーリーの「過程」については、雰囲気もいいし文句なしに面白かったですね。

罪悪感であったり後悔であったり、ヒロインによって何を抱えているのかは違いますが
共通しているのは、内容がトラウマに近いぐらい暗いものであるということ。
それと向き合っていくヒロインの姿が、個別ルートでの見どころといえるでしょう。
主人公に支えられたり一緒に向き合ったりして、それを乗り越えていく展開は
ヒロインへの思い入れを深めつつ見守っていくことができるので感情移入できました。

ストーリーにはやるせなさを感じさせられるルートもあるし、
どういう形であるにせよ過去との決別という形になっているので、
読後に寂寥感を覚えることが多くて、それが味わい深かったです。
エデン/ラビリンスでの閉じた日々はモラトリアムで、過去や現実と向き合うための準備期間だと思うと
舞台自体も魅力的に感じられてくるなあと思いました。



全体的にシリアスな話ですし、ダウナーな雰囲気もありますが、
あまり陰鬱なわけではなく、読み味自体は結構すっきりしたものです。
もちろんGift以降のMOONSTONE作品と比べれば暗いですが、
初期MOONSTONEの作品ほど陰鬱なわけではなく、両者の中間ぐらいですかね。



●難点、その他留意点
ただ、残念ながら物足りなさもそれなりにあるゲームでした。
まず、全体的にちょっと終盤があっさり気味に感じたことが惜しまれます。
問題の解決が少し強引かつ急ぎ足だったように思えます。
特にみさきと文音のルートはもう少し、なんかこう、心に来るようなものが欲しかった。
終盤が妙に説明的で、心理描写などがあっさりしているので、あんまり心に響いてこない。
自分は途中までの過程で充分に感情移入はできていただけに、なおさらもったいなく感じたりもしました。
話自体は面白いのですが、感情を強く揺さぶられるほどではなかったのです。

上の方では良かった点を中心に書きましたが、
最終的には、ちょっと深みが足りないと思ったのも確かです。
この80点に一歩届かない点数はそういう気持ちの現れという感じです。
この作品のいいところである寂寥感も、終盤がよくできていればもっと強く印象に残ったかなあ、
と思うと、よけいに惜しい気持ちになる。

設定面でも、主人公が他人の感情を色として見ることができるという能力については、
作中で有効に機能していたかというとそうでもなかったので、そこは惜しく感じました。
なんか、その設定を使ってもっとストーリーを印象的にできたのでは……という思いが残る。
いちおうストーリー上で意味はありましたけどね。


クリア順については、おそらく祥子はラスト固定になっていると思いますが、
それ以外についても、おまけモードで左からに配置されている順に、みさき→文音→美羽が無難かと思います。



●エロシーンについて
エロシーンに関しては、こういう作品にしてはわりと濃い目ですね。
各キャラ5個ぐらいずつあるし、尺も長いし。
個人的にはパイズリが良かったかなー、特にみさきのエロで、ビキニ水着を着たままパイズリするシーンはグッドでした。
もともといい感じに胸の谷間ができていたエロい水着姿だっただけに、着たままパイズリしてくれたのは嬉しかった。
他にはお風呂でのエロが多めだったかな、祥子以外にはお風呂エッチが全員あった気がする。

また、過去の同ブランド作品に比べて塗りの質感に色気があるというか、
ほどよく肉感的になっていて、エロシーンだけでなくCGが全体的にエロ可愛いです。
なんとなく質感がCherryブランドの方に近づいた感じがします。



●まとめ
惜しいと感じた点もあったものの、
こういう寂寥感を感じられるような作風は好きなので、楽しんでプレイできました。
モラトリアム的な日常に浸るのは心地よく、謎が明かされる後半も楽しみにできて、読後感もなかなか。
ものすごい名作という感じではないですが、印象に残るゲームでした。

作品自体ではなく、MOONSTONEというメーカーさんについて言えば、
このメーカーさんはもう明るいイチャラブゲーについては良い物を作れるスタッフが他にいるようですし、
呉さんにはこうしたシリアス方面のものをもっと作って欲しいなあと思います。

↓以下、ネタバレ込みで個別ルートの感想を軽く。「何処へ行くの、あの日」等、メーカー過去作のネタバレも含みます。






































個人的に、最も印象に残ったのは美羽ルートです。
それというのもやはり美羽のキャラが濃かったおかげです。
やはり呉さんの妹キャラはいい……
シリアス物のときは特に光っている気がする。
兄妹という関係を恋人関係よりも重要に思っているあたり、感じ方が本当に独特な子だなと思いましたし、
兄を自分の半身のように大事に思っていつつも、普段の態度は兄に対する妹のそれらしいそっけなさが
しっかりと表現されており、男に対する感情ではないようにちゃんと見えるあたりが、すごく絶妙だと思いました。

過去描写や中盤以降の展開でも、彼女に関する描写は上手いもので、
大きくなるにつれ性差が出てきて、兄と自分が別のものになっていく、ということにショックを受ける、
その心情にはいじらしさや、兄と同一の存在でいることへの強いこだわりを感じられるし、
そういう妹だからこそ、性を意識していきなり兄のシャツとかでオナニーを初めてしまうあたりも
初々しいエロさがあって実に思春期の妹らしい良さがあるわけで、かなり萌えでした……

同じように兄を世界の中心みたいに強く想っていた「何処あの」の絵麻は
バリバリに性を意識しながら兄を偏愛していたわけで、
この二人は似たところがあるようでいて真逆と言ってもいい面もあり、比較して考えるのも面白かったです。

ストーリー自体も、終盤に明らかになる美羽の後悔は、もう取り返しのつかないものだから
やるせなさを強く感じられて印象に残りますし、キャラもシナリオも一番出来が良かったかもしれません。
欲を言えばもうひと押し、美羽の心理描写に深みが欲しかったですけど。


逆に物足りなさがあったのはみさき。キャラ自体はすごく可愛いんですけどね。
ホント嫌味がなくて正義感もあっていい子だし、日常会話も楽しくて好感の持てるヒロインでした。
彼女と一緒に高い場所から街の風景を見下ろす夕方のシーンは、しんみりした雰囲気が出ていて大好き。
問題はストーリー面で、性的虐待にあっていたという設定自体は
トラウマが構築される理由として充分だから題材にするのはいいのですが、
それならもっと濃く扱ってくれてもよかったのでは……
体をまさぐられていただけで実は処女でした、では重みが薄くなるし……
実際みさきルートは読後感が軽かった……ラストの展開が強引だったせいもあるけど。
描写的にも、主人公との初Hの際に「本当に初めてだったら良かったのに」と言って泣いたみさきの姿に
少し感情を揺さぶられただけに、それがあっさり実は処女でした良かったねということになってしまったのは
ちょっとなんか拍子抜けしてしまいました。

文音ルートについては、設定自体はすごくいいと思います。
麻由紀のような性格に難のあるサブキャラの存在は、文音のそれまでの人生に生々しさを感じさせてくれる。
文音が抱いている後悔についても、エデンから出たくない理由についても、納得の行くもので、
彼女の事情には同情させられる部分が大きかったし感情移入もしやすかった。
それだけに終盤のあっさり具合が惜しまれる。もっと強い印象のシナリオになれたはずでは。
たぶん一番もったいないのがこのルートのような気がする。

最後に、最終ルートのヒロインである祥子については、やはりトラウマを抱えている上に
エデンを作った張本人であり、心根自体は一同の中でも最も安定しているように見え、
それでいて一番病的……という設定でしたが、
幼なじみグループを大切に思っているあたりはいじらしかったし、
無感情のように見えてデートシーンなどでの感情表現が可愛らしいので、ヒロインとしてはとても良かった。
ただ、終盤はちょっと展開が強引だったかな……
このルートでは序盤から張られていた伏線が明かされるんですが、それがちょっと拍子抜けするようなものが多く、
おかげでストーリーもあまり盛り上がらなかったのが惜しまれます。
せっかく序盤はいい感じに謎めいていただけに、もったいないなと感じました。
話自体はいいですし、最後の最後に主人公の心が掘り下げられるラストシーンは
寂寥感があって良かったですけどね。


ちなみに共通ルートや個別の中盤あたりまでは、何も物足りなさはなく心底楽しめました。
ヒロインたちの個性や心情が引き出されていく過程はとても楽しめましたし、暗さのある展開にも引き込まれた。
この作品の惜しい部分は終盤に集約されています。



それにしても、ライターさんが事前に言っていた通り、
本作はシリアスと言っても初期MOONSTONE作品とは少々違う方向性だったなと思います。
サスペンスや鬱ゲーではありませんでしたね。青春恋愛劇の範囲に収まるものです。
シリアス度は「Clear」以上「何処あの」未満、それもどちらかといえばClearのほうが近い感じがする。

設定的には、性的虐待を受けていたヒロインがいるとか、猟奇的な要素とか、それ以外にも色々、
何処あのやあした出逢った少女を思い起こさせるような設定がそれなりに含まれてて懐かしかったです。
ただ本音としては、できれば、呉さんにはさらにシリアス度の高いものを書いて欲しい……
今回のも悪くはないし、おおむね満足はしたんですが、
性的虐待のことが一番象徴的でしたけど、もっと冒険してくれてもいいんじゃないか? というもどかしさが
どうしても残るんですね。
もっともっと突き抜けたものを作ってほしい……

でもまあ、この方向性であっても、より完成度の高いものを出してくれるなら、それでも全然いいですけどね。
こういうのもわりと好きではあるので。
何にせよ、次にも期待したいです。




もし仮に、また萌えゲーに戻るのだとしても、呉さんのゲームはずっと買っていこうと思っていますが、
そうなったとしても、たまにはシリアスなのを作ってくれるといいなあ……


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